【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
俺の神になるという宣言に、ウリエルは今まで見たことのない表情をしていた。
整った顔立ちから思い切り眉間に皺をよせ、口をあんぐり開けていた。
「「…………」」
互いに沈黙の時間が流れていく。
なんか滑ったみたいで気まずい。
冷汗がドバドバ出てくる。
「えっと……大丈夫?」
ウリエルは精一杯考えてから俺を心配してくれた。
まじめだな。この人。ありがたい。
「力不足を実感したんだ」
突飛なことを言い過ぎたと後悔しながら、こんな発言をした理由を説明する。説明しないままこの会話を流したら、何か致命的な勘違いをされるような気がしたからだ。
「今回は、なんとか厄災を封じることが出来た。でも、これはギリギリだ。ギリギリじゃあ、ダメなんだ。俺の使命を果たすなら同じ理不尽にならなきゃいけない。だとすると、成るべきなのは神だ」
「…………それで、成れるの?」
俺の言葉に対して何とかついて来ているウリエルは尤もらしい疑問を投げかけてきた。
「なれる。俺は元々、神に迫る人間をコンセプトとして生まれたんだ。だが、俺は理不尽じゃない。研究所に俺を理不尽にするは手段があるはずだ。家族……研究員の人たちが『こりゃ無理だ』って漏らしてた」
「言ってたんだぁ……」
「それと、イカロス……そう、穴を強化する機械壊れた」
「ん?……えぇ!?」
その頃、ソフィアは最期までアルバガスの採掘場を守るために洞窟の最奥部へ向かおうとしていた。
手段は落下だ。
突如起きた爆発群により地面は崩れ、至る所に穴が生まれていた。本来これだけの穴があれば、彼女たちは地の底に埋まっているはずだが、奇跡的なバランスにより崩壊は起きていなかった。
そして彼女は爆発でできた、アルバガス採掘場へつながる穴に飛び込もうとしていた。
今の彼女には武装はなく体力も残っていない。ただ、この肉体がある。肉壁くらいにはなれるかもしれない。何か役に立てるかもしれない。そのような思いのために敵がいるであろう地下に向かおうとしている。
「何が、起きているんだ?」
しかし、目線は地下ではなく空にある。
見上げるのは、遥か上空。地上まで届く穴。彼女の視線の先で爆発が起きていた。
「あ、お疲れ様です。乗っていきますか?脅威は全て排除しました!」
すると地下から、クロノを抱えたウリエルが飛んで来た。ボロボロのクロノは俯いていて、だらん、と垂れてされるがままになっている。
「……乗りたいのは山々なんだが、乗れるのか?スペース?はなさそうだが」
「乗れますよ。ごめんなさい。よいしょ」
するとウリエルはクロノをひょいと上に投げてから、右腕を横に伸ばして彼を乗せた。
今、彼は干されたタオルのような状態になっている。
「うっ」
好き勝手されたクロノは天使の肩に腹をぶつけた瞬間に少しだけ苦しんでいた。どうやら、意識はあるらしい。
「私の左肩で良ければどうぞ」
ウリエルは至って真剣に空いている左肩を差し出してソフィアに乗るように勧めている。
「……それでは、失礼します」
ソフィアは少し考えてからゆっくりとウリエルの肩に座った。
すると天使は彼女の太ももを抑えてから、ゆっくりと浮上し始める。
「何度も言うようですが、敵は全て排除しました。おめでとうございます。貴方は、この星を守り通したんです」
「そうか、そうなのか……やっと……」
ソフィアは地上へ続く穴から漏れる光を見ながら、喜ぶというよりは安堵に浸っていた。
「やっと、終わったんだな」
ゆっくりと地上の光が彼らを包んでいく。それは成し遂げた者への凱旋のように。
次第に穴から空の様子が見えてくる。
「あれは、なんだ?」
目に入る外の様子は彼女にとって異常なものだった。
空で爆発が起きていたのだ。
爆発は雲を穿いて穴を開け、宙までも見えるようにしていた。そして宙ではさらに何かが爆発している。
その発言にクロノは何か気づいたかのようにビクっと動く。
「うっ、俺から説明しよう」
どうやらその光景に思い当たる節があるようだ。
「C銀河探査軍の起こした爆発を、宇宙に飛ばした。その時に探査軍の母艦があったんでな。ついでに爆破させてもらった。アルバガスを収集する機能があったしな。一石二鳥だよ」
「な、なるほど」
その答えをソフィアはゆっくりと呑み込んでいた。
「待ってくれ。C銀河探査軍が爆発を起こしたと言ったな。それはどういうことだ?」
答えに納得し受け入れた瞬間に、また別の疑問が浮かんでいたようだ。
「奴らの狙いはアルバガスの回収.それは知っていると思う。問題はその手段だ。奴はそれをこの惑星の爆発により実現させようとしたんだ。馬鹿馬鹿しい話だが、この地面を爆発させて、爆発によってガスを成層圏まで飛ばすつもりだったらしい。報告が遅れて済まない。こちらには余裕がなかった」
「……そうか。なに、気にしない。対処してくれたのだからな。私にも余裕はなかった。その情報を聞いたらパニックになっていたに違いない」
そこから少しして、彼らは地上に到達した。
「わぁ……んっ」
ソフィアは空を見上げて感動してから、恥ずかしがりながら咳払いをした。
既に爆発は終わり、探査軍の母艦は粉々に崩壊していた。今は数々の破片が成層圏に突入して流れ星となっている。
そして穿たれた大きな穴からは、群青色の景色が顔を覗かせていた。
灰色の世界についに光が差し込んだのだ。
「さてと、ここが奴の、フェム・チャイルドの故郷か」
2週間後、体が完全に回復した俺は、準備を整えてからフェム・チャイルドの故郷の星へと移動した。隣にはウリエルがいてくれている。
「そうだね。一面砂漠、だね。あ、廃墟かな、アレ」
辺りは荒廃とした砂漠。青い空にポツン、と独りぼっち陽射しは強く照っていて、人どころか生命の気配がない。
そこに俺は異質な雰囲気を感じ取っていた。足元には白い何かがあるし、辺りには人工物のかけらが散乱している。恐らくこの辺りで戦争が起きていた。
足元を見ていた俺に対して、ウリエルは地平線を見ていたようで、建造物を発見し指を差していた。
彼女の差す方向へ目を向けて同じ景色を見る。
望遠機能で拡大して対象を見ながら、その建造物の分析を行った。どうやら、大き目な集合住宅の跡地らしい。四角くて部屋がたくさんあって、建物の上あたりは爆発のようなモノのせいでぼっかり、と大きな穴が開いている、
「そうだな。人がいる気配はないが、一応行ってみよう」
すぐに正面に穴を開いて飛び込んで、建物のエントランスらしき場所に移動した。
自動ドアは開かないのでこじ開けてから中に入る。
俺たちの入った建物は、富裕層の集合住宅であったようだ。
エントランスが広い。目の前には受付、エレベーターへと続く通路、そして広々とした休憩スペースがあり、柔らかそうなソファが点在していた。
だがそのどれも、壁に空いた大穴から入って来る砂を被ってしまっている。
『オ、オ、オカエリナサイ、マセ、ド、ド、ドンナ御用デ、ショウカ?』
「「……」」
受付にはロボットがいた。
姿かたちは一般的なロボットだ。四角い顔には目のように配置された二つのカメラが、胴体には2本の細いロボットアームが備えられている。
彼は途切れ途切れの言葉をなんとか紡いで、課せられた役割を果たそうとしている。
(どうしよう。壊す、のも忍びないし。下手なことすると変なこと起きそうだし)
「内見したいんだ。急な訪問だけどいいかな?」
俺はなんとか穏便にこの建物を探索するために出まかせを言った。
「……カ、カ、カシコマリマシタ。ドウゾ」
どうやら、すんなり調査できそうだ。
(ウリエル、ここは任せてくれ)
(任せる)
彼女に許可を取ってからロボットとの会話を堂々と始めた。
「ありがとう。お勤め。ご苦労様。どこの部屋が空いているかな?」
『はい、こちらのパネルに表示された部屋が見学できます』
パネルらしきボードを差し出されたが、そこには何も映らない。どうやら電池が切れてしまっているらしい。
「ありがとう。下から見ていきたいんだけど、どこがいいかな?」
「ソ、ソ、ソウデスネ。1723号室カラドウゾ。17階ニゴザイマス。ソ、ソチラノエレベーター、カラ、ドウゾ」
俺は能力での移動はせず、エレベーターのスイッチを押して到着を待つことにした。受付のロボットは足のキャタピラを回してついて来ていた。
(すごいね)
危険な音を立てるエレベーターの到着を待っていると、ウリエルがテレパシーを介してロボットの問答について話しかけてきた。
(こういう時はどんな出鱈目でも堂々とするのが基本だ。拒否されても代案を出せばいい。胸張ってれば意外と怪しまれないぞ)
(今までの経験?)
(そうだな)
俺たちは二人並んでエレベーターの壁に寄りかかって、テレパシーで会話をする。目の前には受付のロボットが、俺たちを観察していた。
「チーン」
無言の間が続いていると、エレベーターが目的の階に到着した。
じっくり目の前の扉を見つめる。
ゆっくりと扉が開く。
俺たちを迎えた光景は整列された5つの銃口だった。
俺から見て右側から、細身で短髪の男、小柄な少女、髭面の男、サングラスをかけた青年、キリっとした目つきの女。それぞれが険しい表情で俺たちに銃口を向けている。
「なるほ「黙れ!」
中央の髭面の男が、俺が口を開いた途端に脅してくる。野太い声で威勢がいいものの、表情は脅しているそれではなく、未知の脅威に怯えているようだった。
「いいか。俺の質問だけに答えろ。無駄なことは喋るな」
「分かった。な、ウリエル?」
「うん」
と彼女が答えた瞬間、ダダダと、彼女の少し右隣に銃弾が放たれた。
「無駄なことは喋るなと、言ったはずだ!」
『ゴ主人様、ドウシテデスカ!?仲間ダカラ通セト!』
人間たちが問答をしていると、扉を抑えているロボットが困惑し始めた。
「黙れ!今すぐ俺たちの後ろに下がるんだ!こいつらは探査軍である可能性が高い」
「今、探査軍って「いいからお前も黙れ、脳みそぶちまけるぞ!」
俺が質問すると、もう一度、今度は俺のすぐ隣をダダダ、と銃弾が走った。
現地の方々と出会えたのは大変嬉しいことではあるが、今は話ができる状態ではない。
「勝手にどうぞ、それよりも銃痕、見えてるか?」
だから、拮抗状態を作らねばならない。
「あん?……は?」
俺が指摘した途端、男の後ろで窓ガラスが割れる音がした。
ウリエルと俺に放った弾丸を、穴を通して彼らの背後に移動させたのだ。
彼らは振り返らずに音と足にぶつかるガラス片でその事態を把握する。
「それでは、こちらから質問させていただきます。探査軍とは?」
驚く彼らの表情をしっかりと見てからこちらの聞きたいことをゆっくりと問う。
そこにすっ、と髭面の男が銃を下げ、右隣の仲間の銃口の前に、その行方を阻むように手を上げた。
「……戦争中に勝手にこの星から出ていった敵国の連中のことだ。数百年前、勝手に出て行って、無尽の資源なんていう無理難題のために旅立ったんだよ。そいつらのせいで戦争はぐちゃぐちゃになった」
彼は俺への警戒は解かずに俺の質問に答えてくれた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
すると突如、地面が縦に揺れた。
彼らの背後、砂漠の地平線の辺りで土煙が上がる。
一秒ごとにまたもう一つ、また一つと上がる土煙は、次第に近く大きくなっていく。
どうやら何かが俺たちの方へ近づいているようだった。されに接近に比例して揺れも強くなる。
「クソが。そうか、お前ら砂漠を歩いたよな」
すると髭面の男が無気力になり、顔を上げて天井を見ながら悪態をついた。
俺はすぐに目の望遠機能を起動してその正体を探る。
どうやら、こちらに接近しているのは巨大な芋虫らしい。
ただ、その体は鋼鉄でできており、頭に当たる箇所には巨大な砲門とそれを守る電磁シールドが取り付けられている。
(ウリエル、ちょっとここで見ていてくれ)
「そこの君、私は今からアレを壊してこようと思うのだが、いいかな?」
「はぁ?」
髭面の男は俺の言葉にただ困惑している。
説得は出来ないと感じたのですぐに穴で、立ち上がる土煙の上空へ移動した。
「顔を見せてみろ。拝謁を許す。虫」
俺が見下ろしていると、芋虫型の兵器が俺を捕捉し、その場で電磁シールドを解いた。
その巨大すぎる銃口が開かれる。
すぐさま俺を敵だと認識したらしい。
「やってみろ」
正面から打ち破って見せる。
俺の挑発に呼応するかのように銃弾を発射した。
レールガンの弾速は音速など優に超える。目標の破壊のために生み出された弾丸はソニックブームを巻き起こし、理不尽な力に潰された。
天罰の杭は、既に巨大な弾丸を破壊している。
どんなに弾が早かろうと、どんなに強靭でも、より強靭なものと衝突すれば砕けてしまう。
「エンジェル・アンカー。制限解除。対国想定を10門用意。並列装填。照準良し。全弾抜錨」
言葉を告げれば十分。
全ての杭は芋虫の躯体を貫いた。
奴は悲鳴のような轟音を立てて体を崩していく。部品たちは内臓のようにボロボロ落ちて、爆発は血しぶきのように体中から発せられている。
そして砂漠に伏せ、完全に機能が停止する頃には、俺は元居たエレベーターに戻って来た。
「な、なんだお前は」
髭面の男の問いに、俺は臆することなく答える。託された想いを果たす。これは恥ずべきことでは決してないのだから。
「クロノ・ノーデンスだ。お前たちを救いに来た」
こうして俺は一つの世界を救うこととなった。
託された者たち編、これにて終了です。
次の章も書き終わり次第投稿します。
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