書記と幼馴染の男の子の日常風景   作:今井綾菜

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第四記録 照れ隠しの笑み

第四記録

 

ユウカちゃんと出かけてきますね♪

 

いつもなら前日に予定を伝えてくるノアがそう口にして家を出てから数時間。

家事を全て終えてしまったミナトは何をするでもなくリビングに置かれたソファに身体を預けてバラエティ番組を眺めていた。

 

「……暇すぎる」

 

既に口にした紅茶は数え切れず、何度キッチンにおかわりを入れにいったかわからないほどになっていた。

夕食の準備を始めるにはまだ早い時間でもあり、かと言ってこれから外出して買い物にでもと言えるような時間でもない。

午後3時、天音ミナト……時間を持て余した高校生はとりあえずテレビを消してソファで惰眠を貪る事を選んだのだった。

 

 

 

 

****

 

「ユウカちゃん、今日は付き合ってくれてありがとうございます」

 

「気にしなくていいわよ。天音くんには私も普段からお世話になってるし、それにこの間のタルトのお礼もしたかったから」

 

午後5時、ノアとユウカはショッピングモールでの買い物を終えてノアの自宅……D.U.地区にあるノアとミナトの家に向かっていた。

 

「それにしてもノアの家ってすごい立地のところにあるわよね。駅チカでデパートやスイーツショップも近くにあっておまけにD.U.でもそこそこの高級住宅地……ノアもそこそこ資産を持ってる子だけど、あそこって天音くんの名義なんでしょ?あんまり感心できる趣味じゃないかもだけど彼の資産がどのくらいなのかは正直気になるわ」

 

「そうですねぇ、私と合わせると数千億はくだらないですけど……7割はミナトくんの資産だと思ってもらえれば」

 

「うわ、すごいわね。やっぱりユスティティア司法学園の生徒会役員ともなれば連邦生徒会からの賃金も高いのかしら」

 

「それもあるでしょうけど、ミナトくんは私と似たような特技も持ってますからね」

 

「絶対記憶?嘘、ほんとに?」

 

「ええ、そういう特技もあって職務上ミナトくんが外せないお仕事は多いんですよ?」

 

まるで自分のことのように胸を張りながら答えたノアにユウカは思わず頬が緩んだ。

親友のこんな姿は普段はなかなか見ることができないこともあってそんな珍しい姿も覚えておこうとユウカはほんの数瞬だけ瞳を閉じる。

 

「まあ確かにノアと同じ記憶力を持ってるなら彼があっちこっちの学園から引っ張りだこなのも理解できるわ。私だってノアがいてくれないと困ることが多すぎるもの」

 

「ふふっ、私もユウカちゃんがいてくれないと困ります♪」

 

住宅街に入って数分も歩けばノアの自宅が見えてくる。

ミレニアム謹製の指紋認証キーで鍵を開けて扉を開く。

 

「ミナトくーん、ただいま帰りましたー」

 

「お邪魔します」

 

ノアとユウカが玄関からリビングへ歩いていくが在宅しているミナトからの声が帰ってくることはなかった。

もしや、自室で学園からの仕事を持ち帰ってきてやっているのかな、などと思いながらリビングへと足を踏み入れた瞬間、ノアは自分の視界に入ったものを見て思わず笑みをこぼした。

 

「どうしたのノア……ああ、なるほど?」

 

「ミナトくんったらソファで居眠りなんて……珍しいこともありますね」

 

いつもならイタズラの一つでも考えるところだが、今は真後ろには親友とは言え客人のいるこの状況、大切な恋人の情けない姿は見せられないなというほんの少しの気遣いからまずは買い物袋の中身を冷蔵庫にしまうことにした。

 

「……天音くんのことはほっといていいの?」

 

「せっかく気持ちよさそうに寝ているので偶にはいいかなって」

 

「なるほどね、確かに天音くんも忙しい身でしょうし……たまにの休日での居眠りくらいさせてあげるべきよね」

 

袋の中身を綺麗に整頓された冷蔵庫の中にしまっていき、時間もそれなりにいい時間であることから夕飯の支度もしてしまいたいなと思案して……

 

「ユウカちゃんは予定通り夕飯食べていきますよね?」

 

「……そうねぇ、この状況でまだお邪魔してていいなら、だけど?」

 

「ふふっ、問題ありません♪」

 

いつものように軽く微笑みながらいつもの位置にかけていたエプロンを身につける。

 

「ミナトくんが起きてしまう前に手早く作ってしまいましょう」

 

「じゃあ私にも手伝わせて。夕飯の準備をさせながら人の寝顔を見る趣味は流石にないから」

 

「ではユウカちゃんには玉ねぎを剥いてもらいましょうか。今日は簡単にオムライスにしてしまいましょう」

 

手早く下準備を済ませてユウカちゃんが手伝ってくれた食材も次々と炒めていく。

 

「でも本当に、ノアって料理上手になったわよね」

 

「そうですか?普段はミナトくんが作ってくれるものばかりですし、料理の腕はまだまだ、だと思っているんですけど」

 

「卵焼きすら上手に焼けなかった頃から見たら全然違うわよ」

 

「………………」

 

今思えば、そんなこともあった。

高校に入る前は本当に料理なんて上手に作れなかった。

ミナトくんと同棲すると決まってからの半年間、必死になって努力したのだ。

 

「懐かしいわね、オムライスだって卵は破けてたし。煮物はしょっぱかったし包丁の使い方だって全然下手くそで。天音くんに美味しいものを食べてもらいたいって頑張ってたものね」

 

「……もう、2年も前の話ですよ?」

 

「…………へぇ、そうだったんだ」

 

「っ!?!?!?!?!?!?」

 

不意に聞こえてきた声に思わず肩が跳ねる。

手に持っていた木ベラが驚きのあまりに宙を舞った。

 

「あら、おはよう天音くん」

 

「いらっしゃい早瀬さん。おもてなしできなくてごめんね」

 

「いいのよ、天音くんだって疲れているでしょうし。自分の家で居眠りしてたって誰も咎めないわ」

 

宙に舞った木ベラを難なくキャッチしたユウカちゃんは私の手に木べらを再び握らせる。

 

「み、ミナトくん……いつから起きて……」

 

「いや、今だけど……とりあえずおかえりノア」

 

「……た、ただいま……です」

 

「一応言っておくと、こんなノアを見れるのはミレニアムでは誰もいないわよ」

 

「こんなノアがミレニアムで頻繁に見られるなら僕だってミレニアムに転校したいね」

 

「セミナーとしては願ったり叶ったりだけどそれじゃあノアの心臓がもたないわ」

 

混乱して思わず思考停止している私の隣でユウカちゃんとミナトくんが楽しそうに話している。 

 

え……?

 

聞かれてた……???

 

よりによってミナトくんに……???

 

それを自覚した瞬間、顔に熱が帯びる。

熱でもあるんじゃないかと錯覚してしまうくらい顔が熱い。

 

「顔赤くなってるところゴメンだけど、玉ねぎ焦げちゃうよ?」

 

「あっ!?!?!?」

 

指摘されて初めて自分がフリーズしていたことに気がつく。

急いで木べらで玉ねぎを混ぜるとまだなんとかなるくらいの焼き目がついたくらいだった。

 

「ふふっ、ごめんねノア」

 

「も、もういいですっ!」

 

今はとにかくさっきのことを忘れて欲しくてまだ顔が熱いまま、なんとか調理を進めていく。

こんなことで心を掻き乱されて、挙げ句の果てにユウカちゃんの前で失態をしてしまうなんて。

 

こんな話をし始めたユウカちゃんは後でしっかりお話しするとして……

ミナトくんには何をしてもらいましょうか。

 

私が恥ずかしい思いをしたのだからこの二人にだって同じ目にあってもらったほうがいいに決まってます。

 

そうと決まればサクッと料理作ってどうするか考えないと。

 

「……ふふっ、覚悟しておいてくださいね?」

 

「天音くん、私先に帰ってもいいかしら?」

 

「まあまあそう言わずに、ゆっくりしていったらいいじゃないか」

 

そそくさとキッチンから離れようとするユウカちゃんと後退りしたミナトくんに全く笑っていない笑みを向ける。

 

「貴方のせいよ天音くん」

 

「いや、あんな事を話している早瀬さんのせいじゃないか」

 

「食後にはちゃんとデザートも買ってきていますので……ゆっっくり、お話ししましょうね?」

 

なんて、大好きな二人への照れ隠しの抵抗。

もちろん、夕飯は雑談を交えて美味しくいただいて……デザートを食べる時に二人の黒歴史を暴露するなんてこともしてしまいました。

 

ふふっ、本当に楽しい1日でした。

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