呪叨廻語 〜この世全てに呪われた女〜   作:ヤッサイモッサイ

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連続して投稿してます。
前話も、あまり話は進んでませんが、見てくれると嬉しいです


3話 喪失

此度の件において、鑢七々実が注視したのは作業員他ホテルへの出入りの回数である。

 

そして、行方不明の人間が発生した段階で操作の手が入り、その上で1級術師が来るまでは誰も居なくならなかったことを考えるのであれば、人を探す上では見ないような場所にその入口があることは想像に難くない。

 

ホテルに入ったのが2回目以降の人間で、解体中である場所で、人の捜索で観ない場所。逆に作業員や術師が見そうな場所で、かつ意識する見た目

 

「━━━ありました。壁の内側です」

「狭間だな。境界の考え方にも近いけど、土地柄的な呪いが地下から吹き上がってホテルの狭間にたまり込んだ。擬似的なホテルの裏表とでも言えばいいか」

 

片側をぶち抜かれた壁の内側に、1枚の御札。

 

「こんなものが出てきたら、1度そこで作業の手は止まるでしょう。そして、作業員を集めて話をしたはずです」

「もれなく全員が2回以上来てる人間だし、こんなものでも気味悪がって解体は1度止めるだろうな」

「そして全員が集まったタイミングで漏れなく呑み込まれた。1回目のときには無かったはずですから、やはり回数が条件の様ですね」

 

呪術師であれば、近づいただけでその気配を感じとれる。

そこにあからさまにこんなものがあれば、あとは同じ結論に至るだろう。

 

「さて、さっさと中に入りましょうか」

「一応改めて言っておくけど、1級術師が中で生きてるにせよ、死んでいるにせよ、対処できてない時点で推定特級相当だ。俺は“縛り”の関係でお前が泣きついてくるまで助けられない」

「…なるほど、“縛り”ですか」

 

歩みを止めず、ただ真っ直ぐに領域の境界目掛けて2人は進む。

 

「領域には一緒に入るけど、泣きついてくるまでは自己責任だから」

「お気になさらず、無知浅学の身ではありますが━━━言われずとも見れば分かりますから」

 

手を伸ばし、その指先が御札に触れたその瞬間、

 

 

 

世界が反転した。

 

 

 

上下左右前後色調から何から何まで。

 

「…なるほど、これが領域」

「呪霊に限らずだけど、領域ってのは総じて何らかの効果を持ってる。さすがに詳細は知ってるだろうから省くけど、今回の場合は“反転”の術式だ」

 

五条悟の体を、呪力が覆う。なにか細かいものが弾けるように、体表付近で呪力が跳ねていく。

 

「…それは?」

「あ゛ー、領域対策のうちの一つだよ。体の動かし方まで反転させられたんじゃめんどくさくてしょうがねぇ」

 

七々実は納得したのか、頷きを入れてから歩き始めた。

 

「便利な物ですね。そのようなものまであるとは」

「呪術師の戦闘は凡そ“術式以外の要素”で決まる。勿論術式が強いに越したことはねーけど、それ以外がクソな奴はいくら術式が強くてもそこ止まりだ」

「━━━無下限のアナタでもですか?」

「俺は例外。無下限を縛った所で俺に勝てるやつなんて居やしないよ」

 

絶対の自信。

彼が、最強と言われる所以だろうか。

 

後に、とある男はこう評した。

“五条悟だから最強なのか、最強だから五条悟なのか”

 

余人がいくら争ったところで、現代の最強の座は既に埋まっている。過去の椅子がその様にして定まっていたように。

近代の席も同様に、そこは無限の王の指定席であった。

 

「━━━なるほど」

 

全てが反転した世界で、やけにその声が響いた。

 

反転した世界にあっても、真実は嘘にはならない。“最強”の宣言は、静かに、しかして覆ることの無い絶対の宣言だった。

 

「それは━━━()(■■)■■■■ですね」

 

領域の反転に飲まれた声に、五条悟が反射的に聞き返そうとしたその瞬間。

 

領域内に現れた特大の呪力二つに領域の主が反応する。

 

「………。」

「━━━━━。」

 

腹の中に飛び込んできたご馳走に歓喜しているのか、はたまた異物への怒りを顕にしているのか、領域全体が胎動し、反転していた色彩が強く瞬く。

 

遠くから聞こえ始めた怒号は、建物の軋みにも、今までに呑まれた被害達の怨嗟にも聞こえてとても不快感を煽る。

 

「来ましたね」

 

周囲の天変地異もなんのその、二人の異才は瞬時に情報の処理を終えて、必要な情報を見逃さない。

視界が落ち着いた際に、通路の奥にポツリと現れた人影を揃って見据える。

 

その奇姿を一言で表すのならば、ボロキレを纏った老人だろうか。

真っ赤な━━━そう、腐った血のように真っ赤な襤褸纏、   ‎肉を削がれたかのように細く渇いたその身を、頭から包んでいる。

 

「くっせぇ」

 

形容詞を用いずに表現すれば、人間の皮膚をむりやり剥いでひっくり返して頭から被ってる、皮膚と大部分の肉を失った骸骨。

顔だけが綺麗に白骨剥き出しになり、本来ならば表情を作るものなぞ全て失っているにもかかわらず、その髑髏には憎悪が張り付けられていた。

 

「あら、匂いは届くんですね」

「別に、匂いだって分子配列で決まる情報に違いは無い。もうなんにも感じねーよ」

 

されど、どんな怨嗟も憤怒も憎悪すらも、届かない。

受け取る気がないものに、見る気が無いものに、見る価値の無いものは映らない。

 

そこにある歴史も意思も願いですら

 

「本当に便利ですこと。ワタシにはそんなものありませんから、臭い物には蓋をしなくちゃ」

 

届かず捕えられず一考だにされない。

これは呪いの物語。呪うものはまた呪われるもの。

 

「鑢家長女“(やすり) 七々実(ななみ)”、経験不足などあるとは思いますが、何卒よろしくお願いしますね」

 

身をさくような憎しみに任せ、新たな生命を求めて現れた呪霊の眼前に、先程まで遠く離れていた少女が映る。

その距離およそ九間を一息につめ、眼前にて少女が両手を振るう。

 

誰もが気にも止めていない、この領域の効果は五条悟の言う通りに“反転”。

 

中に存在するものはありとあらゆる活動を反転させられる。

その中でまともな動きなぞできるわけもなく、反転の呪いが浸透仕切れば次は呪力操作が、仕舞いには肉体が表裏反転して死に至る。

呪力量が多い術師へと、対策を練られるよりも早く呪いを浸透させるべく、呪霊は自ら姿を現した。

 

その行動に何ら間違いは無い。黙りを決め込んだ所で、五条悟の感知からは逃げられない。領域ごと破壊されかねない以上、即殺は正しい選択であった。

 

名も無き呪霊の誤算はただ一つ、五条悟は今回おまけでしかなく、襲撃の本隊たる鑢七々実に置いて全感覚の反転なんぞ障害にならなかった事。

 

呪霊にとっても急所である首を狙いすまして交差する一撃、認識出来たのは振り切られたあとである。

 

「…なるほど、危うく腕を捻じ切られるところでした」

 

そう、認識出来たのである。呪霊の体表を走る“物理現象の反転術式”の前に、全ての攻撃は反転し接触面へと返される。

即殺の呪霊に対して、同じく即殺を選んだ七々実はその実、攻撃手段を多くは持たない。

知識すらあやふやな中で現状の少女にできることは呪力による肉体の強化と反転術式による自己治療のみ。類まれなる戦闘勘と肉体制御により平時と変わらぬように動けたところで、尋常の方法であれの防御を抜くことは出来ない。

 

生き長らえたことで初めて攻撃を認識できた呪霊の防御は全自動である。速さも威力も無関係に来たものをそのまま返すそれは、五条悟にも勝るとも劣らない絶対防御。

反射的に手首を返す事で反射された攻撃をそのまま受け流すことは出来たが、鑢七々実にこれを抜く術は現状存在しない。

 

「まぁ、完全な防御ってわけじゃない」

 

はるか後方にて、五条悟が呟いたように。彼自身の防御も無敵でこそあれ絶対では無いように。

その蒼い瞳の君は、真実を見抜いていた。

 

呪霊は人間と異なり生存の為に多くのものを必要としない。それ故に五条悟が意識的に術式の対象から外している空気と言ったものすら“反転”の対象に含むことが出来る…が、しかし呪霊であるが故に呪力を反射することは出来ない。物理的なものに纏わせない、純粋な呪力により構築されたほぼ全てを拒むことは出来ない。

それ以外にも分子単位での認識が必要な“無限”などは反転の対象になり得ない。

大抵の成熟した術師において、領域さえ無ければ防御の突破は不可能では無いだろう。

 

「でも、鑢七々実(オマエ)はどうする?」

 

初撃に失敗し、呪霊の手前にて静止した七々実に、現状の手札で突破の術は果たしてあるのか。

五条悟に言われるまでもなく、七々実は思考を巡らせていた。

 

物理現象の反転、対象の取捨選択、適応時間、反転方向、課せられた領域内における活動可能の時間上限、自身の肉体の限界…

 

それ等を考える時間は時間にして僅か、刹那とでも言うべき時間である。

 

されど呪霊とて特級相当、ソレの殺意は本能であり、眼前にて明確に隙を晒す獲物に対して刹那の間も置かずにその脅威を発揮する。

 

反転する体表に、触れさえすれば勝ちなのである。本能で導き出された合理性により、眼前の少女に対して、抱き着くように腕を広げ飛び掛る。

 

「■■■■■■■■ッ!!」

 

意味不明な唸り声を上げ、全方位から迫り来る死の抱擁に、同じく少女も本能にて応える。

構えもなく、動き出しもない。体外での呪力操作なんぞ未だ見ていない。

 

━━━しかし、体表での呪力操作は既に三度見た。

 

ドチャチャ、と水気のある物を連続で刃物が抉る音が響く。

その光景を控えて見ていた五条悟は、二度目の光景に確信を抱く。

一度目は床に伏せていた時に自身の呪力運用を、そして二度目は今、先程見せた対領域御三家相伝、その名も

 

「━━━落花の情ッ!?」

 

自身の体表に循環させた呪力に、呪力や術式、物理的な作用が働いた際に全自動で身にまとった呪力を刃として射出、触れたものを迎撃するひとつの奥義である。

本来であれば物理的な必中効果を付与する領域内における対策のひとつであり、この様な領域においての手段としては余り選ばれない。

しかし古式であったり門外不出であったり、そう言った柵の外にあるこれを、五条悟が領域対策として選んだ事が、七々実に限定的でこそあれ体外での純粋な呪力による攻撃手段を与えるに至った。

 

「やはり、別に領域に対してじゃなくとも使えるんですねこの技」

 

そして事も無さげに、御三家の技を模倣した鑢七々実の特異性もまた、同時に披露される。

 

「見ただけで、再現する才能…」

 

皮肉にも、領域に入った直後に鑢七々実との間にて交わされた会話が脳裏を過ぎる。

“術式以外の要素の重要性”。

それに置いても五条悟は他の追随を許さないと断じたあの会話。確かに六眼を持って生まれた己は、呪力の運用に対するアドバンテージも圧倒的であり、才能に愛されたかのように多くの技法を学んで直ぐに実践出来る素養があった。そしてそれを学ぶ事になんら支障のない家系に生まれ、圧倒的な呪力量と術式まで兼ね備えたことで、“最強”であることに疑いの余地などないだろう。

 

しかし、眼前のそれは自身のそれとは全く事情が異なる。

如何なる最強と言えど、その技術も体術も、努力はしたのだ。経験からの学びがあってこそ、習得が叶ったのだ。

鑢七々実は直感により反転術式を習得し、自動行使に辿り着き、寝たきりの女児であったにもかかわらず阻害をものともせずに特級呪霊の認識を超えた速度で動き、見ただけで五条悟特有の呪力運用と御三家の相伝を模倣した。

 

 

 

疑惑は確信へ、疑念は核心へ。

ここに至り、五条悟は眼前の存在を明確に恐怖するに至った。

この後呪霊がどう足掻いたところで、結末は変わらないだろう。それ故に、五条悟は呪霊に対しての“観”をやめ、脳の処理能力を100%鑢七々実へと集中する。

 

全身を呪力の刃に貫かれ、その噴出の勢いと共に壁に縫い付けられた呪霊を余所に、再び肉体の全感覚が正常に戻った鑢七々実は追撃を諦める。

“見たのはここまで”であり、その先である能動的な呪力放出は“未だ見ていない”が故に。

本来であれば学ぶ順序が逆だと、後の五条悟は語るが。今はそれが全てである。

見た事しか出来ない訳では無いが、その方が良いとこの時の七々実は無意識にそう結論付けた。

 

どちらにせよ、勝利条件が反転した。触れられらば死んでいたのが、触れれば殺せるに変わったのだ。

 

そしてそれは呪霊も承知の上、触れれば殺される。そして相手の動きは認識出来ない。

ならば、距離を取り、遠距離からの攻撃にて殺す。

身体から呪力の刃が抜けるや否や、呪霊は大きく距離を取り体外での呪力操作を始める。

特級呪霊による呪力放出、その出力はそれだけで下手な建物を破壊し尽くす威力を持つ。

そして本来収束して置かなくては拡散するそれを、呪霊は再び体内に取り込んだ。生み出された禍々しく輝く呪力の珠を、口より飲み込み、体内にて形成した反転の膜にて包み込む。

体外からは呪力を遮ることは出来ないが、体内であればそれも可能である。

拡散する力は反転し、圧縮する力へ。

ホテルの廊下を抜けホールに陣取った呪霊から、逃げ場のない2人目掛けて高圧力の呪力砲が打ち出される。

 

常人であれば死を覚悟する光景を前に、奇しくも二人の思考は一致していた。

 

“近接が不利になれば次は遠距離から”と呪霊は考える。距離をとって、行儀良く溜めて、呪力を打ち出してくるだろう事は、奴の術式を考えれば想像に難くない。

 

溜める時間、射出してから着弾するまでの時間。

 

「こうでしょうか」

 

そこまであれば、“模倣できる”

 

体表にて留まっていた呪力が、明確に意思を持って掌に集中する。

上品に宙に添えられたその上で、長年の浴によって重く、深く、そして暗く濁った純粋な呪が、瞬き踊り出した。

 

「同じようにしたつもりですが、少し見た目が違いますね。まぁ線香花火のようで綺麗なので構いませんが」

 

そっと蒲公英の綿毛でも風に載せるように、軽く押し出された呪力塊は、直後に空間を白く焼きはじめ、爆ぜたかのように加速して、対向してくる呪霊の砲撃と衝突し、寸分の拮抗もなく其れを撃ち破ると領域を削りながら呪霊を飲み込んだ。

 

呪霊の体内で砲撃が圧縮加速したように、領域の中で次は七々実の砲撃が拡散と圧縮を繰り返しながら縦横無尽に破壊を振りまいていく。

 

「…あら?」

「━━━いや、見てないことは存じませんじゃねーだろ!?」

 

呪霊は祓われた。五条悟をして思わず青ざめる様な、“明らかに過剰な出力”の砲撃は間違いなく、その余波だけであれを祓うに値する。

問題はその軌道を大きく曲げて、ホテル内を乱反射している砲撃にある。

間もなく領域は解除され、自分達は生得領域の外、元のホテルへと吐き出されるだろうが、その際にあの砲撃も反射をやめて、進路上にある全てを呑み込み尽くすだろう。

 

「…困りました。考えてみてもそれを止める術が私には無いようです」

 

自分の元に来るのであれば、と続けられた言葉を聞く余裕は既にない。

特級呪霊が祓われた事で縛りから開放された五条悟は瞬時に術式を起動する。

 

“無下限術式”、この世に遍在するとされる“無限”という虚数を現実に生み出し、操ることを可能にする術式。

言ってしまえば体積が不確定な空間を自在に操るような術式であるが、それを応用することで物を寄せたり、逆に離したりする事ができる。

 

「━━━術式順転“青”」

 

既に崩れ始めた領域の中で、五条悟は咄嗟に生み出した巨大な無限を上階、即ち空目掛けて打ち出す。

万物を引き寄せる力の塊となった空間は反転の効果が切れた瓦礫を呑み込み、逆に反転が残った箇所には斥力として働き領域を破壊して突き進んでいく。

 

力技には、力業で対抗する。“青”は一直線にホテルを縦断し、ホテル上空に飛び出した段階で規模を拡大。

補助監督が張った帳すら飲み込みながら、ホテル丸々と中から飛び出してきた呪力砲撃を呑み込みきって無事消滅した。

 

 

すっかりと更地になった都心のホテル跡。僅かばかりの1階フロアと基礎のみになったそこには、目を白黒させる補助監督と2人の少年少女が残る。

 

「…ホテルを壊したのは、ワタシではありませんので」

 

もはやツッコム気力が無い五条悟は、ただ一言

 

「お前はもう砲撃禁止」

 

とだけ言い残して先に車へと乗り込んで行った。

 

その言葉を聞いて、少女が何かを思いついたような顔をしていたのを、六眼でも捉えることはできなかったのである。

 









なぜ喪失なのでしょう(しらばっくれ)
何を思いついたのでしょう(しらばっくれ)



七実とはどんなキャラだったでしょう(半ば自問自答)
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