7月20日━━━下倉1級術師の反応を消失。
都内解体予定の廃ホテルにて、作業員の連続失踪を受け窓を派遣、呪霊の残穢までを確認したが、それより先の被害者及び呪霊の足取りなどは掴めず。
捜査を高専所属下倉1級術師に引継ぎ、この件の対処に当たった。
引継ぎ後4日目、2度目の現地調査の際に当該術師からの定期連絡が途絶えたため、待機中の補助監督より連絡を受け、付近にて別任務に当たっていた山野辺1級術師及び宍戸準1級術師(昇格待ち)が現場へ急行、下倉1級術師の痕跡は確認できず、これより下倉1級術師を行方不明と判定し、以後本件を特級案件と認めるものとする。
「━━━きなくせぇ、上層部のハゲ共の思惑が透けて見える」
「いえ、あの…はい」
私事ですが、先日車デビューを果たしました。
人生初の車、まぁ市井を呪術師が疾走するわけにもいきませんし、問題無いにしてもワタシの様に体の弱いものが無茶をするものでもないでしょう。
そう考えれば便利な物かと。
「恥ってものを知らないのかねぇ。あー、やだやだ、頭でっかちの爺婆の考える事は」
齢10になるまで無学の身であったとはいえ、時折視覚と聴覚により情報収集は行っていましたから。言語やその他基礎知識は問題ないと思いますが、些か呪術に関する事や一般常識は疎い所があります。
「頭の中の隅から隅まで苔でも詰まってんじゃないの?」
ムラがあると言った方が近いかもしれませんが。
まぁ細かい事は追追覚えていけば良いでしょう。大概の事は何かを手本にすれば何とかなりますし、それに何故だのなんだのを気にし始めたところで、大概の事は知った所で関係の無い事です。
「…おい」
とは言え、あまり一般からそれた行動を肯定する訳ではありません。奇抜な行動はそれだけで目を引きますし、非効率ですから。
その点で言えば屋敷の外の方々は洋服ばかりを着ています。知識としては知っていましたが、今後はワタシも和装ではなく当代風の装いに変えた方がよろしそうですね。
「おい、テメェ」
家の中の方が皆さん和装なので、錯覚していましたが、おそらくこれで街中を歩けば注目は避けられないでしょう。
人の目を意識して動くことも可能でしょうが、一々気にするのも面倒でしょうし、それならば素直に洋服を手配していただく方が早そうです。
「おい━━━無視すんな」
「なんでしょう」
…ワタシに話しかけていたようです。
事前にお父様からお話は伺っていましたが、随分と唐突に車に乗せられて以降、ワタシに視線が向かないのでてっきり運転手の方に話しているのかと。
「悟様、どうかなさいましたか」
「━━━今回の任務、なんで受けた」
ほら、また。振り向いて視線を合わせれば、直ぐにでもそっぽを向いてしまわれました。
まぁ、苦手意識を持たれているのだろうというのは何となく分かりますが。
六眼は余す所なく呪いを情報として拾ってしまう魔眼ですから。呪いだらけの我が身がどのように映るのか、想像に難くありません。
なんなら、その情報量を一々映して脳の消耗を早める理由もないのでしょう。
「何故も何も、断る理由がありませんが」
「受ける理由もねーだろ。わかってる?あんたいい様に使われようとしてんだよ」
“腐れ外道共の、いい使いっぱしりとして”
そんな言葉が着いてきました。まぁ、確かに裏には様々な思惑が蠢いているのでしょう。
半分ほどの理由には何やら
様も含まれているような気もしますが。
「…さぁ、何故なんでしょうね」
「何、はぐらかそうとしてんの?それとも被虐体質とか?」
「他意はありませんよ。そういう
そういう不自然さの話であれば、ワタシよりも余程ほかの方の方が不思議である。
中でも特に五条悟、この男が乗ってくる方が意外性としては大きいでしょう。
呼ばれ方が気に食わないのか何なのか、舌を剥いてマヌケ面を晒しながら返事が返る。
「政治的な話は置いておいて、一つは上層部の連中の思惑通りに動かしたくなかった。もう一つはただの興味だ」
「天下の
「それ、アンタが言う?鑢家の期待の星だろ。鑢の相伝術式とやらも、アンタ自身にも。何が出来んのか見てやろ〜っていう純粋なる好奇心だよ」
「あら、何も面白いことなどありませんよ。ただ、伸びてきた雑草を刈り取る、そういう程度のお話でしょう」
そして、そういう家に生まれた。ただそれだけの事。
だから、“断る理由がない”
「アンタこの前まで寝たきりだったんだよな」
「えぇ、そうですね」
「どこからその自信が生えてくんの?」
「よりにもよって
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場面は転じて、件の廃ホテル。
今回は五条悟も居ることから、最悪ホテルごと破壊する事を視野に入れて、補助監督は少し広域に帳を降ろした。
「残穢はまだ残ってる。呪霊はここに居る」
他でもない六眼の断言、然し熟練の術師が立ち入っても呪霊の発見には至らなかった。
となれば考えられるパターンは絞られる。
「特定の条件が必要なのでしょうね。該当した者を、自身の領域に問答無用で招き入れる」
「面倒臭いし、まるっとぶっ壊すのも手だぜ。泣きついてくるならやってやるけど」
「不要ですよ、裏を返せば特定の条件さえ満たしてしまえば、拒むことは出来ない訳ですから」
まだまだ解体の進まぬ廃ホテルの中を少年少女が進んでいく。
傍から見れば微笑ましくも叱られてしまうような子供のお遊び。
然しそれを見送る補助監督の目には、もっと恐ろしいなにかのようにしか映らない。
五条悟だけでなく、それと対等に肩を並べていくその少女が、何故そのように見えるのか。
事が終わるまで外で待機していた男が答えを得るのは、もう少し先の話である。
「工事用の囲いがあるのですから、工事は進んでいたはずです」
「そうなんじゃねーノ?」
「ですが、呪霊が動き出したのはつい最近の事。1階の内装が少しだけ解体されていたことから、内部作業が始まってからでしょう」
今回の件に置いて注視するべきは呪霊が領域を持っているであろう事ではなく、呪霊の活動条件。
何故、作業員は呑まれて、従業員他は呑まれなかったのか。
何故先行していた1級術師は呑まれ、後発の二人は呑まれなかったのか。
「真っ先に考えるのは、解体作業の際に、起こしてはならないものを起こしてしまったこと」
となれば領域の入口は解体作業の手が掛かっている所にほかならない。
「そして恐らくそれは、特定の条件に当てはまる人間にしか認識出来ない」
でなければ来る人間全てが領域に囚われていなければならない。
「そして、容易に思い至る作業員達と術師との共通点の中で、性別等の可能性の低いものを差し引いていくと」
「一度、外に出ましょうか」
「真面目ちゃんかよ」
長くなりそうなので1度切りますが、戦闘シーンまで言うて一息ですし連続であげちゃいますね