存在しないパラドックスポケモン   作:いちごの入った大福

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No.??? ウカブワタゲ

 

 

【アンダーワールド大空洞】

 

 アンダーワールド上層部の中でも特に広い、街ひとつ収まりそうなほどの空間である。地上への穴から差し込む光と、それに合わせて僅かに広がる緑が合わさって幻想的な雰囲気を演出する。

 

 

 

 そこにたどり着いた少女とピカチュウ、もといヒカルケモノはポカンと上を見上げていた。

 

 

「わあ……」

「ギュー……」

 

 

そこに浮かんでいたのは、超大型ビッグサイズの綿毛だった。

 

 

図鑑No.??? 【ウカブワタゲ】

 

 

 

 

 ◆

 

 

 大きな広間にたどり着いたわたし達を迎えたのは、超大きな綿毛であった。たぶん家くらいのサイズがプカプカと浮かんでいる。よく見たら顔みたいなものも見えるから、ポケモンだと思うけど、見覚えがない。

 

「よーし、こんなときは!」

 

 懐からオレンジ色の表紙の日記帳を取り出す。この洞窟の中で不思議なものを見つけたら、この日記帳に絵を描くことにしているのだ。

 

 名付けて【オレンジブック】! 

 

 

 

 

【オレンジブックの記述:うかぶワタゲ】

どうくつたんけんをしていると、広いところにでました。

両手では足りないほどに大きなワタゲがうかんでいたんです!

風のふかない場所でゆらゆらゆれています。たぶんポケモンです。

うかぶワタゲ、どこかで見たような……あっ! きっとワタッコでした! 

 

 

 

 

 その(たぶん)ワタッコが見える場所に腰掛けて、見た通りにスケッチを描く。大きなワタッコはこちらに気付いているけれど、ゆらゆら揺れるだけで何も動きがない。見た目通り温厚な性格なのだろう。心なしか「描いて描いて〜」と微笑んでいるようにも見える。

 

 最近、気性が荒くて襲ってくるポケモンにばかり出会っているから、このような温厚なポケモンと会えるとほっこりする。

 この洞窟に入ってからというもの、スターミー*1とかエアームド*2とかガブリアス*3とか、襲われてばかりだったから、何だか嬉しい。

 

 

「ギュー…」

 

 

 危険性がないと分かるや否や、ピカチュウもゴロゴロと地面に転がってリラックスし始める。このエリアは地上からの陽気が差し込む数少ない場所である。草タイプであるワタッコが棲家にしているのもそれが理由であろう。スケッチをする片手間、ピカチュウをわしゃわしゃと撫でる。

 

 

 ところで、ワタッコといえば風に吹かれて飛んでいく印象がある。この大きな個体は洞窟内にぷかぷか浮かぶばかりである。洞窟内に風なんて吹かないから、よほどのんびりやさんなのだろう。

 

 

「……あれ?」

 

 

 見ていくうちに気付いたのは、綿毛がわずかに飛んで、天井に開いた穴に吸い込まれる様子だった。なるほど、風がないわけではないみたいだ。

 

 よく考えたら、家の扉を開けたら一瞬だけ強い風が吹くことがある。わずかに開いた窓に近寄ると風を感じることもある。あの天井の穴はそうやって風が吹いているのだろう。あのワタッコはアレを使って綿毛を飛ばしてるんだ、頭がいい!

 

 

 この洞窟をこっそり探検し始めてからというものの、ポケモンの世界は奥が深いと感じる。ワタッコは風に吹かれて飛ぶ小さなポケモンという事しか知らなかったが、こんなに大きくて洞窟内に浮かぶだけのワタッコがいることなんて聞いたこともなかった。こうしてポケモン達を観察するだけでも楽しい。

 

 そうしてのんびり過ごしている時だった。洞窟の奥から唸り声が聞こえ始めたのだ。

 

 

「ガルルルル!」

 

 

 あっ!? あれはヘルガー!?

 ヘルガーはパルデア地方の中でも気性が荒くて危険なポケモンである。悠々と浮かぶワタッコに対して威嚇している様子だ。ヘルガーはほのおタイプ、ワタッコはくさタイプで相性が非常に悪い。このままじゃワタッコが危ない!

 

 

ヘルガー > かみくだく

 

ウカブワタゲ > コットンガード

 

 

 

モフッ

 

 

「あっ」

 

「……!!」(ジタバタ)

 

 

 噛みつこうと飛びかかったヘルガーが綿毛に頭を突っ込んで、上半身が丸ごと綿毛に埋まってしまった。ワタッコは全く気にする様子なくゆらゆらと漂っている。

 

 ヘルガーも負けじしと炎を吐いた様子があったが、なぜか綿毛が燃える様子がない。くさタイプはほのおタイプが弱点だったはずなのに。

 

 

「  」(チーン)

 

 

 ヘルガーはしばらくバタバタともがいていたけれど、諦めたように戦闘不能となって気絶してしまった。

 

 よく見たら、ワタッコの綿毛に何体もの襲いかかったポケモンが綿毛に頭を突っ込んで気絶した様子がある。大きすぎて気付かなかったが、気にせず浮かんでいるのは大らか過ぎないだろうか。

 

 

「こわい…」

「ギュー…」

 

 

 ドン引きするこちらの様子も気にせず、ワタッコはずっとゆらゆらと揺れているのだった。

 

 

 

 

 

 

【ウカブワタゲ】

図鑑No.??? 

パラドックスポケモン

タイプ:くさ/いわ

とくせい:こだいかっせい

生息地:アンダーワールド

ワタッコの遥か遠い先祖であると言われるが、推測の域を出ない。

非常に大きなポケモンであり。全身を覆う丸い綿毛から尻尾のようなものが垂れている。

気性が荒い古代ポケモンから身を守るため、洞窟内に身を潜めている。風に吹かれて生息域を広げる通常種のワタッコより効率が悪い。

 

 

*1
図鑑No.??? 【カラスノホシ】あく/エスパー 黒い菱形が重なった姿。気性が荒い。怪物級の特攻は「お前を殺す」という強い意思を感じさせる。

*2
図鑑No.??? 【カケルヤイバ】はがね/かくとう 全身刃物。物理防御が更に上がって攻撃も上がった。気性が荒い。言うまでもなく「お前を殺す」という強い意思を感じさせる。

*3
図鑑No.??? 【ナミウツカゲ】みず/じめん ドラゴンが抜けて本格的にサメになった。気性が荒い。無駄のない能力値と禁断の複合タイプが「お前をラグで詰ませる」という強い意思を感じさせる。





【オレンジブック】
スカーレットブックやバイオレットブックなどと同じくエリアゼロ探検記の内容が描かれた本。著者不明、少なくとも『ヘザー』ではない。
ごく最近に書かれたと思われ、特に洞窟内の記載が多い。
……なのだが、内容がどう見ても子供の妄想日記としか読み取れない。妙にリアリティがあるが、この本が発見されても詳しく目をつけられることはなかった。

アンダーワールドのことを指すのだと判明したのは、アンダーワールドの存在が明らかになってからであった。
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