我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。 作:ゆーりふり
A:アイリス王女が設立した紅の騎士団に全幅の信頼を以って招聘された若き騎士マルコ・グレンジャーをご存知でない!?今すぐアニメを一話から見返そう。
Q:ニコレッタって誰だよ。
A:マルコ・グレンジャーの元婚約者にしてシャドウガーデン13番目のナンバーズであるニューの過去をご存知でない!?今すぐかげマスをインストールして七陰列伝をプレイしよう。
やあ皆!
ボクはマルコ。マルコ・グレンジャーだ。
ミドガル王国の貴族の家に生まれた前世持ちで魔剣士になるため日夜修行に励んでいるよ。前世では日本人で普通の学生だったけど、実家が剣術道場を営んでいたのが特徴と言えるかな。
剣の扱いには多少の心得があったから剣と魔法の世界ならアドバンテージがあるんじゃないかと思ってたけど、中々上手くはいかないね。この世界の魔剣士というのは剣に雷を纏わせてナンタラスラッシュとかする訳じゃなくて超脳筋だ。
炎とかビームとか出せない。けど鉄の剣で岩をサイコロステーキにはできる。魔物と呼ばれる屈強な生き物をさらなるパワーでぶちのめすゴリラの住まう世界なのだ。しかし、蛮族がウホウホしているだけなのかと言うとそうでもなく、案外と文明は発達している。見た目だけは中世だけど細かいところは近代的な技術が見られる感じだ。
「剣が縮こまっているぞ、何度言ったら分かる!」
縮こまってないですー。
ちゃんと脇をしめて体重移動にそってコンパクトに振り下ろしているだけですー。
「マルコ、お前は魔力量も剣才も優れているのにどうしてそう小さくまとまろうとするのだ。騎士となる者が受け身では魔物や賊から民を守れないぞ」
そりゃあ時と場合によっては俊敏に動きますよ。でも、父さんたちの言う魔剣士の動きって大雑把だし力任せなんだよね。動かし方が人体の構造に適してないわ、何手も先を読んだりしないわで個人的にすごく微妙。ブシン流としての型はあるんだけど、テレフォンパンチの威力と速度が高い方が勝つみたいなの良くないと思います。
「そんなことではニコレッタ嬢との婚約も取り消されるぞ」
「もう一本お願いします父上!」
「……現金なやつだなお前」
ボクも男の子だからね、剣と魔法は大好きさ。だから修行も全然苦じゃない。ちょっと方針が合わないってだけ。実際、実力ではすでに父さんを上回っている自覚がある。だが、そんな程度で満足している訳にはいかない事情ができた。
ニコレッタ・マルケス。ミドガルにあるマルケス侯爵家の令嬢であり、今はボクの婚約者だ。
ブラウンの髪色をした美しい人で、心優しく多方面に優れた能力を発揮する才女でもある。
彼女との出会いは王都で開かれた社交界のパーティーだった。ちょっと前世でもお目に掛かったことのない美少女にボクは一目惚れした。その時は挨拶をして一言二言会話した程度だったのだが、父とマルケス侯爵には見抜かれていたらしく後日改めて懇親の場が設けられた。
ミドガル王国に於いて優れた魔剣士の立場は非常に高い。王位継承権第一位にしてミドガル最強とも名高いアイリス王女の存在もあり、その傾向は最近特に顕著だ。ボクがミドガル魔剣士学園で上位の組に所属していることを知っていたマルケス侯爵は家の力を強める政略結婚の相手として不足なしと判断したらしい。父も侯爵令嬢を嫁に迎え、侯爵家と繋がりを持てるのだから諸手を挙げて賛成している。
そして彼女が美貌だけでなく、心も美しいと知ったボクにも断るという選択肢はなかった。唯一の懸念はニコレッタの意思を蔑ろにしていないかという点だったのだが、彼女も侯爵令嬢として覚悟はあったし、少なくともボクは問答無用の落第判定ではなかったようで無事に許嫁と相成った。
ミドガル王国は周辺国との関係も悪くなく、ここ最近は大きな事件もない。騎士として功績を挙げる機会は少ないかもしれないが、王族も騎士団も優秀な人たちが多い。堅実に仕事をこなせば評価してもらえるだろう。手堅い国軍所属の騎士で嫁さん美人。
ボクの人生はバラ色じゃないか。
そんな風に思っていたある日、ボクと彼女の婚約は唐突に破棄された。
――――――
「なぜ理由を教えていただけないのです父上!」
「私も知らぬのだ! 侯爵家を相手に強引な手段が取れぬことはお前も分かるだろう!」
だからって一方的すぎるだろ!
異世界ファンタジーかと思ってたのに婚約破棄モノだったボクの気持ちが分かるか!
婚約破棄と言えば悪役令嬢だ。
王道としては国の王子と婚約している大貴族の娘が他の子に意地悪をした結果、国から追放されたりしなかったりする。
「ニコレッタは悪役令嬢ではないですし、ライバルになりそうな田舎娘を虐めたりなんてしてませんからね!」
怒らせたときに浮かべる冷笑は肝が凍るかと思うほど恐ろしいが、彼女は他者を蹴落とすのではなく自身を磨き高めて勝つことを選ぶ女性だ。いやまあ、侯爵家側から婚約破棄を言い渡されたのだから彼女が悪事を働いたことが原因な訳はないのだが。
「ぼ、ボクも貴族の子息とニコレッタを巡って争ったりはしてないですよ?」
「なんの話だ」
いやだってね、ニコレッタって凄くモテるんですよ。
政略結婚は貴族の責務とさえ言える。誰だってそうなることをある程度は覚悟している。だが、どうせ結婚するなら自分好みで優れた相手が良いと考えるのは生物なら至極全うな思考だ。そして彼女は家柄、容姿、性格が全て揃っているミスパーフェクトだ。話の決定権はグレンジャー家ではなくマルケス家が持っているから、ニコレッタを堕とせばボクから彼女を奪うことは可能と考える男は沢山いた。
だからこそボクも彼女に選んでもらえるよう剣士としての研鑽を怠らず、人間としての魅力にも磨きをかけてきた。幸いにも容姿はそこそこに整っていたし、マルケス家は侯爵家だから金銭を求めてはいない。故に求められていたのは男としての頼り甲斐。つまり強さだ。王都の騎士団へ入団が内定している新進気鋭の若手として注目されているボクはギリギリのところで彼女の婚約者としての立場を死守しているのだ。
その結果、彼女から下された評価は女心が微妙に分かってないという情けないものだったが。
「と、とにかくニコレッタに会って話をさせてください。彼女がボクとの婚約を望まないのであれば潔く諦めます。侯爵家として、より良い相手が見つかったのだとしても受け入れます。けれど、最後に話くらいさせてくれたっていいでしょう」
「むう、しかしだな……」
今回の婚約破棄は一方的に侯爵家から書面で知らされた。しかも、異議を唱えたボクに対してニコレッタとの面会もさせないという徹底ぶりだ。
話しがお流れになっただけというには、あまりに強引かつ情報が秘匿されている。そして問い詰めるボクに対する父の反応もどこか怪しい。
バツが悪そうに目をそらし、口から出る言葉には後ろ暗さが見え隠れしている。
……やはり、なにか知ってて隠しているな。
だが、侯爵家相手にグレンジャー家が取れる手段が多くないのも事実。
ボクは決めなければならないのだろう。
この世界に生まれ落ちて十余年。もうすぐ成人となり自分の生き方を明確にしなければいけない。なんら不自由なく育ててくれた両親には感謝しているが、これまで唯々諾々と流されるまま生きてきた気もする。
「……分かりました」
「そうか、分かってくれたか」
「今までお世話になりました。ボクはこれからただのマルコとして生きていきます!」
「はあ!?」
いやだってさ、この機会を逃したらあんな良い子が嫁に来てくれるチャンスなんてもうないと思うんだ。正直、今の生活に対する未練とかもない。だから精いっぱい足掻こうかなって。
……ニコレッタにフラれたら、その時は流れの冒険者として失恋の旅に出よう。
――――――
制止する父を振り切ったボクはその足でマルケス侯爵領へとやってきた。
こんな強引な手段を選んだ時点で婚約なんてなくなったも同然だが、ボクにとって重要なのはニコレッタの意思だ。彼女がボク以外の男を選ぶのなら涙を呑んで祝福しよう。彼女がボクを選んでくれるのなら万難を排して彼女を守ってみせよう。……もしも、彼女が家よりもボクを選んでくれるのなら全てを捨てて彼女と共に歩んでいこう。
そのくらいに惚れたのだ。
「これは……ニコレッタが関係しているのか?」
訪れた侯爵領の雰囲気はあまり良いものとは言えなかった。
災害や盗賊の横行が酷いといった話を聞いた覚えがない。しかし、町を行き交う人々の表情はどこか暗く沈んでいるように見える。
「すみません。私は魔剣士学園の者なのですが、マルケス領でなにかあったのですか?」
「ええ、実はニコレッタ様のご病気が一向に快復しないようでして……」
病気……ニコレッタが?
そんな話は聞いた覚えがない。住民の反応からして彼女が病気を患ったのは、ここ一日二日ということではないだろう。その病気が今回の婚約破棄に繋がっているのだろうか。あるいは彼女が病気になったことに気付けず、何日も見舞いにすら来ない男に愛想を尽かしたのかもしれない。
ボクの女心が分かっていないという評価がここに来て査定に響いてしまっただろうか。
「……花束とかフルーツの盛り合わせ買っていこうかな」
明け透けな貢物作戦だが、ないよりはマシかもしれない。
情報をくれた住人にお礼を言って別れると侯爵の邸宅が見えてきた。大きな門が閉じられていることは当然だが、屋敷のカーテンも全て閉ざされてしまっている。娘が重病なのだとしたら明るい空気になるはずもないが、あれではどちらかというと人の目から秘密を覆い隠そうとしているかのようだ。
「困ったな。あれじゃ中に入れてもらえそうにもない」
門前払いも覚悟はしていたのだが、そもそも話を聞いてもらえそうにさえない。
どうしたものかと考えながら屋敷へ近付いていくと門が開いて一台の馬車が出ていった。
「一応、人の往来はあるってことか」
馬車に侯爵家の紋章はなかったが、いくらか装飾はなされていた。医者というには出立が慌ただしいから恐らくは行商だろう。商談のための来訪が許されるのであれば、見知った間柄であるボクも客人として通してもらえる可能性はある。
すれ違う馬車を見ながら算段を付けていると、荷台から強い視線を感じたような気がした。
「……えっ?」
「ニコレッタお嬢様は病気が悪化し、逝去されました」
使用人の言葉に理解が追い付かなかった。
死んだ?ニコレッタが?
ほんのひと月ほど前には元気な様子で共に語り合っていた彼女が?
「し、死んだってなぜ!?」
「ですから、病気の悪化によるものです。本日はもうお引き取りください」
無感情に彼女の死が告げられる。
それは大貴族の娘が不幸な死を遂げたとは思えない態度だった。
「一目で構いません、彼女に会わせてください!」
「すでに葬儀は身内のみで執り行われました。お通し出来ませんのでお引き取りください」
「ボクは彼女の婚約者です! 顔を見る権利くらいあるでしょう!」
「婚約は破棄されたとお聞きしています。これ以上は衛兵に対処していただくことになりますが」
その言葉と共に、背後に控えていた侯爵家お抱えの魔剣士が腰に差した剣を引き抜いた。
ダメだ。彼女に会いたいのだとしても、さすがに人傷沙汰はマズい。
「分かり、ました。また後日伺います……」
本当に彼女が死んだのだとしたら家のカーテンを閉め切っている異様さにも納得はできる。慌ただしいから家の外の者を招き入れる余裕がないのも道理だ。一旦引き下がるしかない。
「……悪魔憑き?」
ある意味想定通りであり、理由が全く以って想定外だった門前払い。
ボクは屋敷の周辺にある林に身を隠して夜になるのを待った。彼女の急死が真実である可能性がない訳ではない。隠し事をしていた様子の父は病状が芳しくないニコレッタのことを知っていて、ボクに気を遣って隠していたのかもしれない。だが、同じくらいに侯爵家の態度は胡散臭い。ニコレッタの身に、知られてはならない何かが起きている。そんな確信があった。
そうして屋敷からも明かりが消え、周囲を照らすのが月明りだけになった頃。
夜逃げでもするかのようにコソコソと屋敷を出ていく一団が現れた。
「証拠の隠滅なんざ侯爵に任せてもよかっただろ」
「悪魔憑きが居たという痕跡は絶対に残さないようにしろと教団からの命令だ。俺もヘマをして粛清されたくはないのでな」
黒いフード付きのマントを羽織り、口元も黒いマスクで覆い隠した男たち。
彼らは確かに悪魔憑きと言った。
悪魔憑きとは突如肉体が腐りながら崩れ果て、醜い肉塊となってしまう謎の奇病……らしい。
ボク自身は直接その病状を見たことはなく、具体的にどうなるのかも知らない。
だが、皮膚が爛れたり変色するような病気は前世の中世に於いても悪魔憑きや呪いといった人ならざる存在が関与しているとして排斥の対象になった歴史がある。この世界には魔法という摩訶不思議パワーが存在しているが、それでも理解が及ばぬモノは畏れ疎まれるということなのだろう。そして悪魔憑きとなった者は存在を抹消され最初から居なかったことにされる。
「以前は随分と美人だったらしいが、ああなっちゃお終いだな」
「美醜など関係ない。悪魔憑きになった者が辿る道は一つだけだ。無駄話はここまでだ。テンプラーの襲撃に対応する戦力は多い方がいい。先に行った輸送隊と合流するぞ」
会話を終えた一団が駆け出す。
侯爵家の美人が悪魔憑きになった。その文字が頭の中をぐるぐると回る。
「ニコレッタ……!」
なに一つとして考えはまとまっていない。それでも足は勝手に動いていた。
彼女の美しさに一目惚れした。
だが、悪魔憑きの症状は人の見た目を無惨に変貌させると言われている。
「関係ないだろ、そんなこと!」
どれだけ見た目が変わってしまっても、ボクはもう美貌以外に数多ある彼女の素晴らしさを知っている。それでも彼女は手放すには惜しい素敵な女性だと確信している。
「取り返さなきゃ!」
ここでニコレッタを行かせてしまっては二度と会えなくなる。そんなのは駄目だ。認めてたまるかそんな現実。
「すぐに行くから、待っていてくれ」
ボクは魔剣士なんだ。
この力は大切なものを守るためにあるんだ。
此処で使わないで、どこで使うって言うんだ。
本作のマルコ君の現時点の強さ:結構強いけどチルドレン1stと戦ったら普通に死ぬ。