呪叨廻語 〜この世全てに呪われた女〜   作:ヤッサイモッサイ

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プロローグ この世全てに呪われた少女

「━━━なんだって?」

 

静寂を背負った屋敷の中で、若い少年の声が響いた。

どこまでも透明なその声は、されど不思議な魔を宿してその他大勢にのしかかる。

 

酷く広大な座敷の中を、天上天下に唯一無二たる絶対強者が睥睨する。

 

彼の者は五条悟。生まれながらの勝者であり、この屋敷だけでなく世界の支配者と言っても過言では無い少年である。

歳の頃は九つ、環境年齢由来と言うには些か目に余る横暴であっても、罷り通るだけの実力を持って罷り通す。

 

その様な暴君の静かな怒りの声であった。

 

「何処の雑魚が、何してよーが俺にはカンケーねーし」

「ましてや御三家ですらねぇ、木っ端没落家系のお姫様が死にかけてるからってさ」

 

「なんでそんなんで俺が御足労願われなきゃなんないわけ?」

 

人の生き死にを握りながら、されど傲岸不遜に切り捨てるその様に悪辣さは無い。徹頭徹尾“興味が無い”。

いっそ天魔の如く善性悪性の欠片でも見られるならば救いもあろうに、彼にはそれがない。

 

生まれながらにして全てを持ってしまったが故の、天涯孤独を悟ったが故の共感性の欠如。

少年に残った子供らしさの欠片、それは“無邪気”と言えるもの。

 

何事も無ければ、ここで件の“お姫様”とやらは死に、その後物語に名前すら登場することは無く忘れ去られていたであろう。

 

「━━━天与呪縛?」

 

世界にとって幸か不幸か、少女の命運を別けたのは、臣下の1人が呟いた“事情”がたまたま王の耳に入り、その興味を引いたことであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

━━━曰く、その女は生まれながらにして呪われているらしい。

母の腹の中に宿った瞬間より、この世の全てに呪われる運命を受け、その命を蝕まれ続けている。

奇跡的に産まれて来たものの、母はその直後に死に、幼子はその後も小さな灯火のままに何とか生き長らえている。

 

その対価に何を得たのか、誰も知ることは無い。

 

しかしわかっているのは、その灯火すらもう間もなく消えてしまうという事。

 

とうの昔に相伝も絶えたとは言え、呪術師の名家であったその家の当主が、亡き妻の忘れ形見を救いたいと最後に縋ったのが、“五条”が誇る六眼であった。

五条悟の両眼に宿りし、その蒼色の奇跡はありとあらゆる呪いを見通し、その組成を見抜く。

どのような処置を図ろうとも回復しなかった娘の容態も、その様な奇跡であれば何らかの光明が指すかもしれない。

 

今回の要請にはその様な経緯があった。

 

無論、現代における呪術界の実権を三等分する御三家の一角、五条家にそのような要請を受ける必要は無い。

これが加茂家、禪院家であれば、その様な言葉は当主に届く間もなくねじ伏せられていたであろう。

 

然し、五条家の御三家としての格は全て五条悟の様な“特異点”とでも呼ぶべき存在によってのみ成り立っている。

今代になって相伝術式と六眼の掛け合わせたる五条悟が生まれたことで、その権力は当代の間は安定したものとなるが、それも何れは無くなってしまう。さすれば、次代の五条悟が産まれるまで、五条家を存続させるのは、その“産まれるかもしれないという期待値”しかない。それ故に、没落しているとはいえ呪術師の家系へ恩を売り、自身の派閥へと取り込む事は五条家にとっては大きな事なのである。

臣下のそうした企みと、それを理解した上で見聞きしたことの無い“天与呪縛”へ悟が抱いた好奇心、そして親が当たり前に子を思う気持ちが合わさり、今回の要請は叶うこととなった。

 

歴史ある武家屋敷━━━呪いの匂いよりも先に、戦の匂いを感じるその有様に、仄かに違和感を覚えながら五条悟は奥へ奥へと突き進む。

本来であれば糾弾される様なその行動を咎められるものは1人としていない。

自身の目的である“呪い呪われた天与呪縛”への好奇心を満たす為、それが眠る離れへと突き進む。

そうして間も無く、離れに辿り着いた時、漸く五条悟は違和感の正体へと行きあたる。

 

…呪いの気配が、無い。

 

少なくとも戦国乱世の時代より存在する屋敷である。術師達が住み着いてもいる。

初めは呪いの少女の影響かとも思ったが。

 

「…襖1枚隔てただけで、感じ取れないなんてことあるのか?」

 

感じるのは、嫌な予感。好奇心のみで突き進んできた自身の短慮に対する、若干の後悔。

普通の子供であれば、沸騰したやかんに手を伸ばすことで学習するようなそれを、五条悟は経験して来なかった。

 

もしも、呪われるという言葉をそのままに受け取るのであれば

 

もしも、この距離でなお呪いの痕跡を感じ取れない事に理屈をつけるのであれば

 

 

“いや、些事だ。”

 

五条悟は、自身の感情に、そう結論づけた。それは自負心。

今まで純然たる事実から出てきた言葉が、プライド由来の言葉へと変わった事に気が付かぬまま、襖にかかった指に力を込める。

 

 

そして、襖の先より、横死九法に囚われた、百古不磨なる怨念の濁流が叩きつけられた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

五条悟にとって、幸せだった事と不幸だった事がある。

不幸だった事は、六眼を持つ彼には、彼女の背負った呪いの全てが余す所なく見れてしまったこと。襖を開けてもなお、呪いの気配をそれとして感じとれないのは、本来漏れ出る微弱な反応すら余すところなく引き寄せ続ける彼女の体質が故だった。

詰まるところ、産まれてから吸引し続けたら呪いの全てが、その肉体の上で混ざり、溶け合い、熟成されて濃密な『浴』を実現している。

それは呪術的にも、視覚的にも圧倒的な情報量を持ち、一般的な呪術師には感じとれないだけで、感じ取れてしまう人間にはそれだけでも有害なのだ。

 

「…ありえないだろ」

 

幸運だった事は、彼がその手の情報量を処理し切れるだけの脳を持っていたことにある。この段階では未習得であれ、将来的に獲得する彼の『領域』は正真正銘処理の出来ない情報を司る物であり、どちらも常人の手に負えないという点は同じであれ、格としては明確に有限と無限で差のあるそれは、日頃無下限の処理を行っている脳にとって無理という程の情報量には至らなかった。

ただ、その様なことが起きたことを、理解するだけの余裕があったことが、彼を戦慄させたのだ。

 

ありとあらゆる呪いが群がるその中で、死んだかのように床に伏す少女を見やる。

歳の頃は自分より1つばかり上のはずだ。興味はなかったが、聞いた情報が今になって頭をよぎる。

その割には圧倒的に小柄である。背丈もまぁそうだが何よりも死人のように細まり、白い肌をしている。恐らくは欠片も動く事が出来ないからだろう。真面に食を食むことが叶わないからだろう。

それはそうだ。当たり前だ。今の彼女の状態を言葉にするのなら、老衰以外の全ての死に方で死んでいない事がおかしいのだから。

 

そうだとも、てんでおかしいのだ。誰もが気づけていないだけで、あの女はとっくの昔に死んでなくてはおかしい状況にある。

 

 

遅れてやってきた少女の父親が、心配そうに声を掛けて来た。

聞こえるはずもないのに、その声に反応したのか、少女は薄らと瞼を開き、こちらを視認する。

 

不思議な瞳だ。呪いの中にあって、何よりも深く暗い色をしている。

 

━━━蒼と黒が交錯する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ハァ?」

 

今度こそ、目の前で起きた現象が五条悟の処理能力を超えた。

 

ただ、一瞬。

少女が五条悟を認識した瞬間に、少女を包んでいた呪いの大半が、消し飛んだ。

大凡の方法で死んでいなくてはおかしいから、そろそろ死にそう程度の呪いの量まで、減ったのだ。

 

未だに眼前で起きたことに理解が追いつかない五条悟を置いて、少女は身体を起こす。

未だ身体なぞ動かせるはずもないほどに呪いが渦巻いているにもかかわらず、この程度であれば造作も無いと言わんばかりに。

 

産まれてより、瞳を動かす事しかままならなかった少女が起きあがる様を見て、少女の父親が声を上げるのを制して、少女は生まれて初めて言葉を口にした。

 

「どなたか存じませんが、この様な姿でお迎えする事をお許しください」

 

こうして動き、喋る姿を見て漸く認識出来た事ではあるが、その姿と声はとても儚く、涼やかで、見る物によっては魔性を宿していると表現するに違いない容姿である。

しかし五条悟は願っていた。頼むからもう喋らないでくれ、もう動かないでくれ。

口を動かすに至らないのは、脳にその余裕が無いからであるが、彼本人はここに来た本来の目的を忘れてそう懇願していた。

 

「先ずは感謝を、貴方様のおかげで、これこの様に動ける迄になりました」

 

振る舞いや所作に淀みはなく、気品すら感じられるのは武家の血縁だろうか。

戦国の大乱の時代に名を挙げ、その後暫く呪術師としても最強と呼ばれていた時代もある名家である。

 

「あぁ、ワタシととしたら申し遅れておりました。いけませんね、喋り慣れていないから、舞い上がっていたみたい」

 

各時代にそれぞれ代表する様な呪術師は居れど、その中でも特別浮いていたのが当時のこの家の当主であったとされている。

 

「お初お目にかかります、鑢家が長女“鑢 七々実”と申します」

 

鑢七花━━━宿儺や現代の最強五条悟等と並べて語られるような歴史の英雄の、その子孫である。

 

「何卒、宜しくお願い致します」

 

絶望に染ったその瞳のままに、女はそう締め括った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。というわけで、最初のネタバレしたくなかったのでクロスオーバー先を明記しませんでしたが、刀語とのクロスオーバーになります。
分岐点は呪術廻戦の世界観に四季崎が呪術師として生まれて、その上で原作と同じような動きをした場合の未来となります。
まぁ、あとは七実が生まれず、現代にて生まれた場合も含まれますかね。
詳細はまた後の話において記載しますが、七実さんは最強キャラだと思ってますので、作中の最強キャラである五条悟や宿儺と同格になります。
またストーリーの都合上、五条悟の生育に多大に影響を及ぼすため、若干の性格改変が起きるかもしれません。
また七実の性格上他のキャラのアンチ・ヘイト的な表現が出る可能性があります。

それでも構わないという方は、次話以降の更新もお楽しみいただければ幸いです。
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