呪叨廻語 〜この世全てに呪われた女〜   作:ヤッサイモッサイ

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1話 計略

━━━天与呪縛。

 

呪術の世界において、縛りとは自身のうちで、或いは特定の他者間において、明確な同意を持って作られる1種のルールである。

使い方によっては術式効果の足し引きを行い、無駄を削ぎ落として尖鋭化させることにも、他者との契約にも用いることが可能である。

 

ただし、天与呪縛に関しては唯一例外的に“本人の同意”無しに結ばれる。

逆を言えば狙って縛ることが不可能とも言える。

この縛りは通常のそれとは異なり、先天的に持って生まれてくる、いわば世界と個人との縛りのようなもので、それによって縛られる内容も得られる効果も通常の縛りでは成し得ない物となる。

 

此度話すのは“被呪”の天与呪縛を受けた少女のこと。

被呪とは即ち、呪いを被ることである。

常に全てから呪われ、彼女に降かかるものは全て呪いへと変換される。

常に呪いに対する引力のようなものが発生しているため、呪いの気配すら欠片も漏れない程に体の芯から呪い漬けにされる事を余儀なくされる。

 

天与呪縛の対象はその者が生まれ落ちた瞬間より始まる。故に、母の腹の内にいる頃から少女は世界に呪われ続けていた。

親からの愛すら、呪いに変換されては少女の体を蝕み続けた。

当然その様な赤子が無事に生まれるわけも無く、腹の中で幾度と無く生死の境をさ迷うこととなる。呪いを腹に溜め込んだ母体とて無事では済まない。

 

それでも彼女がこの世に無事に生誕したのは、これまた天与呪縛のおかげであった。

彼女がそのような体質と引き換えに得たのは、奇跡的なセンスとでも呼ぶべきもの。

母の腹の内で生死を彷徨う内に、その身に宿る呪力の核心を掴み、初めて行使した呪術ことが“反転術式”である。

 

負のエネルギーと呼ばれる呪力同士を掛け合わせる事で発生する正エネルギーにより、肉体の治療を可能とする高等技術を、少女は脳が形成されて間も無く習得し、無意識に発動させ続けた。

 

呪いと共に育つ彼女にとって、従来消費の重い反転術式を回す事はさしたる負担では無い。しかし、如何に常識外れの呪力総量と出力を誇った所で消費し続ける呪力を担保しきることは土台不可能である。

故に少女は無意識下に置いて自己補完の範囲を定め、それによって回せる程度の反転術式にて母体と自身が死なない程度に正エネルギーを循環させ続けた。

 

そうしてこの世に生まれ落ちた後も、少女は同じ事をただひたすらに繰り返すだけの日々を送り続ける事となる。

 

皮肉にも日々殺傷性を増す呪いによる“浴”によって、呪力の総量と出力は増し、呪いによる致命傷と反転術式は拮抗し続けることが出来ていた。

母体は彼女との縁が切れた瞬間に反転術式の対象から離れ、蓄積した呪いによって即死したが、それでも彼女はただ生きることを選んだ。

 

しかし、いつしかそれにも限界は来る。浴による肉体の変質、反転術式の出力がいくら向上しようとも、呪いの蓄積によるダメージは確実に肉体を蝕み、拮抗しているだけでは何れ溜まったダメージが彼女を死へと導く。

 

そんな運命を変えたのは、彼女がこの世に生を受けてより10年ばかりを寝たきりで過ごした後の事である。

 

呪術界の麒麟児にして最強の呪術師、五条悟との邂逅である。

 

五条悟が何かをした訳では無い。彼はただ彼女の視界に映っただけである。

 

然し、彼女が生き長らえるには、それだけで十分だった。

天与呪縛による天性のセンスを抜きにしても、彼女にはひとつの特異体質とも呼べるものがあった。

それは後に本人が“見稽古”と名付けるもの。

天与のセンスすら半ば無用にする程の彼女本人の元々の才能と学習能力、そしてそれが動けないが故に“見る事”に特化して活かされた結果、彼女はどの様な事であれ一目見れば模倣し、2度見れば完全に再現することが可能であった。

 

繰り返すが五条悟は彼女の視界に映ったのである。

六眼という完全に個人の体質による物の模倣こそ叶わずとも、その副次効果である“呪力の完全運用”に関しては当人の技術の区分である。

 

少女は瞬時にその技術を模倣し、呪力運用や術式行使の際の呪力のロスをゼロにする事に成功、爆発的に効率の上がった反転術式により自己補完の範疇は「欠片も動けぬ死ぬかどうかの瀬戸際」から「万全でこそないが動ける」程度はまで推移した。

あくまでも当人比の話であり、常人であればそれでも十分致死量であるのだが。

 

ともあれ、少女はこの世に生まれ落ちて十年と少しをして、初めて“自由”を勝ち取ったのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

改めて、お初お目にかかります。鑢家次期当主、鑢七々実と申します。

 

さて、先日から無事にと言うのも変ですが、満足に身体を動かせる様になりました…が、生憎と生活というのはそう多くは変わりません。

依然として病弱に変わりは無いですし、我が家が落ち目と言えど呪術師の家庭というのも変わりないです。一般人の様に学校に通うわけでもないのですから、ただ床の上で多少勉学だの食事だのに励む事が出来るようになっただけです。

 

とはいえ、ワタシには自覚の余裕も無ければ、この家系の事情なぞ詳細に知る由もなかったので、今更にはなるのですが。

この度ワタシの身に宿る術式が鑢家の相伝術式であることが判明致しました。

正直に言って絶えて長らくの術式ですから、今更我が家には野心も何もありはしません。しかし、状況がそれを許すことは無いでしょうね。

ワタシの事は五条家の当主に視認されていますし、当家が助け舟を依頼した事は既に界隈には回っている話でしょうから。

 

「鑢家7代目当主、鑢…七花」

 

同じく七を名前に持つからでしょうか。スっと胸に入る名前です。

鑢家の御先祖様にして今の鑢家の形を2代に分けて作った内の2代目。

歴代最強にして江戸時代最強の術師、それが鑢七花。

 

その様な存在と同様の術式を持って生まれたのが、ワタシ。

宝の持ち腐れ等と嘯くつもりも無いが、話ほど上等な術式とも思えない。

こんなものを持っているから何者かにならなくてはならないと言うのなら、全くどうしてその様な思惑こそ斬り捨てたい。

 

 

 

アァ━━━■■■■(■■■■)

 

━━━多くの問題は何も解決をしていません。

何事も無いまま、生きて、生きて、生きて、生きて、そのまま死ねればいいのに。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

呪術総監部。

呪霊の動きが活発な日本に置いて、古くから政と呪術師は切っては離せない存在であった。

故に現代においても呪術師達は政治の中枢たる日本政府内に深く入り込んでいる。

 

表に公表されることの無い闇の部署、その中でも一際深い位置に居るのが、呪術総監部である。

御三家も深く関わるそこでは、今日も多くの議題が話されていた。

 

「それでは、次の問題だ。先日より話には上がっていたが、“鑢”の事よ」

 

姿は見えない。されど誰にも映ることの無いその闇の中で、六つの姿隠しが浮いている。

彼等こそが呪術総監部最高決定機関。日本政府内においても高い位置に存在し、闇に紛れる呪術師、ひいてはその本元たる御三家の血を引く者たち。

多くは加茂家の血筋を引き、長年人外魔境の中で呪い呪われを繰り返してきた彼等は、半ば魑魅魍魎と言って差し支えなく、それで居て人間の“(かしこ)さ”を極めた老獪さを合わせ持つ。

 

「それよ。誠であるのか?あそこの家は相伝が絶えて久しい。今更あの術式が帰ってきただと?」

「口にするのも忌々しいが、あの五条の当主が直接見ている、六眼は本物だ。仮に鑢の小僧が謀ろうとしたところで、五条悟は誤魔化せまい」

「それでは誠に…この際天与呪縛の事は抜きにしても、鑢の相伝であれば呪術界は大きく動くぞ」

 

珍しく動揺を見せる同輩の姿に、他の声が狼狽えるなと、叱責をとばす。

 

「…呪術師の動きはコントロールが可能だ。幸いにも“鑢”は元々我ら政府の狗、働きかければ否とは言わせぬ。呪詛師は問題にもならん、奴らにはアレの価値など分からぬだろう」

「呪術師と繋がる奴らが働きかけるかもしれぬ。卑しき奴らよ、金品を積めばそれだけで奴らは動くぞ」

「何方にせよ、遅かれ早かれでは無いかね。アレの回収をするのであれば、最も怪しいのはそれこそ国内在野に散らばる呪詛師共であろう」

 

状況は本人の与り知らぬところで進んでいく。

老人達の頭の中に、もはや鑢家の意見など存在しないのだ。

病弱、特異体質、年齢、性別、それらを無視して、当然の如く使い潰すつもりでいる。

 

「然り。とは言え、まずは使い物になるのか否か。如何に彼の有名な相伝術式とは言え、結局の所それを成したのは鑢七花ただ一人のみ。同じ事が此度の鑢に成せるのか否か」

「では、試練か。生半可な物では試金石にもならんぞ」

「先日1級術師が行方不明となった件があったな。それなぞどうだ」

「流石に推定特級案件はまだ早いのではないか。あの術式の事は我らすら仔細を掴めてはいないのだ」

 

老人達の頭にあるのはある種の“悲願”。

数百年も前より日本政府が、総監部が形を変えながらもずっと願い続けていた一つの宿願である。

 

「であれば、それこそ特級を付ければよかろう。補佐役として危険があるまで手を出させなければそれで良い」

「九十九か?制御出来んだろう。それにあれの思想は些か目に余る。まかり間違えておかしなことでも吹き込まれてみろ」

「五条悟だ。聞けば何やら件の少女の下を訪れてから様子がおかしいらしい。上手くすればまとめて抱き込めるやもしれん」

「五条悟といえど、所詮はまだガキよ。まぁ何れにせよ、鑢の倅をだしにすれば特級への要請は容易だ。後は縛りでも結ばせれば、少なくとも今回の件でどうこうなる事もあるまい」

 

“九十九しかり、五条しかり、無論鑢しかりだ”

声達はそう締め括った。

 

「━━━それでは、満場一致ということで良いな」

「左様、鑢には試練を。それを乗り越えた暁には、アレの回収に取り掛からせる」

 

然し、呪術総監部はまだ知らない。

老獪な爺婆をして、未だに経験したことの無い、本当の意味での異才を知らない。

 

「アレの回収もまた特級案件。贅沢な事だ、呪術師になってそうそう特級術師となるとはな」

「実際には使い物になるまで幾つか当てねばならぬだろうがな。万が一に此度の呪霊を見事祓ってのけたとしても、アレらは並の特級のそれとは訳が違う」

 

五条悟を中心に世界が変わったように。

かつては宿儺を中心に世界が形成されていたように。

そして鑢七花が世界を回していたように。

 

「━━━四季崎記紀の残した特級呪具、“完成系変体刀十二編”全編の回収。かつて鑢七花が達成し、後にその全てが姿を晦ました」

 

鑢七々実は紛れもなく、そちら側の人間であり、彼女の快復とともに、世界には帳が落ちた事を、今はまだ、五条悟以外の誰一人として感じ取れていなかったのだ。

 






1話で書きたいように書いたので、そこの補足と次回への布石回です。
あまり設定を上手い事本文に載せるのが得意な質では無いので、後書きや続きの話で遅れて補足することがよくあると思います。

呪術総監部わかんねぇよ。後呪術廻戦0より前の時系列のこともよくわかんねぇし…やっぱまるっきり捏造するっきゃないですね。

あとごめんなさい、作者は呪術廻戦は単行本までの知識しかないので、矛盾が発生する可能性があります。
教えて頂くのは別に構いませんが、感想欄など人の目につくところですと他の方の目にもネタバレが入ってしまう可能性がありますので、そういう場合はメッセージ等でこっそり教えていただけると助かります(どのように修正対応するかは未定です。無理やり合わせるかもしれませんし、改稿するかもしれませんし、独自路線を走るかもしれません)
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