【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
『ん?』
朝起きる。体が重い。
意識が、まだ、はっきりしない。
だるいな。随分と長く寝ていた気がする。
なんでだっけ。
『んんんんんん~~~~~~~~~~』
思い出した。
トリノだ。
ママが寝かせてくれたんだ。
じゃあ、今日も動き出そう。
厄災はのんきなうねり声を上げながら疾風を撒き散らし、辺りの岩を削っている。
広がる3対の翼。鈍い緑に光る石の鱗。
深緑のワイバーンは目覚める。
厄災大戦第一戦。
超大陸級厄災『ウラガノ』
起床。
「よし、やっこさん、ぴったり出てきたね。いい子だ。それじゃあ、まずは理事会が請け負おうか」
帽子、コート、ジャケット、ワイシャツ、ネクタイ、ズボン、靴、全てを真っ黒な服に着替えている理事長が号令をかける。
大きな厄災レーダーを背に、俺たちは第一の厄災の起床を確認した。
奴の寝床は洞窟の最奥。そこでゆっくり伸びをしながら風で辺りを破壊している。
この星の生命体は一本の巨大で長い洞窟のどこかに拠点をおいており、ルクリはトンネルの中腹部にできている。だから今はまだ被害は出ていない。ただこの洞窟が一直線である以上、厄災の対処なくして被害は免れない。
「先ずは、小手調べだ。クロノ」
『ん?なんだぁ?』
荒れ狂う暴風の中、厄災に数々の兵器が向けられる。
事前に彼の寝床に備えていた理事会選りすぐりの砲台が今か今かとその発射の時を待ち構えていたのだ。
しかし───
(やはり、最前線の兵器は全壊か対策は必須だな)
近距離で配置していた砲台の全てが木っ端微塵に破壊されていた。
多少遠くに設置していたものも破壊されてしまっている。
射程が大陸を超えるようなものは生きているが、そもそも弾丸が届くか怪しい。でも。やってみるしかない。
「全弾発射」
音声で全ての兵器に号令をかける。
夥しい轟音、国など容易に破壊できる兵器たちの弾丸は全てかき消された。
「わオ、すごいネ。これは痛ソウ」
その状況を眺めている先鋒を担当するメデュエルは、目を細めて頭の中で厄災の規模を計算していた。
「フム、超国家級の中デモ、上澄ミの実力みたいダ。全快で行こう!クロノ、頼んだ」
「任せて」
俺が目の前に穴を開けると、彼女は俺たちの方は向かずに手を振って穴に飛び込んでいった。
「こんにちハぁ!」
陽気に飛び出した彼女は、目覚めたばかりの厄災へと声をかけた。
『だぁれ?』
「一回しカ言わないカラ!よく聞イてナ!」
答えようとすると彼女の体に暴風が襲い掛かる。
「くっ!」
国を散らすほどの暴風ならば小さい命など簡単に引き裂いてしまう。
意識せずともその四肢を吹き飛ばした。
「キックぅ~~~~~~~♡」
そのまま天使は落下に身を任せて、ない拳を振り上げる。
「きたキタきたキタ……!」
ニヤリ、と笑うメデュエルは骨と肉と血管を生やしていく。
『なにそ───』
肉を粉微塵にする風さえ勝る速度の再生、厄災は釘付けになる。
「突然変異因子使徒、メデュエル、ダ」
脳天に一撃、細長い腕からは考えられない異次元の怪力が厄災の頭を襲った。
「通じるぞぁ!」
『痛いなぁ!もう!』
彼女を敵として捉えた厄災は、怒りに身を任せたまま殲滅を始める。暴風を対策できれば物理的な攻撃が入ることを確認した彼女は大いに喜んだまま、チリとなってしまったのだ。
「これでは再生まで時間がかかかるな。クロノ、俺たちで足止めするぞ」
「分かってる!」
彼女の心配はさほどせず、俺たちは厄災の場所に繋がる穴を開けて飛び込んだ。
俺は体に黒い穴を纏って厄災厄災の爆心地へと突入した。
飛び出して奴を肌で触れて、理解したことがある。暴風という形容は適さない。
奴の周囲ではソニックブームが吹き荒れている。
各々展開していた策で己が身を守っているが、もしメデュエルのような集中攻撃をされてしまったらどうなってしまうか分からない。
幸いにも彼女が物理は通じることを証明してくれた。だから出し惜しみはしない。俺たちが為すべきことは速攻だ。
『だぁ』
「エンジェルアンカー、全弾発射!」
誰だ、という質問を最後まで聞くこともなく、用意していた最大威力の攻撃を叩き込んだ。8本の超国レベルの杭たちは、全て厄災に命中しその巨大な体躯を洞窟の最奥へと吹き飛ばした。
『こんのぉ、痛いじゃないか!決めた!町壊すよりも、君たちを殺す!』
しかし、奴は健在。吹き飛ばされたといえど傷はなく、子供が駄々をこねるように叫んでいる。
「殺す?ガキみたいだな。どうした?覚えたてか?破山刀、抜山蓋世」
さらに俺は奴の下顎に当たる場所までワープし直接手で触れてから穴を展開した。そのまま、巨大な刀が突き立てるわけだが、効果はまるで見えない。
(なるほど、鍛え直した破山刀でも傷一つつかないか)
「うぅ…………!」
厄災は泣き始める子供のような呻き声を上げている。
外からの攻撃が通じないのならば、摂理を使う。ラズの解析はまだか。
彼の分解は測定できる万物に通じる。第一の厄災の攻略の鍵は彼に。
そう考えたその時だった。
「あ!」
メデュエルの時よりも凝縮された風の塊が発射された。
まずい。これは──
「こりゃぁ不味いね。こっちに届くな」
都市を守る理事長カバナキもクロノと同じことを考えていた。
この一撃は都市に届き、全てを蹂躙してしまう。
そう判断した彼はすぐに待機していた王座の間を飛び出して、都市と風の玉の直線状に立った。
「ここで止めるぞ」
黒い手袋をキュッと嵌め直して地面に手をかけた。
彼が力を籠めると、まず目から生気が無くなった。
次に死の予感がたちこめる。
「
黒づくめの男がそう唱えると前方に全長3キロメートルの土の塊が現れた。
迫りくる厄災に対して、墳墓は坂のように立ちふさがる。その高さは既にルクリで一番高い建造物である、トリノの居城よりも高くなっている。
彼は厄災の放った攻撃を相殺するのではなく逸らすための地形を作り出した。
角度は薄く、下からすくい上げるような形で建立する。
「間に合った!」
隆起が終了した瞬間に、厄災の放った大きすぎる弾丸は直撃し、轟音を上げながらも、半壊しながらも、なんとか軌道を逸らすことに成功した。
「よし、何とかなったな。さて、頼んだよ。ソフィア」
修正を成し遂げたカバナキは冷汗をかきながら振り返って都市が無傷であることを確認してから、はるか後方で待機する切り札へ呟いた。
「周辺環境、入力完了。狙いは、定まってる。銃弾を惑星貫通弾に変更。チャージ開始」
メデュエルが飛ばされたあと、ソフィアはクロノの能力を用いてこの星の大気圏にまで移動していた。
目標地点は宙で巨大砲台と化した彼女の切り札、クリーニアである。
彼女の故郷を守る戦いに大きく貢献したこの機体の次の目的は厄災を仕留める一撃を放つこと。
彼女は乗り込むと同時に、地中での理事会の精鋭たちの分析から得られた情報をもとに、厄災を仕留めるための弾丸を選定し始めた。
「あそこに届く弾丸は……」
現在、ウラガノの周辺では音速を超える衝撃波が巻き起こっている。先ほどの兵器の集中砲火もこの風のバリアによって行く手を阻まれてしまった。このバリアへ対策をしなければ、厄災に弾丸を命中させることは出来ない。
『対厄災用、惑星貫通弾。装填』
選ばれたのは星を殺し得る弾丸。
これを彼女は亜光速で放つ。
厄災の辺りのバリアなど、かき消される前に。
『クリーニア 大気圏運用型砲台形態 発射シークエンス開始』
彼女は駆る兵器の状態を確認しながら至高の一撃を放つ準備を行う。
「再配置、完了、弾道再計算……完了、充電、開始……」
そんな中、ありえない光景に思わず通信を入れた。
「こちらソフィア、厄災が動いていないが、どうかしたか?」
「こちら理事長。ソフィア殿は一旦待機だ。たった今、女王が接触した」
「よし、なんとか間に合った」
俺は先程の攻撃を移動することで避けて、奴の頭の上に立っていた。
「女王陛下!」
すぐに手をかざして穴を開ける。
破山刀を使用するときに、この厄災は触っても害はないことは確認済みだ。
だから、女王が接触できると判断した。
俺の今の目的は『厄災の殲滅』である。ただ、役割を果たそうとする人間がいれば、認め手を差し伸べるべきだとも考える。
だから、隙があればこういうこともする。
(役割を、果たしてみせろ!)
「おはよう、ウラガノ」
「あ!おはようママ!」
真っ白な空間で二人は500年ぶりの再会を果たした。
女王の目の前には、人間の子供のサイズにまで小さくなった第一の厄災、ウラガノがyちょこんと座っていた。
ここはいわば精神世界。トリノの権能である魂の管理により実現した魂の会話の場。女王は寵愛を分け隔てなく与える。その愛は破壊衝動を持つ者でも例外ではなく、これより決死の説得が始まる。
「ママ!聞いてよ!変な人たちがいじわるしてくるんだよ。僕はただ、壊したいだけなのに……」
厄災は無邪気に物騒なことを言っている。
「そうなんだ。それは、そうだね。やりたいことが出来ないのはつらいよね。それにいじわるしてくる人たちも嫌だね。……でもさ」
トリノの鼓動は高鳴りを増していく。
前回の戦いから500年間、何度もこの光景のことを考え、言葉を用意してきた。言葉を投げるだなんて、一方的なことは決して行わない。
落ち着いて、胸を張って、寄り添って、子供を導く。
「壊すのって本当にしなきゃいけないこと?」
「ん?そうでしょ」
それは彼女にとって想定通りの答えであったが、より緊張を高めるものだった。
これから彼女は子供の当たり前を変えなければならない。純粋な子供の衝動は覆しがたいものである。
(そう、この子は善悪を区別できていない。だから、私が導かなくちゃ)
「そう違うの。これはいけないこと」
前回は肯定し続けて失敗した。だから今回はこの子を否定する。
(母親の役割は子供を見守ることだけじゃない。導くことだ)
「えぇ?どうして?」
「どうしてって、それで困っちゃう人がいるからだよ!」
「うーん………」
腕を組んで悩む仕草を見せる厄災に、彼女はほっとしていた。
一切説得を拒否するのではなく、悩むという余地があるということは、言葉次第では衝動に抗ってくれる可能性があるということだ。
(伝わってくれたかな……?)
子供の胸の内を伺う彼女は次にどんな手札を切るべきか思考を巡らせている。
「分かんない!」
考えている間に、厄災は結論を放棄してしまった。
彼は突き飛ばすように彼女の魂を拒絶する。
魂での会話を終えたトリノは弾かれるように穴から手を引いた。
「くっ」
その右手は所々風で斬られており、血が噴き出ていた。
「陛下!」
王の負傷にいち早く動いたのは近衛兵長だった。彼はすぐに彼女の手を取って傷の具合を確かめている。
「分かっているでしょう!もう、そんな役割……」
「セルサ殿」
彼の心の内が漏れ出した瞬間、彼の次に女王の下へと参じた将帥が、彼の肩を力強く掴んでいる。まるで、その先のセリフを制止するように。
(ただ役割を果たすだけの傀儡め)
「……失礼しました。陛下、まずは治療を」
すこしだけ、その掴む手を睨みつけたセルサは乱暴に手を振り払いながら女王から離れた。
「うん、心配をかけたね。でも私はやらなくちゃ、魂に誓って」
すると彼女の腕はみるみるうちに回復して、1秒後には綺麗で細い手に戻っていた。
「……そうですか」
まだ強い意思が燃え盛る女王の瞳を見て、近衛兵長は表面だけ納得していた。
『ん?寝てた?』
厄災が再び目覚める。
その間、現実時間におけるほんの数秒。
ただし、その数秒を精鋭たちは無駄にしない。
「発射」
一閃。
星さえ貫く弾丸が、音を置き去りにしてワイバーンの頭を貫いた。
「命中────、次弾準備」
(仕留めきれてないか。だが)
ソフィアはその事実をすぐに受け入れ、次の攻撃の準備に入る。
確かに、この一撃は厄災の命を貫くことは出来なかった。しかし────
((((ダメージは入った!))))
これまで如何なる攻撃も防いできた水晶の鱗と、厄災の肉体の一部が剝げ落ちていた。
前線で戦う全員がこの攻撃が通ると認識した瞬間、厄災の次の一手を連想する。
『こんのぉ』
生まれて初めての衝撃。
頭を揺らす痛みと、破壊された外骨格。漏れ出す血肉。
それらは厄災の逆鱗に触れた。
『このおおおおおおおおおお!』
奴の辺りで侵入者たちを妨害していた風が、口元へと凝縮されていく。純真で無垢な殺意の目標は遥か彼方に浮かぶ射手。
たった今、放たれようとする風の塊は、先程俺に向けられたものよりも数十倍大きく、
轟音で音は聞こえない。アイコンタクトをする時間もない。
俺たちは有効な手段と連携を反射で行い、この発射をすぐにでも止めなければならない。
(俺の世界で覆う!そうすれば!)
間に合うか、間に合わないか、そんな思考をする暇はない。すぐに策を打たなければ俺たちは敗北する。
『ん!?』
すると、厄災の右足が消え失せた。
自らを支える足を失くした奴は、痛みのないただの喪失感と共に右側へ倒れ込む。
奴の右足があった場所にはラズがいた。
俺と奴との攻防、女王との対話、ソフィアの弾丸。
このやり取りの中で、彼は理不尽の解析を終了させていた。仕組みさえ理解出来れば後はバラせる。彼はすぐに崩せる範囲を分解したのだ。
それでも、殺意の発射は阻めない。
足が無くなり狙いが多少ズレたところで、あの破壊力をもってすれば目標の殲滅など容易だろう。狙いをずらすだけではまだ足りない。この弾を無効化しなければこの攻撃は防げない。
「もう遅い!」
俺の穴は奴の風の半分を包み込んだ。これなら強引に発射されても、後は他の者たちでも対処できる。
『んあ!』
などという浅はかな希望はすぐに断ち切られた。
奴は風を操っている。
だから俺が包みかけた塊を八つに分解させて逃がすことだってできる。
「それがどうしたぁ!」
その程度で諦める俺ではない。すぐさま風の通過点を予想して穴を開け始める。
(くそ、一歩────)
だがしかし、一瞬足りない。これでは風の威力を殺しきれない。
このままでは、目標であるソフィアは討ち取れないだろうが、都市は破壊できる。
威力を削った風の塊でも、先ほど俺へ放った攻撃を凌駕する。
理事長の墳墓で対処しきれるか分からない。
「待っタ!」
ぎりぎりの防戦が崩壊しかけたその時、一人の天使が戦場に舞い戻る。
メデュエルが体の再生を終了させて奴の左側に現れていた。
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