我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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●マルコ君の大雑把ステータス
魔力量 :化け物
剣技  :天才
魔力制御:???


強欲の瞳編⑤

『マルコ・グレンジャーを殺せたなら、見逃してやる』

 

 レックスの横を通りながら、シャドウはそう告げた。

 その言葉に顔を引き攣らせながらもレックスは覚悟を決める。

 この男をやり過ごせれば生き残る目はある。コイツに比べれば"王女の懐刀"程度なんでもない。

 気力を奮い立たせ、二刀を構える。

 

「三度目の正直だ。今度こそ殺してやる、マルコ・グレンジャー」

「こっちもいい加減、顔を見飽きていたところだ。状況が変わったから痛め付けるだけで勘弁してやるよ。色々と聞きたいこともあるしな」

 

 同じく剣を構えるマルコ・グレンジャーにレックスは苛立って舌打ちをする。

 

「舐めてんじゃねえぞ! オレ様より強いとでも思ってんのか!」

「思っているさ。御託はいいから、掛かってこいよ」

 

 激情のままにレックスが刃を振るう。

 

「おらおら、どうしたァ! ほざいた割には防戦一方じゃねえか!」

 

 二刀流で手数に優れるレックスがマルコを攻め立てる。

 左右上下の常に逆方向から斬撃を浴びせることで一本の剣しかないマルコに反撃する隙を与えていない。対するマルコは根を張った巨木のような安定感で一歩も動くことなく連撃をいなす。攻める糸口が掴めていないにも関わらず、そこには焦りも動揺もない。

 

「亀じゃあるまいし、何時まで甲羅に篭ってるつもりだ!」

「奪う側の思考だな」

 

 言葉と共にマルコは受け流すために振るった剣の勢いのままに体を回転させながら、レックスの脇下へと潜り込む。

 

「っ!?」

 

 受け流され、腕が伸びきってがら空きになった脇腹への突き上げをギリギリで躱したレックスはよろめくように後退る。その好機にマルコが攻めに転じる。中段の構えからコンパクトに攻撃を繰り出し、二刀を外側に弾くようにして立て直す暇を与えない。

 

「チクチクと……うざってぇ!」

 

 レックスは驚愕していた。

 単純な技巧で渡り合われていることもだが、斬撃の重たさに体勢が持ち直せない。それは魔力で相手に差を付けられていることを意味する。

 チルドレン1stとして、教団の幹部相手でもなければ明確な力負けをした経験などない。優れた膂力を持っているからこそ、二刀流の欠点を埋め、強味の手数を活かす戦法は確立していた。

 それがいま、たかだか一介の騎士程度に覆されようとしている。

 

 受け入れがたい現実にレックスが歯軋りする。

 ひたすらに堅実で地味な剣。それ故に明確な攻略法はなく、相手のなにかを上回っていなければ打開はできない。

 それが出来ていない現状はレックスが力も技も速さも劣っていることを証明していた。

 

「ガァアァ!!」

 

 そんなことを認められる訳がないと、レックスが無理攻めを敢行する。

 窮地に立たされた末の力任せ。

 技も戦略もない大振りはあっさりと受け流されて講堂の床へ突き刺さる。

 

 致命的な隙を見せたレックスの体をマルコの剣が斬り裂くかに思われた瞬間、講堂全体に火の手が上がった。

 

「これは……」

 

 一変した状況にマルコが剣を止め、距離を取る。

 周囲を見渡せばレックス以外のテロリストは全滅しており、シャドウガーデンもシャドウも、全身鎧も居なくなっていた。

 

「どういうことだ」

 

 シャドウガーデンが役目を終えて撤退したことは理解できる。だが、シャドウも全身鎧も姿が見えないことにマルコは疑問を抱いた。すでに全身鎧は倒され、シャドウによって強欲の瞳ごと連れ去られたのか。まさかシャドウを相手に逃走できたとも思えない。

 確かめるためにもレックスを倒す必要があると思い直したマルコが再び剣を構えると、レックスは俯いて何事かを呟いていた。

 

「いる訳がねえ…‥ああ、そうだ! あんな化け物が何人もいる訳がねえ! 国に飼われてる騎士なんぞにオレより強い奴がいる訳がねえ! 殺してやるよマルコ・グレンジャー、お前がこの網に掛かった瞬間になあ!」

 

 シャドウにこそ通用しなかったものの、レックスは絶対の自信を以って網を展開した。

 

――――――

 

 網ねえ……。

 展開した魔力を周囲に網目状に張り巡らせることで感覚器官の延長としているのだろう。

 魔力を肉体から離して制御するのは絶技と称すべき難事の筈だが、視線を下げてみると足下から魔力の線が伸びていることが分かる。

 

「さあ、どこからでも来いよ! それともビビッちまったか″王女の懐刀″さんよお!」

 

 なんでか知らないが、やたらとテンションが高い。

 教団のリーダー格で一番強いと思われる奴が居なくなったことで自暴自棄になっているのかもしれないが、ほとんど発狂しているに近い。

 それにしても……。

 

「"王女の懐刀"って俺のことなの?」

 

 唐突に新事実が発覚した。そりゃどんだけ探しても見つからない訳だ。

 王族の誰に付くか選べって言われたらアイリス様って答えるけど、別に俺はアイリス様の命令しか聞かないわけじゃない。あ、でも王女の懐刀だからアレクシア様が使ってもいいのか。なんだか二股野郎みたいだな?

 

「お前を殺して俺は生き残る! 上から偉そうに命令してくる痩騎士の爺さんもぶっ殺して、あの化け物だって、シャドウだって殺してやるさ!」

「へえ……」

 

 講堂で燃え盛る炎にチリチリと焦がされる肌の感覚が消失する。下らない余計に割いていた思考が一気に集中していく。

 

「様子がおかしいと思ってはいたが、お前はシャドウに言われて俺を殺そうとしてるのか。アイツは他になにか言っていたか?」

 

 一応は協力する姿勢を見せていたくせに教団の戦闘員を俺に(けしか)ける理由はなんだ。コイツとの戦闘に気を取られている間に自分たちの目的を達成しようとしている?

 

「このオレとお前が互角だとよぉ! 何も知らねえ連中に持て囃されてる王族の腰巾着とチルドレン1stである、このオレがだぞ!」

 

 互角だから俺とコイツを戦わせる?それになんの意味がある?

 ただの方便か、それとも本当に俺がコイツに勝てるか試しているのか?

 

 ――ははっ。

 

「ああ、それは腹立たしいな」

 

 剣を構え、叛逆遊戯のレックスへと斬り掛かる。

 俺が目指しているのはシャドウだ。

 そのために、あの日からひたすら剣を振ってきた、幾つもの戦いで強さを磨いてきた。

 

「ッッ!! 捉えたァっ!」

 

 直進して突っ込むと見せ掛けて、足をステップを使って弧を描いて相手の背後を取る歩法。急激な方向転換によって視界から消えたと錯覚させる技に動揺しながらも、レックスは網に掛かった俺へと振り向き様のカウンターを放つ。

 

「……あっ? 空振り、だと?」

 

 シャドウ、お前から見た俺はこの程度の奴と命のやり取りになるレベルなのか?

 

「所詮、戦えない者を虐げることしかできないお遊戯だな」

 

 網に掛かったわけではない。

 そもそも網のような罠は相手に気付かれず設置しているから効果があるんだ。これ見よがしに張られていて、なんの意味があるのか。

 レックスの背後を取った俺は剣の速度は維持しながらも、威力は最小限に抑えて網へ振るった。そして剣が網に当たった瞬間、カウンターをしてくるレックスに対して一歩下がった。 

 やったことと言えば、それだけ。

 

「残念だったな。今は俺がお前を狩っているんだよ」

 

 勝利を確信して粗い斬撃を繰り出したレックスは防御さえ出来ずに俺の剣に斬られた。

 

「殺しはしない。教団のことを全て吐いてもらう」

 

 血を流しながら倒れ伏すレックスを運び出そうと手を伸ばした時、その魔力が跳ね上がった。

 

「フザケルナァッ!! どいつもこいつもオレを見くびってんじゃねェっ!!」

 

 肉体が膨張し、傷が見る見るうちに塞がっていく。

 なんだ、これは?

 

「これが教団の力だァッ! 俺に弄ばれるための玩具風情が調子に乗るなァッ!!」

 

 立ち昇る魔力の質。

 血に染まったかのような瞳。

 肉が腐ってもいなければ腐臭もないが、どこか悪魔憑きを彷彿とさせる。

 

「なるほど、それが悪魔憑きを狙ってた理由って訳か」

「そうだっ! 世界を支配する圧倒的な暴力! お前たちはただオレたちに狩られる日まで怯えて暮らしてりゃいいんだよォッ!」

 

 最早、化け物と呼ぶべき姿になったレックス。その力はシャドウを除けば、これまで俺が見てきた中でも別格だ。王都テロ事件の時は全力を出してはいなかったと思われるアルファならば、これをさらに上回るのだろうか。

 

「怯え竦めェッ!」

「お誂え向きだな」

「……ッ!?」

 

 シャドウのことは百回殺しても殺し足りないほど嫌いだ。だが、あの男は善良に生きる弱者を嬲るような真似はしていない。

 

「ニコレッタ、君は俺が迎えに行くのが遅くなることを怒るかな。あまり待たせていると、愛想を尽かされてしまいそうで怖いよ」

 

 でも、ごめん。

 コイツらは捨て置けない。

 シャドウよりもずっと許せない。

 

「ナニをゴチャゴチャとォッ!」

 

 絶大な力を得たレックスが二刀を構え、突撃してくる。流麗な技と連撃が強みのはずの二刀流を無為にする稚拙な攻撃手段。やはり努力を伴わず、身の丈に合わない力はダメだな。

 

 俺も他人のことは言えないけど。

 

「決断させてくれた礼だ。今の俺にできる最強で相手をしてやるよ」

「オォラァァッ!!」

 

――――――

 

 レックスは勝利を確信していた。

 チルドレン1stである己が雫による強化を果たしたのだ。

 有する魔力は隔絶し、騎士を赤子のごとく叩き潰せるはずだった。

 

 だが、金属同士が激突する甲高い音の後、後ろに下がっていたのは自分だった。

 

「……ァ?」

 

 理解ができなかった。

 技術ならともかく、力押しで負けたことが。

 マルコ・グレンジャーの剣が放つ魔力に比べれば、己のそれが赤子の如く矮小であることが。

 

「ナンだ。ソレは……」

「なにって魔力だろ」

 

 剣が光を放っている。

 魔力を纏うのではなく、金属と魔力が入り混じって剣を構成しているかのように。

 

「正直、偉そうにするつもりはないんだよ。お前と同じドーピングみたいなものだし、アイリス様をバカにできないくらいゴリラ戦法だからさ」

 

 戦士の直感が確定事項として告げてくる。

 アレを受けたら死ぬ。

 

「ナゼ、そんな力を持っていて今まで隠していたァッ!」

「それは俺が騎士だからだな」

 

 意味が分からない。この力を行使すれば、大抵の奴は首を垂れて服従を誓うだろう。どんなバカでも動物としての本能が逆らってはいけないと訴えかけてくる。

 

「俺たち騎士は守るための存在なんだよ。それは人命だけに限らない。土地や建物、自然。そういった物も守っていかないと結果的に人々の生活は壊れる」

 

 マルコが一歩前に出る度、自然とレックスが一歩下がる。

 レックスの意思がどれだけ踏ん張ろうとしても止められない。

 

「俺は魔力の操作が下手くそでな。()()()()()()()()()()()()()()余計な破壊ばかりしてしまう。そうしないと、それこそ壁かよって位にデカい剣を振り回すことになる」

 

 レックスの脳裏に逃走という選択肢が過る。

 

「やめとけ」

 

 心を読んだかのようなマルコのセリフにレックスの肩が跳ねた。

 

「俺よりもシャドウの方がマシだと思ったのか? 残念だが、俺の全力はアイツの足元にも及んじゃいない。お前が生き残る方法は俺に勝つことだけだ」

「ア……アァ……ッ!」

 

 下がる足をなんとか押さえつける。力なく垂れていた両腕を上げて剣を構える。

 それでも全身を襲う震えは止まらない。

 あまりにも異質な魔力の使い方が見えてしまう。

 

「不格好な技だろ? 剣技を十全に扱うなら魔力を抑えるしかない。魔力を開放すると制御できず技もへったくれもないブン回ししかできない。だから考えたんだ」

 

 避け得ぬ死を感じ取ってしまうほどの魔力が込められた剣。

 それを()()()()()()魔力が剣を覆い圧し固めている。

 

「中途半端に制御して綺麗に使おうとするからいけない。だから全力の四割を剣に込めて、六割で雑に固めた」

 

 力業の極致だった。

 今のレックスと比較しても何十倍あるかも分からない力による技巧。

 

「どうした、掛かって来いよ。ビビッちまったか"叛逆遊戯"?」

 

 現実を受け入れられないレックスは、その挑発に乗り全身全霊の斬撃を放った。

 二刀をクロスして重ね合わせた必殺。

 "叛逆遊戯のレックス"の人生で間違いなく最高の一撃。

 

 その最高は命諸共、輝く蒼に断ち斬られた。




Q:マルコ君は一体なんなの?
A:簡単にいうとシャドウ様⇔マルコ君は魔人ディアボロス⇔英雄オリヴィエみたいな関係性。
  マルコ君の魔力制御センスは前世の先入観もあってかなりゴミ。圧縮や収束は適正がある。
  シャドウ様に治療されたときに少しマシになった。

Q:マルコ君はどの面下げてシャドウ様以外の人の魔力を圧倒的とか莫大とか言ってたの?
A:みんな、制御できる魔力の最大値が高くてすごいンゴって面してた。
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