【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
私のゆりかごは試験管だった。
まずこの世界には『天使の因子』と呼ばれる、特殊能力を発現させる因子がいつの間にかあった。どうしてどこで生まれたかは分からない。いつの間にか、受け継がれていたのだ。
この因子は宿した者に祝福をもたらす。ウリエルには不滅の火が、ミカエルには抗う力が、ラファエルには万物の生命が、ガブリエルには比類なき処理能力とそこから導き出される予言の力がもたらされる。
この世界の人間は、恵みをもたらしてくれる因子の一切を知り尽くすことにした。
因子を引き継ぐ儀式も、因子の引継ぎ先を任意に設定できないかどうかについて研究した結果に生まれたものだ。
そして、因子研究の最終段階で行われたのは、『人工因子』の開発だ。
結果、人工因子の生産には成功した。しかし、問題点がある。それは人工因子を引き継いだ人間の制御が難しいことだ。
人工因子を埋め込まれた人間は、その性格が因子の特性に引っ張られる。例えば暴力的な因子を埋め込まれた者は、その心も暴力的になってしまう。
最初の私は豆ほどに小さかった頃から、私は狂暴だった。今は亡き副理事長も『俺にはどうにかする未来は見えない』とおっしゃっていたらしい。
この因子のコンセプトは『蛇をモチーフとした究極の肉体を持った人間』。与えられた力は不老不死と怪力。
私は実験動物から因子を受け継いだ初めての
その制御は至難を極めた。衝動的に悪意を振りまいて、能力で他人を傷つけた。そんな私を止めたのが、先代のウリエルだった。
「これは、うん。すごいね」
金髪でショートカットの白衣を着た女性、今よりもひとつ前の世代のウリエルはこの人が担当していた。
「はじめまして。私はウリエル。貴方は?」
破壊された実験器具で散らかった部屋を堂々と歩いていく。
「…………」
私は彼女の問いには答えなかった。
その代わり、私は彼女を殴ってみることにした。それが私の役割だからだ。
「あっぶな」
完全な不意打ち。しかし、私の拳は受け止められ、そのまま地面に背負い投げをされた。
「がはっ」
床には大きなクレーターが開くほどの勢いで打ち付けられると、私は彼女には勝てないと本能で理解した。
すると彼女は近くで倒れていた椅子を戻して座り、足を組みながら私を見下ろした。
「ようし、ちょっとお話ししようか。君は、何が好きなのかな?」
私はそれから何度も怪物としての本能を叩き潰された。
来る日も来る日も私は天使に挑んで負けてきた。
「どうシテ、そんナニ、殺さナイ?」
一か月くらい毎日そんな日々が続いた後、幼い私は、本来はいらないと考えた言葉さえも使って彼女に聞いた。
「どうしてって、メデュエルちゃんを助けたいから」
「……意味が分カらナい」
「そっか、今は分かんないか」
なんとなく、飛び掛かる。
「分かるまで、一緒にいるよ」
「もがが」
組み伏せられてしまった。
こんなやり取りを何百、何千と続けた私はついには暴れる衝動を抑える理性を獲得したのだった。
「おラァ!」
服さえも完全修復した彼女は奴の傷ついている部分を狙って殴り飛ばした。
『ぎゃぁ!!!』
初めてできた傷に迫撃を入れられた厄災は悲鳴をあげながら倒れ込む。
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!』
勿論、痛みに悶えている中で風の操作などできるハズがない。
風の弾丸は発射される前に俺の世界が呑み込んだ。
『うぅ。あ……あ』
倒れた厄災は悶えながら立ち上がらない。それは殴られた痛みだけが原因ではない・
「毒だ!苦しみナ!」
落下しながら攻撃と同時に埋め込んだ神経毒の効果があったことを喜んでいる。
大気圏での装填はまだ終わらない。ラズは相手の行動にすぐに手を打てるように様子見をしている。理事長は射線確保のために墳墓を解体している。
つまり、再び彼女の介入の余地が訪れた。
「今だ、女王陛下、ラストチャンスだ!」
すぐに穴を開けてトリノへ呼びかける。
この厄災は一度隙を与えると全てがひっくり返る。
これ以上の攻撃を理事会は許さないだろう。
だからこれが最後のチャンスだ。
再び、二人は、二人だけの精神世界へと入った。
「ママ……僕、分かった。なんでいじめられるのか」
そこには今度は母親と真正面から話そうとしている子供がいた。
「壊されるのが、嫌なんだ」
彼の言葉に、トリノは驚かされた。まさかこの子が相手を心の内を考えることが出来るなんて思いもしなかったからだ。
「……うん。そうだね」
自覚した、ということは大きな第一歩だ。このまま心変わりさえできれば、この子が死ぬ必要はなくなる。用意してきた言葉をゆっくり慎重に、取り出して子供に届けようと口を開いた。
「許さない。絶対に許さない」
しかし、先に意思を口にしたのは厄災の方だった。
「されて嫌なのは分かった。でも、僕はしたいんだ」
(どうして?)
言葉が通じない化け物は、どうしようもない。いくら言葉をかけてもその力で跳ね除けてしまう。
「やめて、やめて!貴方は私の!」
「それってさ、押しつけだよね」
「……」
思わず出てしまった言葉に対して、鋭く核心を突かれる。
「うざい。あーしろこーしろって。僕のなんなの!?かってにやくわりをあたえて!」
そうだ、私はこの世界の母親になろうとしている。
「かえって」
何も言い返せなかった。
だってその通りだから。
『ころ───』
動き出した厄災。それを仕留めるために最速の男は動き始めていた。
解析を完了したラズは、起き上がって全てを破壊しようとする厄災の首を分解した。
両断するまではいかなくとも、普通の生命体なら即死の一撃を見舞った。
『す!!!!!』
しかし、厄災はまだ止まらない。
すぐさま失った右足と首を
(再生した!?そんな役割じゃないだろ!?)
その能力に驚きも0.01秒で消化してその次の策を打つ。
『連絡しとく!これは、魂の改造だ!』
ラズからの意味不明な連絡は頭の端に置いておいて、すぐさま行動を起こす。
『ウリエル!』
次の策のために、俺は隣の穴からウリエルを呼び寄せた。
『うん、準備、できてるから!』
彼女と共に手を広げ、奴の再生した首元へ向ける。
『『
首を抉った際に仕込んでおいた兵器が炸裂する。
器官を再生させるなら、再生される部位ごと燃やし尽くせばよい。
ただ、俺の用いる白い炎では火力が足りない。どうやってもあの体積を燃やし尽くせない。ならば本職を連れてきてしまえばいい。
既に槍からは幾千の棘が枝分かれしており、奴の肉、血、臓腑の全てに伸び、着火している。
『ぎゃあああああああ!!!!!!』
再生しようが関係ない。それ以上の焼却能力にて厄災を排除する。
耐え難い苦しみに悶絶しながらも、この絶望的な包囲網から抜けたい厄災は、翼を大きく広げて空に逃げようとする。
「させるか」
しかし、すでに翼には科学者がいた。
すぐさま翼を分解することで飛行を阻止。一瞬だけ宙に浮かんだ奴はそのまま地面に叩き伏せられることになる。
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァァ!!!!!!僕は!!全部!!壊すんだァァァァァァァ!!!!!』
悔しさ、怒り、悲しみ、どんな感情か分からない叫び声が洞窟をこだまする。
しかし、そんなことで理事会は手加減をしない。むしろこれは大きな隙だ。厄災が痛がっている間にもソフィア以外の各々が追撃を続けている。
まずは背中を分解して、次に胃を焼いて、そして首の骨にヒビが入れる。
これほどの総攻撃を浴びても、厄災にはまだ息がある。
(いつになったら終わるんだ?コイツ、全然死なない!)
ウラガノの途方もない強靭さに恐れていると、事態はもう一度ひっくり返る。
「ウリエル退却!」
すぐに俺はウリエルを穴で元の場所、玉座の間に戻した。
奴が再び風のバリアを発生させたのである。
しかし、それは一瞬だけ。
「──────え?」
このバリアの目的は敵を寄せ付けないこと。それが一瞬で解かれたということは、奴が力尽きたか、準備が整ったか。前者はあり得ない。
だって厄災は狂暴な顎を開いたから。
ドォン、と音が遅れて、何かが飛び出した。
「やらせん」
反応できたのは科学者のみ。ラズは物体の直線状へ先回りしていた。
ラズの前に立っているのは、深緑の鎧を着た人間。どうやら厄災の口から飛び出したのはコレらしい。
「え?なんて?」
フルフェイスの鎧に似合わない子供の高い声が発せられると、ラズは突然バラバラになった。これは彼の分解ではない。きっと彼はアレに瞬時に切り刻まれたのだ。
ワイバーンの姿の時のような広範囲を抉る理不尽さはない。ただ、人間の尺度となったことで効率的に扱えるようになっている。
「やらせないと言った」
しかし、バラバラにされたところで、彼はその姿を再構成できる。すぐさま傷を治して何かを握り、それを厄災へと突き刺した。
俺と戦っている際にも使用した彼の専用礼装を、その場にある粒子たちから作り出して突き立てる。
これは彼の作り出す万年筆型の『絶対崩壊礼装』。
このペンには二つの能力がある。一つ目は触れた物体に分解を伝播させること。これで俺はあの時足を分解させられた。
そしてもう一つの能力、それはペン先だけラズ・ライトの分解能力の限界を超えること。
対して厄災も柄と鍔しかない剣を取り出して彼へと攻撃する。
不可視の刃の正体は勿論『風』、圧縮された高密度の風が障害を殺そうと猛り続ける。
両者の攻撃はすぐに衝突、拮抗し他のメンバーが到着する猶予を作り出す。
「つかまえタァ!」
厄災の周囲に現れた無数の穴。奴の背後の現れた穴から白い触手が伸びて拘束した。
これはメデュエルのものだ。
彼女は再生能力を応用して新たな器官を増やすことが出来る。
これは皮膚と骨を故意に壊し、意図的に再生する形を変えることで成立させている。
「邪魔!」
拘束された厄災は風のバリアを発生させて触手を破壊しようとするが、それを上回る再生速度で縛り付けている。
(バリアの威力が、弱い……?)
その様子を見た次の瞬間から、奴の口から風の塊が発射されていた。
「まずい!」
人間の形を取ったことで操る風の規模は小さくなったが、扱いの精度が増している。
と、情報を整理している場合ではない。球の方向は───────
「ソフィア!回避!」
声をかけたその時には、大気圏で浮かぶクリーニアは爆発していた。
「……ここは、離れられない」
その様子を遠い玉座の間で見ながら、カバナキは拳を握りしめていた。
(今の情報陛下には、気力がない。こんな状態じゃ、すぐに殺されてしまう。だから僕はこの都市と女王の最終防衛ラインとしてここに居なきゃならない)
彼の背後には二度の拒絶を通して傷心の女王陛下がいる。敗北条件を達成させないための最終防衛ラインが頻繁に動くわけにはいかない。
「頼んだよ。みんな……!」
彼女の安否を調べる必要はない。今はこの厄災を倒すべきだ。
「狂い遊星、ハレー・ジェイル」
厄災が動けない時間を少しでも長くするために追加で拘束を用意する。
3つの衛星は仲間ごと厄災を囲って電磁波により動きを止める。
「エンジェル・アンカー鏡面発射!」
その隙に俺は厄災の左右から杭を挟むように攻撃を行った。
しかし、厄災の硬さは健在だ。二本の杭は厄災を屠ることは叶わなかった。
ただ絶大な質量攻撃は、小さくなったウラガノに対して大きな効力を発揮する。
ウラガノは膝を突き、肩で息をしており、明らかにダメージを負っている様子を見せた。奴の装甲は所々にひびが入っており、衝撃波が伝わっていることが分かる。
奴を拘束していた二人を巻き込むことで犠牲に確かな隙を生んだ。
「ナイス、フレンドリーショット!!」
そこに不老不死の天使が、俺のことを褒めながら現れる。
「ダーティ・デッド・モンスター。起動」
すぐさま再生を終わらせたメデュエルは、厄災の肩に爪を立てる。その右腕は太く、黒く、鱗に覆われ、指は鋭い6本に変貌していた。
傷から注入されるのは毒。
対象のために調整したオーダーメイドの毒は効果的かつ致命的に敵の全てを蝕んでいく。
因子の力に身を委ね、ヒトではなく化け物としての規格で能力を行使する特殊礼装『ダーティ・デッド・モンスター』。
「追いつめテル!このママ、畳みかケロォ!」
彼女は空いている左手を触手に変形して拘束する。
これが最後の詰め。最後の最後まで引き出してこの厄災を討伐する。
「
この厄災に外皮に対する攻撃は通じない。だから内部から破壊する。
俺はすぐに臓腑を燃やす火種を植え付けた。薪のサンプルは、メデュエルが爪を突き立てた時に採取した。
「邪魔だ。邪魔だ。失せろォ!」
ウラガノは風のバリアを発生させ、最後の抵抗を始める。
各々はそれらを耐えて攻撃を続けている。
「解析完了だ。分解開始」
そこに世界渡りの科学者が、厄災の頭部を鷲掴みにしながら体を再構成させていた。
そのまま頭部からの崩壊を実行している、
「まだ、まだ、まだまだまだ」
しかし、厄災に通じる唯一の外部からの攻撃は、あまり効果を成していない。いや、効果がないというよりは、再生することで
「早く仕留めろ。こいつ、体の組成が変化し始めている!!!!」
ラズが焦りで叫んでいる。
その間にでも何個も雪ノ下を作って厄災へ突き刺す。
だがそれでも、一押しが足りない。このままでは厄災は殺しきれない。
「オメガブレイド、
そこに、薪を新たに加える一撃が入った。
毒と焼却と再生される肉体でグツグツになった内部から、青い炎の刃が厄災へ致命の一撃を与えた。
ソフィアが無事かどうかを調べる必要はない。だって、助かっていることが確定しているから。大気圏に浮かんでいたクリーニアには理事会の世界を移動する装置がコックピット近くに脱出装置として取り付けられていた。あとは彼女のセンスと判断力を信じれば、無事であることは確信できる。
後は予備のクリーニアに乗り込んで援護を待つだけ。
彼女は雪ノ下の穴を用いて、あちらの世界から俺たちを援護している。
「燃焼条件を追加!アルバガスよ。厄災の臓腑と共に燃え尽きろ!」
俺はすぐに薪の対象を増やして最大火力で厄災を消し炭にした。
「────ママ」
厄災は心臓から、黒い灰がぽろぽろと舞っていく。
「はぁ、壊したかったなぁ」
厄災の最期の言葉は己の役割を果たせぬ悔恨だった。
「討伐完了だ。ありがとう。さて、みんな
そこに新たな一報が理事長から入る。
どうやらすぐに第2の厄災と戦うことになりそうだ。
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