【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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ピーポー・ミーツ・マム

 突如、俺たちは一国の長から抱き着きたいと言われた。

 あまりの唐突さに中腰で動作を停止する。戦闘態勢に入ったかのような緊迫感が王座の間を立ち込める中、首枷はひとりでに外れ、女王は優雅に、にこやかに俺に近づいてきている。

 

「さぁ、落ち着いて、ゆっくり呼吸して」

 

「受け入れなさい!女王の抱擁だ」

 

 抱く気満々の女王が歩みを進めていると、近衛兵長のセルサは野太く低い声かつ強い語気で俺たちの抵抗を抑止する。

 

(これ、資料になかったよね!?)

 

(どういうことだ!?これだけ稀有な特長なら事前に共有してるはず、つまり、この事態は俺たちが初めて経験するということ……!理事会がわざと隠している、ことは考えにくいから、それはナシ)

 

 俺は冷静になって目の前の彼女にどんな意図があるのか探る。結果出た結論は。

 

「分かりました。受け入れます」

 

 俺は口で覚悟を示して肩幅に足を開いて立つ。

 この行為に意図があったとしても、俺はこれを断れない。今抱擁を仕掛けているのは協力してくれる場所の長だ。もしこの行為が何らかのマーキングだとしても後で調べればいい。こっちだって調べる道具は色々そろって──────

 

(わぁ、つめたぁい)

 

 自分でも訳の分からない感想が漏れていた。

 優しく包むように俺を抱きしめた彼女の体温は、女性特有の柔らかさがあるものの、ひんやりとする程度に冷たかった。

 

 その原因は知っている。この世界の人間には鉱物が含まれているからだ。彼らは人間でも食べられる鉱石を食べて生活してきた。それらによって体の一部が鉱石化している。

 

「うん。うん」

 

 感触の理由について考えていると、女王は耳元で何かを理解しているかのような口ぶりでいる。

 今のところ、俺の体に何か起きている様子はない。疑っている態度は表に出さずに会話を続ける。

 

「頑張ってきたんだねぇ」

 

 称賛が彼らの言葉と重なる。動揺して動かない俺に、彼女はそのまま頭をなで始めた。

 

「……!」

 

 

 だが別に、驚くだけで涙を流すほどじゃない。

 

 

「頑張りましたよ。かなり」

 

 俺は自分の道を誇りながら答えた。この達成感は俺だけのものだ。

 

「自分で言うんだ。いい自信だね。この国のことを頼むよ。それじゃあ───」

 

 ふわっと、俺への抱擁が解かれると、女王の両手はウリエルの方を向く。

 

「さぁ、次は君だね」

 

 冷静になり警戒態勢を解いているウリエルは覚悟を決めて両手を開いている。

 

「は、はい!」

 

(大丈夫、だよね!?)

 

 その覚悟とは裏腹に、やっぱり不安な彼女はテレパシーで俺に呼びかけてくる。

 

(今のところこっちには異常はない)

 

(そうなんだね!分かった!)

 

 正直に今の自分への分析結果を答えると、ウリエルはこちらを見てこくり、と頷く。

 

「へに……」

 

 そして抱擁されたのだが、なんだか奇天烈な鳴き声で鳴いていた。

 

「君も、頑張ってるね。なにか困ったことがったら言ってね」

 

「は、はい。お願いします……!」

 

 女王は彼女にも言葉を残してから、しばらく頭を撫でたり褒めたりなどして手を離し、とてもにこやかな表情で玉座に戻った。

 

「い~っぱい満足したよ。ありがとう!」

 

 女王は俺たちの思案のことなどつゆも知らずにどや顔をしている。

 

「さて、私からは以上。セルサ、何かある?」

 

 やることをやったと一人で満足感を出しているトリノは、近衛兵長にこの謁見での進行を押し付けた。

 

「失礼、よろしいですか?」

 

 ここで俺は彼女に問うべきことを問うことにした。この国を、星を理解するために彼らから聞きたいことがある。

 

「はい。どうぞ!発言を許します!」

 

 ふんす、と女王は快く俺の求めに応えてくれた。

 

「女王陛下は、どうして先ほどのようなことを、なさって下さったんですか?」

 

 俺は彼女の抱擁の意味を直接聞きだすことにしたのだ。

 

「あー……うんごめんね。見ちゃったからかな」

 

「陛下、ここからは私が」

 

 すると、セルサが気まずそうにしている女王の代わりに説明役を名乗り出た。それを彼女は悲しい笑顔で了承した。

 

「女王陛下は魂の観測を通して者の過去を見通される。陛下はそれを見て慈悲を感じられたのだろう」

 

 近衛兵長の理路整然に語る姿に困っている女王は、恥ずかしそうに頬を赤らめて『ははは』と明らかな愛想笑いをしている。

 

「なによりも深い慈悲だ。感謝するといい」

 

「そう、です!そうだけど、恥ずかしい!もう、セルサ!この場での、これ以上、この場で私を讃えることを禁じます。教えたがりはなし!」

 

「かしこまりました陛下。分かったか。クロノ・ノーデンス」

 

「ありがとうございます!」

 

 あまりにも急に話を振られたので、反射的に答えてしまった。このセルサという男、なかなかに読めない。

 

「それと、君たちはこの城を住処として生活してほしい。資金に関してはそっちの理事長に渡してある。それを使ってくれ。それでは、帰っていいぞ」

 

 さらに彼は発言を禁止されているのにも関わらず、俺たちのこの国での生活について語り始める始末。この暴走列車は誰にも止められない。

 

 

 

「「失礼します!」」

 

 

 

 俺たちの謁見は抱擁されるだけで終わってしまった。

 

「ごめんなさーい!!!」

 

 王座の間から出る瞬間に、トリノの申し訳なさそうな声が耳に届いていた。

 

 

 

 

 

 

 さて、場所は打って変わって魂の国、ルクリの郊外。

 何もない空き地に理事会の最高戦力たちが集まっていた。

 

「調べさせてもらうぞ。クロノ・ノーデンス」

 

 世界渡りの技術を完成させた男は、別の完成形であるクロノ(被検体)に対して舌なめずりをする。

 

「やって見せろ。科学者」

 

 対して彼とはまた違う技術で世界を渡る術を持ち、神にも迫る存在へと成った男は笑顔で、されど油断なく相手を見据えている。

 

 彼らの周りでは、彼らが約束をしたその時にいた人間たちが、これから起きる激闘を眺めようとしている。しかし、彼らの中に重傷を負う懸念はしていない。何故なら、審判は理事会最強の男が行うし、この国の特殊な治療施設が既に整っている。

 

「ああ、すべて、肉から血から全て、全て解剖させてもらおうか!」

 

「不遜な物言い。気に入ったぞ」

 

「はいはい。お二人とも。落ち着いて。さて、審判は私が務めさせてもらうよ。勝負が付いたら止めるから好きにやるといい。それとご存じの通り、この世界は死ななきゃ何とかなる。殺さない程度に決着をつけておくれよ」

 

 理事会の長はのほほんとしながら勝負の取り仕切りを始める。

 

「それじゃあ、私がこの手を下ろしたら始めてね」

 

 彼が開始の合図を準備し始めると、俺たちは30メートルくらい離れた位置で互いに向き合う。ラズはこちらを観察して動かない。まるでおもちゃに目を輝かせる子供の用に笑みを浮かべながら。対して俺は緊張感を意識的に体中に巡らせながら両手元に穴を出現させる。

 

「………はじめぇ!」

 

 すると、ラズ・ライトは俺の目の前で消えてしまった。

 そして次の瞬間には俺の頭が鷲掴みにされている。

 

「バラしていいか?」

 

 科学者は目を輝かせて俺に問いかけている。

 

「触れられていればな」

 

 力を籠めようとした瞬間、彼の指はすり抜けた。

 

「すり抜け……!器用になったな……!」

 

「それはどうも!」

 

 すぐに反撃に出ようとするも、俺が長針を手に取った頃には、彼は俺から離れた場所に立っていた。

 ラズ・ライトは世界を移動する手段を確立した男である。

 

 

 そのアプローチは粒子化によって行われる。

 

 

「それでは触診からだ。拓け、時限断層」

 

 彼の指が宙をツー、となぞると指がパラパラと解けていった。まるで砂が舞うように彼の体はどこかに飛んで行く。

 

「気持ち悪い。レッド・バルチャー・グングニル」

 

 音声認識で新たな力の一つを起動させた。

 その言霊は放たれる赤い光を、撒き散らすのではなく集めさせる。光という糸は束ねることで、万物を焦がし抉る朱槍となった。

 

「させないぞ」

 

 その槍が地面に突き刺さる前に、ラズは穂先を優しく手で触れていた。触れた先から赤い槍は解けていく。

 

「させるも何も、もう終わってる」

 

 しかし、そんなことは織り込み済みだ。稲妻をすぐさま爆ぜさせて辺りを灰燼と化した。

 

「なるほど、自身が実験体となったという話。本当、みたいだな」

 

 黒い大地の上で、敵の能力を再確認する。どうやら自爆は意味を成さなかったようだ。俺が攻撃を喰らわなかったのはそれらを穴ですり抜けさせたからだ。そして彼に攻撃が当たらなかったのは、彼自身が粒子化したからである。

 

「うん、本当だ。僕はまず元居た世界で『粒子ほどの物体を別世界に飛ばす方法』を編み出した」

 

 黒い大地に出現した彼は、教鞭をとるように俺の周りをゆっくりと歩きながら、自身の功績について語り始めた。

 

「そしてその次、『モノを粒子に分解して、また元通りにする方法』を作り出した。あとはその技術を合体させた。そうして出来たのが、私の世界渡りだ。これを完成させるためには実験台が必要不可欠でね。ただ、誰もやりたがらない。だから僕がソレになった。実験は成功!素晴らしいね!だが、何度も何度もやっていくうちに。僕の体は勝手に解れていくようになった。初期型で粒子分解をやりすぎた弊害だ」

 

 長々と語る彼に対して俺は次の手を打つ。

 

成神(なるかみ)

 

 そう唱えると穴から飛び出した雷が俺の左手に纏わりついた。

 

「僕は実験で死ぬのは本望だ。結果として何かを残すことが出来る。だけど実験で死ぬのは本望ではない。何故なら、何も残せないから。そして、死ぬ気で探した解決案がこの手段は」

 

離鳴(りめい)

 

 彼の人生の話に耳を傾けながら対策を完成させた。左手で蠢いていた雷は俺の左肩の上あたりで刃を作る。

 

「君と同じ、体に装置を埋め込むことだった」

 

 彼の人差し指が俺の胸に触れている。

 その指先は、俺の世界渡りを実現させる装置を指し示していた。

 

「そうだな。それがどうした?」

 

 雷の刃は秒速10万mで不届き者へ誅罰を下す。

 目視では反応できない、音などとうに超える一撃は科学者の心臓を貫いた。

 

「だから、という訳でもないが、君と同じ芸当くらいなら出来るよ。ガブリエルの因子のおかげだ。頭の回転が可笑しいくらいに早くなる」

 

 しかし、彼に目立った外傷はない。どうやら雷の当たる場所だけ分解と再構築を行ったようだ。

 

「キレが凄まじいな。だがその移動速度の説明は出来てないぞ。科学者」

 

「いい質問だ。答えよう。それは、そこにある粒子で僕を生成しているからだ。いいか?物事の全ては分解できる。肉体も、魂も、記憶も、全て分解できる。そして、ばらせると言うことは組み直せる。意外とその場のものでも人間は出来るものだよ」

 

 つまり、彼は移動しているのではなく、目標の座標に新しい自分を一々作っているということになる。

 

「いい性格してるな。あんた」

 

 テセウスの船の思考実験を自分の体で行っているのだろう。それでいて自我の境界が決して揺るがないのは驚嘆に値する。

 

「ありがとう。性格で褒められたのは久しぶりだ」

 

 彼の精神性を評価しながら、俺は更に次の手を打つ。

 

「ナスカ・ブレイド、獄炎転生」

 

 俺の足元から皇帝より手に入れた炎剣が現れると、剣の周囲は生物の介在する余地のない煉獄の炎に包みこまれた。これで、ラズを打倒する環境が整った。

 

「お前の能力、一見すると無敵だ。だが」

 

 そこで高らかに宣言する。

 

「弱点がある」

 

 彼の不完全さを。

 さらに剣の現れた穴からは、鳴神剣(なるかみのつるぎ)の黒雲が漏れ出している。水、雷、炎が現実を非現実へと塗り替える。

 

「その弱点を今からひけらかしてやろう」

 

「それではこちらも突かせてもらおうか。世界渡りの弱点を」

 

 対して科学者は余裕の満ちた表情のまま俺との距離を保ったまま言い放った。

 彼の言葉に嘘があるように見えない。きっと俺の弱点は見抜かれていると考えていいだろう。だが、それをカバーする余裕はない。このレベルの敵に対して様子見は致命的な隙となる。だから俺は、敵の弱点を突く。

 

「皇竜・朱星(せきせい)

 

 繰り出すのは神速の一撃。あらゆる脅威に対して否応なく結果を押し付ける魔剣の一振りは、分解されて避けられたはずのラズの胸を裂いていた。

 ただし、こちらの無敵も破られた。俺は奴の左肩を大きく抉る一撃を、俺が出現させた穴から放っていた。

 

 

 二人の血が戦場に飛び交っている。彼らは傷なんてものに構わずに『何が起きていたのか』その一点だけを考えていた。

 

 





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