【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
「どうだった?」
目の前にウリエルがいる。どうしてだ?
俺は確か、デズトに負けて殺されそうになっていたはずだ。
この場には俺が吐いた血も、握っている礼装もない。
「は?」
「驚いて、いるね。安心して。ここ、夢みたいなものだから、現実じゃないよ」
「そう、なのか?」
困惑しながら辺りを見回す。
ここには彼女以外何もない。全てが真っ白だ。
俺は地面かどうかも分からない場所に座っている。
「なるほど……いつも話が急。って訳か」
なんとか思考をまとめて状況を理解する。それは、ここは別世界のような場所であるということだ。困惑するより受け入れるほうが良いだろう。
「え、そうかな?」
「そうだよ。会った時も…待った。俺はどうなってる⁉」
冷静になった結果、会話をしている場合ではないことに気が付いた。
「外?の時間は流れていないから大丈夫。言ったじゃん。夢みたいなものだって。それよりさ、どうだった?」
「どうって、何が?」
「デズトとの戦闘」
どうしてか、彼女は彼との戦いについて聞きたいらしい。
「………執着と力が足りなかったって感じかな」
スルーしていると何度も聞かれそうだったため、あぐらをかいて所感を答える。
「戦略のミスしだ。俺の全力を最初から出せば、勝ちを掴めたかもしれない。相手の切り札を警戒し、それを潰した上で倒すことにしすぎた。勝ちたいのなら、今回は出し惜しみをするべきじゃなかった。俺は勝ちを貪欲に欲するべきだったんだ。まぁ、そもそも、俺がもっと強ければこんな反省をする必要もないんだけどな」
俺の反省を見たウリエルはへー、と感心するように驚いていた。
「すごいね。随分と冷静だ。パチンって切り替えたみたい」
「あぁ、すごいだろ。褒めてくれ。……さて、俺はどうなるんだ?」
「生きるよ。これから私がサポートする」
「どうやって?」
「体を借りる。クロノはここで指示をして。私が体を動かすから」
どうやら彼女は俺の体を動かせる術を持っているらしい。いや待て。
となると、彼女はとんでもないことが出来てしまう。
「借りるって……まさか」
この機能は契約した時に伝えられていなかった。
そして、借りるということは
「そうだね。もし、契約者が暴走したら、という時につかうものだよ」
つまり、俺は彼女に命を握られていたということだ。
「随分とひどいことをしてくれたな」
「うん。そうだね。これは一切弁明の余地はないよ」
「別にいい。やってくれ」
迷っている暇はない。
「……その心は?」
「元の思想が崇高でも、道を踏み外してしまう人間はいる。その機能が存在していて、伏せられていることは納得できる」
「……できちゃうんだ。意外」
「できた。だから頼む。俺はまだしたいことがあるんだ」
操られても構わない。今すべきことは彼の撃破だ。
そのためなら手段は問わない。
「……分かった。でも、このシステムにも抜け穴は言わせてほしい。こっちが騙していたことの埋め合わせ」
「そうか。なら、よろしく頼む」
それは良かった。
対処法があるのなら知っておきたい。
「自我を強く保とうと思うこと。この場で私が触れると支配ができるんだけどそれを抗おうと意識すればできる」
「随分簡単なんだな。何も知らない人間でも出来そうだけど」
「本来は起こさないで使うからね。抗う間もなく掌握できる」
「そうなのか。それじゃあ、いこうか!」
彼女の言う通りなら、彼女は最初から俺を完全に掌握するつもりはないようだ。
「それで最後に一つ。良い?」
「まぁた、何かあるんかい!」
「うん。そだね。戦う理由を教えて。規則でさ。体の操作を教えた場合、その本人の安全性を保障しなくちゃならないんだ」
「そうなのか。……分かった」
「はい。どーぞ」
彼女はマイペースに催促する。
ここで言わないはない。俺は嘘偽りなく答えることにした。
「死ぬまで人を助ける。世界を渡り、救い続ける。それが俺の託された価値だ。それを、果たす」
両親の今際の際の言葉は、呪いなどではない。
俺が生きていくための、後押しだ。
「よぉし。それじゃあ、やっていこー。私も君が死ぬまで、一緒に足掻き続けるよ」
彼女は俺に手を差し伸ばす。
それを手に取り立ち上がり、元の世界に戻って来た。
「なんだ。お前は」
デズトはまず燃えている腕輪を捨てて、落ちている大剣を左手に持ち、敵を確実に仕留めようと一歩ずつ近づいていく。
そして、標的の予期せぬ変化に目を疑った。
その男の頭に黄色い輪が出現している。
俺の体はふわりと浮いてから立つ体勢となる。
「さっき長引くって言ったな。ここからが、本番だ」
右腕は俺の礼装を変形させて覆うことで、これ以上傷が拡大しないようにする。
左手は強く灰太刀を握る。
「お前は仕留めることを本番と言うのか」
「そうかもな。だが、その場合、仕留められるのはお前だ」
結界にひびが入り、パラパラと天井から粉が落ちて崩れ始めている。
眼球の甲冑の光も弱り始めていた。
この戦いも、終わりを迎える。
────ライトニング・ウリエル 全解放
足元から白い炎が吹き荒れる。
結界の崩壊を察知した上で自身の足に火が付いたデズトは、音速を超えた速度で刃を向けて突撃する。
それを予備動作もなく回避した。
まるで体に意志がないかのような、人体ではありえない動きだ。
デズトはそれに一瞬、呆気にとられる。
その合間に太刀を振るう。何とか反応して山なりに飛んで後退したデズトだが、その胸は軽く切られている。
突然の変異に標的への警戒度を高めたデズトは、着地の瞬間に飛び出し殺すことを決意する。
すぐに俺は着地地点を予想して彼の周囲に穴を展開した。
もちろん、彼と俺の間に穴を開けることで視界も潰す。
「
そしてすぐに太刀の形状を槍に変更しそれを投げつけた。
今まで彼との戦いにおいて、必ず絡め手を使っていたからこそ、実現する絡め手。
俺はどの穴にも移動せずに、ただ真っ直ぐに槍を投げた。
ウリエルの制御下により最大の火力を発揮した灰立槍は、マッハにも迫る速度で直進。
穴はぶつかる直前に消しておく。
そして槍は、俺が穴から出てくるはず、待ち構えていたデズトに直撃した。
結界は落ちる砂のようにさらさらと崩壊し、この結界の象徴である目玉の乗った甲冑も消え去った。
目の前には槍により拘束されたファーモットの最高戦力がいる。
拘束を解除されぬようにその場にあるナイフを拾い上げて全て槍に接続し、拘束具の足しに変形させる。さらに、彼の下半身と両腕を穴に通し、俺の世界の空中に浮遊させておく。
こうして、完全に拘束した俺は、勝利を実感した。
「……俺の勝ちだ」
「おめでとう。勝てたね」
ウリエルの声がテレパシーを介して聞こえてくる。
それと同時に、頭の違和感が消えてきた。頭上にあった輪っかも消えたようだ。
「ああ、なんとかな」
「内務卿の部屋で待ってるから、ワープしてきて。あ、マイケル、隣にいるから拾ってきてくれると嬉しい」
「ああ、分かった。元より様子は見るつもりだった。まずはデズトをそっちに送る」
「殺さないようだな」
テレパシーが終わった後、負けを悟ったデズトが俺に話しかけてきた。
「そんな主義じゃないからな」
「そうか。せめて背後から刺されないようにしておけよ」
「そうだな。気を付けておく。それと内務卿の執務室に集合らしい。送るぞ」
そうして俺はまず、デズトを拘束した状態のまま内務卿の部屋へと移動した。
ゴトン、と重い拘束具が内務卿の部屋で音を立てる。すると彼の首に注射器のようなものが刺さった。
「デズト、負けたのか。情けない。ああ、それは止血剤だ。貴重だぞ」
「いやいや、ここにいるということはお前も負けたんだろう。なぁ、ボンボン」
軍務卿サバス・ナイトは傷だらけで椅子に座り、拘束された状態で移動してきた処刑人を笑っている。
その隣で大きな翼以外人間の体となっている老齢のドラゴンも不機嫌そうに椅子に座っており、その3人をウリエルが監視している。
「つまり、俺が不正をしていたと?」
「ええ、証拠は既にここに揃っています。賄賂や脅迫を多数。それがこの国の全ての要人に対して行われていました」
そんな彼らを完全に無視しながら弁論での革命が行われていた。
キャプラは自身の制服に隠し持っていた証拠とサイコルが持っていた証拠を提示している。サイコルはその様子を魔法道具で録音しながら、内務卿が嘘をついていないかどうかを確認していた。
「………」
内務卿は無言のまま、敗北した軍務卿と処刑人の方へ目をやると、お手上げだと言わんばかりに両手を挙げた。
「ああ、終わりだ。全て俺がやった」
「それでは、全ての不正を認めていただくということで、よろしいですか?」
「ああ、だが少し待て」
あっさりと非を認めた内務卿は、動ずることもなく自身の話を進めていく。
「どういうことだ?」
キャプラはそれでも尚堂々としている彼に引きながら聞き返す。
「やるべきことがある。伝言と、ドラゴンの処罰についてだ」
俺は近くの牢で休憩していたマイケルの肩を貸して内務卿の執務室に移動した。
俺が到着したのを確認したサイコルは俺に向かって投げキッスをしてくる。
「サ、サンキュ!」
俺はどうしていいか分からず、お礼を言いながら手を振った。
そうしていると隣にウリエルが寄って来た。
マイケルはそれを見てニヤニヤしている。
「おい、ドラゴン。どうしてここを攻めてきた?」
内務卿はそんなことには目をくれずに、議題をドラゴンの群れの襲来について移していた。
「……お前たちが竜神を拉致したからだ」
「なるほど、それを返して欲しいということか」
どうやら俺と共に拘束された奴は、彼らにとって重要な存在であるらしい。
「なら契約だ。条件は身柄の引き渡しとこちらへの一切不可侵。そして、できれば兵力の貸与だ」
「武力の貸与?どういうことか、まずそれについて言ってもらおうか」
キャプラは話を進めようとする内務卿を制止して説明を促す。
「これはやり残しの伝言の部分と重なるが、ファーモットは近くないうちに戦争を吹っ掛けられて、滅ぼされる。そのための軍備拡張だ」
その言葉に内務卿、軍務卿、特別処刑人以外は驚いた表情を見せる。
「相手はワ―サイト。北西の軍事独裁国家だ。それが一か月後の5カ国会議で適当な理由で、戦争を吹っ掛けようとしていることが分かった」
(ウリエル、北西って)
俺は北西という言葉からウリエルの言及した厄災のことを思い出した。
(そうだね。厄災が関わっている可能性が高い)
「あ、じゃあ!引き渡す身柄は昨日村を焼いた2つの頭を持ってるドラゴンで。生きているならね」
サイコルは思いついたように交換する人材を提案する。
「…………」
それに対して老齢の男の姿のドラゴンは不満げだ。
そういえば、ドラゴンの中には人間のような顔を持つ個体もいたことを思い出す。
「分かった。身柄の交換はそちらの要求を飲む。ただ、貸与は考えさせてくれ。そちらの軍務卿が、我々の実働部隊をほぼ全滅させた」
「当然だな。もう少し頑張ればあの譲さんは倒せたんじゃないのか?やはり根性なしだな」
「黙ってろ。デズト」
(随分と軽いな。あの二人)
(クレイジーだね)
「あいつらクレイジーだよ」
この場で軽口を投げ合う処刑人と軍務卿に俺とウリエル、マイケルが引いていた。
「それでいいな。ならば契約だ」
内務卿は机から20センチほどの紙の束を取り出した。
「これ以降は私が引き継ぎます。契約すべきなのは私です」
そこから一枚紙を取ろうとした内務卿の手に、キャプラの一本の鎖が刺さった。
「内務卿ラスアンブール・ドメナク。逮捕。混乱に乗じて何をしようとしたかは知りませんが、これ以上はこの場で発言することを禁じます」
「契約魔法の書類だけど、たくさん、すぎない?」
サイコルが紙の束を見て、眉をひそめながら驚いている。
「それではとりあえず。契約は私が行います。縛る鎖は3つです。一つ目は指定した身柄の交換これは一週間後に。二つ目は度とこの街には攻め込まないこと。これは永久に。三つめは一か月以内の武力の貸与。これは、一週間後にそれに関する会談を行うこと。もし、飲むのなら、ここに署名を」
キャプラはスムーズに契約を進めていき、老齢のドラゴンは迷うことなくソレに署名をした。
「えっと、ドラゴンたちの頭領、名前は、ルチさんですね。それでは、契約は完了。……あとは戦争について話し合おうか」