【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
この大陸、いや星が滅ぶまでのカウントが30秒を切った。
爆発は超大陸級と評価されているけど、大陸が滅ぶほどの爆発など起きたら
「今、被害は何パーセント減った!?それもリアルタイムでモニタリングしてくれ!」
『およそ30%』
残り25秒。
思考を可能な限り早める。
ここで、今行っている作業と並行して、俺の出来ることを整理しよう。何かすべきことが見つかるはずだ。
(四分半で30%か!まったく、どんだけガス埋まってるんだ!?)
(今の爆発の規模は70%。それでも大陸の土台は崩せる。土台が崩れれば大陸は崩れて星は崩れる。この星に致命的な被害を及ぼさせないためには、それを30%まで落としたい。ならば、どうする?このままじゃ間に合わないぞ。)
(この爆発の原因は小さな爆発だ。それはこのガス層の最も深いところに置かれた、爆弾によって引き起こされる。探査軍の者が置いたものだろう。それはどうしても排除できない。俺の能力の範囲外だ。観測できるのに手を出せないというのは大変歯がゆいが仕方がない。やはり、今すべきことは最悪のドミノを途中で成立させないように仕向けること!)
(……ああ、ぶっ壊したらどんな気分なんだろなぁ)
脳みそに余計なノイズが流れる。これは本能だ。邪魔なものだ。
精神に余裕が出たらひょっこり顔を出しやがって。いい加減にしろ。
(最初は小さな爆発。それが連鎖的に大きな爆発を引き起こしてくるのなら、その連鎖を断ち切る!これがすべきことだな。他には、なさそうだ!)
(どうせ、こいつらなんてどうでもいいし、そんなことより花火だろう)
(だめだ。それは俺のしたいことじゃない)
そこでとある疑問に思い当たる。
(確か、フェムだったけか。どうして奴はアルバガスで星を壊そうとしているんだ?目的は持ち帰ることだろう?)
ここで残り20秒。
この違和感は無駄にするな。何か、大事なことが隠されているはずだ。
「この星の空域には何があるか!?」
すると、1秒後、驚くべき情報が俺の耳に入った。
(……そうか。そういうことか!)
そこには、ホークスたちの宇宙船の他にも、C銀河探査軍の船が浮かんでいることが分かった。この操作軍の船は先ほどまでなかったものだ。
さらに、その船に付けられている掃除機のような吸引機を見て目的を看破する。
敵の目的は未だにアルバガスの奪取らしい。
残り17秒。
(……あぁ!まずい!)
だからどうした。
敵の目的を理解したところでその目的を阻めるとは限らない。
残り15秒。
(やめだ)
タイムアップ。
ここで俺は決断した。
(仕方ないな。半身程度、くれてやる)
どうして俺が
それは正義感のためではない。
同じ境遇の人間に同情することはある。
貧しい者たちを思いやる感情はある。
だが、それだけだ。
それ以上は何も感じない。
もし、俺が正義のために動く素晴らしい性質ならば、逃げ続けていた時にでも積極的な人助けを行っていたはずだ。
そんな理由はただ一つ。この願いを背負いきるためだ。
託された想いを果たすためだ。
これからより多くの人を救うから目の前の惨状から逃げる。そんなことはしない。
そうだ。俺は果たすために存在している。
果たせるのならば、いつ死んでもいい。
「やるぞ」
俺の背後にある、俺の能力極限にまで引き上げる装置に声をかける。
「イカロス、飛ぶぞ」
その名はイカロス、この機会を俺は逃さない。
イカロスと名を伝えるその時、この装置はとあるプログラムを果たす。
残り14秒。
装置はリミッターを外す。
そして残り13秒。
0.5秒で削るべき場所を探す。
後はもう、1つの作業を行うだけだ。
己が満足のために脳を焼き切ろう。
地層を解析し、大きな爆発に繋がる、小さな爆発が起きる場所を削り取る。
心配などしなくてもいい。
気楽に、作業を進めていこう。
ただ、負担がこれまでの4分と比べて20倍になるだけだ。
「ハァハァハァ────アァ!」
脊髄がオーバーヒートで壊れた。
さらにぐちゃり、と脳が溶けたような気がする。
(負担が増えただけって、なんだよ。気が、遠く、なる、なよ!気合い入れろ!)
俺への負担だが、20倍どころの話ではない。
展開された20、200、2000の穴は的確にドミノを排除していくが、その数が増えるにつれて脳みそが沸騰していく。
「────────────────────────」
処理が、止まらない。
常に頭の中に莫大な情報が流れ続ける。
次にやるべきことをこなす前に、やるべきことが押し寄せてくるという感覚。
情報の波に呑まれた俺の意識は、だんだんと朦朧になっていく。
「まだ、まだ」
そうだ。まだ終われない。
俺の体は、まだ情報を処理できている。
だって、厄災殺しは順調に進んでいる。
だから、耐え続けろ。耐え続けるんだ。
よし、一歩ずつ進んでいることを自覚したら随分と楽になってきた。
このまま、作業を続けるんだ。
(さてと……)
ふと、これまでの成果が気になって顔を上げる。
現状を知ることでこれからどうするのかを知ることが出来る。これは必要な作業だ。
残り、2秒。
厄災は当初の規模は56%にまで落ちていた。
足りない。
全てが。
(いいや、時間はある!)
それでも、俺の中の希望は潰えない。俺はこの程度で責務を放棄しない。
カウントは冷酷にゼロに到達した。
残り0秒。
しかし、俺の熱は収まらない。
(いいだろう。時間制限なんてつまらないことには縛られない。俺が死ぬまで付き合ってもらおうか!)
マイナス一秒。
規模は50%。イカロスは悲鳴を上げている。
マイナス2秒。
爆発は起きている。
だがしかし、致命的な連鎖は起きていない。厄災は起動していない。
ならば、まだ人々が助かる可能性はある。このまま、厄災を封じ切ってみせる。
マイナス3秒。
地面に揺れが伝わって来た。らしい。厄災レーダーが危険信号を発している。
俺の感覚はそれらを感じられる余裕はない。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
叫び、己の全てを総動員して爆発の原因を削っていく。
「──────マジか」
厄災とは災害。
理不尽そのものである。
人間一人で対抗できるものでは、決してない。
マイナス4秒。
不完全な厄災がその牙を露にした。
「爆発の、連鎖が、始まってる!」
マイナス6秒。
俺は削る目標を
標的は俺の次元を穿つ穴の届く範囲に入った、厄災に繋がる
この身は既に血を吹きだし、目と鼻からは滝のように血が流れているが無視をしよう。
体とイカロスはこれ以上の活動を止めるかのように警告を出しているが無視しよう。
この場で死んでもいいのだから。
マイナス7秒。
俺は約1秒でこの作戦の有用性を理解した。
連鎖は確実に食い止めている。
爆発の起点より発生する、数本の糸のような爆発の連続は、俺の能力が届く範囲に到着した瞬間に消えてなくなる。
このまま、───────あ。
不味った。
偶然か、それとも仕組まれたものか。
油断、ではない。
想像力不足で、俺はしくじった。
走馬灯のように後悔がよぎる。
一つの爆発がこれまでの爆発とは比べられない程の速さで連鎖を起こして、俺の足元まで到達したのだ。
「調子に乗るな……!」
マイナス8秒。
その爆発は俺の逆鱗に触れた。
これは理不尽に対する怒りだ。厄災を発動させないために、苦労して積み上げてきたものが全て無に帰すなんて。そんなもの、到底看過できない。
(許さない……!)
怒気を発しながら爆発に巻き込まれた。
爆発程度では俺の行いは止められない。
だから、防御が遅れて頬が吹き飛んでも左手が吹き飛んでも気にしない。
マイナス9秒。
俺はこの星の核に向かって落下していった。
(ここで終わるとでも?)
だが、まだ間に合う。
ここ周辺にある全てのドミノ、厄災の要素である小爆発を全て抉ってやる。
(間に合え────!)
マイナス67秒。
俺は目を覚ました。
厄災レーダーは正確に時間を表示し続けている。
「ここは、どこだ……?」
まずは、所在の確認だ。
ここは、どこだ。
ここは、そうか、この星の地中か。先ほどいた場所よりもさらに深いところだな。そう納得した瞬間、目の前の景色を正確に把握できた。
「あっつい!!!!!」
辺りにはマグマの波が押し寄せてきている。
俺の足元にはちょうど岩が、海に漂う瓦礫のように漂っている。
気温はまさに灼熱といったところ。おおよそ人間が活動できる温度ではない。
俺が人造人間でなければすぐにでも燃え尽きてしまうだろう。
そして、この足場も限界が近づいている。
端から徐々に、この浮島は沈んでいっている。
「我ながら、頑丈だな」
かなり高い所から、落ちたはずだ。
なのに、どうして生命活動を維持できているんだ?
そんな疑問を解決するために辺りを見回してみる。
ついでに体の様子も確認しておこう。左手は、潰れている。右足もそこにはあるが感覚がない。顔は、鏡がないから確認できない。
「ぐはっ」
すると俺の近くで血を吐く音がした。
その方向へ目をやると、四肢を失った黒焦げの胴体が落ちていた。
残っている頭は焦げて、欠けて、何者なのか判別することができない。
「お前、誰だ?」
肉塊に話しかける。
それと意思の疎通ができる気がして。
「俺か……俺は……」
物体はか細い声で自身の存在を思案し始める。
「……そうだ。俺はフェム・チャイルドだ」
塊は思い出すと、大変偉そうに、厳かに名乗りを上げた。
よく見ると潰れた部位は銀色のナノマシンで覆われている。
一応、止血をしているようだ。だが、傷の回復は不可能だろう。あのタイプのナノマシンは様々な世界を彷徨っていた時に見たことがある。応用は効くが、数が揃わなければ脅威ではない。
これは、きっとウリエルの報告にあった老人のなれ果てだろう。
どうやら動ける様子ではない。最早、風前の灯である。
(お前も、ここまで落ちてきたのか、というか生きているのか)
「そうか、C銀河探査軍の、だったか?」
「その通り、私たちは私たちを生かすために、他を否定した、正当な軍隊だ」
その灯は小さいけれど恐ろしいほどに力強かった。
マグマの中でも決して飲み込まれない魂の強さがあった。
「お前、
俺は彼に狂気を見出せなかった。
「……何を言っている?私を、ゴホッ、舐めているのか?」
他の星を略奪し自分たちを生き永らせること。この行為を繰り返し肯定しているのは狂気じみているが、そこについて言及したのではない。
それらの惨事をこの男は正気のまま続けていたのだ。
どんな悲鳴も嘆願も地獄も、この男は信念をもって否定してきた。
誰彼構わず襲うのではなく。必要であれば略奪をする理性があった。
ただ、そもそもの話、略奪行為はすべきではない。奴の行ってきたことは紛れもない悪だ。
「私の行為を、糾弾するつもりか?」
男は急にスイッチが急に入ったようで饒舌になってきた。
死に体であるはずなのに、焦げた喉を酷使して語り始める。
「この行為は正当かつ、自然なものだ。生物は、他を糧にして生きる。そうだ。私の行為は正しいものだ。どこが間違っているというのだね?」
男はまるで用意していたかのように、すらすらと言い訳を口にする。
「間違っているどうかなんて知らん。そんなものは歴史と文化が決めることだ。それにお前は負けたんだ。正当かどうかなんて決めらる立場じゃない」
「…………そうか。負けたのか。私は」
俺の告げた真実によって、彼は敗北を初めて実感した。
よく見ると、彼の両目は潰えている。全身も焼け焦げているし四肢はない。恐らく今の奴は聴覚しか機能していない。
「そうだ。負けたんだ。厄災……爆発はもう起こらない。この星は崩壊しない」
俺の左隣に刺さっている厄災レーダーは厄災が無くなったことを示しており、その画面には『congratulations!』と表示されていた。
「……頼みがある」
負けを悟った男は数秒の沈黙の後、藁に縋る思いで願いを捧げる。
「なんだ?話だけは聞いてやる」
俺はその頼みを聞いてしまった。
「私たちの星を救ってくれ」
「…………」
(何を、言っているんだ)
その言葉に、絶句した。
(お前は、託すことが出来たのかよ?)
「どうして、俺に?」
「託すのは、お前が勝者であるからだ」
老人はその問いにすんなりと答える。まるでそれが自然の摂理であるかのように。
だが、自然には『勝者が敗者の呪いを受け継ぐ』なんてルールはない。奴が勝手に言っているだけだ。
「……私たちには力がなかった」
奴は今際の際に自分から悔いを語り始める。
「物事を成すには意志、力、運が必要だ。私には意志と運があった。星を救いたいと願い、この場所にたどり着いたからな。だが、力がなかった。何でもいい。財力、権力、戦力。力があれば、この星からアルバガスを奪えた。いや、そもそも力さえあれば故郷から出る選択肢を取らずに済んだ、かもしれない。戦争を終わらせて、故郷に生きる全員で危機に立ち向かわせることが出来たかもしれない。だが、私には力がなかった。だが、お前は少なくとも、私より力がある。……妬ましいな」
「そうか、それは残念だな。お前は世界を救えたかもしれないのに。結局バカみたいな選択をした」
語り続ける奴に対して、俺は哀れみさえ覚えていた。
さて、もし奴の故郷に助けるべき人々がいるのなら────。
「そのナノマシン、貰っていくぞ。権限を献上するんだ。お前の星を見てこよう」
俺は動くしかない。俺はそういう生き物だ。
ボロボロの足を引きずりながら奴の傍に立ちナノマシンに触れる。
「ああ、頼んだ……頼んだ……」
すると生物のようにナノマシンはするり、と移動して俺の左手となった。
対して止血していたナノマシンを失った奴の傷口からは、肉と骨が露になり血が流れ始める。強く灯っていた命の灯は、徐々に弱くなっている。
(はぁ、全く、困ったものだな)
銀色の左手を見ると、肩を落としてしまう。
託された願いを果たすにはこの手は脆すぎる。
それはそれとして、奴には最後に言葉をかけておこう。
「フェム・チャイルド。お前の行為は紛れもない悪であったが、お前が助けようとした人々はその限りではない。クロノ・ノーデンスが救世を引き受けた。それと、もう一つ」
「…………」
奴はもう言葉を発さなかった。
もう、息は止まっている。奴という灯は完全に消え去った。
「だ、大丈夫!?」
すると、上空からウリエルの声が聞こえる。
「ああ、大丈夫だ」
顔を上げ彼女の方へ向くと、俺の周りに白い炎が撒かれた。
それらはマグマが俺の足場を呑み込まないように食い止めている。
「噓でしょ嘘!左手ないでしょ!」
しばらくの安全が確保されたことに安堵する。
今の俺は無理をしすぎて
「ああ、ないな」
俺はナノマシンが代わりとなった左手を動かしてみる。
ぐっぱ、と俺の思う通りに開き閉じるので支障はないようだ。
「『ないな』じゃないでしょ。それと、その……途中で落としちゃったんだけど、大丈夫だった?」
ウリエルは俺に呆れながらも謝罪をしてきた。
「ん、途中で落とした?ってことは助けてくれたのか?」
「うん、落ちていたところをそこの人も一緒にね。途中で私が岩に当たっちゃって落としちゃったんだ」
ここで思わず、俺とフェムが生きている理由が解明された。
「そうか。そうなのか。ひとまず、ありがとう。それと話がある。ウリエル。重要な話だ。とっても、だから聞いて欲しい。だから……いいかな?」
今は話をする余裕がある。
今回の厄災を対処し、生き残った理由も解明できたことで気が緩んだのだろう。だから今の精神状態を吐き出したくなっている。
「…………どうしたの?」
少し目を見開いてウリエルは驚いていた。
それはどこか『予想外の事態が起きている』とでも言いたげな表情だった。
「俺の、いや俺たちのこれからに関わることだ」
確かにこのことは突飛ではあるが、俺のストッパーである彼女にはいち早く伝えるべきだ。
「ウリエル、俺は神になる」
言ってしまった。
「…………」
ウリエルは明らかに引いていた。