【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
「
カバナキはまずフィールドを作り替えた。
ここはサタナエルの陣地だ。彼がどんな罠を用意しているか分からない。だからその土地を書き換えて罠を破壊する必要がある。
この技は先ほどウラガノの風の大砲を防いだ技であるが、本来の使い方は違ったものだ。
作り上げられた墳墓の目的は、去った神々を祭り上げ、残った神に全てを託すこと。
(仕掛けて来ないな)
彼らの足元から土が隆起して様々な形へと変化する。牙は呑み込まれ柱となり、地雷は土が覆って破壊されて、黒い瘴気が毒素を呑み込む。彼らの立つ場所は最早生者の生きる場所ではなく、死者の魂が漂う冷たさと静けさに包まれた墓場だった。
サタナエルは彼の星が神殿に変わる様子をただ眺めている。
「そういえばさ、君の目的は前と変わらないってことでいいんだよね?それがウリエルの想いも投げ出すことだとしても」
ただ立っているサタナエルに対してカバナキは言葉を投げかけた。
「ああ、それしか見えていないんだよ。私は!」
神殿が完成するその直前、サタナエルは飛び出した。
神殿の機能が十全に発揮される前に、カバナキは作業を中断してそれに対応する。
「神様も大変だな。背負うことばかりで」
サタナエルの戦法は近接戦だった。ショットガンは全自動でリロードされながら弾の絨毯攻撃を至近距離で行っている。
「
これはカバナキ対策の戦法であった。
彼は大規模な技を使う。そのどれもが素早くキレのあるものだが、それは『大規模な攻撃』の中での話だ。滅却火葬も土葬も、どんな攻撃にも必ず少しだけのタメや準備がある。
その少しだけの隙は、接近戦の前では、確固たる隙となる。
「それ、重いだろう?」
挑発と共に弾幕を張り続けて敵を防戦一方にする。
「重いな。だが」
それら全てを素手でさばくカバナキは理路整然と返していく。
「背負わされていない。俺が背負ったものだ。最後まで背負い、託す義務がある」
一切言い淀まない確固たる意志を見て、サタナエルは心底がっかりしていた。
「うんざりだよ」
この目はあの時と、初めて会った時と変わらない。
「彼がその、突然牡牛の丘に現れた男か?」
白い部屋、白い椅子、白衣を着たウリエル、白い照明、白い実験器具たち、そして目の前には全身黒い礼服を着用している男。
「そうだよ。名前、分かんないんだって」
ウリエルが私を紹介している間に、私と目の前の男は睨み合っていた。
奴が私のことをどう思っているのかは正確には分からない。ただ、私にとって奴は気に食わない人間だし、奴にとっても気に食わなそうなのは分かっていた。
「言葉は、通じているんだったね。私はカバナキ・タケルだ。よろしく」
彼を一目見て、名乗った名前が偽名であることと、その原因が理解できた。彼と仲良くなった、非常に稀有な未来で彼自身から教えてもらったからだ。
「そうか。よろしく」
差し伸べられた手を握る。奴の人生を大層憐れみながら。
「名前はどうする?一応、彼因子関係なんだろう?」
因子とはなんだ?検索してみよう。
目の前の男の未来を辿って因子について語っている場面を探し当てた。
するとついでに、この因子とやらの正体について知ることのできる未来を探し当てた。
なるほどこの世界は、異世界から超能力のかけらが移動してきている世界なのか。
それが適合できる人間に移動して、この世界の理ではない能力を発揮させている。
どうやら、私もその因子と同じく別の世界から来た人間であるらしい。どうして記憶が無くなっているのかは……、なるほど、事故か。さらについでに記憶喪失前の私を見てみたが、つまらん人間だな。何がしたかったんだろうか。こんなものすぐに忘れてしまおう。
「確かにそうだな……」
さて、今現在では私の名前についての話だ。ここは勝手に自称しても問題はない。
「サタナエル」
私は未来で付けられる名前をたった今の段階で名乗った。これで私の能力をスムーズに説明できる。
「「……え?」」
「その呼び方が私には丁度いい」
困惑しているウリエルに対して、カバナキという男はとんでもない思考速度で私についてとある推察を立てた。
この男に疑われたところで私の人生に支障はない。
「そのおかしいほど鋭い勘。どんな視点でモノを見てるんだ?」
(言っておいた方が怪しまれない)
そもそも私がここに来た時点で、彼にはかなり疑われる運命にある。
「そうだな。俺には未来が見える」
未来が見えるという言葉に輝いていくウリエルに対して、奴の目は更に鋭くなっていた。
そうだ。この男は真の底で全てを信用していない。己でさえも、だ。
あらゆることを守るためにあらゆるものを信じない、と選択した男には、つけ入るよりも適度に疑われた方が殺される可能性が低くなる。『警戒慣れ』をさせておいた方がいい。もし、付け入れられていると感じられたらこちらの終わりだ。
喋り方も真面目な感じではなく、多少軽薄、粗暴な所があると良さそうだ。一人称は俺でいこう。
そういった軽い性格で巣がしている中で真面目さや真剣さを漂わせたると、『人間味がある』と解釈されて殺される可能性が少なくなる。怪しい奴が一切無口で真面目でいると、カバナキにはかなり疑われてしまう。
「……なるほど、この後、君に付けられる名前を見た、ということだね」
「ああ、まさに、その通り。俺の能力は分かってもらえたかな?」
「……」
俺の能力について知ったカバナキは、俯き腕を組み考え事を始めた。
「あの、カバ君。顔が怖い」
「怖くもなるよぉ。その力が本当だとすると、彼の言葉、全てが胡散臭く見えるからね」
ウリエルに話しかけられると、カバナキはさっきまでの真剣な表情が嘘であるかのようにほほ笑んだ。
「そうやって他人を信用しないの、良くないと思うなー」
当たりの人間の未来を観測していると、私の今置かれている状況はかなり絶望的なものではあるが、
「失敬失敬。でも彼、怪しいだろう?だからね。ここではっきりさせておきたいんだけど、君の目的を教えてくれないかな?」
「俺の目的か……」
未来を検索してみる。ここは大事な局面未来の二人から見た私を観測すれば、私自身の未来も疑似的に観測することが出来る。
すると、なんと、まぁ、重ったるい。
この組織が様々な世界を守るという性質を持っている以上、苦難という壁が多すぎるのだ。私が何の能力もない一般人なら楽にここから抜けられたのだろうが、未来の見える能力を持っていることを知られるとこの組織と離れられないこと、能力を隠してもいずれバレてしまうこと、この二つのせいで離脱は絶望的だ。
だから、『特に目標がなく』、『死にたくない』私は生き残る可能性が高い未来を選ぶしかない。
「教えてくれ」
私は私の主導権をあちらに手放した。
「お前たちが俺に目的を教えてくれないか?俺には未来の全てが見えている。だが過去はない。積み上げてきたものがないんだ」
積極的に敵地に飛び込んでいては死んでしまう。そうはなりたくない。生きる理由は特にはないが死ぬ理由もない。だから死にたくない。
そんな思いで言葉を回す。感動的な表現をしているが、その実は虚無である。ただ茫然と生きていたいという思いから出た言葉である。自分に過去がないことはどうでもいい。自分に、こいつらに、世界に未来があることもどうでもいい。
「だから教えて欲しい。俺の生きる意味を」
それから、私は理事会のメンバーとして働くことになった。
私にも宿っていた因子がどのように未来を観測しているのかをレーダーを完成させた。滅亡の危機に晒されている者たちに生き残る未来を提供し、何度か世界を救った。悩む者たちの求めにより未来提供し、解決してやった。
何かをしていく中で私には不合理なモノが生まれていた。
それは私が他人のために何かをしたがっているということだ。
未来もなんでもどうでもいい。ただ私が生きていればいいと思っていた私だが、何かを他人にする度に褒められていると、それが肯定感に繋がってくる。
空っぽな胸が少しずつではあるが満たされていく。
そこに私は名前を付けられていない。
愛は簡単に理解することが出来たのに。
「え、それって、嬉しいってことでしょ」
朝食時、ウリエルに相談すると、彼女は嬉しそうにしていた。
「どう、サタナエルはその時、嬉しかった?」
「そうなのか?」
明るく朝日が差し込む食堂で、向かいの席でサンドイッチを小さな口で食べる彼女を見る。
「確かに、何か目標が決まってなきゃいけない、っていう訳じゃないけど……あると楽しいじゃん」
彼女はそうだよねとでも言いたげな表情でこちらを見ている。そんな彼女を見ていると空虚な器がどんな時よりも満たされる。
こんなに心が動く原因は憐憫だ。
ウリエルという女性は儚く美しい。
誰にも明るく笑顔を振りまき、出自が怪しい俺を疑いもしない純真さを持ちながら、根気強く暴走した人工因子をなだめる強さを持っている。しかし、このままだとほとんどの確率で死ぬ。
理不尽の前に殺されてしまうのだ。そうして因子は次の者に託されて彼女は過去の礎の一つとなる。
そんなの、納得できない。
俺を満たしてくれる人間が簡単に死ぬなんて、ありえない。
「そうだな。やりたいことがある、と言うのは、いいのかもしれない」
この女はかなり高い確率で死ぬ。このままでは俺は少ししか満たされない。
俺はやっと情緒を手に入れたんだ。だから、この器を満たすまで彼女を生かし続けよう。
などと決意をしたのはいいものの、結果は散々だった。
「ははは、ごめんね……」
私の腕の中で彼女は腹から臓物を漏らしながら、笑いながら謝っていた。
「五体満足の時点で、かなり、上出来かな?……あ、お腹ないや」
辺りの者たちは涙を流し、手遅れとなったウリエルが死にゆく様を眺めている。ただ、カバナキだけ表情を崩していなかった。
「……いいや、違うな。上出来じゃない」
私の周りにいる理事会のメンバーの未来から、私の歩む『彼女のいない未来』を覗き見る。
大層、つまらない。
「ねぇ、サタナエル。お願いがあるんだ」
この器は少しだけ満たされて、満ち足りない充足感を感じながら、誰かに因子を託して死ぬ。ただ私は未来を提供する役割を果たすだけのシステムと化する。
「私の代わりに、理事会を、みんなを、守って……」
彼女の言葉なんて、意思なんてどうでもいい。
私の行く未来を豊かにするために。
やり直そう。やり直さなきゃ。
だって彼女のいない世界はつまらない。
「退屈ならば、色を与えようカタストロフ・ルーレット!」
ショットガン、黒い穴、足技、それらを用いて近接戦を行うサタナエルの頭上に輪が現れる。
しかしそれはただの輪ではない。円盤には等間隔に6つの球体が付いている。それぞれの球体には暗黒、日の出、昼間、夕方、夜、静寂の紋章が記されていた。
これは彼が理事会最強の男、カバナキに勝つために用意した最終兵器だ。
「なんでも楽しめるようにならなくてはねぇ」
カバナキは名称、形状からその兵器がどんなものかを推察しながら、再び挑発する。
「……楽しめた
「…………」
一瞬、サタナエルの動きが鈍った隙を見逃さなかったカバナキは、そのまま彼を蹴り飛ばして神殿が完成させる。
「……今、楽しんでいる!」
サタナエルは苦し紛れにその挑発に返すと同時に、ルーレットは止まる。
夜の紋章は輝き、封じられた厄災が漏れ始める。
「ルーレット 5番 『ミッドナイト・デリート』」
カバナキは輪の特長を推察しており、神殿を完成させた直後に飛び出していた。
(アレ、厄介だね。恐らく、それぞれの玉に何かが封じてあって、ルーレットの結果に応じて効果を発動するものだろう。本来、そのランダム性はデメリットだが、奴は未来を読めるせいでそのデメリットを無効化している)
これではルーレットが回る度に後手に回ってしまう。
理不尽との戦いにおいて後手とは悪手。
それを理解していたカバナキはルーレットの効果発動前に決着をつけるため駆けだしていた。
しかし、恐ろしい夜は瞬きする間に訪れる。
神殿の光は消えてなくなり、カバナキの視界は黒く染まった。
(視界が奪われた。そういう厄災だな)
先手は取られた。
ならば理不尽で状況をひっくり返す。そのちゃぶ台返しのため、この理不尽を今は耐えなければならない。
「樹葬 魂の種」
彼のうなじから一本の植物が生える。
彼の目が見ずとも、サタナエルの気配は分かっていた。彼は元々死を司っていたので生の気配には恐ろしいほどに敏感だったのだ。
だからこそわかる。まだ、サタナエルは攻撃態勢に入っていない。
ならばこちらから攻めようと踏み込んだ途端、右腕が消失した。
(気配がない。厄災の能力か)
「火葬 灼熱大砲」
対して左手からビームを出してそのまま横なぎにする。
超高熱の熱線が鞭のようにしなりながら襲い掛かる。
「まず、その輪を破壊する」
盲目になったとしてもカバナキは熱線を避けるサタナエルの位置を認知して呼びかける。
「私を殺した方が早いと追うけどなー!」
「悔食鳥葬 死二歯実」
盲目になったとしても動きのキレが地獄の小鳥が群れを成して
「アクセラレートシステム起動!」
黒い穴が胸に現れ消えると、彼自身の速度を10倍にする兵器が起動する。
「
そして始めるカウントダウンこれはこの兵器の制限時間だ。
「
10倍の速度になったサタナエルは片腕のカバナキに対して容赦なく速度と弾幕を使って襲いかかる。
「
カバナキの光線はもう追いつかない。
ショットガンは、徐々に硬いカバナキの肉を削っていく。
焦りとダメージが徐々に蓄積されていく中、彼は待ちを選択した。
(早く奴を倒して、世界の破壊と創造の方法を知らなければ)
「ルーレット再開!」
(回転も速くなっている)
猛攻の中、再びルーレットが回り始める。すると、カバナキの視力は復活した。
(ルーレットの厄災は併用できない、さらに加速の影響はルーレットも受ける……か!)
「4番!『夕焼けの怪獣』」
加速装置のカウントダウンが終わる前に厄災は覚醒した。
すると、瞬く間にカバナキは姿が消えた。
『夕焼けの怪獣』、元々いた世界では『ソワリザウルス』とも呼ばれていた。とは夕焼けにのみ姿を現す人呑みの怪獣。
「
サタナエルは立ち止まり、様子を伺う。
カウントダウンは終わる。
「滅却火葬
怪獣は光線で体の内を焼かれて死に絶える。
透明な化け物の紫の血を浴びて一人の男が焦げた肉の穴から現れた。
既に右腕は元に戻っていた。
「理不尽がぁ!ルーレット再開!」
(ああ、なんだ。この程度か)
サタナエルはルーレットを回しながらカバナキへと飛び掛かる。
その必死の形相をただ見つめるカバナキは怖気ず、相手の戦力を分析していた。加速装置にはインターバルがある、と推察しながら。
改めて考えていた。
自身を殺そうと画策した策の全ては、理不尽などではなかった。
「そのルーレット、何度でも回してみろ」
近接攻撃は全て見切り、隙を突いて蹴とばす。
「全て轢き潰してやろう」
「1番!虚弱の朝日」
ルーレットが止まると、彼の背後には小さい青い恒星が現れた。
青い光を浴びたカバナキは明らかに力が鈍くなっているのを感じていた。
この厄災は星一つを衰弱死させる魔性の光を放つ。
光を浴びた生命体の脳に当たる箇所へ強制的に作用して、感情と筋肉を鈍らせてしまう。
生命体の動きを止めて緩やかに殺す厄災それが『虚弱の陽射し』。
その光は何とかカバナキの動きを鈍らせ、サタナエル側がやや優勢、くらいの力関係を実現して見せた。
「その種、欠けた肉体を埋める技だろう?ただ、馴染むのに時間がかかる。そしてこの光は浴びた者の力を弱める。私は大丈夫だよ。無効化する薬を飲んでいるから、しかし、それなしに本来の力など出せるのかな?」
何度か銃弾を受けながらも攻撃を避け、さばき続けるカバナキに対して元天使は挑発を重ねていく。
「できるぞ?」
ただ、その程度では彼は怯まない。
「アクセラレートシステム 再起動!」
だからこそダメ押しの加速装置。
既にクールタイムは終了している。
ただでさえやや劣勢の戦況は圧倒的な速度によって崩される。
はずだった。
心臓を貫かれたのはサタナエル。
「神殿よ。神意を見せる時だ」
ここでカバナキは、あの星における古の神は、神殿の本髄を引き出し始めた。
「終わりだ……」
心臓を貫かれた男は血を吐き出しながら、絶望を口にした・
この神殿にため込まれた権能が残された神に注がれていく。
陽射しによる弱体化などものしない程に力を注ぎこまれたカバナキは、赤く染まる右腕を引き抜いた。
「なんて!ルーレット起動!」
ただ、心臓を抜かれただけでこの男は死なない。
加速時間内に距離を取ってルーレットは回り始めて止まり、次の厄災が起動する。
「1番 試作ブラックホール34号!!!」
頭上に現れる光さえも呑み込む、
彼らの頭上に現れた黒い球体は万物を呑み込む自然現象を作り上げる。
サタナエルの心臓は既に再生を果たしており五体満足の状態に戻っていた。
「魂の改造かな、便利だね」
「他人の心配をしているつもりか?」
すぐにサタナエルは穴に入って別の世界へと避難していく。
「さらば、大嫌いだったよ」
最後に言葉を残してこの世界から消えていった。
「……さて、どうしようか」
カバナキは悠然と起動し、星を破壊し始めるブラックホールを見ながら、遥か遠い過去を思い出していた。
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