【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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厄災大戦第二戦 無限増殖肉塊カタヴァルス

 

 

 

 我々は(むれ)である。

 生きていくために食べ物(エネルギー)が必要だ。

 だから、お前たちを、食べさせてくれ。

 

 

 

 都市から地表に繋がる道、その中腹辺りで封印は解かれた。

 怪物たちが目を覚ます。

 彼らはエネルギーを求めて仲間、土地、敵を圧倒的な物量で喰い尽す。

 第2の厄災、無尽捕食生物群カタヴァルス。

 

 750年の封印から目覚めて、本能のままに増殖し始めた。

 

 その風貌は二足歩行、もしくは四足歩行の深海ザメ。視力があるとは見えない虚ろな目。あまりに歪で不気味な歯。それらは爆発的な速度で分裂し、徐々に形を変えながらその数を増やしている。

 

 その様子を小高い丘から二人の男が、厄災の能力が事前に聞いていたものと同じかどうかを確認するために観察している。

 

『こちらアレクサンドル。厄災の復活を確認した。予定より早いが、作戦を開始する』

 

 その内の一人が、通信で現状を報告した後、傍に突き刺してあった槍を引き抜いた。

 

「来たぞ。マイケル。準備はいいか?」

 

 そして、ミカエルの因子を受け継いだ天使に覚悟を問いかける。

 

「ああ、バスター・ウェアウルフ起動」

 

 言葉を引き金にマイケルは鎧を着た。

 狼を模した紫の鎧は敵を叩き潰すための戦意を研ぎ澄まし作戦開始の合図を待つ。

 

 単性生殖で増えていく厄災に対して、最前線で偵察を行う二人は固唾を飲んでいた。果たしてこの数を相手にすることは出来るのだろうか。

 

「……にしても、数が多くないか?」

 

 1体が既に100万体になっている。これほどの増殖を見たことがなかったマイケルは冷汗をかいていた。この厄災もすぐさま対処しなければ取り返しのつかないことになるという予感があった。

 

「問題ナシ!化け物退治(・・・・・)はいつだってそうだ」

 

 元銀十字騎士団所属、アレクサンドル・アルベール。

 彼はヴァンパイアハーフにして、生粋の化け物狩りだ。

 

 彼は目の前のニヤリと不気味で不敵な笑みを浮かべている。まるで目の前の化け物たちを嘲り笑うように。

 

「ダーティ・デッド・モンスター起動」

 

 アレクサンドルは指示が出たらすぐに化け物たちを殺せるように、契約しているメデュエルの力を引き出す。その肉体が発揮できる出力は人間のものではなく化け物のものとなった。

 

『お二方、ごめんね。ちょっと遅れた』 

 

 最前線の二人に通信が入る。

 その声の主は理事会の長、カバナキのものだ。

 

『ちょっと待ってくれないかな?』

 

 彼らの背後の上空にクロノの穴が開き、そこから黒ずくめの男が降下する。

 

『私に手助けをさせてくれ』

 

 葬儀屋は戦いの口火を切るために現れた。

 これは事前に決められていた作戦の第一段階。

 右手の人差し指を厄災の発生源に向けて、そっと左手を添える。

 

「滅却火葬 獄炎(ごくえん)灼熱(しゃくねつ)大砲(たいほう)

 

 すぐさま恒星レベルの温度を有した光線が厄災達を襲った。

 既に数が千万を超えていた厄災は一矢によってその殆どが粉砕された。

 

『流石、カバさんだ』

 

 及ぼす被害の甚大さを眺めながら、彼らは戦闘へ入る。熱で溶ける大地へと足を踏み入れる。

 これはまだ、作戦の第二段階だ。

 増殖の厄災カタヴァルス。その厄介な能力は進化を伴う単性生殖を行う『分裂進化』である。

 

 理事長の役割は進化の方向性を変えること。

 あのまま進化の方向性を変えさせなければ、理事会とルクリの戦力合計5千名は10億もの敵と戦うこととなっていた。

 

 急激な刺激は進化をもたらす。焼かれたカタヴァルスは驚異的な耐熱性を得る方向へと進化する。また、その進化をするための分裂には時間を要する。

 

 複雑な体組織を生成するには時間がかかってしまうからだ。

 炭になる同胞を横目に、たまたま熱に耐性をもった個体が進化、分裂を行って、光線から生き残れる形態へと姿を変える。

 

 

 カバナキの一撃は厄災の進化の方向性を圧倒的な攻撃で誘導した。

 

 

 今の厄災カタヴァルスは、分裂進化の速度は比較的遅めに、そして熱に対して強い形態となった。

 そして、現れたのはカニ型の怪物。これが今の厄災の形だ。

 その姿を確認した瞬間、狼がその頭蓋を蹴り飛ばした。

 

『まだ固くない。やれるぞ!』

 

 マイケルはすぐさまその進化の結果を把握して、通信にて味方全員に報告した。

 

 すると、ぞろぞろと同じような形をした怪物が光線の中から現れる。

 

「怪物どもよ。悉く地に伏せろ」

 

 ぞろぞろと現れた厄災達は綺麗に脳天を貫かれて死亡する。

 

「生まれ落ちたことを後悔しろ」

 

 そして亡骸の傍らには、怪物と化した男が立っていた。

 

「死にゆく定めに安堵しろ」

 

 白い髪は黒へ戻り、赤い目は白く戻り、蝙蝠のような翅は縮んでなくなる。

 

「己の血が赤くなかったことを思い知れ」

 

 醜い五つ目は2つまで減って、竜人のような風貌はヒトのものへと戻っていった。

 これが彼の怪物としての姿。メデュエルと契約した際に得た化け物になる力。

 化け物狩り専門の組織銀十字騎士団の元エースは、化け物を殺すためならば、その身がどうなっても構わない狂人である。

 

『みんなー!熱では攻撃しないでね!』

 

 超高度から落下しながらも男は一切動揺することなく厄災の様子を伺っている。

 

『さて、今回は僕も出る!気合い入れていこう!』

 

 カバナキはむしろ喜々とした表情で自由落下している。

 

(やっぱり人の役に立てるのは、嬉しい!!)

 

 などと彼が考えていると、上空に再び黒い穴が開き、クリーニアが再び戦場に舞い戻った。

 

『了解。これより、敵勢力を粉砕する』

 

 クリーニアは制圧力に優れた武装へと切り替えている。

 両手両肩両足にはミサイルを発射する機構が、バックパックからは自動標準機能付きの小型ミサイルが積まれたポッドが6機展開された。

 

「こちらソフィア、目標はある程度分散して逃走を開始。進行ルートは予想通り、『兵士の方々』後づめをお願いします。ルートから逸れたモノは我々が処理します」

 

 弾薬の補給はクロノの世界でできるからこその短期決戦、殲滅力特化形態。

 システムは全ての標的に狙いを定める。

 

「発射」

 

 引き金を引くと同時に全弾が発射された。まだこの厄災は衝撃に対する進化をしていない。だからこそ、超高速で襲ってくる鉄の塊(ミサイル)は有効な攻撃手段であった。

 

 

 しかし、厄災の増殖は止まらない。

 

 

 漏れ出した厄災の数は既に10万を超え、それぞれが目的地へと動き出す。

 降り注ぐミサイルの雨の間を縫い、光速で攻撃し続けるラズ。因子を適度に解放し、怪物として厄災を蹂躙するメデュエル。濁流のように雪崩れ込む厄災と戦うルクリの兵士たち。それらをもってしても、増え続ける数には追い付かない。

 

「数は彼らが減らしてくれている。カマすぞ。アレク!」

 

「ああ、俺たちは奴の心臓部(・・・)を狙う!」

 

 最前線にいる二人は偵察以外にも、とある任務を任されていた。

 それはカタヴァルスの心臓部を発見、破壊することである。

 

(さて、あちらは頑張ってくれている。俺は───)

 

 ただ一人、理事会のメンバーがトリノの居城に戻っている者がいた。

 

(女王を叩き直す)

 

 最終防衛ラインで理事会のメンバーを援護しているクロノは、トリノの意志を試そうとしていた。

 

 

 

 

 

「うっ───」

 

 ウラガノが殲滅された直後、傷ついた右腕を抑えながら、トリノは悲しみに暮れていた。

 

「陛下!だから私は!」

 

 その様子を見た近衛兵長はすぐさま彼女の傍に駆け寄った。

 

「失敗しちゃった……」

 

「……だから言ったでしょう。こんなこと」

 

 彼女は背もたれに身を預けてゆっくりと深呼吸をする。

 

「…ちょっと、休憩させて」

 

「かしこまりました」

 

 彼女はそのまま、何もできずに第一の厄災であるウラガノが討伐されるまで、その様子を見守っていた。

 

「…………」

 

 そして討伐されたのを確認してから、彼女は目を閉じた。

 続けざまに入る、予定よりも早い第二の厄災が復活したという知らせ。

 

「それでは、女王陛下、私はこれで、護衛は代わりの者が務めます」

 

 彼女に一声かけたカバナキは返事を待たずに目の前に現れた穴に飛び込んだ。

 そしてその代わりに現れたのは、先ほどまでウラガノと戦っていた者たちだ。

 彼らは傷だらけの体でゆっくりと立ち上がる。

 

「……すいません。自分で、刺してください」

 

 各々に向けて玉座からの触手が伸びていたので、理事会のメンバーは言われた通りにそれぞれが触手を突き刺した。

 

 すると瞬く間に傷は回復して、すぐにクロノ以外のメンバーは戦場に戻っていった。

 

「女王陛下、折れたのは初めてか?」

 

 そして、残ったクロノは女王へ語り掛ける。

 

 

 

 

「貴様、何を言っているんだ?」

 

 俺の言葉に近衛兵長のセルサだけが反応していた。

 どうしてか、侍女と将帥は反応していない。

 

「近衛兵長、この場は俺に任せてもらおう」

 

「だから、何を言っているんだ貴様は、これは我々の問題だ。どうしてこう、介入してくる!?」

 

「どうしても何も知るか。俺がそういう存在だからだ」

 

「……あ?」

 

「役割を果たそうとするのなら、それを歓迎する。ただそれだけだ。俺は今、目の前のソレが該当するかどうか、それを試している」

 

 俺は厄災を討伐するために女王トリノが戦える精神状態なのかを調べる必要があるし、彼女が母親という役割を果たすのか、それとも果たさないのかを見届ける義務がある。

 

「なんて口を……!お前はぁ!陛下の何を!」

 

 彼はその勢いのまま俺の胸倉を掴む。

 対して俺は特に反応せずにトリノに向かって口を開く。

 

「貴方は、ここで投げ出すのか?それでもいいのか?果たさなくていいのか?」

 

 

 

 

(なんで、そんなに好き勝手に言えるんだろう?)

 

 トリノはこの星で母親の役割を背負っている。

 そして、母がいるのなら父がいる。

 父親の役割を持つ者は、彼女の兄だった。

 

(そういえば、兄さんも好き勝手いう人だったな……)

 

 遥か昔、兄妹は目を覚ました。目を覚ましたのはこの星の最奥、第一の厄災が眠っていた場所だ。そこにベッドのように置かれた2基のポットが起動と同時に、二人は目を覚ました。覚えていることはただ二つ。それぞれの名前、与えられた役割だけだった。

 

 そこから二人は誰からも教えられることもなく生命の創造を始めた。

 

(そう、あの時は無意識に、思うがままに役割を与えていたな)

 

 兄が素材を集め、母が役割と命を与える。

 魂の干渉によってそれらは行われ、結果としてこの星で一番繁栄したのは石人間だった。

 理由は簡単だ。数が多かったから。彼女らの周りには石しかなかった。だから、石を生物にしたし、石に食べ物としての役割を与えた。

 そうして彼らは与えられた役割のまま家族()を作り上げた。

 

 

 家族づくりは彼らにとってこれ以上なく楽しかった。

 

 

 役割を与えたモノが動き出した時は嬉しかった。

 生命を子供たちと意思疎通ができた時には嬉しすぎて泣いてしまった。

 彼らとの語らい、彼らの成長、彼らの歩む人生が楽しみで、毎日が嬉しかった。

 勿論、苦難はあった。子育てには山のような苦難がある。

 

(一緒に住むと、なんか役割って感じじゃなくなっていって……)

 

 それでも、楽しみがその苦しさよりも勝ってしまう。

 

 

 

 

 そして千年前。兄は行方不明となった。

 原因は一切不明。次の命を与える素材を探しに行った彼は、護衛諸共そのまま行方不明になってしまった。

 その直後に現れたのが、カタヴァルス。トリノが与えた覚えのない生命が、子供たちを貪り始めたのだ。

 彼女は子供たちと共に戦い、カタヴァルスの本体の魂を改ざんすることで封じ込めることが出来た。

 代償はひどく大きかった。当時の生命体の8割は死亡し、本体以外の機能が停止した方ヴァルスの処理にも時間がかかった。

 

 

(そう、あの時)

 

 

 彼女は決心をした。

 

 不安と悲鳴と挫折を経てこんな思いをしないために、子供たちを守るためにこの身を捧げると。

 

 だが、守るべきはずの子供は死んでしまった。

 

「挫折が、諦める理由になるのか?」

 

 無礼な男の言葉が響く、頭にくるのは、その男の言葉自体は正しいことだ。

 

(ならないよ。そう、ならないんだ)

 

 ノンデリカシーな男の声が聞こえる。

 そうやって選択を強要してくるのは大変卑怯だと思う。

 冷静に考えれば、私には立ち止まっている時間はない。

 たった今カタヴァルスという脅威と衝突している。それに子供たちは立ち向かっている。

 私の子供はこの国、都市だ。彼らを守らなきゃ。

 

 

 

 

「……ならない」

 

「陛下!」

 

 セルサは女王の玉座まで近寄って石碑に繋がるコードを抜きながら彼女を制止した。

 

「陛下、貴方は休むべきなんです。そんなに自分を追いつめていたら、いつか壊れてしまう。その前に休息を入れるべきだ。後は、私が何とかしますから」

 

「……ううん。違うよ。私は君たちが親離れするまで、いやしないで欲しいけど……」

 

 彼女は『余計なことを言ったな』と言いたげな顔をしてから真剣な表情に戻る。

 

「親離れをするまで、守らなくちゃ。だから、私が出る(・・・・)

 

 彼女が出陣する。そんな言葉を聞いたセルサは無理矢理笑顔を作っていた。

 

「……そうですか。陛下がそこまで言うのなら」

 

「ごめん。気を遣わせちゃったね。だから、あとでゆっくり話そう」

 

 表情も作れなくなって俯くセルサに抱き着いた女王は、彼の頭を撫でながら落ち着かせようとしていた。

 

「……頼みます」

 

 セルサは目を閉じて苦し紛れに言葉を紡ぐ。

 

「それにしても、好き勝手言ってくれるよね。神様?だっけ」

 

 陛下は近衛兵長の頭を撫でながら俺にしたり顔を向ける。

 

「ああ、そうだ。悪いが言わせてもらった。こういった時は、否が応でも選択を迫られる。感謝します。女王陛下。貴方の決心はこの世界を救う」

 

「そう?やった。なら、早く子供たちを助けないとね」

 

 彼女は「ごめんね」と言ってからセルサから手を離し、椅子から立ち上がった。

 

『全隊に通達。カタヴァルスは私が永久に封印します』

 

 女王は自身に溢れる表情で、自ら戦いの場に立つことを表明した。

 





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