我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。 作:ゆーりふり
面白くなくて低評価が付いたらジタバタしながら受け入れます。
「……暇ね」
「ここまで呼び出せないものなんですね」
「毎年数百人の挑戦者がいて呼び出せるのは僅か数人ですから」
数パーセント程度ってことか。前世だとプロスポーツの試合観戦や音楽ライブに行ったことはあるが、ここまで暇な時間が続く興行イベントは経験がない。プロ野球でイニングに色々と催し物があるのは大事なことだったんだな。
「結局、呼び出せたのはアンネローゼだけか」
「元ベカルタ七武剣の名は伊達ではありませんでしたね」
「ん? ……なんで呼び捨てなのよ?」
「昨日、街を歩いている時に会って顔見知りになりました」
古代の戦士を呼び出せるだけでも上澄みだと実感しているところだが、アンネローゼは見事試練を突破している。呼び出されたのはボルグという名の戦士で実力も高かった。それに勝利するのだから彼女はまだ若いのに大したものだと思う。
「へえ、ミドガルの騎士様は女に手を付けるのがお早いようで」
「アレクシア様はそのミドガルの第二王女ですよね? 自国の騎士の評判落としに掛かるの止めてくれません?」
アレクシア様は俺のことを一体なんだと思っているのか。酷い風評被害である。ちょっと立ち話しただけで手なんぞ出さない。
「マルコ様は確か婚約の申し込みが多く来ているのに全て断り続けているんですよね? なにか事情があるんでしょうか」
「面食いなんじゃない?」
おかしいな。さっきまで犬猿の仲というくらいにいがみ合っていたアレクシア様とナツメ先生が今は二人で楽しそうに俺へ矢継ぎ早に質問してくる。足を踏んづけたり、目を吊り上げて睨み合ったりしていたというのに。そんなに恋バナに飢えていたのだろうか。
「容姿の美醜でお断りしたことはありませんよ。騎士として至らぬ身で色恋に現を抜かす暇はないというだけです」
本当はニコレッタ以外に愛を注げる気がしないからなのだが、これを理由にはできない。仮面夫婦は御免被るので引き延ばすしかないのだ。毎度断るのが面倒だから誰かと偽りの婚姻関係を結べると有難いのだが、そんな都合のよい貴族の息女はどこにも転がっていなかった。
「ほう、それはそれは女神の試練の結果も期待できるというものですなあ」
そこにネルソン司教がやってきた。何故か挑発するような物言いだが、俺は彼の気に障るようなことでもしてしまっただろうか。
「確かに、アンネローゼさんが戦った相手を見る限り、挑戦者の実力を測る機能自体はかなり正確なようでしたね」
「これで数少ない呼び出せた戦士が弱いんじゃ会場が白けるものね」
ローズ王女とアレクシア様の目から見ても、アンネローゼが呼び出した戦士ボルグとの戦いは実力伯仲しているという評価だったようだ。それにしてもうちの王女様のガラが悪いな。
「手厳しいですな姫様方。是非ともマルコ殿には強力な古代の戦士を呼び出して勝利していただきたいものです」
「心配しなくても誰が出てこようとマルコが勝つわよ。例え相手が英雄オリヴィエでもね」
「あの、勝手にハードル上げるのもやめてもらえませんかね」
そろそろ陽が沈もうとかという夕刻。俺の順番は目前だ。どんな相手が出てくるのか気になるところだが、英雄オリヴィエは女神の試練で出てくる古代の戦士でも上限値だろう。会ってみたいし、戦ってもみたいが実益が絡んでいる場だと手放しで喜べる相手でもない。
「それでは、私は下に向かいます。アレクシア様、くれぐれも粗相のないよう。ローズ王女、ナツメ先生、アレクシア様のことよろしくお願いします」
「だから子供扱いするなって言ってるでしょ!」
本当の大人は気に入らない相手の足をこっそり踏んづけたりはしないのだ。
――――――
『挑戦者、マルコ・グレンジャー!』
進行役のコールに会場が沸く。
今年の女神の試練の大本命。
ミドガル王国最高戦力の一角にして第一王女の懐刀。
先日、魔剣士学園で起きたテロ事件解決に於いても多大な貢献を果たし、いま最も高い名声を持つ騎士が会場の中央へ向けて歩みを進めている。
「マルコ君はいったいどんな戦士を呼び出すのかなー」
「彼の強さはナンバーズと比較しても劣らない。学園の講堂で見せたという蒼い剣のように隠している力があることも考慮するなら、相当な強者が出てくるでしょうね」
「三英雄……実際に呼び出せるものなのでしょうか」
この会場に於いて最上位の戦闘能力を持つシャドウたち三人にとっても、この試練の内容は重要だった。或いは、自分たちの
そして、その予測は当たった。
『古代の戦士よ、我が呼声に応えたまえ!』
マルコ・グレンジャーの声に呼応して古代文字で描かれた魔法陣のようなものが浮かび上がる。次いで、陣から一筋の光が会場へと落ち、その中から人影が現れた。
――その姿は小柄な少女にしか見えなかった。
「バカなっ! オリヴィッ……!?」
「オリヴィ?」
呼び出された戦士の容貌を見たネルソン司教が驚愕の声を上げる。その口を突いて出かけた名にナツメ・カフカは目聡く反応した。おっとりした眼差しが今は剣呑な光を宿している。
「あ、いや、オリーヴ! あれは女戦士オリーヴと言って中々に高名な古代の戦士ですなあ!」
狼狽した様子のネルソン司教の言葉はたどたどしく、誤魔化していることが窺えるが、ナツメはそれ以上の追及をしなかった。あの少女の本当の名は何なのか。なぜ己の上役であるエルフと瓜二つなのか。全て後で分かるからだ。
「マルコが一方的に押されるなんて。あの女剣士、強い……っ!」
マルコ・グレンジャーが呼び出した相手が少女であったことに会場からは少なくない動揺の声が広がる。だが、その声は試練の開始と共にさらに増大していった。
少女は戦闘に適しているとは思えない貫頭衣に裸足という簡素な出で立ちだ。逆に手に持つ剣と額当てには細やかな装飾が施されており、どこか噛み合わない違和感を持たせる。可憐な容姿と華奢な体格は少なくとも戦闘を得手としているようには見えない。
しかし、一度動き出した少女のスピードは圧倒的なもので大半の観客は目で追うことさえ出来てはいない。目で追うだけの実力を持つ者たちからしても、その強さはアンネローゼ・フシアナスが倒した古代の戦士を遥かに上回っているということしか分からず、推し量るのが困難なレベルだ。
「単純なスピードもですが、剣の技術も凄まじい。オリーヴという名には聞き覚えがありません。あれほどの戦士が歴史に名を残さず無名だなんて」
姉のアイリスが全幅の信頼を置くマルコ・グレンジャーの強さをそれなりに近くで見てきたアレクシア・ミドガル。かつて賊に誘拐されたとき、自分を救ってくれたスタイリッシュ盗賊スレイヤーという謎の人物に憧れるローズ・オリアナ。自分よりもずっと格上の存在を知っている両者から見ても、オリーヴという名前らしい少女の剣技は感嘆に値するものだった。
「あの装飾具、それに魔力波長……」
ナツメ・カフカもまた、戦士たちの技量に少なからぬ驚きを抱いていた。自分たちが神の如く崇める主から授けられた魔力と叡智。それらがなければ抗うことが困難な古代の戦士の実力と、それに押されながらも戦闘を成り立たせている騎士の強さに。
「おやおや、華麗に古代の戦士を倒して女神の試練をクリアしてくれるものと思っておりましたが、防戦一方のようですな」
動揺から立ち直ったネルソン司教が今度は嘲笑うように戦況を評価する。
それはなにも間違っていない。会場の中央に立つマルコ・グレンジャーは縦横無尽に動き回って剣撃を放つ少女に対してほとんど受け身の状態だ。
瞬間移動と見紛うほどの機動力と鋭い斬撃。たった一人が繰り出す全方位からの攻撃に対して、マルコ・グレンジャーは軸足を中心点として円の軌道を描くように対処して攻撃をいなす。速度と手数で圧倒される状況に最小限の効率的な挙動で防御を追い付かせているが、第三者から見れば、その均衡はいつ崩れたとしてもおかしくない。
時折、苦し紛れに攻撃を数度放つも全て躱され、返す刀で反撃を受ける。ほぼ全ての者の目に、戦況はそのように映っており、マルコ・グレンジャーが劣勢であると思われていた。
「もうほとんど勝負は決まったようなものだね」
その中で、数少ない例外がマルコ・グレンジャーの戦いに評価を下した。
「それはマルコがこのまま敗れるということですか?」
戦闘に於いては何者の追随も許さないシャドウが勝負は付いたと言う。同じ景色を見ているはずのニューにはマルコの勝ち筋が見出せず、観客たちと同様に彼が終始押されている認識だった。
「マルコ・グレンジャーの何度か繰り返している反撃。状況を打開しようと苦し紛れのものかと思ったけれど、彼にしては数種類の攻撃パターンの組み合わせだけで幅がなくて稚拙ね。それがなんらかの狙いを持った上での行動ということなのかしら?」
「お、アルファ鋭いね。古代の戦士ってようは本人を再現したコピーなんだよね。だから思考も厳密には生物のそれとは異なった機械的なもので、あくまで模倣みたいだ」
その言葉を受けたニューが戦場に目を戻すと、確かにマルコ・グレンジャーの反撃は数える程度の攻撃パターンの順番を変えて放っているだけだった。しかし、それが画一的な思考しかできない相手を探るための手段だと理解できてしまえば、彼の目的も朧気に見えてくる。
「全く同じ攻撃に対しては同じ回避行動を取る。不自然に繰り返されていることに何らかの意図があるといったことを考慮したりはできない?」
「うん。初っ端から行動パターンの分析を始めてたから、女神の試練というシステムに対してどうやって勝つか考えてきたんだろうね。動きがただのパターンでしかなくて、次の一手が確実に読めているのなら充分に捉えられる速度差だ」
どこかつまらなそうにシャドウが告げる。
「あまり楽しくなさそうね?」
「不満ってことはないんだけどね。あれ、表情も苦戦してるから歪んでいるんじゃなくて女の子が相手じゃ全力で戦えないって顔だもん。真っ向勝負で彼女を攻略するマルコ君も見たかったけど、彼は騎士だから仕方ない……ってアレは!?」
制限を掛けた状態では自分を上回る敵を相手に、マルコ・グレンジャーがどう対抗するのかを期待していたシャドウとしては微妙な展開だった。ゲームのCPUをパターンに嵌めて倒すようなもので、終わりが見えてしまったから。それでも女の子相手に全力を出せないのは騎士としての彼の在り方を体現しているのだから不満はない。美味しいラーメンを食べたいと思っていたら美味しいハンバーグがお出しされたというだけだ。
しかし、そんなシャドウは次にマルコが取った行動に一転して目を輝かせ始めた。
「学園テロの時に見せた蒼く輝く剣……」
「あれがニューからの報告にあった技なのね。確かに凄まじい魔力量と圧縮率。とてもじゃないけど、受け太刀することは考えたくないわね」
「あれがマルコ君の必殺技か。くぅー、光る剣なんてとっても
ヒーローショーに感激する少年のようにはしゃぐシャドウ。
絶大な魔力を完全に制御して放出する己の
その誰の目にも明らかな異質さで輝く剣。それを前にしても古代の戦士である少女の動きに変わりはなかった。一度も当たっていない剣の威力がどれだけ増したところで意味はない。そう言いたげな動きでマルコ・グレンジャーへと迫った。