4月13日。
それは私が生まれた日で、定義としては生塩ノアの誕生日ということになる。
今日は早朝から夕方になるまでたくさんの人たちに誕生日を祝われ、セミナーではプチ誕生日会まで開かれてリオ会長からもメールという形ではあるけれどお祝いの言葉をもらったりした。
両手にたくさんのプレゼントを抱えてほんの少し頬が緩んだまま家路についている。
家に帰ってから中身を開けるのが楽しみだな、なんて思いながら電車から降りて歩いて数分の家までの道を歩く。
そういえば今日はミナトくんにまだ会っていない。
私が起きた時にはもう家にいなかったし、食卓の上にはいつもよりもちょっと豪華なお弁当が置いてあったくらいだった。
それ自体は別に特別変わったことではない。
ユスティティアの書記長ともなれば忙しいのはわかっているし、1日の中で会えるのが夜にならないとというのは結構ある。
しかし、しかしである。
流石に手紙であっても『誕生日おめでとう』くらい伝えてくれてもいいのでは?
今日一日中たくさんのミレニアム生から祝われたからこそ一番大切な人からお祝いの言葉を言われていないことに気がついてもやっとした気持ちになる。
そんな悶々とした気持ちのまま、気がつけば自宅の前にたどり着いていた。
「……なんだかいい香りがしますね」
この匂いはビーフシチューだろうか。
悶々とした気持ちがほんの少し晴れそうになるのだから我ながら現金なものだなと苦笑する。
家の鍵を開けて、扉を開ける。
「おかえりノア」
「はい、ただいま帰りました♪」
「うわ、今年もすごい量のプレゼントだ。俺が用意したものもちゃんと受け取ってもらえるかな……」
「安心してください、ミナトくんからもらえるプレゼントの場所は一番大切に開けてありますから」
「それは良かった。カバン預かるよ、そのままプレゼントを部屋に持っていって着替えておいで」
「わかりました」
玄関を開けてすぐに出迎えてくれたことに気分が上がり、さらに冗談混じりにでもプレゼントをちゃんと用意してくれていることを告げられて思わず表情が綻んだ。
質素な自室に戻って両手いっぱいのプレゼントを机の上において、ラフなルームウェアに着替える。
銃を壁掛けラックに置いて、ヘッドギアも定位置に戻して髪の毛はポニーテールになるようにシュシュで纏める。
一応鏡で身だしなみをチェックして、リビングへと向かった。
自室からリビングへの廊下を歩いていると用意してくれているであろう美味しそうな食事の香りが強くなってくる。
普段は薄味を好む自分であっても濃い味の料理が嫌いなわけではない。
むしろ特別な日に食べる食事ならジャンクな食べ物だって大歓迎だ。
いくら精神が少し大人に近くとも華の女子高生、食欲というのは人並みにあるという自負はある。
いったいどんな料理が待っているのかと期待に胸を膨らませてドアノブに手をかけて扉を開いた。
「わあ……今年も豪華ですね」
「まあね、ノアに喜んでもらおうと早朝から買い出しに走って正解だったよ」
食卓に並ぶのは豪華な料理の数々。
香りでわかってはいたビーフシチューをはじめとしてローストビーフにグラタン、フライドチキンや生春巻きにカルパッチョ。
メニューこそ多いものの2人で食べきれそうな量が用意されていて、今すぐにでも食卓につきたい欲をなんとか抑える。
「まあそこそこ量もあるから明日学校に持って行ってもいいし夕飯にしてもいいかな。ミネストローネで煮込んだロールキャベツもあるけどそれは……」
「食べます♪」
「了解だ。それじゃあ用意してくるから座って待ってて」
「あっ、私もお手伝いしますよ?」
「本日の主役はドンと構えていろってね」
食卓の椅子に誘導されてそのまま座らされてしまったまま、ミナトくんは台所にあるいくつかの鍋の中へ箸を入れてロールキャベツを取り出していた。
それにしてもすごい品数だ、おまけに手の込んだものばかりである。
すぐに用意されたロールキャベツを前にして思わず喉が鳴る。
いまだに欲しい言葉は貰っていないけれど、目の前に用意された手の込んだ品々を前にそんな文句なんて言えなかった。
「それじゃあ、食べようか」
「はい、いただきます」
「いただきます」
2人で手を合わせてまずはスプーンを手に取って───
ゆっくりと談笑しながらの食事はおおよそ1時間ほどだった。
口に入れたどの料理も美味しくてお腹も心も大満足だ。
「ケーキも用意してあるんだけど……」
冷蔵庫を指さしてそんなことを言うミナトくんに今の満腹具合を鑑みて思わず苦笑する。
「…………流石に明日にしますね」
「ふふっ、わかったよ」
そんなやりとりをして2人でいつも過ごすソファに寄りかかり、ミナトくんの肩に頭を乗せる。
それに合わせるように私の頭が乗せやすい位置にまで彼の肩が下がってくる。
「今年の誕生日もありがとうございました」
「ノアのための料理や苦労ならなんてことないよ」
「ふふっ……嬉しいことを言ってくれますね」
ほんの少しの静寂。
居心地のいい沈黙のなかに2人だけの呼吸だけが聴こえる。
「そういえば、ミナトくん」
「どうしたの?」
「何か忘れてませんか?」
ほんの少しだけ不貞腐れたように頬を膨らませる。
そう、今日一日中何をしていたのかは理解できた。
それのおかげでお腹もいっぱいだし幸福感もすごい。
しかし、流石にここまで来たら忘れているというかわざと引き延ばしているのでは?と思わざるを得ない。
「もちろん、忘れてないって」
そう口にして彼がソファの影から取り出したのは細長い箱。
白い箱に水色のリボンが結ばれている。
「ノア誕生日おめでとう。今年も2人でこうして迎えられて嬉しいよ」
「……ありがとうございます♪私もミナトくんと過ごせてうれしいです」
「今年はその箱の大きさから分かる通りネックレスなんだけど……今年のはノアの誕生日石のバイオレットパールのものにしてみた」
「バイオレットパールとはまた……いやらしい話ですけど結構高価なものだった記憶があるんですけど」
「まあその辺りは気にせずに、良ければ開けてみて?」
言われるがままにリボンを解き、箱を開ける。
中に入っていたのは大粒のパールがひとつ付いたシンプルなネックレス。
「……綺麗ですね」
「ノアの瞳の色と一緒でさ。一眼見てもうこれだ!って思ったらそれしか思いつかなくて」
「もう、昔からそう言うところは変わりませんね?」
「はは……返す言葉もない」
苦笑いをして照れ隠しのように頬をかく。
でもそんな彼のことがずっと好きなのだからそんな仕草にすら微笑みが溢れてしまう。
「ミナトくん」
「……ん?」
「これ、私に掛けてくれませんか?」
「もちろん」
彼の手にネックレスを渡して、そのまま抱きしめるように彼の腕が私の首の後ろにまわる。
わかっていたことではあるけれど、距離の近さに思わず鼓動が速くなるのがわかる。
ほんの数秒、ネックレスを掛けてもらうまでの時間。
赤面してしまうのを必死に抑えるように気付かれないように深呼吸する。
「出来たよ」
その言葉とともに首に新しい重みが加わる。
胸元に輝く紫色の真珠が大好きな人からもらったあたらしい宝物だとすぐに認識できてしまう。
「……どうですか?」
ほんの少しの不安。
しかし、そんな不安を消し飛ばすように目の前の彼は真剣な表情のまま口を開いた。
「困ったな、似合いすぎて頭がおかしくなりそうだ」
「ふふっ、なんですかそれ?」
「言葉通りの意味だったんだけど……」
そんなやりとりがおかしくて、思わず2人で笑い出す。
ひとしきり笑って、改めて感謝の気持ちを伝えて。
何度も綺麗だ、似合ってると言われて。
「ノア」
「はい」
「この先もずっと、ノアの誕生日を祝わせてくれるかい?」
「ミナトくんが私のことを好きでいてくれる限り、ずっと」
「なら安心だ。死ぬまで離さないぞ俺は」
「嬉しいです。私もずっと離してあげませんから♪」
ぎゅっとお互いの手を握る。
幸せな気持ちと彼の温かな温度が私を幸福にしてくれる。
幸せで幸せで怖いくらい幸せだ。
「ノア」
「どうしました……んっ」
呼ばれた声に応えるように彼の方を向いた瞬間、彼の名前を呼ぶよりも先に唇が触れた。
「み、ミナトくん……?」
「特別な日だから、ほんの少しだけ特別なことを……さ」
はじめてのキスからもうしばらく経った。
同棲を始めてからはじめての誕生日の日に同じようにキスをした。
一年ぶりの、短いキスはあまりにも一瞬で……でも頭がパンクしそうなほど幸福だった。
「…………ミナトくん」
「な、なに……?」
「い、いっかいだけ……ですか?」
「…………」
「……んっ」
2度目の甘いくちずけ。
今度はさっきよりもずっと長く、優しく。
2人の呼吸が苦しくなる手前までの───。
ハッピーバースデー、ノア。
ブルアカをはじめてすぐに出会ったのが君で良かった。
感想くれると作者が喜びます