「着きました」
車二台に分乗して現場に到着。立ち入り禁止のテープを乗り越えて入る。被害者はどういう扱いになったのか気になる。発掘調査中の人間が消えて適用できるカバーストーリーってなんだ。「不幸な転落事故」とか?でもそんな大きな段差はないしなあ。
「では、方針の確認を。鈴木さんが帳を下ろし次第、呪いの気配の濃い方に方向へ全員で移動、呪霊と接敵次第交戦。道中発見した呪霊は二級以上なら排除、三級以下は脅威とならないようなら無視。異論はありませんね?」
「構いません」「はい」「(無言で首肯)」「ありません」
いたって常識的な判断。ここで「チームを分けて探せば早く見つかるよね!」とか言い出すような奴はリーダーには選ばれない。格上相手に分散は敗北フラグ。
「鈴木さん、帳を下ろしてください」
「はい。『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」
帳が下りたら突入。二級以上の術師が四人も居れば今更二級程度に手こずりはしない。囲んで叩けば十数秒で蒸発する。
「吉村さん、術式の詳細はしばらく秘匿させてもらいますね」
「必要な時に使っていただけるなら構いません」
湯崎さんの術式は、なんだあれ?手の動きに合わせて呪霊がどこからともなく殴られてたけど、マジックハンド系列なのか、サイコキネシスを「縛り」で強化してるのか。それとも打撃の威力だけを転移させる、もしくは発生させてるのか。概念干渉系…はさすがにないよな?呪力の消費量は少なめ、いいなー。他は俺含め術式は使ってない。
配布された資料によるとどうやら奈良時代の遺跡らしいが、どうやって見分けたのやら。弥生時代の住居跡ですって言われても信じちゃうぞ。所々に竪穴があってちょっと物が散乱してるだけ。もう十分はおんなじ景色だぞ。つまんねえ。術式使おっかなー、どうしよっかなー。だけどさすがに合同任務の最中に薬物もどきはなー。でもやめられない。だって合法だから。誰にも思いつかない犯罪を裁く法律はないのである。そういえば「怨心通」使ってなかったっけ。気ぃ抜いてたか?発動っと。
あたまのなかに、おれいがいのいしがあった。
「うぇ?!」
「どうしましたか、大場君」
「吉村さん、緊急事態です。現在この場にいる全員が、既に敵の術式の影響を受けてます!」
くっそ、こんなことにも気づかなかったとは。通常の術式起動!喜、怒、哀、楽、一通りの感情を強めに流す。突っかかった何かが流れ落ちた感覚がした。十中八九敵の呪力だろう。
「全員が敵の術式を受けていてそれに気づかない、とはなかなかの事態ですね。根拠は?」
「ここは、奈良時代の遺跡なんですよね?」
「資料にはそうありましたが、それが?」
「なんで我々は、代わり映えのしない住居跡を、かれこれ十分以上も見続けてるんですか?今いる場所からでも五十以上竪穴が見えますが、この密度だとこの集落には一万人近くも人が住んでたたことになります!何せ我々はずっと直進してきたんですから」
「…あっ!」
そう。術師がしっかり十分も歩いたら移動距離は500メートルはくだらない。それが例え時々呪霊と交戦しながらであっても、である。対してこの建物の密度はどうだ。すべてがすべて住宅じゃあないにしても、10メートル間隔ぐらいで建物があったら、集落が直径1キロの円形とすると、概算で大体7500棟。集落の形が歪だったとしても、明らかにおかしい。そもそも、どうやって発掘するんだそんなもん。
「なるほど。空間を歪める術式か?」
「それでしたらさすがにいずれかのメンバーがもっと早く気づいていたでしょう。精神に働きかける類の術式かと。至急脳に呪力を流し込んで防御を、っ!」
あちゃー。遅かったか。現在立ってるのは俺だけ。湯崎さんは目と鼻から血を垂らして倒れたし、他二人は気絶した。敵の術式だろう。反応が遅れた湯崎さんは多分もう助からないだろう。くっそー、死ぬならその術式俺によこせよー。有効活用してやったのにさー。
…現実逃避もここまでだな。現状戦えるのは俺一人。対して敵は、全員に気づかないうちに術式をかけて、ばれたらそれに応じて行動するだけの知能がある一級呪霊。同じ精神系統の術式の格上。…詰んだ、か?
孤立(物理)。湯崎さんは助かりません。というわけでドン。
名前:湯崎慎吾
階級:二級術師
状態:死亡
術式:「空拳」術者が自在に操作できる透明な手を創り出す。手の動きと同期しているのは縛りによるもの。
敗因:普段一方的に殴ってばかりだったのでとっさの事態に対応が遅れた。