我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。 作:ゆーりふり
ビジュアルだけなら髪切った覇王ローズパイセンが好き。
あとマルコ君の前世は日本人だけど影野君の居た日本と同じかは誰にも分からない。
闇夜に紛れて一台の馬車を中心とした集団が駆けている。
魔物が徘徊し、盗賊がそこかしこに存在する世界に於いては自殺行為ともいえよう。そんな馬鹿げたことをする者にはそれ相応の理由がある。だが、駆ける一団には疚しい事情があるもの特有の怯えはなく、むしろ傲慢な支配者のように堂々とした雰囲気があった。
「来たわね」
そんな一団を遠く、複数の地点から窺う者たちがいた。
馬車の一団が身に着ける黒いフード付きローブとは異なる漆黒の装束。
肌に張り付き、身体の曲線を際立たせる衣装はその性別が女性であることを示している。
「イータが落石を起こして退路を断たせた後、間延びした護衛部隊を襲撃。イプシロン、タイミングを見誤らないようにね」
「はい、お任せを……ってアルファ様、馬車の後方から何か来ます!?」
世界を裏から支配し、魔人ディアボロス復活を目的とする悪の組織――ディアボロス教団。
シャドウによって組織された元悪魔憑きによって構成される組織――シャドウガーデン。
宗教国家オルムを本拠地とする聖教の異端審問組織――テンプラー。
三つの異なる目的を持つ組織の中で最も事態を把握し、事の推移を掌握していたのはシャドウガーデンだ。
幹部である七陰の内、ベータとデルタが教団の囮部隊の襲撃とテンプラーの誘導。
ガンマが全体指揮をとり、ゼータがテンプラーの指揮官である"聖女"ウィクトーリアを足止め。
イータとラムダが本命の輸送隊の退路を断ち、護衛部隊と悪魔憑きの檻を分断してアルファとイプシロンが救出を実行する。
保有する戦力、立案された作戦。
どちらにおいても他二つの組織を上回っており、最大戦力であるシャドウが
「二人とも、なにかトラブル?」
陰のように黒いロングコートを靡かせながら世界最大級の強さを持つ男は軽い調子で尋ねた。
「い、いえ主さま。なにも問題はございません!」
「なぜ今回に限ってイレギュラーが……」
アルファは頭痛でもしているのかのように頭を抱え、イプシロンが慌てたように弁明する。
今回の作戦にシャドウガーデンのボスであるシャドウが参加する予定はなかった。戦力的にも必要ではない。だが、シャドウガーデンにとっても過去一度しか事例を確認していない人間の悪魔憑きであるニコレッタ・マルケスの治療に一抹の不安を抱えていた七陰はシャドウへ治療方法の助言を請うた。あくまで求めたのは助言であり出張ってもらうつもりはなかったのだが、種族による治療方法の細かい差異など一切意識したことがなかったシャドウがアルファへの誤魔化しに失敗したことで緊急参戦することになった。
「(これでアルファたちが治療に失敗したらボクが悪いみたいになるからね……!)」
シャドウガーデンの最高戦力はただの自己保身で此処に来ていた。
故に敵の殲滅についてやる気を見せてはいない。ガンマがすでに作戦を立案していたこともあり、今回は見学に徹するつもりだった。
それはつまり、アルファたちが崇拝とも呼べる感情を向けるシャドウの前で任務を完遂する能力があるか披露する場になってしまったということだ。当然、七陰を含むガーデンのメンバーはやる気に満ちていた。完璧に作戦を成功させ、実力を認めてもらうつもりでいた。
そこに突如現れた謎の存在。
「イプシロン、教団の部隊に突撃しようとしている人物に見覚えは?」
「……暗闇で断言はできませんが、ガンマの資料にあったニコレッタ・マルケスの婚約者マルコ・グレンジャーだと思われます」
「へぇ、じゃあ彼は悪魔憑きになった婚約者を救うために来たんだ。この世界じゃ珍しい対応だね。なんだか主人公みたいでカッコいいじゃん」
シャドウはイレギュラーの介入に機嫌を悪くするどころか楽し気に笑みを浮かべている。対するアルファたちは想定外の展開に右往左往する自分たちが落胆されないか気が気ではなかった。
「アルファ様、作戦はいかがいたしましょう」
「そうね……」
「折角だし、彼がどこまでやれるのか見てみようよ。悪魔憑きに危険が及びそうになったなら、その時は我が出るとしよう」
愛するヒロインを魔の手から救出するため駆けつけた主人公。
彼が悪の手先に敗れたなら、圧倒的な強さを持つ謎の存在として救援を図る。逆に彼が悪に勝利したなら、これまた圧倒的な強さを持つ謎の存在として彼を打ち倒し、意味深な言葉を残して悪魔憑きを持ち去る。
「(ふふ、主人公の前に突如出現して病に犯されたヒロインを攫って行く第三勢力の首魁。とっても陰の実力者っぽいじゃあないか)」
シャドウは自己保身のために来たことを一瞬で忘れ去り、かげじつロールプレイをすることに決めた。
悪魔憑きは助けるし、どうみても善人で主人公っぽさそうな婚約者君も死なせない。それはそれとして美味しい役どころは自分が貰う。アルファとイプシロンに他の七陰にも手出し無用と伝えろとシャドウが命令を出したことで、シャドウガーデンは予定していた作戦を全て破棄し推移を見守ることとなった。
頑張って作戦を立てたガンマとデルタの世話役という貧乏クジを引いた意味が喪失したベータは後で泣いた。
――――――
「おんどりゃあーー!! 止まらんかいぃっ!!」
マルケス侯爵家から立ち去る一団を追跡していると、門の前ですれ違った馬車が見えてきた。どうやらあの中にニコレッタが囚われていたらしい。気付かず逃がしてしまっていたら死んでも死にきれない後悔を抱えてしまうところだった。
「なんだコイツ!? 何時から尾行を!」
「まさかテンプラーか!」
誰が天麩羅じゃい!
よく海洋生物に例えられる遊戯の王様な作品の主人公たちみたいに特徴的な髪型と髪色はしてないだろ!
「ニコレッタを返してもらうっ!」
「やはり狙いは悪魔憑きか! 増援が来る前に殺せぇ!」
『増援』。
デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える。
「残念だがボクは一人だから増援に来てくれる仲間はいないんだよぉ!!」
このまま時間を稼いでいればコイツらの言う天麩羅が助けに来てくれるのかもしれないが、その天麩羅が味方なのかも分からない。そもそも戦える天麩羅ってなんだ。そんなの見たことも聞いたこともな……グランブルなファンタジーでカッコいい変形をする天麩羅がいた気がするな。いや、あれはエビ天じゃなくてエビフライか。
まさかこの世界はあんなのが存在するハチャメチャワールドなのか?怖くなってきた。
あと、どうせなら天麩羅じゃなくて真の仲間であるガチャ◯ンとム◯クに助けに来て欲しい。
「はっ! 一人で来た割には大したことはないな。囲んで嬲り殺してやれ!」
さっさと殺せって言ってたのに方針転換早くない?
強者故の傲慢はよくないよ。
ボクは本気出してないんだからさあ。
「ぐっ! コイツ動きが変わったぞ!」
ブシン流とも王都ブシン流とも異なる動きに切り替える。前世で学んだ刀術。膂力で打ち払い叩き切るのではなく、技巧で受け流し、一連の動作で集約した力で撫で斬る。
そんな感じで急襲と戦法の切り替えをして数人を切り倒したが、状況は芳しくない。
「なんか強さの平均値高くない!?」
「教団に盾突く者には死あるのみ!」
教団?
聞いたことのない名前ですね。
それはそうと本当にマズい。二十人以上居る連中の全員が最低でも騎士団クラスの強さだ。その中でも格差があって、騎士団上位クラスの強さな奴もいる。
……さらに奥、馬車を隣で守るようにして静観してる奴がヤバい。立ち振る舞いからして別格だ。ボクはこれでもミドガル魔剣士学園の現役学生の中では、本来の戦法を隠した状態でも二位の実力を誇っている。ちなみに一位はアイリス・ミドガル王女殿下だ。あの人はゴリラすぎて勝てない。だが、あの別格の強さを持つ男はそれこそアイリス王女様でもなければ勝ちが危ういレベルに思える。
そうして五人。たったの五人ぽっちを倒した段階でボクは限界を迎えようとしていた。
「へへっ、呆気ないもんだなあ」
「悪魔憑きなんぞのために命を捨てるとは馬鹿な奴もいたもんだ」
「……訂正しろ」
「あん?」
「彼女の名は悪魔憑きじゃない、ニコレッタだ! 訂正しろ!」
気力を振り絞り下卑た笑いをする男を切り捨てる。まだ戦う力を残していたことに驚いた連中が再び剣を構えるが、そこに待ったが掛かった。
「一人相手にいつまで遊んでいるつもりだ。俺が片を付ける。お前たちは馬車を守っていろ」
敵の中で一番強いと思しき奴が鞘から悠然と剣を引き抜きながら近付いてくる。やはり足運びや纏う魔力の質を見ても他とは一線を画している。
「中々やるじゃないか。その強さと心意気に免じてチルドレン1stである俺が相手をしてやる」
「なっ、ファーストチルドレンだと!? まさかお前の名は」
「ふっ、俺の名をどこかで聞き及んでいたか? そう、俺は"漣のレイ"。冥途の土産として、この名を魂に刻み込んで死ぬがいい」
まさか目の前の男があのファーストチルドレンの綾波レイだというのか!?
いや苗字がさざ波になってるけど、それは惣流と式波の違いみたいなもんだろうな。この世界って時々ギャグかよって名前の人間がいるけど、まさか創作物のパチモンまで存在するとは。
そんなアホなことを考えている隙を突いて漣のレイが斬り掛かってくる。その太刀筋はフザケた名前に反して鋭く重たい。
「くぅっ!」
「ほれほれどうした! あっという間に死んでしまうぞ!」
ちくしょう!名前が気になって集中できない!
ただでさえ世界観がグチャグチャなのにロボ扱いすると多方面から怒られる人型汎用決戦兵器まで混ざるとか無法すぎるだろ。ていうか髪も水色じゃないし瞳も赤くないしで特にレイっぽさがないから余計に混乱する!
「ボクは貴様らのような偽物の力になんて負けはしない! 必ず彼女を救いだして見せる!」
パクリ駄目ぜったい!
そんな想いも虚しく、漣のレイが放った一撃によって剣ごとボクの左肩から右腹が切り裂かれる。衝撃によって吹き飛ばされ、なにかに激突したボクは立ち上がることもできず魔力切れと出血によって視界が霞んでいく。
「ぐっ、ちくしょう……」
「俺を相手に十合も粘るとはやるじゃないか。褒美をくれてやろう」
戦闘に集中していて気が付かなかったが、ボクが吹き飛ばされて激突したのは馬車だったようだ。ぶつかった衝撃で荷台は倒れ、張られていた幕が破れて内側が露わになる。
「貴様、マルコ・グレンジャーだろう? ソイツとは婚約していたらしいじゃないか。別れの時間をくれてやる。まあ、その肉塊相手に愛の言葉を紡げればだがなあ!」
幕の内側から現れたのは醜悪な肉塊だった。
醜く蠢き、不気味な呼吸を繰り返すソレに生物らしい箇所は目玉くらいしかない。
「はははっ! どうした大切な婚約者なのだろう? 愛を囁いて抱き締めてやれば良いじゃないか!」
肉塊からは鼻をつく異臭が漂ってくる。腐った肉という以外に表現のしようがなかった。
「自分の行いが如何に馬鹿げていたか理解できたようだな。その愚かさを後悔しながら死ぬがいい」
「くんくん……いい臭い……いやごめんニコレッタ、我慢はできるけどこれを良い臭いとは言えないや」
「なにを悠長に臭いを嗅いでいる!?」
例えドブ川のような腐臭であったとしても、それがニコレッタから発せられる体臭なのであれば興奮できる。その自信があったのだが世間は厳しかった。普通に臭い。けど我慢できる。誰だって欠点はあるんだ。ボクは女心が分からない。ニコレッタは外見が特徴的で臭いが独特。それでいいじゃないか。
「狂人め。ひと思いに殺してやろう」
「ごめんニコレッタ。君を守ることをできないボクを恨んでくれ」
彼女へと伸ばす手は届くことなく、ボクの命を刈る刃が振り下ろされた。
――――――
「変わり果てた愛しき者を前にし、己に迫る死を前にしても尚、守るべきものを思い遣るか。その信念、見事だ」
甲高い金属音が鳴り響く。
マルコへと振り下ろされた刃は闇夜の如く黒い剣によって防がれていた。
「貴様、何者だ!」
自身の剣が容易く防がれたこと。防いだ闖入者の気配を全く感じ取れなかったこと。二つの事実に漣のレイが驚愕の声をあげる。
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者。愛に敗れた愚か者よ。我が力にひれ伏すがいい」
「俺が敗れただと!? どうやら目が節穴のようだな。そこで情けなく転がっている男と肉塊。我ら教団とどちらが勝者かなど見るまでもなく明らかだ!」
「ふっ、貴様は彼に愛を否定させることができなかった。故に暴力で幕引きを図ろうとした。これが敗北でなくなんだと言うのだ」
醜い肉塊となった婚約者を見ても尚、マルコ・グレンジャーの愛に変化はなかった。愛する者が世界から排斥され、虐げられる存在へと落ちた時、脇目も振らず手を伸ばすことを選んだ。
「今宵の主役は貴様らに非ず。端役にはご退場願おう」
その言葉と共にシャドウが教団の魔剣士へ剣の切っ先を向ける。その周囲には何時の間にか黒衣を纏った者たちが教団員を取り囲むように佇んでいた。
「我らはシャドウガーデン。陰に潜み、陰を狩る者」
斉唱するかのようにシャドウが放ったものと同じ言葉が響く。その次の瞬間には、教団員たちに向けて刃が振り下ろされていた。
「ぐぁっ!?」
「悪魔憑きどもを助けにくる謎の組織、実在していたのか!」
「ちくしょう、コイツら強えぇっ!」
瞬く間に教団員たちは殲滅されていく。
そんな中、教団側の最高戦力である漣のレイはシャドウと対峙していた。
「おのれぇっ! 教団に逆らってタダで済むと思うな!」
「ほう、いくらの値が付くのか興味深いな」
「代金はお前の命で贖え!」
漣のレイが放てる渾身の一撃。
シャドウの心の臓を切り裂くはずだった一太刀は空を切った。
「なっ、この俺が空振りだと!?」
「歩法。動きを悟らせぬ摺り足で間合いを見誤らせる。マルコ・グレンジャーが使っていた技術の一つだな」
「くっ、死ねえ!」
激昂した漣のレイの追撃が振り切られることはなかった。
空を切った剣を振り上げるよりも早くシャドウの剣が肉体を横に切断する。両の腕ごと剣は地に落ち、上半身もまた宙を舞って地面へと落下した。
「対価は剣の一振りで済んだな。随分と良心的な価格設定ではないか」
シャドウと漣のレイの決着が付いた時には、周囲の教団も殲滅されていた。後は悪魔憑きとなったニコレッタ・マルケスを治療すればシャドウガーデンの目的は果たされる。メンバーが檻を運び出そうとする中、シャドウは力なく頽れているマルコ・グレンジャーへと目を向けた。
「さて、これで邪魔な教団は片付いた。後はあの悪魔憑きを回収するだけだが、貴様は我らに対してどう動く?」
「貴方たちが何者か知らないが、彼女を連れ去ると言うのなら戦うだけだ」
「剣は折れ、立ち上がることさえままならない有様だというのに?」
「それでも、まだ心までは……折れていない!」
自身を圧倒した漣のレイさえ一蹴して見せたシャドウ。
対するマルコは意識が朦朧としていて武器すらない。それでも瞳に宿る闘志に衰えはなかった。
「ボクは、ニコレッタを守るんだぁっ!」
「無様。だが、嫌いではない」
覚悟を決め、最期の力でシャドウへと飛び掛かったマルコの腹へ拳がめり込む。
マルコの意識が沈んでいくなか、シャドウは膨大な紫色の魔力を灯してマルコへと手を向ける。その光さえ気に留めず、マルコは運ばれていくニコレッタへと手を伸ばす。
そこにシャドウの声が降り掛かってくる。
「その覚悟に敬意を表して命は助けてやろう。だが、貴様の婚約者は我らで預かる。どの道を選ぶかは彼女次第だが、貴様の元に戻ってくることはないだろう。それでも取り返したいと願うのならば、強くなれ。この我を超えるほどにな」
この日、幾度も伸ばしたマルコの手が望みへ届くことは一度たりともなかった。
原作(というか七陰列伝)との相違点
・マルコ君がニュー救出の場に介入する
・変なチルドレン1stがニューの移送現場にいる
・シャドウ様がアルファへの誤魔化しに失敗して救出作戦に同行している
・瀕死のマルコをシャドウ様が治療したことで陰の叡智パゥワーが与えられた