書記と幼馴染の男の子の日常風景   作:今井綾菜

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第五記録 恥ずかしいものは

日差しが強く降り注ぎ、肌をジンジンと焼くような暑さが連日続く過酷な夏がやってきた。

学園の生徒会室では文明の利器であるエアコンが室内の温度を快適な温度で保ってくれている。

 

正直に言おう、今日はもう外に出たくない。

 

 

……とはいえ、だ。

 

今日はミレニアムサイエンススクールとミレニアム自治区内で最王手コンビニチェーンとのコラボレーションイベントの一環としてノアと早瀬さんが学園近くの店舗でアルバイトをするというのだ。

 

いわゆる、一日店長というやつだろう。

セミナーの2人がコラボレーション用にデザインされたコスチュームを着て1日接客するらしく、どのようなデザインなのかと聞いてもあれよあれよと躱されてばかり。

 

正直に言おう、とても気になる。

ノアが教えてくれない、ということは少なくとも彼女のイメージからはかけ離れたもののはず。

幼馴染でもあり、恋仲である僕にすら教えてくれないとなると取れる手段は一つだけ。

 

「………………いくか、ミレニアム」

 

「書記長、なにか余計なこと考えてませんかー?」

 

文字通り山のように積み重なった書類仕事に癖壁として思わず呟いた独り言。

数人いる生徒会書記の後輩の1人がジト目で僕のことを見つめてくる。

 

「……どう考えたって今日1日で終わる仕事じゃない。ここは気晴らしにみんなでミレニアム観光とかどうかね?」

 

「そんなこと言ってセミナーの美少女彼女さんに会いたいだけじゃないですか。知ってるんですからね、今日は彼女さんが企業とのコラボイベントに出席するって」

 

「……流石はユスティティアの書記、自分の上司のことすら観察してるとはね」

 

「いや、天音書記長がわかりやすいだけです。見てくださいよ生徒会長が笑うの堪えてるじゃないですか」

 

「いや、書記長は生塩さんが最優先だから……ふふっ……いいよ、ミレニアムに行ってきて。その代わりこの書類を早瀬さんに渡しておいて」

 

「流石、話がわかるね生徒会長」

 

「君をここに置いておいてもふわふわしてそうだから外回りをさせようという機転の効く生徒会長だと褒めてくれても構わないよ」

 

「それはちょっと……」

 

戯けたように首を傾げれば生徒会室は笑い声で満ちる。

手渡された分厚い封筒は学園印の蝋で封印されていてそれがこのユスティティアからミレニアムへの正式な書類であることが確認できる。

それを鞄の中にしっかりと仕舞い込んで手に取る。

 

「今日はミレニアムにいってそのまま帰宅するから、向こうからの書類があれば明日で構わないね?」

 

「それでいいよ。早瀬さんに生塩さんなら期日ギリギリの書類なんて絶対に渡してこないから」

 

その言葉を背に、軽く手を振りながら生徒会室を後にする。

 

学園から出るまでの間にノアが参加しているであろうコンビニの位置を確認して、道順を記憶する。

 

「ミレニアムで一番のコンビニチェーンで学園の近くに本店と本社があるのか……そりゃ学校ともコラボしやすいし駅とも近いんだから客寄せも出来るか」

 

問題は“あの”ノアがどんな衣装を着ているか、なのだが。

このキヴォトスの人口比は圧倒的に女子の方が多いが僕やユスティティアのような男子生徒だって少なからずいる。

 

……あまりにも魅力的な衣装で他の男子に色目を使われていないだろうか。

 

「まあ、早瀬さんも一緒だと言っていたし問題はないとは思うけど」

 

言葉にしてみるもののその早瀬さんだって色目を使われる対象であることは間違いない。

ダメだ、もうすでに心配になってきた。

こうしちゃいられないと学校の敷地内に発着していたミレニアム行きの特急に乗り込み、ミレニアム自治区へと向かっていく。

ユスティティアからミレニアムまでは特急で1時間半ほど、ミレニアム製の高性能タブレットでユスティティア生徒会のアカウントでログインして、電子で出来る事務はこなしてしまおうと作業をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

ミレニアム自治区。

大手コンビニチェーン本店の店内で2人の少女が企業と学校のコラボレーション衣装に身を包み、接客を行っていた。

 

接客、とはいっても実際にレジ打ちをするわけではなく、コラボレーションイベントの宣伝担当といったところだった。

 

「それにしても天音くんには今日のこと言ってこなかったの?」

 

「もちろん、イベントに参加することは伝えてきました。ただ……この衣装のことは流石に言えませんでしたけど」

 

「…………あー、確かに私でもこの露出度のノアは見たことないかも」

 

ユウカが納得するのもそのはず。

普段は露出なんてほぼない生塩ノアだが、今はノースリーブの制服風の衣装に身を包んでいる。

そう、“あの”生塩ノアがノースリーブの衣服を着こなしているのだ。

いつもよりも長めのスカートに黒いタイツなのは変わらない。

ヒールのついたショートブーツだっていつものものよりデザインが少し可愛いものになっている。

 

しかし、袖が、ないのだ。

 

対する自分は白いシャツの上に青いカーディガンというおとなしめのもの。

自分の親友との衣装の格差に若干驚いてはいるものの彼女が幼馴染で恋人の男の子に見せるのは少し恥ずかしい、というのも理解は出来るつもりだった。

 

「私たちが依頼されている時間もあと1時間程度ですし、この衣服にも少しだけ慣れてきましたから」

 

「慣れてきたって、あと1時間に迫るまで全然慣れなかったってことじゃない」

 

「考えてくださいね、ユウカちゃん。私、普段は長袖の制服の上からセミナーのコートを羽織っているんですよ?肌の露出面積が普段から考えられないほど多いことを考えたら落ち着かないのも仕方ないと思うんです」

 

「そうね、でも慣れてきたなら天音くんに見られても問題は」

 

「ふふ、大アリですよ」

 

最後まで言い切る前に、ノアの言葉が私の言葉を遮る。

あっ、これ本当に恥ずかしがってるやつだ、と直感的に理解して……あと1時間くらいなら何もなく終わるだろう、と外を見た瞬間だった。

 

「………………」

 

思わず、目を逸らして、もう一度店外を見る。

リオ会長が失踪してから代理として何度も顔を合わせた相手の制服が外にチラリと見える。

見覚えのある髪色に制服、いつもミレニアムにくる時に持ってくる黒いビジネスバッグにはこのキヴォトスの司法を司る学院のエンブレムが彫られている。

 

『どうして今来るのよ』という感情と『よく来た』という感情がせめぎ合った結果、私は見て見ぬ振りをすることに決めた。

 

「ゆ、ユウカちゃん?」

 

「なんでもないわ、それよりもあと1時間頑張りましょう?」

 

「そうですね、最後まで気を抜かず……にぃ!?」

 

同じように外を見たノアの反応はとてもわかりやすかった。

一瞬で茹蛸のように真っ赤に顔を紅潮させて仕事中にもかかわらず私の影に隠れるようにして外にいる天音くんから姿を隠す。

 

しかし、悲しきかな。

そんな抵抗も虚しく、私の姿を見つけた天音くんはお店の方へと一直線に歩いてくる。

 

「ちょ……ちょっと待ってください!なんでミナトくんがここに……!?」

 

「あの持ち物から見るに、ミレニアム宛に書類を持ってきてくれた感じかしらね。いま生徒会室にはコユキしかいないし、ここにくるのは確かに間違いじゃないんだけど」

 

そこまで言い切った瞬間、お店の自動ドアが開いて天音くんが入店してくる。

お店のスタッフたちの明るい声に乗せて私も彼を迎え入れる。

背後からは小さくか細い声で来客への挨拶が聞こえてきた。

 

「やあ、早瀬さん」

 

「こんにちは天音くん。ノアなら私の後ろで小さくなってるわ」

 

「そうみたいだね、か細いくて可愛い声が君の後ろから聞こえてきたよ」

 

他愛のない挨拶と共に私は親友がどこにいるのか即時に暴露し、彼は最初からわかっていたという返事を返す。

 

「君たちがここにいるのはあと1時間くらいだろう?セミナーへの書類も預かってきてるから奥のイートインスペースで待たせてもらってもいいかな?」

 

「ええ、問題ないわ。それと、ノアのコラボグッズはそこの棚を右に曲がってすぐの三段目にたくさんおいてあるわ」

 

「情報提供ありがとう、たくさん買って帰るよ」

 

「本人がその家にいるんですよ!?!?」

 

「あっ、出てきた」

 

「大丈夫だよ、僕の部屋に飾るだけだから」

 

「ミナトくんにとっては大丈夫でも私の精神衛生上よろしくないです!!!」

 

顔を真っ赤にしたまま私の背後から出てきたノアだったが時すでに遅し。

見られるのを恥ずかしがっていた相手はバッチリと今のノアの姿を目に焼き付けていた。

 

「……まさかノアのノースリーブ姿が見れるとは、会長に駄々をこねて見にきた甲斐があったよ」

 

「…………ぁ」

 

ボンっと再び湯気が上がりそうなほど真っ赤になったノアを見て天音くんはノアのコラボグッズが置かれている棚の方へと歩いていく。

止めようにもノアは真っ赤なまま俯いて動けず、私は仕方なく1人で最後の1時間弱を過ごすことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

****

 

「なんでここにいるんですかぁ……」

 

ポカポカと絶望的な運動神経から繰り出されるパンチを受けながら僕はイベントが終わっていつもの制服に着替えたノアと早瀬さんと合流していた。

 

「どうしても何もミレニアム宛の書類を届けに、ね」

 

「それはそうだとしても学園に届けてくれればいいじゃないですか!」

 

「……それは思いつかなかったな」

 

惚けたような僕の仕草と答えにノアのパンチが更に苛烈さを増す。

まあ、全く痛くないわけだけれども。

 

「ああ、それはそれとしてこれが今回持ってきた書類ね。この間申請されていたものの許可証も入っているからそちらで確認して改めて連邦生徒会と協議を重ねていこう」

 

「ええ、ありがとう」

 

手元のカバンから分厚い封筒を取り出して早瀬さんに手渡せば、彼女はその封筒を受け取ってすぐに自分の鞄へと仕舞う。

 

「私のことは無視ですか?そうやってユウカちゃんと仲良くお話しして……」

 

「ただの事務的な会話だったじゃないか……それとも僕がここにいること、まだ怒ってるの?」

 

「怒って……ません、けど」

 

ぷくーっ、と膨らませた頬をつんつんとつついてやればそれが面白くなかったのかキッと睨みつけてくる。

正直に言おう、めちゃくちゃ可愛い。

 

「……天音くん、私はこの書類を学校に持っていくからノアのことは任せたわね。帰る家が同じなんだし、問題ないでしょ?」

 

「うん、問題ない」

 

「それと、今日着てた衣装なんだけど持って帰っていいって言われたからノアも持って帰ることになってね。その手荷物の中にさっきの衣装入ってるわよ」

 

「……ふむ、情報提供ありがとう早瀬さん。今度Berry&Berry Factory(ベリーベリーファクトリー)の新作を持っていくよ」

 

「楽しみに待ってるわね」

 

「なんで!余計なことを言うんですか!?!?」

 

目尻に涙を溜めたノアの叫びがミレニアムの夕焼けの空に響き渡る。

いつもは余裕な表情を浮かべているノアがここまで弱気な表情を見せているのは本当に珍しいが、D.Uに向かう電車に乗る頃には少し怒っています、くらいの表情にまで戻っていた。

 

「ちなみに、2人きりの家でなら着てくれたり……?」

 

「…………い、一回だけ、ですよ?」

 

赤面したノアから言質を得られたから近いうちに一度着てもらうことにしよう。




韓国のコンビニコラボ(だったはず)のノースリーブノア、とてもいいですよね。

そんな煩悩まみれの作者から生まれた今回のお話でした。
久しぶりということもあって文章の書き方とか変わっているかもしれませんがそこはご容赦を。

好きな男の子に普段は絶対にしない薄着なところを見られて恥ずかしがる美少女……もとい生塩ノアは健康にいいですからね。
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