【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
駆けだしたのは俺と理事長だった。
この男は今すぐ排除しなければ、何か悪いことが起きる。
どうしてだとか、どうやってだとか、そんな無駄な思考をせずに飛び出せるのは、この二人だけだった。
「滅却火葬」
「皇竜・
俺は俺の中でも最速の攻撃を選択する。
ラズでさえ捉えきれない神速の抜刀は、洗練された機動と速度で敵の首へ一閃。
しかし、俺の最速の一撃は読まれているかのように受け止められた。
「悔恨の糸」
その背後でカバナキは全方位攻撃を仕掛ける。
指から放たれた何十もの炎の光線は蜘蛛の巣のように広がって男へと突き刺さる。
「それは」
ただ、その攻撃さえ、回避されていた。
有り得ない技術で。
奴の体の様々な場所には見覚えしかない黒い穴が開いている。
「そうだ。
俺が問う前に奴はその力の正体を語った。
その顔は期待に輝いていて、どうやら俺にネガティヴになってほしいようだった。
「すると思ったのか?ライトニング・ウリエル」
白い炎を使って俺を掴んでいる腕を燃やした。
絶望などしない。
むしろ好都合だ。俺の力は俺が一番理解している。
ならばどうすれば効率的な殺しが出来るのかも自ずと導き出せる。
「……チッ、つまらんな」
奴は俺の腕を振り払って距離を取る。
「エンジェル・アンカー」
最速の攻撃が防がれたのなら、攻め手を変える。
「御霊土葬
波状攻撃だ。
玉座の間の中にいくつもの大穴が生まれる。
一本の杭があらゆる穴を通って移動を制限する。
さらに足元には、ベージュの地面が広がり、足を着ける者の全てを固定した。
「まだ、世界の破壊と創造を企んでいるんだな?」
その限定空間下でのみ動けるカバナキは像のように固まった男へと近づいていく。
「ああ、その通り」
「これも全部お前の仕業なんだな」
「その通り」
「また、殺すけどいいかね?サタナエル」
「OK。やれるものならやってみろ……そろそろ、俺の移動の軌跡を調べ上げる頃だな」
サタナエルと呼ばれた男は、カバナキのどす黒い殺気を無表情に無表情で返しながら、その思惑を当てて見せる。
「そうだな」
「それでは、See you soon。せいぜい足掻けよ。今までは前戯、これからが本番だ」
男はいい加減なことを言ってから、世界渡りの穴を使って消えていく。
その隙を逃すまいと、俺は玉座の間の外、城の外壁辺りに出していた狂い遊星から銃弾を発射した。しかしその攻撃も読まれている。
弾道の先に穴を設置したことで攻撃を回避している。
そしてすぐに穴はサタナエルを覆い、消える頃には奴の姿もなくなっていた。
(未来を見る力、があるな。なら今すぐに分析を始めろ────)
俺は今までのやり取りで、奴が未来視のような能力を持っていることを確信した。
すぐに分析を開始してその条件や見える広さについて考察していく。
対して理事長は御霊土葬を解き、深く深呼吸をしてから耳にはめている通信機に手をかける。
『理事会全員に伝達。サタナエルが蘇った。これより、奴を討伐する作戦会議を行う。全員玉座の間に集まってくれ。ソフィア、ウラガノはどうなっているのかな?』
『こちらソフィア、ウラガノ、活動を停止中です。生体反応はありませんが、厄災レーダーは反応しています』
空からウラガノを監視していたソフィアは正確に様子を報告する。
『分かった。通信は繋げておくからそのまま監視をしていてくれ』
『了解』
「理事長。サタナエルが生きていたのか!?」
ウラガノは動いていないことが確認できると、ラズが玉座の間に一番に戻ってきた。
「そうだね……。ま、殺し損ねた私のへまだ。私が挽回させてもらうよ」
カバナキは先ほどの乱れた様子とは打って変わり、いつも通りの冷静な顔の裏で静かに殺意を研いでいた。
そして、1分以内にこの作戦の主要メンバー全員が玉座の間に集まることとなる。
「…………女王陛下心中お察しします」
玉座の間に深く座り天を仰ぐトリノに対して、カバナキは強引に会議を始めようとしていた。
「どういう、ことなんですか……?………サタナエル、って誰なんですか?……私たちの知っていたセルサは何だったんですか……?」
彼女の苦しみながら絞り出す問いに、カバナキは平然と答えた。
「まず、サタナエルは多次元宇宙安全保障理事会の『元』副理事長です。そして、セルサですが、彼はサタナエルに乗っ取られたのでしょう」
「……それじゃあ、私はどうして気づかなかったんですか?そんなの、ありえないでしょう」
「それはそういう未来を奴が選んだからです。奴は未来視が使えます」
その話を聞いて、俺はいまいちピンとこなかった。
未来視ができることと、元のセルサを乗っ取れることは繋がらないのだ。それにどうしてか俺の世界渡りが使えるということについてもいまいち繋がらない。
「奴は自分がもし『その技術を知ることが出来たら』といったIFを観測することでその技能を使うことが出来る」
ここで、奴の世界渡りについてようやく理解できた。つまり俺の世界渡り、その原理を未来視により知ることで再現可能となったということか。
(待てよ。それって、この世の化学現象のほぼ全てを、未来を見て再現できるってことじゃ……)
「奴はこの星の技術である魂の改造を習得することで顔と魂を変えて、未来を知ることで不自然な行動せずに過ごしてきたのです」
そうか、魂の改造自体はこの星の技術だ。やり方さえ分かれば実行できる。
ただ、理論だけを聞いて実行できる人間はそうそういない。サタナエルとやらは、相当なセンスの持ち主らしい。
「なる…………ほど…………。はぁ?」
女王は呑み込めていない様子だ。
無理もない。
だがこれはチャンスだ。空気の読めない発言だとは自負しているが、俺には聞かなくてはならないことがある。
「失礼。そいつの目的について、教えてくれませんか?」
俺が聞いておきたいのはサタナエルについてだ。
未来の見える奴がどんな未来を夢見て取捨選択をしているのかを知れば、こちらもそれに対して妨害することが出来る。
「目的は世界の破壊と再構築だ。いわば、やり直しだな。その理由、奴の辿った過去は……長くなる。この戦いが終わってからでいいか?」
「……了解でーす」
「私は……」
俺が同意していると、トリノは独り言を呟いた。
「私はこの都市を守ることに専念します。それが私のやるべきことですから」
言い聞かせるように、奮い立たせるように、彼女の言葉は次第に力強くなっていた。
「それに、今度こそ私の手でウラガノを止めるチャンスもできましたし。貴方たちにはまず、そのサタナエルとやらをここに連れてきてください」
「なんて、悠長に作戦会議でもしているんだろうな?」
ガラクタが散乱している世界で、サタナエルがこれからのために準備を続けていた。
彼にも、彼だけが使える星がある。といっても、彼自身の計画のために原住民を殺し尽くして手に入れた星だが。
「さぁて、あれだけ情報を対策されると面倒だ。先手を打とうか」
彼の辺りには様々な世界の物質が散乱している。一度振れば他者の傷を治す石、ぴちぴちと蠢く世界の機械人形の心臓、星を喰らう狼の牙。生命体の歯だけを溶かすウイルスの入った試験管。それらが、奇跡的に永劫崩れないように積まれているのだ。
そして、彼の手にはカタヴァルスと同じ紫の肉塊が握られている。
「まだ暴れ足りないだろう?カタヴァルス」
堕天した男は足元に現れた黒い穴を開けてそれを手放した。
『ウラガノ、カタヴァルス。両者の復活を確認。来ます!』
女王が決意を表明した直後、討たれたはずの二体の厄災が再び姿を現した。
それをいち早く報告したのは見張っていたソフィアだ。
「アレは、いわば母艦だ」
サタナエルはウラガノについてぼそぼそと独り言を呟いている。
「この星の文明圏はひどく窮屈だ。役割を決めてそれを果たすことを是とし、お互いを監視し合っている」
「なんでかって、それは
「生き残った人類が欲を必要以上に生み出さないために役割を定義したクローン人間を作り上げ、魂を改変する技術と共に母艦に乗って飛ばしたわけだ」
「ウラガノの本来の名前は「惑星捕食母艦」。設計思想は確実に次の星に命を届けて、届け終わり次第朽ち果てること。当然、武装と他の存在を攻撃するAIは搭載してある。母艦の道のりだが、最後の最後に失敗した。他の星に攻撃されたんだ。そこに兵士としての役割が乗っかり、化学反応が起きた」
「どこまで聞いてたかな?カバナキ」
彼の星に一人の男が降り立つ。
「そうだな惑星捕食母艦のとこからだ」
「ほう、ならその未来か……いや、嘘の可能性もあるな。私の罠は発動せず、分断は失敗し仲間がどこかに潜んでいるという未来もあるにはある。さて、どっちの未来なんだろうな。この場所に立つお前は」
サタナエルは反応するのではなく、自身の思考をそのまま口に出している。
「どちらでもいいだろう?お前は死ぬんだから」
この言葉で、サタナエルはピクリと一瞬だけ動きと止めた。
今の彼にとって死ぬことは何としても避けなければならないエンディングだ。
「いいや、結末は一つじゃない。どんな未来も等しく存在する。俺が計画を果たす未来さえもな」
(やっと、こっちを向いたね)
「そうかもしれない。でも、そんな未来は限りなく細いものだろう?辿り着くには地獄のような困難が待ち受けている筈さ。君のあまりにも軟弱な意思では絶対に掴めない」
カバナキはサタナエルがこちらに注意を向けたと判断すると、重ね重ね煽りを入れていく。
「なに、道筋は分かっている。その通りに行けばすぐに着くものだ」
サタナエルの両手に黒い穴が現れて消えると、2丁のショットガンが握られていた。
「さて、
天使の背中には4対の翼が現れる。その全ては黒く染まっていた。
今まで多くの未来を見てきた。
星の滅びと人の醜さを見た。
文明の繁栄と人の美しさを見た。
儚く強い
どれだけ見ても、この目には君しか映らない。
私は木漏れ日を浴びながら目を覚ました。
それ以前の記憶はない。
名前も、ここにいる理由も思い出せない。
だからそれ以降の記憶が私の全てだった。
ひとまず、起き上がって辺りを見渡す。
立ち上がって足元の雑草を踏みしめる。
ひたすら真っ直ぐ歩いていくと、透明な壁にぶつかった。
なんだろう、これは。
次はその透明な壁を触ってみる。硬い。叩くと音がする。
手触りは、何もない。べたべたとかはしていない。
壊せるだろうかなんて考えた瞬間、その先、壊した後の未来が見えた。
「……なんだ。これは」
幾千もの映像が同時に脳みそに映し出された。あらゆる行動の結果が濁流のように雪崩れ込んできた。知らない人間たちの笑顔と失望、知らない都市の繁栄と破滅。その全ての分岐点が、観測できる。
膝から崩れ落ちてはち切れそうな頭を押さえつける。
(なんだ。なんなんだこれは。止まれ、止まってくれ!)
情報を認識する前に新しい情報が押し寄せてくる。
無理矢理頭の中を拡張している感覚だ。
物体一つを視認するとそこからその物体が迎える幾万の結末が見える。
これは何とも表現しい難い嫌悪感だ。
息継ぎをする暇がない。たった一瞬の安堵も許さない苦しみは、ただひたすらに長く続いた。
何分、苦しんだのかは分からない。
もしかしたら数時間かは苦しんだかもしれない。
目を閉じうずくまり、情報の処理が終わったころにようやく一息つくことが出来た。
「ハァ─────────、ハァ─────────、ハァ────────」
息をすることに専念しよう。
目を閉じたまま、ひたすら肺に酸素を取り込む。
何度呼吸してもえづいてしまって十分な酸素を取り込めないが、本能は『やっとできた呼吸』だからと止めてはくれない。
しばらくして十分で普通の呼吸が出来るようになった頃、『これは私の力らしい』という事実を呑み込めてきた。
脳が慣れてきたのだ。生まれたばかりの小鹿が一度歩けるようになれば、後は徐々に四足歩行に慣れていくように。
(小鹿ってなんだ?ああ、その未来で出会う動物か)
意味不明な単語を発言してから、その意味を理解した。
なんとも不思議な感覚だ。つまり私は、これから起こる全ての正解を知っているということだろう。
例えばこの透明な壁だが、私の力で壊すことは可能である。しかし拳が傷ついてしまうらしい。
そして、このまま壊すと厄介なことになる。訳の分からない、いや、多次元宇宙安全保障理事会という奴らに殺されてしまう。私のことを怪しげに見る女性からそのような未来が見えた。
だから、ここは待つべきだ。
ただ、安心できない。待ったところで私自身の生き残る確率は低いままだ。100%が90%になっただけと言えるだろう。どうやらそれは理事会側の視点に立てば分かることらしい。だが、今の見える未来では私は知る由もない。
待っている間、私はつまらなさを感じた。私はこれからの全てを否応なく知ってしまう。意識を集中させることである程度鮮明さを操作できそうだが、意識はせずとも大まかなものは見えてしまえる。
今の私には何もない。残虐になりたいだとか、有名になりたいだとか、他者の助けになりたいだとか、そういったビジョンがないのだ。善性も悪性も身に着ける前に、全てを知った者はただ、呆然としてしまうものなのだ。
ただ、取り敢えず生きておこうか。
「おはよ!」
5分後くらいに金髪の女が入ってきた。仕組みは分からない。彼女が透明な壁の前に立つと、透明な壁はひとりで動いて、ヒト3人ほどが並んで入れるスペースを作り出していた。いや、検索によるとこれは自動ドアと呼ばれるものらしい。
「早速だけど、君は誰?どこから来たの?」
彼女は俺と目を合わせて優しく、子供に語り掛けるような音色で笑顔を向ける。
その赤い瞳に魅入られて、私は指一つ動かせない。まさに、一目惚れだった。
脳みそから熱い血液が体中を回る感覚。
彼女を見た途端、私と彼女が過ごす生活の全てを理解した。
この女性は、聖人だ。
辛うじて首を横に振って自分の状況を説明する。
「分かんないか……それは、大変だね……」
この感情はなんだ?
目まぐるしく迸る激情に名前はあるのか?
未来の枝の全てを探った結果、その思いを愛だと知った。
「私はウリエル!よろしくね!」
その輝かしい笑顔と死に顔が重なった。
なんともまぁ、最悪な気分だった。
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