我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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モブ式奥義四十八手「見切り発車」


聖地リンドヴルム編①

「あのハゲ! 本当にムカつく!」

「アレクシア様、人の外見的特徴を貶すのは感心できませんよ」

 

 誰も好き好んでハゲている訳ではないのだ。それは誰にだって訪れる可能性のある悲劇。決して一時の感情でバカにしてはならない。将来、自分だって同じ立場になる可能性があるのだから。

 

「私が第二王女だからって軽く見てるのがバレバレなのよ!」

 

 ミドガル王国の騎士として、俺は二つの任務を果たすために聖地リンドヴルムを訪れた。ひとつは聖地で開催される女神の試練の来賓となったアレクシア様の護衛。そして、もうひとつは女神の試練に参加して勝利するという栄誉をミドガルに持ち帰ることだ。

 

 当初、俺はこれらの任務を受ける予定はなかった。

 アレクシア様の護衛を断る理由はないが、紅の騎士団が担当せずとも別の騎士団から護衛は付く。女神の試練は以前から幾度も受けてみてはどうかと打診されていたのだが、とある理由から断っていた。

 

 女神の試練が何なのかと言うと、ゲームなんかにある一度倒したネームドやボスキャラと再戦できるイベントと思って貰えればいい。

 年に一度、聖地のさらに奥にある『聖域』への扉が開く日にあわせて開催されていて、挑戦者は数百人にものぼる。

 ただし、再戦イベントと言っても好きな相手を選べる訳ではなく挑戦者の実力に合わせて自動選出される仕組みだ。足切り機能もあり、実力不足と判断された場合には誰も出てこない。

 挑戦者が資格を満たしていると判断された場合に出てくるのは、この世界で過去に存在していた古代の戦士たちの幻影らしい。どういった方法で戦士たちのデータみたいなものを保存したのか興味は尽きないが、異世界ファンタジーの謎システムを解析できるような頭脳は俺にはない。

 

「シェリーちゃんが見れば理屈が分かったりするんだろうか」

 

 もうとっくにラワガスに到着しているはずだが、元気でやっているかな。

 

「マルコ、王族命令よ! 女神の試練は絶対に勝ちなさい!」

「誰が出てくるかも分からないのに絶対と言い切るのは難しいですね」

 

 その女神の試練に参加して勝利することは大変に名誉なこととされており、勝者に与えられる証はそれだけでどこの国の騎士にだってなれるような代物らしい。ミドガルの騎士である俺にとっては名誉以上の意味はない。

 さて、そんな女神の試練をなぜ俺がこれまで受けてこなかったのかと言うと、自分に近しい実力者が出てきてしまうというシステムが理由だ。強さの測定方法がこれまた謎なのだが、戦闘技術なんて曖昧なものを正確に測れているとは思えない。ならば、やはり数値化しやすい魔力を見ていると考えるべきだろう。

 

(化け物みたいに強いのが出てくると対処に困るからなあ)

 

 俺の戦闘能力は非常に歪だ。

 騎士として人々を守ることを目的として技巧で戦うスタイル。

 人外と評すべき魔力で破壊を撒き散らす蛮族スタイル。

 相反する二つの戦い方を融合させることが最終目標なのだが、少なくとも現状は道半ばにも到達していない。そんな俺の魔力量を見て相手が選出されてしまった場合、技巧だけで勝利することは困難だろう。魔力を全開にしての戦闘は緊急事態を除けば使いたくはない。

 

 そんな訳でずっと断っていたのだが、なぜか勅令という形で女神の試練を受けるようお達しがあった。なんで今さらそんな強制をしてきたのか不思議に思ったのだが、国王陛下のご意志という訳ではなく、公爵家が率いる派閥から強い要請があったらしい。試練をクリアすれば国益となるというのは分からなくもないが、それだけが理由とは思えない。しかし、悲しいかな国仕えの身としては断れようはずもなく、挑戦する運びとなった。

 

「そんな弱気でどうするの! あのハゲ、完全にあなたのことも見下してたわよ!」

 

 アレクシア様がさっきからハゲハゲ連呼しているのは聖教の司祭であるジャック・ネルソンのことだ。アレクシア様は女神の試練に合わせて聖地で起きている汚職や孤児の失踪について調べようとしていた。そのために大司教ドレイクに監査の実施を申し入れて許諾を得ていたのだが、彼は何者かの手によって暗殺され、監査を含む予定の幾つかは白紙となってしまっている。

 

 組織のトップと言える人物が暗殺される大事件が起きたのだから、予定に変更が生じてしまうのは仕方のないことだ。女神の試練自体を中止してしまえば信者に不安を与え、聖教の権威に傷が付くという考えで開催を強行することも理解はできる。

 それで済ませてくれればよいものを、ネルソン司教が監査を白紙にされて嚙みついたアレクシア様に対して『姫様方の道楽』などと言ったものだから完全に機嫌を損ねてしまっている。

 

 俺としても孤児の失踪は気になるところだが、監査を受け入れた時点でボロを出さない準備は整っていただろう。真っ当な手段で暴けるとも思えない。本気でやるなら聖教と周辺国を敵に回す覚悟をする必要があると考えている。

 聖教に胡散臭い部分が見え隠れしているのは間違いなく、下手をすれば大司教の死自体が裏側の事情によるものかも知れない。ここがお綺麗な宗教の聖地ではなく敵地のど真ん中なのだとすれば、俺がいま最優先すべきはアレクシア様の安全だ。監査は国王陛下も説得し、腰を据えて取り組んでいくしかないだろう。

 

「分かりましたから機嫌を直してください。アイス食べます?」

「子ども扱いすんな!」

 

 王女とは思えない荒い言葉遣いだ。やはり女性と近しくなるならニコレッタのように清楚可憐な子がいい。

 なんにしてもハゲを連呼する女の子を見ていたくないので話題を変えよう。

 

「一番強い戦士だと誰が出てくるのでしょうね」

「そりゃあ英雄オリヴィエでしょ。何年か前に流浪の剣士ヴェノムが呼び出したと話題になっていたわよ」

 

 英雄オリヴィエっておとぎ話のオリヴィエか。魔人ディアボロスを打ち倒したと言われる三英雄は最も有名な戦士たちと言って差し支えない。千年も前の存在である三英雄まで呼び出せるとは凄いな女神ベアートリクス。

 聖地リンドヴルムはオリヴィエによってディアボロスの左腕が切り落とされた伝説が伝えられている場所でもあり、各所にも三英雄を模った像が存在している。判別が付くということは、あの像のような筋骨隆々で鎧と兜を身に着けた剣士が出て来たんだよな。そして、それを呼び出せる実力の剣士も現代に居る訳か。

 どのくらい強いのか試練を別にしても気になるな。

 

「そのヴェノムという剣士は勝利したのですか?」

「負けたらしいわよ。私も実際に見た訳じゃないから詳しいことは分からないけれど」

 

 ネームバリューという意味での上限値は分かったが、実力がどの程度なのかは分からず終いか。

 試練に挑戦する順番はある一定の間隔で実力の高い者が配置されているらしい。長時間に渡って古代の戦士が呼び出されない状況が続くと観客が退屈してしまうことに対する配慮だろう。それもあって俺の順番は後ろの方に回されているから、先に挑戦した人たちの実力と呼び出された戦士の強さからあたりを付けるしかないか。

 

「私は鬱憤晴らしも兼ねて温泉に入ってくるわ。そろそろ護衛も交代の時間だけど、あなたはどうするの?」

「なかなか訪れる機会のない場所なので、街を見て回ってみようと思います」

「そう。なにか美味しいものがあったらお土産に買ってきてちょうだい」

「土産代、返してくださいね?」

「男がみみっちいこと言うんじゃないわよ」

 

 騎士にたかる王女よりはみみっちくないと思うんですが……。

 

 

 

 

「うーん、異世界の土産でもこういった需要はあるんだな」

 

 リンドヴルムの街を歩いて回っていると、賑やかに呼び込みをしている露店があった。

 英雄オリヴィエの伝説に肖った土産物ということで覗いてみると、金属製のキーホルダーのようなものが売っていた。シルバーで太い腕を貫く剣の形をしていて、なんだか御利益があるらしい。前世でもドラゴンと剣みたいな組み合わせで似たようなのを見たことがある。

 

「アイリス様と紅の騎士団の皆に買っていこう」

 

 前世と違って飲食物の長期保存や冷凍輸送は難しいため、消え物を土産にするのは結構敷居が高かったりする。他に気になるようなものはないかと色々見てはいるのだが、現代日本人らしく無宗教だった俺は今生でも特定の宗派を信仰したりはしていない。宗教的に重要なものや建築様式なんかは数分も見ていれば飽きてしまう。

 

 ならば修行をといきたいところだが俺たちの宿泊している温泉宿は流石に適さない。聖教の訓練施設は大司教ドレイクが殺害された影響でてんてこ舞いになっていて外部の者は使わせてもらえなかった。暇である。

 

「そこのあなた」

「……はい?」

 

 いっそのこと、リンドヴルムの外に出て魔物でも狩ってこようか考えていると後ろから声を掛けられた。

 振り返ると青い髪の美しい女性が立っていた。

 

「マルコ・グレンジャーじゃない。あなたも女神の試練を受けにきていたとは知らなかったわ」

「えーっと?」

 

 はて、どこかで会ったことがあっただろうか。

 身に着けている剣と鎧からして魔剣士なのは間違いない。実力があるのも分かる。ただ、この強さで特徴的な見た目をしている子を忘れるとも思えないんだが。

 

「アンネローゼ・フシアナスと言えば分かってもらえるかしら」

 

 アンネローゼ・節穴さん。 

 俺もこの世界で二十年以上生きてきたのだ。こういった名前にも流石に慣れたし、名は体を表すという慣用句が当てにならないことも知っている。漣のレイや叛逆遊戯のレックスが元ネタと全然違っていたように、彼女の目が節穴とは限らない。

 

「初めましてで合っているのかな? マルコ・グレンジャーです、どうぞよろしく。それでアンネローゼさんは有名な方なんです?」

 

 俺の見聞が狭いだけだとは思うが、知らないのに知ったかすると大体よくない方に物事が進む。聞くは一時の恥だ。

 

「元ベガルタ七武剣の私を知らない!?」

 

 ベガルタ七武剣は知っている。

 剣の国ベガルタで象徴的に扱われる七人の実力者たち。男の子は皆大好きな四天王とか五虎将とかみたいなやつ。……大好きなやつではあるんだが、ベガルタは他国だし大して関わり合いもないのに覚えておくには七人という数はちょっと多くて。

 

「同年代で髪が同じ青色の実力がある魔剣士だから私とライバル扱いされてるのも!?」

 

 全く知らない。

 同年代という話ならミドガルの代表はアイリス様だろう。髪が青いって共通点があるという理由だけでライバル扱いされてるんだろうか。

 そんなことを考えていると、アンネローゼさんに肩を掴まれて前後に激しく揺さぶられた。

 

「意識してた私がバカみたいじゃない! いっちょ挨拶してやりましょうかって気合入れて声掛けた私が勘違いした奴みたいじゃない!」

「いや、そんなこと言われましても……」

 

 ミドガルとベガルタは同盟国などではないが、緊張状態にある訳でもない。七武剣とミドガルの魔剣士、どっちが強いか頻繁に比較されているということもない。そんな事情もあって俺は他国の戦力というのそこまで意識したことがない。仮に国同士の戦争が始まりでもしたら危険な敵ということになるんだろうけど、身近な盗賊や魔物といった脅威の方が優先度が高い。

 

「こうなったら女神の試練で勝負よっ!」

「あのシステムでなにをどう勝負するんです?」

 

 魔剣士というのは国仕えかどうかに関わらずプライドが高い人が多い。強さ比べが大好きで喧嘩っ早いのだ。しかし、女神の試練はCPUとの対戦イベントで同じ相手が出るとは限らないから勝敗で互いの強さの比較とかできないと思うんだ。

 

「もちろん、どちらがより強大な古代の戦士を呼び出せるかよ」

 

 まさかの召喚獣バトルか。

 呼び出して戦わせるんじゃなくて戦うの自分だけど。

 

「呼び出して二人とも負けたら比較が難しいのでは?」

 

 俺たち二人とも誰も呼び出せない可能性だってあるからね。

 ……よく考えたら個人的に挑戦してる人はともかく、公人として来てる人が呼び出せないと国に帰ったときが怖いよな。名声や承認欲求のため騎士になった訳ではないが、強さが足りなくて後ろ指を指されて笑われるのは勘弁願いたいものだ。

 

「むぅ……。そうだ、ブシン祭にしましょう!」

「ああ、そう言えばもうじき開催でしたね。アンネローゼさんは出場されるんですか?」

「呼び捨てでいいわよ。私もそうするから。修行の旅をしているんだから勿論出るわよ!」

 

 アレクシア様の言っていたヴェノムという戦士もだが、流浪の旅というのも面白そうだよな。

 貴族の家に生まれず、ニコレッタを取り戻すという絶対に諦められない目標がなければ、俺もそんな生き方をしていただろう。何時の日か、彼女を取り戻せたなら人の手が入っていない秘境なんかを巡って見るのも楽しいかもしれない。

 

「それじゃあ、アンネローゼ。悪いんだけど俺はまだ出るか決まってないんだ」

「なんでよ!? 優勝候補の一人でしょ!」

「国の意向もあるからね」

 

 別に出るなと言われている訳ではないのだが、アイリス様の二連覇もかかっている。女神の試練と同様に、どうせなら国家としての利益が最大になるようにしましょうって話は必ず出る。そうなると俺がでない選択も決してないとは言えないのだ。

 

「逃げるんじゃないわよ! 絶対に出てきなさい!」

「ええ……」

「まあ、まずは女神の試練よね。私が華麗に古代の戦士を打ち倒すところ、目をかっぽじってよく見ておきなさいよね!」

 

 そう言って良い感じの笑顔で立ち去っていくアンネローゼを見て思った。

 やはり女性はお淑やかな子がいい。そう、ニコレッタのような。




アレクシア様が温泉でシド君のエクスカリバーって単語に反応を返してるってことは、あの世界エクスカリバーあるんだよね。聖域の中心にある聖剣がそうなんだろうか。
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