我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。 作:ゆーりふり
それは唐突に始まった。
「魔力が練れない?」
護衛任務中、ちょうどグレンさんと交代のタイミングになったのでシェリーちゃんの研究室に向かっていると、突然魔力が練れなくなったことに気付いた。正確には練ったそばから分散してしまい、どこかへと流れていってしまう。
次いで、学園のそこかしこから悲鳴のようなものが聞こえ始める。
どうやら俺が体調不良で上手く魔力が練れないという話ではなさそうだ。
研究室へと向かう足を速めると、曲がり角から黒衣の男が現れた。
「おい、武器を捨てて投降し……いや、お前騎士だな? なら投降は認められないな。そのまま死んでもらうとしよう」
なんか勝手なことを言い始めた。
「お前たち一体なんなんだ? なんのためにこんなことをしている」
状況が理解できないが、目の前の男の言う事を素直に受け取るのならば、いま学園はテロリストに襲撃されているのだろう。学術学園はともかく魔剣士学園は軍事施設に殴り込みを掛けるようなもので、馬鹿げた行いとしか言えない。
その馬鹿げたことを実行に移した自信の源泉が、この魔力妨害なんだろうけど。
「我らはシャドウガーデン。今日ここに居た己の運のなさを恨め」
テロリストが魔力を用いて俺へと接近し、突きを放ってくる。
それを最小限の体の捻りで躱し、足を引っ掛けて転ばせる。
「ぐあっ!?」
「俺たちは魔力を練られず、お前たちは問題なく使用できる訳か」
倒れた男の首筋へ剣を突き下ろす瞬間だけ魔力を込めると、剣は問題なく首を断ち切った。
「僅かだが魔力が霧散するまでにタイムラグがあるな。使ってない間も少しずつ吸われていっている感覚はあるが、根こそぎって程でもない。……俺にとっては怪我の功名なのかな」
適当な魔力の込め方をしても勝手に分解してくれるのは有難い。テロリストが優位性を過信しているのも大きいな。どれだけ優位に立っていようが、それに驕って攻め方が雑になるんじゃ意味がない。拷問して何が起きているのか情報を吐かせてもよかったのだが、今はシェリーちゃんとグレンさんのことが心配だ。
「貴様! この状況で抵抗するとはいい度胸だ!」
「魔力なしでこの数相手に勝てると思うなよ!」
殺した男の声を聞きつけたのか、追加で三人のテロリストがやってくる。
どうやらテロリストの総数は十や二十ではきかないようだ。
構内から聞こえる悲鳴は止んだが、校舎の窓から外に目を向けるとどこかへと連れて行かれる生徒たちが見える。
……ああ、段々イライラしてきた。
「お前らこそ、人の古巣で白昼堂々テロなんぞ起こしてやがって」
コイツらがシャドウガーデンなのか教団なのかなんて、どうでもいい。
理不尽に奪われるのは、もう沢山なんだよ。
暴走した悪魔憑きでもない悪党相手なら容赦する理由もない。
「優しく相手してもらえると思うなよ」
それから十数秒。
校舎の廊下に転がる死骸の数は四つに増えた。
生徒たちを助けたいという思いはあるが、敵の戦力と魔力を阻害している手段が不明な状況では迂闊に動けない。俺が危険な目に遭うのはどうでもいいが、生徒を人質にされてしまうと抵抗できなくなってしまう。幸いなことに身を隠しながら進む校舎内に生徒の死体は見当たらない。積極的に危害を加えるつもりがないのなら、救出はこちらが準備を整えてからにした方がいい。
「まずはグレンさんと合流だな」
生徒全員をどこかに連れて行ったことから、敵の目的がアーティファクトでない可能性もある。しかし、連中が教団なのであれば標的のひとつに含まれてはいるだろう。もし、シェリーちゃんがアーティファクトを引き渡すことを拒んだりした場合、暴行されてしまうかもしれない。
息を潜めつつ迅速に研究室へと向かうと、部屋の前に黒衣の男たちの死体があった。研究室も襲撃を受けたようだが、グレンさんに撃退されたようだ。
「ぐあぁあっ!?」
安堵の息を吐こうとした瞬間、苦悶の声と共に部屋のドアが突き破られグレンさんが校舎の壁に激突した。
「きゃああ! グレンさん、大丈夫ですか!?」
グレンさんの腕に抱えられていたシェリーちゃんが心配の声をあげる。どうやら彼女を守って攻撃を受けたことで吹き飛ばされたらしい。ならば、部屋の中には下手人がいるということだ。
「グレンさん、遅くなってすみません」
「マルコか。すまん……俺一人では手に負えない相手だ」
慌ててグレンさんに駆け寄る。幸いにも致命傷ではなさそうだ。
部屋の中を見ると、そこには二刀を携え赤いバンダナを巻いた男がいた。
「グレンさんはシェリーちゃんと先に避難してください。アイツの相手は俺がします」
「そんな、魔力が使えない状態で無茶です!」
部屋の中へと歩みを進める。
バンダナの男はニヤけた顔をして剣を舌なめずりしている。やってることは三下そのものだが、コイツは強い。少なくとも俺がここに来るまでに倒したテロリストとは比べ物にならないだろう。
「それでも、守るべきものを背にしたのなら退かないのが騎士さ」
「はっ! カッコ付けるじゃねえか騎士様よぉ」
バンダナの男から注意は逸らさず、グレンさんたちが離れていくの確認する。
「そちらこそ見逃してくれるとは優しいじゃないか。グレンさんを見て騎士道精神の素晴らしさに気付いたか?」
「鬼ごっこを楽しみたい気分になっただけだ。オレはチルドレンファース……じゃなくてシャドウガーディアン『叛逆遊戯のレックス』。お前を殺す男の名をしっかり脳に刻み込めよ?」
……こいつ、漣のレイと同じファーストチルドレンか。
組織名も間違えているし、やはりテロリスト共の正体はディアボロス教団のようだ。
あれ、だったらセカンドチルドレンになって数が増えていくんじゃないのか?
私は三人目だものってやつか?
「お前、漣のレイって知ってるか?」
「あん? 何年か前に死んだ雑魚がそんな名前してたっけなあ」
やはり人違いというか組織違いではないらしい。
ということは彼らは死海文書に記された運命の子たちのパクリではなく、最後の物語(七個目)に出てくるソルジャークラス1st的な存在ということだ。確かに名前もザックスに似ている。見た目はソードでアートなオンラインゲームの味方キャラに居たような感じだが。
「まあなんでもいいか。同じ1st相手なら俺が強くなったのか知るいい機会だ」
「はあ? 状況が理解できてないみたいだな。お前は殺されるんだよ。この叛逆遊戯のレックス様の手でなあ」
そもそも叛逆遊戯ってなんだよ。
将棋で負けそうになったら将棋盤ごとひっくり返すみたいな感じか。
テロリスト連中のやることなんて碌なもんじゃねーな。
「マルコ・グレンジャー。お前を殺すけど覚えなくていいぞ」
「はははっ! "王女の懐刀"じゃねーか! 手柄が転がりこんで来るとはオレはツイてるぜ!」
「えっ、あの刀この部屋に転がってんの?」
シェリーちゃんが回収できず置いて行ってしまったのだろうか。
思わずキョロキョロ辺りを見回していると、レックスが斬りかかってきた。
不意打ちとは卑怯なり。
そうして、魔力と宿す刃と宿さぬ刃。
決定的な差を抱えたまま、両者の刀身が交差した。
――――――
ええと、皆さんごめんなさい。
偉そうなこと言っておいて叛逆遊戯のレックスから逃げたマルコ・グレンジャーです。
よく考えると俺の任務はシェリーちゃんの護衛だ。その役割を敵の規模も分からないのに負傷したグレンさんだけに任せるのはよくない。場所もシェリーちゃんの研究室だから派手に戦って壊す訳にもいかなかった。仕方がないので、貴重ではない薬品を適当に引っ掛けて視界を塞いだ隙に窓から蹴り落として逃げてきました。
あと、懐刀らしき短刀はどこにもなかった。テロリストの下らない虚言に騙されて隙を見せるなんて不覚だ。
「これで五人目。数が多いな。いくらグレンさんでもシェリーちゃんを守りながらこれ以上相手にするのは厳しい」
シェリーちゃんを連れて先に行ったグレンさんを追う事は難しくなかった。シャドウガーデンを名乗る連中の死体がある方へ進んで行けばいいだけだからな。だが、思っていた以上に数が多い。
急いで追いかけていると、五つ目の死体を見つけて角を曲がったところで血を流しながら膝を付くグレンさんを見つけた。
「グレンさん、大丈夫ですか!」
「マルコか……、あの敵を相手に無傷とは流石だな」
すんません、俺が逃げたのでノーコンテスト状態です。
「適当に捲いただけですよ。……丁度すぐそこが医務室みたいです。まずは傷の手当を」
「応急処理なら自分でできる。お前はシェリー殿を追え。ルスラン副学長の部屋へ向かっている」
「副学長の?」
「なんでも緊急避難用の隠し通路があるらしい」
なるほど。戦闘能力のない――あっても魔力が練れない危険な状況で堂々と表から出ていけるはずもない。裏道が存在しているのなら、そちらを通った方が安全だろう。
「分かりました。どうかグレンさんも無事でいてください」
「若者に心配されるほど耄碌してはおらん……と言いたいところだが、戦力にはなれんだろうな。俺のことは気にせず、シェリー殿を守ることだけ考えろ」
ここで俺と別れた後、テロリスト共に鉢合わせすればグレンさんは命を落とすだろう。それでも俺を先に行かせる判断に揺らぎはない。その覚悟と誇りに俺も報いなければ。
……でも、道中で視界に入ったゴミを掃除するのは許されるよな?
「シェリーちゃん! それと……シド君!?」
以前、調査依頼の際に訪れた副学長室へ向かっているとシェリーちゃんを見つけた。それはいいんだが、何故か既知の間柄である黒髪の少年が一緒にいた。
「あれ、マルコさん?」
「マルコさん、無事だったんですね!」
グレンさんが怪我の影響で同行できない状況でテロリストに襲われないか不安だったのだろうシェリーちゃんに対してシド君は泰然自若としている。魔力が練れないことで魔剣士学園の生徒たちも拘束されたと思しき状況にも関わらず、なぜ彼は此処にいるのだろうか。
「よく見たら大怪我しているじゃないか、大丈夫なのかシド君!」
「ええ、見た目は派手ですが血も止まってますので」
肉体を斜めに走る切り傷と衣服を染め上げる出血はとてもではないが派手で済みそうにない。
「死んだと勘違いして放置されたようでして。意識が戻ったら誰もいない教室にポツンですよ」
「そ、そうか。なんにしても命を拾えたのなら良かったよ」
よほど悪運が強いのだろう。
俺としてもシド君には騎士団が謂れのない罪で拷問をしてしまったという借りがある。それの清算もできず彼が死ぬようなことになっては遣り切れない。
「二人とも不安な思いをさせてすまなかった。君たちは俺が必ず守り抜くから安心してほしい。確かルスラン副学長の部屋に向かっているんだったね? 連中に見つかってはマズいから急ごうか」
「あー、なるほど。良いシナリオの割に味方キャラの層が薄いなと思ってたけど、マルコ君が増援に来る感じだったのか」
シド君はなにかに納得したように手をポンと叩いていた。
ああ、騎士である俺が学園に居ることを不思議に思っていて、シェリーちゃんの護衛だってことにいま気付いたのかな?
「途中で出くわしたテロリストは全て俺が斬る。君たちは怯えることなく付いて来てくれ」
「これが……主人公の貫禄ッ!」
シド君がなぜか悶えるように体を震わせていた。
傷が開いてしまったのだろうか、心配だな。
勘違い系主人公×2。
自分で書いててなんだけど、負傷した状態かつ魔力なしでシェリー守りながらチルドレン五人倒してるグレンさん強いな。