我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。 作:ゆーりふり
「で、できました!」
シェリーちゃんの声と共にアーティファクトが光を放つ。
どうやら、無事に起動させることに成功したらしい。
「本当に凄いなシェリーちゃんは。俺なんて学を放り捨てて剣ばかり振っているから、何が起こっているのかチンプンカンプンだ」
シド君は一人で調整道具を持ってくるという困難な役割を見事に果たし、シェリーちゃんはしっかりとアーティファクトの解析をやり切った。ここから先は俺の役目だ。
「それで、隠し通路ってどこにあるの?」
「はい、お義父様が言うには……」
シド君の問いに答えながらシェリーちゃんが本棚にある本の背表紙を押す。すると本棚が動いて地下へと続く階段が現れた。ここを通っていくことで講堂にも入られるらしい。
「二人とも協力してくれて本当にありがとう。ここからは俺一人でいく。二人は地下通路を使って先に脱出してほしい」
魔力阻害を解除してテロリストを急襲。魔力を扱えるようになった生徒たちも戦力として加われば、外部からの増援が来るまで持ち堪えることは充分に可能だろう。負傷しているシド君と戦闘力のないシェリーちゃんがこれ以上、身を危険に晒す必要はない。
「わ、私も一緒にいきます!」
「それは危険が大きい。ルスランさんが心配なのは分かるが、俺を信じて待っていてほしい」
「ですが、強欲の瞳と制御装置が近付いたとき具体的にどうなるかも分かりませんし、知見のある私が居た方が色々な状況に対処できるはずです」
「そ、それはそうかもしれないが……」
いかん、十六歳の女の子に秒で論破されそう。
「いいんじゃないですか? ボクは怪我で足手まといになるから先に脱出させてもらいますけど、無理矢理置いていったりしたら彼女勝手に追いかけて来ちゃうかもしれませんよ?」
まさかのシド君までシェリーちゃん側に付いてしまった。そこは君に引き止め役をやってほしいところだが、あの怪我では振り切られてしまうことだってあり得るか。
むぅ……。
確かに勝手な行動をされるくらいなら最初から一緒にいたほうが守りやすいだろう。
「はぁ……分かったよ。ただし、あくまで観察に努めること。基本的にはテロリストたちに気付かれないよう身を隠しておいてもらうからね?」
「はいっ、ありがとうございますマルコさん!」
「それじゃあ二人とも、後は任せます。どうか学園を救ってください」
シド君に見送られながら、地下へと続く階段に一歩踏み出す。
ここからが正念場だ。
――――――
「おい、痩騎士! アレは持ってるか!」
「いきなりなにを言っている。それにアーティファクトはどうした」
部下も連れず、手ぶらで帰還したレックスは焦燥に駆られた様子で瘦騎士へと詰め寄った。対する瘦騎士も目的を果たさず戻ったレックスに怒りを込めた低い声で応対する。
「待ってりゃ向こうからアーティファクトを持ってここに来る! 日が落ちる頃だとよ! そんなことより、雫は持ってねえのか!」
レックスが瘦騎士に要求しているのはディアボロスの雫と呼ばれる物の粗悪品だ。
肉体に不可逆な変化をもたらし、精神にも異常をきたす。代わりに得られる力は莫大だ。元ラウンズの地位にあり、本物の雫を知る瘦騎士からすれば使う気にはならないが、念のため所持はしている。
「命令も聞けぬ者に渡す道理がどこにある」
「安心しろよ、持ち逃げしようってんじゃない。俺はそれを確実に使う。アンタだってノーリスクで戦力が増すんだからメリットはあるだろ?」
レックスはマルコ・グレンジャーに対抗するため雫を必要としている訳ではない。例え騎士たちに勝利したとしても、黒衣の男が襲ってくれば生き残る術はない。その死から逃れるため、必死で足掻いていた。
「ふん……よかろう。ここまでしてやったのだ、しくじるなよ」
瘦騎士はレックスの我儘を受け入れた。
彼の持ってきた情報の出処は分からないが、日暮れというのは捕らえられていないシェリー・バーネットがアーティファクトの解析を続けたなら、完了するだろうと予測していたタイミングと合致する。いまから下手に追い詰めて逃走を選択されるよりも、外部からの増援がない状態で紅の騎士団二人を撃破する方が確実だ。強欲の瞳による魔力阻害さえなければ勝てると驕った騎士に現実の厳しさを教えてやろう。
そこまで考えて、瘦騎士は不確定要素について尋ねた。
「シャドウガーデンの方はどうなった」
「さ、さあな……。それらしい奴は出てこなかったよ」
明らかな誤魔化しであると分かりながらも瘦騎士はレックスのことを見逃す。
些事などどうでもいい。己の持つ強欲の瞳とシェリー・バーネットの手にある制御装置。二つが揃った時、自分に勝てる存在はこの世のどこにも居なくなるという確信があったからだ。
――――――
地下通路を抜け、階段を昇った先は講堂の天井間近にある狭い通路だった。照明を整備するためにあるだろう場所から階下へ目を向けると、捕らえられた生徒を囲うように配置されたテロリストたちが見えた。
「う、撃たれてる生徒がいます、早く助けないと!」
「落ち着いて。魔力さえ戻れば治療は間に合うはずだ。強欲の瞳は……あそこか」
テロリストのリーダーと思われる全身鎧に目を向けると、マントの内側から禍々しい球体のような物を取り出していた。目玉にも見えるあれが強欲の瞳なのだろう。
俺の隣ではシェリーちゃんが制御装置に触れ、黄色い古代文字で描かれた魔法陣のようなものを出現させて準備を整える。
「シェリーちゃん、強欲の瞳に近付ければ魔力阻害を解除できると言っていたけど、具体的な距離は分かるかな」
「すみません。可能な限り近付けた方が確実としか……」
そうなると俺が持って降りる作戦はなしか。
持った状態で飛び降りて全身鎧に斬りかかってもいいのだが、生徒の安全を考えるならテロリストたちとの間に割って入るべきだ。
「……この制御装置って硬いのかな?」
「アーティファクトなのでそこそこは。えっと、どうするつもりでしょう?」
「兜を粉砕する勢いでぶん投げてやろうかなって」
「こ、壊れると魔力阻害を解除できないかもしれないのでやめてください!」
俺が持つのも壊れる勢いで投げるのもダメとなると、全身鎧に向けて投げたあと一時的に連中の手に渡ってしまうことになりかねない。魔力阻害を再発動されることも考慮しなきゃいけないな。
敵に対して優しく投げてあげないといけないなんて業腹だ。
「それじゃ行ってくる。ここならテロリストの攻撃が飛んでくることもないだろうけど、危ないと思ったらすぐに脱出してね」
少しだけ気になったのは、講堂のどこにもルスラン氏の姿が見えないことだ。無事に脱出できているのであればいいのだが。そんな一抹の不安を抱えながらも階下へと飛び降り、全身鎧へ向けて制御装置を投擲する。
その距離が幾らか近付くと、制御装置は黄色い光を放ち、次いで魔力を阻害していた違和感が消えたのを感じる。
「紅の騎士団マルコ・グレンジャー! 魔力阻害は解除された! ローズ王女、生徒たちの指揮を頼みます!」
テロリストの注意を惹き、生徒たちに状況を理解させるため名乗りを上げる。
指揮は魔剣士学園の生徒会長であり、芸術の国オリアナの王女でもあるローズ様に任せた。彼女は文武両道で万能型の天才と聞いている。いきなり現れた俺よりも生徒の信頼が篤いだろう彼女の方が適任だろう。
負傷者を連れてさっさと講堂から出ていってくれるのが一番助かったのだが、勢いづいた生徒たちは周囲のテロリストから武器を奪い取り応戦を始めた。
「なにをやっている、殺せ!」
状況が逆転して攻勢に出た生徒に対し、全身鎧の指示を受けたテロリストたちが動き出す。
リーダー格を倒して強欲の瞳を奪いたいところだが、生徒たちは魔力を吸われ続けた影響なのか動きが鈍い。避難するまでは俺が間に立って耐えるしかないか。
そう考えた瞬間、首元にヒリつくような感覚が走った。
「くっ……!」
咄嗟に体を捻って回避すると、首のあった場所を刃が通過していく。
振るわれた刃の元へ視線を向けると、赤いバンダナを巻いた男――叛逆遊戯のレックスが居た。
「よぉ、騎士様! さっそくだけど死んでくれや!」
二刀流であることを活かした連撃。
俺の首筋を狙ったのとは反対の手に持った剣が横に薙ぎ払われるのに刃を沿わせて受け流す。
「もう少し後にしてほしかったんだがなっ!」
マズいな……。
叛逆遊戯のレックスという危険な相手が生徒ではなく俺を狙ってきたのは望むところだが、他のテロリストが素通しになってしまう。生徒たちが数で勝るとはいえ、武器も魔力も足りない状態では死傷者が出かねない。
これ以上の無用な犠牲を出さないため、速攻でケリを着ける。
そう決めて剣へ込める魔力を高めようとした瞬間、講堂の天窓を破り陰が降ってきた。
「見事だ。美しい剣を振るうものよ」
シャドウはローズ王女へと称賛の言葉送り、コチラへと視線を向けてくる。
すると、叛逆遊戯のレックスはシャドウの姿に怯えたように後退って俺からも距離を取った。
「我らはシャドウガーデン」
『陰に潜み、陰を狩るもの』
何時の間にか講堂の上階には黒衣の女たちが並んでいて、シャドウが剣をタクトのように振るとテロリストの殲滅を開始した。
「さて、マルコ・グレンジャーよ。この状況、貴様はどう動く」
笑みを浮かべながらシャドウは試すような物言いをしてくる。
「……俺は騎士だ。目的は知らないが、シャドウガーデンが戦う力を持たない者を守るために動くというのなら後回しにしてやるさ」
「ふっ、ならば一夜限りのデュエットを奏でるとしようではないか」
スカした台詞に腹が立つ。お前とデュエットとか鳥肌ものだ。
それでも今は俺個人の想いを優先するべき時ではない。
俺がこの世で一番殺したいはずの男と並び立ち、向かってくるテロリストを打ち倒す。
シャドウの異常な魔力については承知していたが、剣技と戦闘技術もまた底が知れない技量を窺わせる。テロリストたちの戦闘能力は決して低くない。それがまるで案山子のように何もできず斬られていく。アレに比べればテロリストたちの剣技は児戯に等しい。
「どうした、貴様ならもっとやれるだろう?」
「さっきも言っただろう。俺は騎士なんだよ。殺すのも奪うのも本分じゃあない。生徒の避難が終わるまでは壁に徹する」
シャドウガーデンの戦力も考慮すれば勝利は確定的だが、だからこそ万が一にも生徒たちの犠牲を増やしたくない。俺とシャドウが突出してしまった隙を縫って、生徒を狙いだすやつが出ないとも限らない。
「あくまでも守り、奪われぬための剣を振るうか。変わらぬな」
「お前にはその内、奪うための剣を振ってやるさ」
ニコレッタをシャドウガーデンで働かせてること絶対に許さねえからな。
ちゃんと飯食わせてんだろうな。
あと、ニコレッタが着てた黒いボディスーツちょっと体のラインが出すぎじゃないか?
彼女はまだ嫁入り前の女の子なんだぞ。
言いたいことは沢山あるが、シャドウは俺の意を汲んだのか歩調を合わせてくれている。
そしてこちらも理由は不明だが、叛逆遊戯のレックスは攻めてくる様子を見せない。
直感的にシャドウの実力を見抜いているのだとしたら、やはり面倒な相手だ。
全身鎧は窮地と言える状況にも然したる反応を見せず、強欲の瞳の制御装置を回収しようとしていた。
「
「なに偉そうに命令してんだお前」
シャドウに向けて斬りかかりそうになる気持ちを必死に抑えながらも提案には乗るしかない。シャドウガーデンにアーティファクトを持ち去られるような事態は避けたいが、コイツらの介入があるから生徒に被害が出ていないのも事実だ。ここでヘソを曲げられては困る。
仕方なく叛逆遊戯のレックスへと向き直る。
未だに戦意を見せないレックスの横をシャドウが通り過ぎた瞬間、その顔がさらに歪み青ざめたのが分かった。
主人公の名前はタグに入ってないわ。タイトルとあらすじでどんな話か分からない不親切な陰実二次創作があるらしいな。