【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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難事怒涛

「創造結界⁉」

 

 突如いた世界が変わり果てた光景。彼女の常識からその光景を推測している。

 

(実際は違うが、まぁ、その方が都合がいい)

 

 俺はその様子を良しとした上で彼女の説得に移る。

 

「話、聞いてくれるか?」

 

「灰の陽炎。拘束。対象は私」

 

 彼女は俺の言葉にも耳を貸さずに詠唱を行うと彼女の背後に鎖の塊が現れる。

 

「聞く気ないな!」

「私が話すんじゃない。お前が口を開くんだ」

 

 彼女は再び袖から鎖を出して俺の様子を伺っている。

 本来の創造結界の弱点は展開と維持に使う魔力の消費が大きいことらしい。

 だからこそ、『待ち』の戦略は正しい。できるだけ時間を稼ぎ魔力を無駄に消費させるつもりだろう。

 俺は右手のブレスレットへと変形していたチックタックロットを、長針の剣に変形させて構える。こちらとしては、話し合いをしやすいように彼女を無力化させたい。だからこそ、待ちの戦略を攻略する。

 

「行くぞ」

 

 彼女の周囲に数個の穴を開けた。

 その穴が開いた瞬間、全ての穴に彼女の後ろにある鎖の球体から鎖が射出される。

 しかし、その全てに手応えはない。

考える間も与えずに穴からできた死角から彼女を切りつける。

 それも彼女の腕に防御されて袖から鎖が伸びてきたので、近くに開けた穴に飛び込み回避する。

 どうやら彼女は服の下に鎖を巻いているようで、軽い斬撃なら防御できるらしい。

 それから、『穴から攻撃するのか』それとも『穴の影に隠れて攻撃する』という2択を相手に押し付けながら戦闘を繰り広げていく。翻弄されていくキャプラはだんだんと後手に回っていく。ただ油断はできない。

 さらに、『分裂させた武器を投擲する』という攻撃手段も増やして戦っていく。

 

「なっ」

 

 いつの間にか、足に鎖が巻かれていた。

 そのまま力強く俺は宙へ投げ飛ばされる。

 

「万里に───クソっ!」

 

 宙に飛ばされる勢いのまま開けた穴に入り、詠唱中の彼女の頭上へ移って剣を振る。回避されてしまったが詠唱を中断することは出来た。

サイコルによると、俺と竜神を拘束したあの鎖は長い詠唱を行わなければ使えないらしい。

 

(そんな暇は与えない!手数で圧倒してみせる!)

 

 彼女が回避している間に鎖を断ち、すぐに穴の中に入る。

 

「鉄の陽射し」

 

 その詠唱の後、キャプラの後頭部の辺りに浮かんでいる大きな鎖の塊から鎖が四方八方へと飛ばされていく。

 今の彼女にはどのような攻撃が来るかは予想できない。だからこその全方位攻撃。

 しかし、全ての鎖は俺を捕らえることは出来ない。

 彼女の周囲には俺も、穴も出現しなかったからだ。

 

「……まさか、後ろ!」

 

 彼女が後ろに振り返った瞬間、鎖の間から小さい穴を開けてそこから彼女の腕を掴み、穴を拡大させてから穴の中へと引き込んだ。

 穴の先は同じ世界の空中、キャプラは俺の腕を掴み、さらに鎖で巻くことで容易には離れられないようにしている。

 

「なるほど」

 

 彼女は鎖で拳を覆ってそれを振るうが、その拳の延長線上に穴を開けて彼女の腹に攻撃を当てる。

 

「くっ…!」

 

 しかしその程度で彼女は止まらない。穴で見えないことをいいことに俺の脇腹に蹴り入れた。

 その間に俺に巻かれた鎖を破壊し蹴り飛ばして距離を取ろうとしたが、それは不可能だった。彼女が俺を蹴った時点で俺の腹に鎖が巻きついており、彼女の足に繋がっている。

 すぐにその鎖を持って力強く引き寄せる。

 彼女はその引き寄せられる勢いを利用して殴りかかろうとする。

 

(何度も同じ手をっ───)

 

 また穴を開けようとしたその時、後頭部に衝撃が走る。

 

「爆ぜろ!」

 

 ここまで飛んできた彼女の鎖の塊は、その場で展開される。

 その一つ一つが俺へと向かってくる。

 これに拘束されれば、動けなくなるのは確実だ

 

「来い!全てしのぎ切る」

 

 その一つ一つの軌道を読んで、全てを穴に通す。

 さらに武器を大槌に変形。それを彼女に叩きつけた。

 彼女を覆う鎖も、俺と彼女を繋ぐ鎖も全て壊される。

 そして、俺たちは地面に受け身を取って着地した。

 

「ここは俺の実験を行うための場所だった。つまりは俺の能力が行使しやすいように調整されている。穴の開閉速度、大小、能力のレンジ、全て向上する」

 

(開閉補助装置は、上手く作動しているな)

 

「だから、こんな芸当もできる」

 

 俺はドラゴンさえも大きなすっぽり覆うような15メートル級の大穴を開ける。

 そこから現れるのは先ほど投擲して地面に突き刺さっていた俺の武器。

 それは大きな槍の形へ変形した上でライトニング・ウリエルを起動して、白い炎で槍を包み込んだ。

 俺とウリエルは礼装の共有を行っている。ただ持ち主程の性能を引き出すことは出来ないが、使えるのなら大きな武器だ。

 

(礼装の共有、やはり扱いが難しいな)

 

「これで終わらせよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は平等に人を救いたい。

 

「父さん。母さん。行ってきます」

 

「「いってらっしゃい」」

 

 今日は法務局の入局試験結果発表。私は軽やかな足取りで発表会場へと足を運んだ。

 法律は好きだ。良い法律であれば、どんな人間も救うことができる。

 だから私は進むべき道を法務局と決めた。

 まずはこの一歩が重要だ。この試験を受かってから───

 ───落ちた。

 

 合格者の番号が書かれた看板には私の番号はなかった。

 

「…あ」

 

 心が読める親友は私のことを一目見た瞬間に結果を察したようだ。

 

「また来年。頑張るよ」

 

「そうだね。頑張って。…ごはん食べる?」

 

「…頼むよ」

 

 この悔しさをバネに。そう切り替えた私は笑いながら彼女に返答した。

 

「そっちは?」

 

「……受かった」

 

「はは。気は使わなくていいぞ」

 

 来年。また私は落ちた。

 

「キャプラ……」

 

「……いいよ。気にしなくて」

 

 

 

 来年。また落ちた。

 ……。

 

 

 

 その日の夜は情けなさで家に帰ることもできなかった。

 そんな日の夜、親友に彷徨っていたところを見つけられ、一緒に飲むこととなった。

 

「キャプラ、保障局の試験、受けてみない?」

 

 その時だった。彼女が私にアドバイスをしてくれたのは。

 

「…どうして?」

 

「そっちの方が向いてそうだから。小さい頃からキャプラのこと見てきたからこそ分かることだよ。ほら、正義感と責任感強いから。私と会った時も、そんな感じだったでしょ。『家族がいなくても私と規則は君を見ている』だっけ?」

 

「……それは」

 

 彼女と出会ったときに賭けた言葉だ。まだ覚えていたのか。

 

「そうか。そうだね…ありがとうサイコル。受けてみるよ」

 

 彼女の言葉で視野が広がった気がした私は、彼女の提案を快く受けた。

 

 

 

 保障局の試験は一度で受かった。

 

 難易度はさほど変わらない。どうしてだろう。

 

 だが、当時の私にはそこはどうでもよかった。

 

「ごめん。こんなに付き合わせて」

 

 その日の夜、私は家に帰ってから両親に謝ることしかできなかった。

 嬉しさも当然あった。それでも彼らと対面すると申し訳なさが勝ってしまった。

 

「大丈夫」

 

 それでも彼らは私を温かく応援してくれた。

 

「……ありがとう!」

 

 

 

 心機一転し始めた保障局の仕事。悪くない、いやそれは失礼だ。とても良かった。

 部下にも上司にも恵まれた。順調すぎるほどに仕事も認められてきた。

 私の好きなルールを基に人々を助けるというものもやりがいを感じる。

 

 しかし、最悪の日は唐突に訪れる。

 

「内務卿!どういうことですか⁉」

 

「どうした。保障局局長」

 

 あれから5年後、異例のスピードで局長となった私に一つの書類が届いた。

 書類の内容はすぐに施行される法律についてだった。

 内容としては税金の基準の引き下げ及び、徴収料の増額、そして取り締まりを強化するというもの。

 

 私の信じていたものが豹変しかけている。

 

 私の胸の中にはこれ以上ない焦りと怒りがある。

 全てのものを平等に見下す釣り目の男は怒り心頭の私に対しても、変わらず冷酷に対峙する。

 

「……」

 

 その目を見て、私自身が冷静でなければならないと感じ取り、迅速に息を整える。

 

「この法案。あまりにもおかしいです。どうしてこんな締め付けを?」

 

「それを説明する義務はない。お前は保障局局長、俺は内務卿だ」

 

「それでも取締りの執行をするのは私と私の部下です。その背景を知らなければ」

 

「何度、言わせるつもりだ。お前にそんな権限はない。そんなことも分からないのか?」

 

「こんなものは従えないと……」

 

「両親が、どうなっても?」

 

「はぁ⁉」

 

 この場には関係のない者の登場により私の頭はまた乱された。

 

「お前たちの両親、親族、大切な人間を人質として立てさせてもらう。これ以上は聞くな。ただ、実行しろ」

 

 奴はお前たちと言った。私の部下だけじゃない。この国のために働く者たちの多くが人質を取られていると見ていいだろう。

 

「……嘘だろ」

 

 口から失望が零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、このザマだ」

 

 白く燃える巨大な槍の前に、彼女は自身への失望を口にした。

 

「私の信じていたものは何だったんだろうな」

 

烟倶利伽羅(えぶりくりから) 灰立槍(はいたちのやり) 点火」

 

 隙を与えぬため、すぐに槍を射出する。

 

 ジェット機構を備えたそれは、ほとんどの者たちには目では追えない彼女を貫いた。

 しかし、彼女に傷はない。

 

「………え?」

 

 彼女自身も死ぬことも想定していたのか、驚きで言葉も出ていない。

 

「その炎は燃やすものを指定することができるんだ。今回は俺の武器、そしてお前の鎖を対象にしている。俺の武器は常に増殖できるから形を損なうことはない。それに柄に推進力を伴う機構を着けて点火すれば、高速で対象を燃やす質量兵器が実現できる」

 

 彼女は白い炎を纏う槍に拘束されている状態にある。

 槍が彼女に着弾する瞬間に変形したのだ。

 

「……それで、何が言いたい?」

 

「お前はもう抵抗できない。それ以降は彼女から聞いてくれ」

 

 俺が彼女の目の前に穴を開けると、そこから法務局局長であり、彼女の唯一の親友であるサイコル・ロレッジが現れた。

 

「おはよう。キャプラ」

 

「……首謀者は、お前だったのか」

 

「うん。正解」

 

 彼女がキャプラの説得に入る前に聞きたい事を聞いておこう。

 

「サイコル。首尾はどうだ?」

 

「結構ギリギリ、マイケル君は役割を果たして私の部下が拠点近くに運んで休養中。ウリエルちゃんが乱入したドラゴンの群れと軍務卿に対応しているよ」

 

「分かった。よろしく」

 

「もっちろん。任せて」

 

 彼女はそう言ってからキャプラの目の前に立った。

 俺の残された仕事は説得が終わった後に、内務卿の部屋への直通の出入り口を作ることだ。だからまだ、ウリエルの支援に向かうことは出来ない。今は、我慢だ。

 それにウリエルの報告によると新たな城内における障害も推察される。その対策もできればしておきたい。城内に罠でも仕掛けているのだろうか。

 

「こんなことをしても、いいのか?」

 

 俺が考察をしている間に、サイコルとキャプラは親友同士の会話を始めた。

 

「うん。あいにくこの国において大切な人は、君だから。次点でお手伝いさんだから、キャプラが安全なら万事おっけいだよ」

 

「……そうか」

 

 言葉を告げられたキャプラの表情はどこか嬉しそうだった。

 

「そう、新しい大切な人、できたんだよ!」

 

「……一言余計だな。心が読めるくせに」

 

「え、余計だと思ってないでしょ。そんな気にしないタイプじゃん」

 

「ああ、そういえば、そうだった」

 

「「ははははは」」

 

「…それで、何の用だ。サイコル」

 

「そうだね。本題に移ろうか。一緒に革命をしよう。一緒に君の守りたいものを守るんだ」

 

「………」

 

 

 

───私にとって守りたいもの。

 

 

 

「分かった。私はどうすればいい?」

 

 キャプラは数秒俯いてから覚悟を決めて革命の誘いに乗った。

 

「うん、ありがとう!流石親友!話が早い!それじゃあ、これからの流れと、そこで行うことを共有するね」

 

 彼女はこれからの予定を共有すると共に、何枚かの紙の資料を渡して打ち合わせを始めた。

 十数分後完全に準備を終えたサイコルは俺に拘束を解くように言ったので、槍を変形させて携帯しやすいブレスレット型へと戻した。

 

「ほい。それじゃあ。クロノ。手筈通りお願い」

 

 そのブレスレットを拾い上げてこちらに投げたサイコルが催促する。

 

「ああ、行くぞ二人とも準備はいいか」

 

「「もちろん!」」

 

 俺は内務卿のいるとされる部屋へ穴を開けて、すぐに先行してその場の状況を確認した。部屋は、キャプラのものと大差ない。普通の執務室。という印象を受けた。

 

「お前か?賊は」

 

 窓側に置かれた仰々しい机と椅子。そこに鎮座するのは、書類を見ながら、心の底から不機嫌そうな内務卿『ラスアンブール・ドメナク』。

 

「ああ、そうだな」

 

 辺りには誰かがいる気配はない。俺は穴に腕を通してその先にいる二人に合図をした。

 

「全く軍務卿め。引継ぎを用意すると言っていたが……」

 

「よぉし!クロノ。ありがとう!もうこの部屋は大丈夫。危害行為禁止の結界で覆うから」

 

 サイコルはキャプラと共に内務卿の部屋に到着した。

 

「会談用の結界、それを装填詠唱だな。厄介なことをしてくれたな法務局局長」

 

 彼女が張った結界に内務卿が反応する。

 装填詠唱。言葉を唱えずに詠唱と同等の作業を体内で完結する高等技術らしい。

 メリットは詠唱をしなくてもいいということ。弱点は詠唱するよりもかなり時間がかかるという点だそうだ。

 

「それじゃあ俺は『こちらウリエル!決着しました!』…」

 

 テレパシーと連絡魔法の装置から報告を受ける。

 ウリエルと合流しようと考えていたが、どうやらあちらは上手くいったらしい。

 

「俺は戻ってます」

 

「うん。ありがとう。待ってて」

 

「がんばれ!」

 

 俺は励ましの言葉を残して、本作戦の拠点である隠し部屋に移動した。

 

 

 

 

 

 その時だった。俺の背後に抉るような殺意を感じたのは。

 

「…!」

 

 背後に何者がいるのを察知した俺は、確認することもなく前方に飛び出す。

 大きな刃物が俺の首の後ろに触れかけたような風圧を感じながら、飛び出した先で振り返ろうとすると俺の鳩尾に一発。金属の塊で撃たれたような衝撃が走った。

 そのまま吹き飛ばされた俺は、飛ばされている方向に穴を開けて世界を移動することで避難する。

 

 移動した先は『俺の世界』。そこで先ほどの人間が何者なのか思考を巡らせていく。

 

「──────まさか!」

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