【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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魂の改造

「えっと、なんで、仲間同士で半殺しになっているんですか?母は悲しいです」

 

 俺は同郷の友人たちと夕食を食べた後、ラズと共に女王であるトリノの玉座を訪れた。

 

「何度も言うが、お前は生物的には母ではない、のですよ女王陛下」

 

 女王の言動に科学者は大まじめに返答している。

 

「ラズさん、精神性の話だと何度も言ってますよね」

 

 俺は彼らの問答を見守ることに徹していた。ただ、首を突っ込みたくなかったから。

 

「僕と貴方の精神性は違う。そこは何度も言っているはずです」

 

「……四の五の言わずに『魂の修復』を始めます!」

 

 このままでは言い負かせることが出来ないと判断したのか、女王は俺たちをこの場に集めた目的を果たそうとする。

 

「よいしょ」

 

 彼女が玉座から立ち上がると、その玉座に繋がる夥しい数のコードの内の二本が俺とラズさんの方へアダプターを向けて飛び出してきた。

 俺たちは特に抵抗せずにそれを受け止める。何故なら、彼女が行おうとしているのは治療だからだ。

 

 

 この星の全ての生物は生まれた時に役割を与えられる。

 『兵士』の役割を持つ者は兵士として、『料理人』の役割を持つ者は料理人として、適した能力を持ちながらに生まれ、その生を全うする。

 そして、女王トリノに与えられた役割は『母親』だ。魂を生み出し、さらに肉体が死して抜けた魂は転生させて、その行く末を見守る。星の母親としての役割が彼女にはある。

 

「ふふん、別世界の魂はそういう感じなんだ。触ってみると、ちょっと複雑だね」

 

 管理できるのなら観測ができる。彼女はコードを通して俺たちの魂の形を把握していた。

 

「それじゃあ、直しちゃうぞ!」

 

 そして俺たちの体は魂の通りに修復された。負った傷も、雑に再構成された両足も、いつもの状態へと戻っていく。傷が治るというよりは体が再生しているといった感覚だ。

 

 

 これはトリノの魂の管理者としての権能だ。

 彼女は背後にある四角柱の魂のサーバーと接続し魂のコピーを取り、そこから万全の形を出力して再生させることが出来る。いわば、魂の『セーブ』と『ロード』だ。ラズが大枠を再構成し、細かい部分を彼女が補充すれば大体の傷は完治させることが出来る。

 

「うん、うん。立って、もう治ったから」

 

 修復が終わるとコードは引っ込んで玉座に戻り、代わりに女王陛下が俺たちの元へ歩いてくる。俺とラズさんが立ち上がると、彼女はペタペタと治した箇所を触り始めた。

 

「痛いところはない?別世界の人達を修復したのは初めてだから」

 

「はい。特に違和感はないですよ」

 

「いい経験だった。僕以外の再構成のアプローチは見たことなかったからね」

 

 ラズさんは少しずれた回答をしている。

 

「うん。よかったぁ!」

 

 異変はないことを知った彼女は、まずは俺に抱き着いて全身をまさぐってきた。

 正直、かなり恥ずかしい。

 

「今度はラズさんね」

 

 ひとしきり俺を抱いて満足した彼女は、その矛先をラズさんへ変えようとしていた。

 

「お言葉ですが、結構です」

 

「「…………」」

 

 それを予見していた彼の神速のお断りでその場は凍りついてしまった。

 

「それじぁあ、最終ブリーフィングです!」

 

 その空気を壊すように、女王は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 そこから一時間後、明日襲来する一つ目の厄災を含む、これから巻き起こる厄災に対する最終会議が行われた。場所はこの四角柱の城の一室で、理事会最高戦力5名と女王、その従者である侍女、近衛兵長、将帥の合計9名が同席している。

 

「みんな、集まったね。それではこれより、最終確認を始めるよ」

 

 進行は理事長が行うようだ。

 

「我々は三つの、星を滅ぼし得る厄災と対峙しなければならない。まずは一つ目、明日出現する破壊の役割を与えられた厄災、ウラガノだ。情報について、もう一度確認しよう」

 

 理事長は手元のタブレットで今回の厄災たちにまとめられた資料を読み上げ始めた。

 

「ウラガノは風を使ってあの子の役割を果たそうとする。まず、奴の周りには超国家級の暴風を常に発生している。さらに一度攻撃すれば、目覚めた場所から一気にここまで攻撃が届く。しっかり攻撃させない、もしくは都市に向けて攻撃させないという立ち回りは大前提だ」

 

 彼は続いてこの戦いで最も重要な点を語り始めた。

 

「そしてこの戦い、及びこの世界における全ての戦いにおいて勝利条件と敗北条件がある。勝利条件は厄災の打破、もしくは休眠。敗北条件はトリノの死亡及びこの施設の破壊だ。玉座にある石碑とトリノ陛下、この二つはこの星で魂を運用するためには必要不可欠な要素だ。決して失ってはならない」

 

 さらにあの石碑にはこの星の生物の全ての魂の写しがある。もしそれが破壊されてしまえば、この星の医療システムは崩壊してしまうのだ。

 

「しつこく言うようですが、私は、ウラガノと話がしたいです。母として子供を説得したい。あの子の情緒はまだ子供なんです。だから、まだ導けるはずです」

 

 情報の共有の中で、事前の作戦会議で何度も要求してきたことを、彼女は再び協調してきた。

 

「……構いませんよ。それだけのメリットはある。今回の厄災たちは一つだけでも星が滅ぶ脅威だ。それを無力化できるのなら狙いたい。が、しかし、貴方が死ぬとこの星の生命が流転できなくなる。そんなことは起こさせない。こちらの提示した条件でのみ接触を頼みたい」

 

「ありがとうございます」

 

「礼には及びません。女王陛下。我々にもメリットがあるんだ。決してそちらにだけメリットがあるわけじゃない」

 

 ラズの言動に眉をひそめる女王の従者たち、そしてそんなことを一切意に介さないラズ本人。それを何とも言えない顔で眺めるだけの俺とメデュエルはこの空気をどうすべきかについて考えを巡らせていた。

 

「さて、私は女王陛下とこの都市を護衛する訳だけど、強襲班四名はどんな作戦を立てているのかな?」

 

 そこで理事長が話と場の空気を切り替えた。

 

「もち「もちロン。考えているヨ。理事長」

 

 理事長から渡されたバトンを喜々として受け取ろうとしたラズは、メデュエルが一足先に、食い気味に答えることで発言権を奪われてしまった。

 

「厄災の倒し方とイウものは弱点を見つけることに限ルからネ。我々は奴を解析シ、仕組みヲ理解シテ、弱点を見出して倒スつもりダヨ。前衛はワタシ、中前衛がラズとクロノ、中衛がソフィアの速攻デ攻めるつモリだ。まズ、私たち四名戸ト取り囲む兵器で小手調べを行い、スグニでも討滅すべきか、そもソモできるノカ、陛下が接触できるノカ、できないのか、諸々を判断するつモリ」

 

「よろしい。それで他に何か確認しておきたいことは?……なさそうだね。それじゃあ、ここはお開き。明日はがんばろぅ!ささ、解散解散!」

 

 理事長が解散の合図をすると、まずこの場で一番敬われている女王と彼女に付き従う将帥と侍女が部屋を出ていった。

 

 

 

 

「失礼。少しいいかな?精鋭の方々」

 

 しかし、近衛兵長、セルサだけが戻っていなかった。

 

「どうかしたのかな?」

 

 理事長は優しい声色で彼に応えた。

 

「時期尚早だが第2の厄災、カタヴァルスについてだ。この厄災に対しては布陣を敷いて対応するとのことだったが、こちらの布陣を変更させてもらいたい。その上での兵器の配置も再考して欲しい」

 

「具体的には?」

 

「現在、我々はカタヴァルスの予想進行方向に対して壁を作るように布陣する予定だが、それを絞ったものにしたい。具体的には……待ってくれ。地図を取り出す」

 

 近衛兵長はこの星の全体が書かれている石版を俺たちの前に置いた。

 

「まず、我々はこの巨大な洞窟で生活している訳だが───」

 

 ルクリの、というかこの星の生き物は基本的に地底生物だ。

 地表は基本的に微生物くらいしか生活できない岩だけの環境であるのに対し、星に一本穿たれている洞窟には生物が活動するのに必要な栄養を豊富に含んだ鉱石が埋まっている。

 

「ルクリは中腹にある。そして最奥には第一、地表の近くには第二が眠っている。そして、第二のルクリへの予想進行ルートはこれだ。奴らは知能が低く、地表を走る大軍だからな。険しくないルートに戦力が集中する。だから、そのルート上で迎え撃ちやすい箇所に布陣しておきたい」

 

「なるほど、ピンポイントに兵力を集めたいと何故ですか?」

 

「根拠は二つ。一つ目、以前提案した陣は、どんなルートでも対応できるようにしておいて穴が開いた部分をそちらがカバーする対応型だ。だが、貴方たちから提供してもらった厄災の記録によると、理不尽にはピンポイントで対策をした方が良いと分かった。それに、そこかしこに味方がいるよりも、集まってもらっていた方が、貴方たちは力を発揮できるだろう?」

 

「舐めてもらっては困る。私たちはそういった、防衛戦のプロだよ。そんな状況で上手く戦えないとでも?」

 

 理事長は口調だけで不満を示しながら近衛隊長に反論した。

 

「……それは、失礼。だが、そうして欲しい理由が他にもある。この都市を助けたいと考える貴方たちにもつながる話だ」

 

 彼は申し訳ないという態度を一切示すことなく彼の意志を語り始めた。

 

「これは、口外しないでくれ。……俺の真の狙いは、この戦いを通して、トリノに母親としての役割を諦めさせることだ」

 

 この星の人間にあるまじき言葉は俺たちに決意と異常性、二つの意味での重圧を感じさせた。

 

「…あの人の博愛主義はいきすぎている。正体不明の3つ目以外の、2つの厄災にさえ、慈愛を抱いている。……知っての通り、我々はその愛のせいで二つの厄災を未来に先送りにしてしまったからな」

 

 星を滅ぼし得る大厄災の連続『厄災大戦』。

 連続して厄災が現れるようになったのは原因がある。

 それは、第一の厄災ウラガノ、第二の厄災カタヴァルスが女王の方針により封印されたからである。殺すという選択も可能ではあったそうだが、彼女がそれを断固拒否したらしい。

 

「それが、こんな事態を引き起こしてしまった。意志疎通のできない二つの災害と正体を掴めない三つ目の星を滅ぼす(・・・・・)厄災。そのような理不尽の大群。我々だけが対峙したとしてもすぐにこの星は滅んでしまう」

 

「今回は理事会の援護という幸運が拾えた。だが、その幸運が二度あるかは分からない。だからこそ、母としての役割に区切りをつけさせる。さもなければこの星はいずれ滅んでしまう。母の願いはこの星の存続だ。それを果たすためなら俺は何でもやる」

 

 彼の演説には大木のような力強さが感じられた。

 だが、語る内容は俺にとって好みではない。それを絶対に悟らせないために、しかめっ面を維持しながら腕を組んだ。

 

 この判断は正しい。いわば今まで、トリノはこの星の人間にとっての大きな脅威をそのまま先送りにしてきたのだ。不安を持たせるには十分な理由だ。だけれど、役割を否定されるのは、個人的にいい気はしない。

 

「……ま、分かったよ。別に君の意見に賛同したわけじゃない。現地の人達には死んでほしくない。集まってくれていた方が負傷者は少なくできる。それに、この星には僕たちレベルで強い人材はいない。陛下くらいじゃないかな。そんな君たちには薄く広く、ではなく厚く狭くで対応してもらいたかったところだ」

 

 兵長の演説に心打たれた風に、理事長が理由を付けて彼の案を呑み込んだ。俺にとって今の言葉は取り繕ったようにしか見えない。だって目が全く笑っていないのだから。

 

「ありがとう。それではその手筈で頼む。……彼女を折る件だが、そちらは全力で戦ってもらうだけでいい。こちらが上手くやる」

 

 理事長の言葉に表面上納得しているセルサは、睨みつけるような目で形だけの礼を言っている。

 

「私たちは彼女を折る気ないからねぇ。勝手にしてくれ。という感じだ。そっちの文化からして役割を否定するということは犯罪とまではいかないけど、ひどいことと認識される。だから、……えっとつまり、私はなんにも聞いてないよ」

 

「そうか。つまらん男だ」

 

 自身の言葉が通じなかったことにため息を吐いたセルサは、席から立ち上がってそそくさと部屋を出ていった。

 彼の気配が無くなるのを待ってから理事長は肩を落として首をだらん、と垂らす。

 

「厄災と戦う前にやめて欲しいよね。全く」

 

 俯く顔は除くことは出来ず彼が今どんな表情をしているのか分からない。

 

「すこし、いいか?」

 

 その時、ソフィアが耳元に小声で話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「私、あまり会話に参加できていなかったが、大丈夫だろうか?」

 

「本当にどうした?」

 

 

 

 

 

 

 

 最終ブリーフィングが終わった後、女王は玉座の間で休んでいた。

 石碑と接続し、背もたれに体を任せて

 

「陛下、こちらをどうぞ。理事会から分けていただいた、ココアという飲み物です。リラックス効果があるようですよ」

 

 侍女の少女が彼女に丁度良い暖かさのココアをトレイに乗せて差し出してきた。

 

「ありがとう、サーベ。……うん、あったかいね」

 

「お誉めに預かり光栄です。いぇい」

 

 彼女は不安そうな女王を少しでも安心させられて上機嫌になっていた。

 

「うん。そうだね。リラックス、しなきゃね」

 

 彼女は明日起床する第一の厄災のコトをずっと考えていた。

 

 

 

 どう言葉をかけるのか。

 

 どうすれば納得してもらえるのか。

 

 どうすれば一緒に歩めるのか。

 

 今まで何度も考えた。考え抜いてきた。

 それが通じるかどうか。聞いてくれるかどうか。

 そんなことばかり考えていた。

 




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