俺の部下が配信者かもしれない   作:ぺとら

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第五話

いやぁ、気まずいなぁ、と。

 

俺が悪いのは知ってるけどね?

俺がいらないことを言ったせいでこんなことになっているのは知ってるけどね?

 

それはそれとしても、なんかこう、気まずいなぁ、と。

 

「作戦終了。帰投する」

 

なんでこう、ちょっと気まずい空気になった瞬間に、当人と2人きりでの遠征任務が入っちゃうのかなぁ。

 

もちろん大尉は作戦行動に私情を持ち込む人間ではないから、期待された仕事を完璧に熟してくれたんだけど。

それはそれとしても、ことあるごとに俺の方をチラチラと見てくるのは、つまりはそういうことなんだろ?

 

気まずいよぉ!

 

「……大尉。帰投するぞ」

 

だけど、どんなにギクシャクしてようが俺たちは軍人だ。

国に帰るまでが作戦だし、そのためには個人のあれやこれやは無視しなければならない。

 

仮に作戦遂行に支障を来すのなら、俺は監督者として責任を持って『対処』しなければならない。

 

大尉がしっかりとした軍人で良かったね。

配属当初はとんだ跳ねっ返りが来ると聞いて戦々恐々としていたけれど、大尉は思っていたよりもいい子だ。そんなに話したことないけど。

 

「…………大尉?」

「──ッ!? 失礼しました!」

 

……まぁ、うん。何も言わねぇよ。

 

大尉が作戦行動中に俺の様子を窺ってくるのも、前衛を任せたら後衛の俺にめちゃくちゃ気を割いてくるのも、戦闘終了後もいつも以上に気を抜かねぇのも。

普通なら叱責するような有様だが、作戦自体は円滑に完遂することが出来たんだし、何より事情が事情なので、俺は何も言えないのだ。

 

俺を優柔不断と笑いたければ笑うといい。

 

ただし笑ったやつは皇国軍式ブートキャンプに行ってもらう。

あまりに過酷な行軍のせいで新兵がバタバタと死んでいく地獄みたいな訓練だぜ。

 

戦争の前に訓練で兵士殺してどうするんだよってな。

 

 

……あぁくそ、余計なことでも考えて気を紛らわせないとおかしくなりそうだ。

 

 

はやく帰りたい。

 

家に帰ったら推しの配信を見るんだ。

趣味とかなんにも無いくせに給料だけはたんまりとあるから、スパチャスパチャスパチャの嵐でエリート軍人の力を発揮出来る。

 

至高の娯楽を提供してくれる素晴らしき人々のためならいくらだって貢げるぜ。

名前を呼んでくれなくても、コメントを読み上げてくれなくても、俺は推しの配信を見ることが出来ればそれで満足なんだ。

 

推しの配信を見ればなんだって出来る気がする。というか出来る。

 

ちょっと前にも大規模作戦の前夜にこっそり配信を見て、「大きな仕事が迫っていて不安なんです……」と言ったらがんばれ♡がんばれ♡を頂いた。

俺はあの応援のおかげで敵国の首都を陥落させることが出来たのだ。

 

ふむむん、そうなるとかの国を攻め落としたのは我が推しのがんばれ♡がんばれ♡ということか。

やはり配信者のポテンシャルは無限大だな。俄然配信を見たくなってきた、俺にもその無限の可能性を分けて欲しい。

 

というか、まさに今、その無限の力を分けて欲しい。

よし、今夜は雑談配信にお邪魔して「部下の女の子との距離感が……」とでも質問を投げよう。

 

俺が欲しいのは答えではない。何も知らない無垢な誰かの、無責任な後押しなのだ。

 

 

「……あの、中将」

 

口ごもっていた大尉は、やがて何か決心したように表情を固め、重苦しく口を開いた。

寡黙で職務に忠実で無駄口を嫌う大尉にしてはいたく珍しい、会話の最中に言葉を探しているような、そんな感じ。

 

「なにかな、大尉」

 

俺に求められるのは冷静な応答。

それも当然、上司として理想的な。

 

寛容に受け止める……っ!

次の言葉を急かさない……っ!

勝手に結論を出さず、最後まで言葉を聞いてから考える……っ!

 

皇国でベストセラーを叩き出した『理想の上司、嫌いな上司』や『パワハラとの向き合い方』、『共和国民でも分かる上司の訴え方』などの名著を読み漁って日々勉学に励む俺に敵はいない。いたら消す。

 

ここは大人しく待ちの姿勢を取るんだ。

間違っても何を言ったらいいか分からないという訳では無いことを明記しておく。

 

「…………どうして」

 

やがて、長い沈黙の後に大尉は()()()()と口を開く。

 

「どうして、私のことを告発しないのですか?」

「…………………………?????」

 

告発??????

犯罪事実を申告して処罰を求める申告????

 

俺が???? 大尉を?????

 

「中将。いくら調べてもあなたが私の秘密を誰かに漏らした痕跡が見当たりませんでした。どうしてそんなことをするのでしょう? あなたにとって裏切り者の私を見逃す理由にはならないはず。証拠なんて無くても、疑わしきは処すが皇国のあり方でしょう? それが、どうして?」

 

処す!?!?!?

 

物騒だね!

大尉の俺を見る目が気になるね!

 

もしかして大尉、俺のことを無慈悲で冷酷な処刑人とでも思ってるの?

 

違うよ! 俺は成り行きで国の最高機密の特殊部隊の長になっちゃったタダのパンピー(一般人)だよ!

 

「……ふむ」

「今日の任務のときも、あなたは私を害する意思を見せなかった。あなたほどの軍人がそうするのはなぜです?」

 

任務中に闇討ち!?

嫌われる上司ナンバーワンじゃねぇか!

 

大尉の思考が物騒すぎて怖いよ!

 

「……そうだな」

 

 

──しかし、俺には大尉のぶっ飛んだ思考回路の原因に心当たりがあった。

 

 

「大尉。君は些か真面目なようだ」

「…………」

「ひとつ、私の考えを語らせてもらおうかな」

 

真面目すぎる、と言った方が正しいかな。

 

大尉はめちゃくちゃ真面目で優秀な軍人だ。

あるいはストイックと言った方がいいかもしれない。

 

不出来を許さず、未熟を認めず、完璧に仕事を遂行する姿はまさしく理想的な軍人のそれに違いない。俺みたいななんちゃって軍人とはワケが違う、本物の軍人だ。

 

だからこそ、うっかり始めちゃった配信業を、自分の中で消化しきれていないのだろう。

 

「この国はクソだよ。そも軍が(まつりごと)に手を出すのが間違いだ。軍閥が頂点の軍国主義。その体制は酷く歪だし、ストレスばかり溜まっていく」

 

大尉がなぜ配信をしているのかは分からないが、それを続けるということは何かしらの理由があるのだろう。

しかし、大尉の内面には同じくらい軍人としての責務、規範を守らねばならないという倫理観が強く存在している。

 

「故に我々は、柔軟に生きなければならない。誰かが法を捻じ曲げ、誰かが正義をへし折ったのならば、我々も帳尻を合わせるために手折らなければならないものがある」

 

だからこそ、それが露呈したときに大尉は明確な処罰を求めたのだ。

 

本来許されざる行為に手を染めていた、そんな私を裁いてくれ。

 

大尉の思考にも納得はいくが、それはそれ、これはこれ。

速攻で罪と罰が結びついてしまうのはなかなか性急すぎるし、大尉はちょっとせっかちだね。

 

「──なれば、()()行為も実に結構! ストレスは燃やし尽くせ、膿は吐き出してしまえ! 私は常日頃からそう思って止まないのさ」

「…………」

 

ってかさすがにそれだけで闇討ちはしないよ!

 

しても上司に告発してそれなりの処分を求める程度だよ!?

俺は間違っても軍部上層にのさばる悪逆非道鬼畜冷血ゴミカスクソ上司とは違うのだ。

 

そしてそもそも、俺は配信者の方々から日々の元気を分けてもらっている都合上、わざわざ自分からチクる必要はないのだ。

 

「いいか大尉。バレないようにやりたまえ。そして見事に完遂し、私に光を見せてくれ」

「中将、あなたは……」

 

そうだ!

バレなければ犯罪ではない!

 

そもそも我が国でも汚職贈賄横領隠蔽その他もろもろありとあらゆる不正行為が蔓延しているのだから、今更ひとりが配信してるだけで咎められる道理はない!

 

むしろ俺は大尉を庇うつもりだ。

決めた。今決めた。もし大尉が怒られたらちょっとだけ手助けしてあげよう。バレない程度に。

 

「…………」

 

だから大尉、その目を疑っているかのような顔をやめたまえ。

 

部下ということを差し引いても、君のような見目麗しい女性にそんな目で見られたら辛い。

なんかこう……メンタルの深い部分にざっくり刺さる。

 

 

 

──やがて大尉は眦を決し、いつもの精悍な眼差しで俺を真正面から見つめてきた。照れる。

 

「……中将。あなたの言葉を信じて、聞きたいことがあります」

 

なにかな。

俺はもう疲れたから早く帰って配信を見たいんだけど。

 

大尉も早く帰って配信しなよ。なかなか大尉のチャンネルを見つけられないんだよなぁ。

でもさすがに本人にそれを聞くのもはばかられる。築き上げたクールな俺のイメージが崩れちゃうし。

 

「私たちと、一緒に来てくれませんか」

 

え、なに? 共演依頼?

というか「たち」ってことはグループ系なの?

 

「私たちの理念は、きっとあなたの望みに適うはず。あなたの能力があれば、私たちは更に羽ばたける」

 

……うーん。俺は見るのは好きだけど自分でやろうとは思ったことがないぞ。

 

俺みたいな後ろ暗い人間がそんなことできるわけないだろうし、そもそも俺まで手を出すとさすがにバレる。あと俺、広報戦略とかそういうのは苦手なんだよな。

 

公的に個人情報を残したこともないし、さすがに配信への出演は厳しいだろう。

 

「……そうですか。残念です」

 

そう伝えたところ、大尉はひどく落胆した様子を見せた。

 

本当にやめてほしい。

人に失望されるのはとても辛いことなんだ。大尉のような美人さんが相手なら、余計にね。

 

……話を変えよう。

 

「次は何をするのか、もう決めているのかい」

「……革命は大詰めです」

 

……ふむ。

 

なにか革新的なことでもするのかな。

聞いておいてあれだけど、これ部外者の俺が聞いてしまっていいやつ?

 

そんな俺の懸念をよそに、大尉は熱のこもった口調で言葉を続けた。とても不用心だね。

 

 

「この国をひっくり返します」

 

 

え、もしかして炎上系!?

 

 

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