【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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スカー・リバイバー ④

 リベンジ前のクールタイムで大手をかける。

 

「それ、完成品じゃないだろぅ?まだ、お前自身と完全にリンクできていない。調整も不十分。アルバガスの効率もすこぶる悪い」

 

 喋っている隙に鳴神剣で切り上げ雷を飛ばす。

 

「焦っているな!」

 

 奴は予知を通して雷を防いでいる。

 

駆逐蹂躙形態(スピードシフト)

 

 次の瞬間、俺は奴の懐にいた。

 尻尾の装甲は雷を放た時点で四肢に移動し性能を極限にまで高めている。

 防御できたとして、電撃は人体の動きを鈍らせる。

 少しでいい。少しの隙をこの装備なら付け込める。

 

「即レス、上等」

 

 その行動を奴は読んでいた。

 目の前にはエネルギーを解放した奴の拳がある。

 しかし冷静に穴を使って回避、そのまま右腕で首を掴んだ。

 

「おまえじゃ、望む未来へ辿り着けない」

 

煙倶利伽羅(えぶりくりから)灰太刀(はいたち) 雪ノ下 双刀

 

 既に左手には防御を無視する灯が握られている。

 瞬く間に振りかぶり、奴の中に灯を届けた。

 

 

 はずだった。

 

 

「ははは!さて、身代わりがいないとでも?」

 

 この火の燃える条件は奴の血。

 これは戦闘中にサンプルとして獲得したものだ。言動から察するに、奴のクローンはまだいる。

 

「知るか!」

 

 すぐに蹴飛ばして剣を奴の頭上に投げる。

 剣は無作為の場所に、かつ1秒に10回の速度で雷を落としている。

 更に上空からはレッド・バルチャーの雨を降らすことで物理的に移動しにくい場所を増やしていく。

 

「底はあるだろ!」

 

 数の暴力で攻めてこない時点で、兵装か、それともクローンの質か、それとも何かしらの『問題』がある。

 

 

 

 臆するな。

 攻めこめ。

 

 

 

 雪ノ下を両手に持ち、ただひたすらに斬りかかる。

 再び始まる3次元の攻防。

 ただ、この勝負では圧倒的に俺が有利だった。

 神速に至った攻撃の数々で、ただひたすらに読み合いに勝つことで、俺は24回。奴を斬ることに成功した。しかし、雪ノ下だけではなく物理的な攻撃をしていたものの、まだ致命的な傷は与えられていない。

 奴は未来視でそのような傷を負わないように立ち回っているのだ。

 

「クソ!」

 

 奴は一旦穴に入り、そして俺とは距離を取った場所に現れた。

 

「ハァ────ハァ────ハァ────ハァ────」

 

 ただ、致命的でない傷でも積み重なれば大きなダメージになる。

 サタナエルは明らかに疲労困憊の様子だった。

 それは明らかな隙。

 だからこそ何としても突いてみせる。

 

「こちらも切り札を切らなくては」

 

 俺が飛び出したその時、なんと奴は青い光線を全身で浴びた。

 

(その手があったか!)

 

 自傷することで強引にリベンジの条件を整えたのだ。

 

 

 

 バスター・サタナエル・リベンジは再び起動する。

 

 

 

 再び灯される赤いライン。展開する漆黒の鎧。

 奴は即座に地面に這い、獣を狩る前の体勢になる。

 

 だがまだ終わりじゃない。

 あの一撃を喰らわなければ、俺の勝ち筋はある。

 

(いいだろう!最後の読み合いだ!)

 

 そして、最後の読み合いが始まった。

 俺は奴の攻撃を搔い潜り、なんであれ致命の一撃を加えなければならない。

 互いに俺と奴の間、それぞれの周辺に無数の穴を出現させてから、奴は獲物を刈り取るべく、エネルギーを多少使って大きく踏み出した。

 俺の斬撃は空を切り、奴は俺の背後にある穴へと飛び込んだ。

 奴は次から次へと穴に飛び込み、さらに現在進行形で穴を増減させることで、攻撃の予測をほぼ不可能にしている。

 

 

 

 だが、それは、俺にこの鎧がない時の話だ。

 

 

 

 俺の左から飛んでくる奴に、俺は、いや鎧が脅威に反応し体を強制的に動かす。

 すぐに穴を開いて奴の攻撃を回避すれ────────────

 

 俺の後頭部に青い光線が放たれていた。

 

(まずい。あの拳に対応することで頭が一杯に────)

 

 ワンテンポ対応が遅れてこのままでは、俺は死んでしまう。

 

 

 

 

 堕天使はニヤリと笑う。

 達成感、安堵の笑みは俺ではなく、自身が到達する未来に向けられているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、

 その未来へ

 お前は

 辿り着けない。

 

 

 

 

 

 

 

 ()えていなかっただろう。

 俺の後頭部近くの穴の先にはウリエルがいて青い光線を燃やしていたことを。

 

 ()えていなかっただろう。俺がどのような準備をしてお前と相対したかを。

 

 

 奴の四肢は別世界の鎖によって拘束されていた。

 

 

「?」

 

 

 敵が困惑している隙に俺は最速最高の一撃を放つ。

 

 

 

 皇竜・朱星(せきせい)

 

 

 

 神速の剣は音を置き去りにして

 奴の右脇腹、心臓、左肩を通って鎧ごと両断した。

 

 

 

 どさり、と二つに分かれた体は地に堕ちて、不可避の未来を突き付ける。

 

「……………くそ」

 

 それが奴の最期の言葉だった。

 

 顔は見えない。

 見る暇もない。

 

「ありがとう、ウリエル、サイコル、キャプラ」

 

 そう呼び掛けて俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

 一時間後、俺たちは全ての世界の改造を行う発生源を見つけた。

 そこはガラス張りの部屋だった。

 荒涼とした大地にポツン、と建っていて、その中はのどかな緑で満たされている。

 中央部分には一本の木があり、その麓で一人の女性が頭を垂れて座っていた。

 扉は見当たらなかったため、壁を蹴破って中に入った。

 

「これは、クローン?」

 

 その、金髪ショートカットで白衣を着た女性は、どうやら眠っているようで近づく俺たちに気づきもしない。

 

「人型だな。……誰だ?眠っているのか、いや、永遠に眠るように設定しているのか」

 

「これは…………」

 

 ウリエルは彼女のことを眺めていたら何か思い当たる節があるようだった。

 

「知っているのか?」

 

「この人、前のウリエルだよ。写真で見たことある」

 

「…………そうか。取り敢えず、連絡するぞ」

 

 その事実を知った俺は無言にならざるを得なかった。

 

「お疲れさま」

 

 するとそこに、肩に小さい緑のワイバーンを乗せたトリノが現れた。

 

「それは……!?」

 

 彼女の方に乗っている生物には見覚えがある。

 

「そう。ウラガノ。これからもよろしく」

 

 その様子から見て対話によって彼を説得できたようだ。

 

「……なるほど。よろしくお願いします。それで目の前の状況についてお聞かせ願えないでしょうか」

 

 ここに連れてきているということは、今のウラガノに危険性はないのだろう、と納得をして話を切り替える。

 

「うん。キャンセルできるよ。元にも戻せる。なるほどね。石碑と触手を一人の人間にしたって感じね」

 

 しゃがんで入杭の女性の様子を見たトリノは確信を持って、最高の返答をしてくれた。

 

「早速、取りかかっちゃおう!」

 

 彼女は女性の手を取り、早速作業を始めてくれたようで、外の空と大地が変容し始めた。

 

「クロノ、ちょっといいかな?ここにしゃがんで」

 

 そんな様子に驚かされているとトリノは自身の右手で地面をポンポン、と叩いて俺に隣に来るよう催促し始めた。

 

「どうしましたか?むっ」

 

 彼女の隣に座った俺は肩を掴まれて彼女の胸元に抱き寄せられた。

 

「ありがとう」

 

 彼女は俺の耳元へ礼を語り掛ける。

 

「貴方たちのおかげで、私の世界は救えました。ありがとうございます。だけどさ」

 

 すると彼女は口をより一層、近づける。

 

「ちょっと意地悪すぎない?発破のかけかた」

 

 そう囁いてから抱擁は解かれた。

 

「それは、申し訳ない」

 

「はぁい。それじゃあ次は、貴方」

 

 彼女はそう言って今度はウリエルに隣へ来るように催促し始めた。

 

「は、はい!」

 

 彼女が抱きしめられている間に、先程の戦いとサタナエルについて考えていた。

 

(哀れな奴だったな)

 

(この勝負の明暗を分けたのは手段の数の差だ。奴は1人でこの作戦を練り、実行した。しかし、その作戦はかなり綱渡りなものだった。クローンを開発する技術があったのに数の暴力を主軸とした作戦を使わなかったことが最たる例に挙げられる。いくらどんな化学技術でもを模倣できるとは言え、一人で準備を進めるには時間が足りなさすぎる。信頼できる仲間などがいれば話は別だったろうが……)

 

「あの人は私の前任者のこと、どう思ってたのかな?」

 

 トリノの抱擁からウリエルは意識のない前任者を見て呟いていた。

 

「唯一の希望、だったんだろうな」

 

(あれ、もしかして、アイツ、魂の改造は出来ないんじゃないのか?奴は理事長との戦いでも、俺との戦いでもチャンス乗るタイミングで改造を使わなかった。つまり、魂の改造を使うには何かしらの条件があって、ルクリで見せたあれは何かしらの変装であり、回復も含めて魂の改造とは別の技術だということだろうか)

 

「まぁ、ただ、固執しすぎだな。それ以外を下に見るのは反感を買う……なんとも、面倒な男だったよ」

 

「そういうことね」

 

 俺がサタナエルという男について振り返っていると、トリノは突然、納得し始めた。

 

「多分、その人には改造を行うセンスがなかったんですね」

 

「センス、ですか?」

 

「そう。魂を改造するには魂を感じ取るっていう作業が必要なんだけど、それはどうしてもセンスになっちゃうんだよ」

 

 こういった問題も、仲間がいればもっと上手くいった。

 奴はどこまでも孤独でいたいタイプの人間なのだ。

 

「……俺は嫌だな」

 

 小さく言葉を漏らす。

 これは、心の底から願った本音。

 俺はもう、孤独は耐えられない。

 

『失礼、いいかな?』

 

 などとセンチメンタルになっていると、理事長から連絡が入ってきた。

 

『そちらは順調そうだね。良かったよ。こっちはサタナエルを捕まえた。人的被害ゼロでね。これから尋問に入るけど。話、聞くかな?』

 

『いいえ、結構です。それよりもひとつお願いが』

 

 俺はサタナエルのことを知ることよりも、優先したいことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 数か月後、コーヒー片手に世界を移動した。

 朝日が俺を照らす。

 天井には穴が開いていて、そこから暖かい光が落ちている。

 空は青、所々白。

 天気は晴れ、気持ちがいいので青空の下で作業をしよう。

 白い椅子に座ってパソコンを起動する。

 目の前の画面には文字がびっしり。

 俺は至って健康。

 元気に研究所(故郷)でパソコンとにらめっこをしていた。

 

「……全くあの人達、こんな難しいことしてたのか?」

 

 見ていたのは人造神に関するレポートだ。

 そこには俺がどのようにして作られたのか、その全てが記されている。らしい。

 実際のところ、あまりにも専門的過ぎて何を言っているのか分からない。

 

「だけど、理解しなきゃ」

 

 穴から生物学の本を取り出して、それを辞書代わりに、この資料が一体何を言っているのかを解読し始めた。

 

 最近の俺の日課はこれだ。

 まず、家族が何をしていたのかをより細かく知る。

 これはルクリの件以降、俺が理事会へと頼んだことだ。

 彼らの目的、果ての先、ゴールを知り、それが良いものならば引継ぎ、悪いものなら捨てる。これは研究所の唯一の生き残りである俺にしかできない役割だ。

 そして、この行動の目的は『新たな人造神を作る』ことだ。

 仲間は多ければ多いほどいい、と考える。

 今まで戦ってきてそう思えた。この回答がベストかどうかはあまり関係ない。

 俺がそうしたいのだ。

 

 大丈夫。マズいことをしたら止めてくれる人はいる。

 

「ふん、ふん。……ん?」

 

 ここに来ても感傷に浸らなくなった俺は、手元のノートに目の前のレポートに書かれているものがどういうモノなのかを嚙み砕いて書き起こす。

 そんな作業を、時間を忘れて没頭していた。

 

「クロノ、ちょっといい?」

 

 空が橙色へと変わり始めた頃、部屋にウリエルが入ってきた。

 

「どうした?」

 

 一旦作業の手を止めて、振り返って耳を傾ける。

 

「また別の世界で厄災が生まれたの。今回は超大陸級。他の方々は他で手一杯だから助けが欲しい」

 

「分かったよ。ちょっと待って、保存するから……」

 

 快諾した俺はすぐに作業を中断して理事会の世界へ繋がる穴を開けた。

 

「よし、それでは行こうか。詳しい話はあちらで聞けるんだろう?」

 

「そうだね。それじゃあよろしく」

 

「ああ、何かあった時は頼んだ」

 

 穴に片足突っ込んで、厄災討伐へと意識を切り替えた。

 

(行ってきます)

 





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