我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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お礼が遅くなりましたが、評価・感想ありがとうございます。
完結まで頑張りたいと思います。
あと、ニューは有休中だから聖域にはいかないよ。


聖地リンドヴルム編⑤

 シャドウが飛び去ったあとの女神の試練会場は未だ混乱の只中にあった。

 

「あれは、扉なのか?」

 

 古代の戦士を呼び出す古代文字の魔法陣をさらに大きくしたものが出現。扉と形容するのが一番近いだろう陣はまるで何かを待っているかのように佇んでいる。

 

「まさか、シャドウに聖域が応えたというのか……」

 

 その中でも、ネルソン司教の慌てようは特に大きかった。

 俺がオリーヴちゃんを呼び出したあたりから顕著だったようだが、シャドウがアウロラを撃破して扉が現れたことを信じたくないとでも言いたげな様子だ。

 

「いかん、扉が開かれてしまう! 女神の試練を中止して観客と信徒をすぐに避難させろ! 誰も扉に近付けさせるな!」

 

 どうやら、あれは聖教の大聖堂奥に秘されている聖域への扉と同質のものであるらしい。

 女神の試練は聖域への扉が開く日を指してもいるので、開くこと自体はおかしいことではない。

 だが、この扉がネルソン司教の言うようにシャドウに応えたのだとすれば、なんの意図と目的があるのか。なんにしても俺が優先すべきはアレクシア様の身の安全だ。ローズ王女とナツメ先生も居ることを考えれば避難は急いだほうがいい。

 

「さあ、皆さまにも万一のことがあってはいけません。退出を……」

 

 ……急いだほうがいいのだが、そうもいかなさそうだった。

 

「三人とも、私の後ろから出てこないように」

 

 会場の外へ避難を促すネルソン司教。

 しかし、それを先導すべき聖教の騎士や俺と共に王女の警護にあたっていたミドガルの騎士の姿は周囲にひとつもなく、黒衣を纏った一団がVIP席の後方に並んでいる。

 

「まさか貴様ら、シャドウガーデンかっ!」

「悪いけど、扉が閉まるまで大人しくしていてね」

 

 黒衣の一団の中央に立つ金髪のエルフ――アルファがこちらに目配せして告げてくる。

 

 状況が悪い。

 タイマンでも魔力を制限した状態では勝ち目が薄い相手が三人。

 アルファとその隣に立つ黒髪の女。そして通路の傍に立っている水色髪の女。

 それ以外にも強い奴が何人かいる。

 アレクシア様とローズ王女を戦力として数えたとしてもあまりに劣勢だ。

 ナツメ先生とネルソン司教を守りながらでは勝負にならない。

 

「シャドウはもう帰ったぞ。お前らも後を追い掛けたらどうだ?」

「彼には彼のやるべきことがある。そして、私たちがやるべきことは聖域の奥に眠る世界の真実を詳らかにすること。マルコ・グレンジャー、あなたが何もしないのなら私たちも危害は加えない。今回はそういうことにしましょう?」

「……有難い提案だな」

 

 剣の柄を握る手を解いて隣を通り過ぎていくアルファたちを見逃す。

 扉の前に立ったシャドウガーデンの面々は次々に姿が消えていく。どうやら聖域にはワープで移動するらしい。

 シャドウガーデンが動くだけの理由が聖域にはある。それはとても気になるが、守るべき者を捨て置く訳にはいかない。コイツらを止めることも追うことも、今は諦めるしかないだろう。

 

「きゃあんっ」 

「おいっ、大人しくしているなら危害は加えないんじゃなかったのか!」

 

 扉に視線を向けている間にナツメ先生とネルソン司教が人質に取られ、首筋に剣の切っ先が添えられていた。

 くそっ、コイツらのこと信用して隙なんて見せるんじゃなかった。

 

「ええ、傷付けたりはしませんよ。けれど、手ぶらでは騎士様が我々を後ろから斬り付けてこないとも限らないでしょう?」

「暗躍する謎組織と違って騎士は約束を破らない生き物なんだよ」

 

 残ったシャドウガーデンの内の一人がこちらへと歩みを進めてくる。ここにいる中で一番強いのは、この水色の髪をした女だ。

 

「なら、このまま大人しくしていて欲しいものですね」

「剣を捨てろというなら捨てるさ。だから二人を離せ」

「いいえ、この女とそこのハゲは聖域へ連れて行く」

 

 先ほどまでより人数が減った今なら戦力的な釣り合いは取れているかもしれない。しかし、二人同時に救出するのは不可能だ。歯噛みしているとネルソン司教が怒りながら声を荒げた。

 

「行きたいのなら貴様だけで行くがよいわ、あの世になぁ! やれ、処刑人ヴェノム!」

 

 その声と共に突如気配が現れる。

 攻防は一瞬だった。

 歌舞伎の黒子のような装束を纏った男が高速で天井を蹴り斜め上から放った斬撃をバク転の要領で寸前で躱した水色髪の女がさらなるスピードで男を小間切れにした。

 

「……見たか?」

 

 敵をバラバラにしても女から迸る殺気は衰えず、むしろ増していた。

 揺らめく殺意は見たと答えたら殺すと言っているに等しいものだ。

 恐らくは人体の急所である胸部を保護する目的で厚みを持たせているボディスーツを斬られたことに対する問いだろう。エアバッグみたいなものなのだろうが、形を急激に変化させ修復されていくのが見えた。魔力制御によって変幻自在のスーツはシャドウガーデンにとって知られてはならない秘密だったらしい。……俺はニコレッタが衣装を変形させてるの見た事あるから知ってたけど。

 

「来いハゲッ!」

「待て!」

 

 人質を取られている状況で見たと答える訳にもいかず口を噤んでいると、頭部を鷲掴みにされたネルソン司教と担がれたナツメ先生がシャドウガーデンと共に聖域へと消えていってしまう。答えは沈黙という名シーンに肖ってみたのだが成功しなかった。

 

「お二人は先に避難をっ!」

「待ちなさいマルコ、あなたどうするつもりよ!」

「連れ去られた二人が無事に帰してもらえる保証がありません。私は後を追います!」

 

 扉へと向けて跳躍する。

 本当はアレクシア様を置いていくべきではないのだが、シャドウガーデンが全員聖域へと入った今となっては危険はないはずだ。それよりも戦う力を持ち合わせてない二人を保護しなければいけない。危害は加えられずとも、聖域から出てきた先がどこか分からないのだ。護衛なしはマズい。

 

 そうして光に包まれた視界の先にあったのは、薄暗い通路だった。

 

――――――

 

 マルコ・グレンジャーは胃から酸っぱいものが込み上げてくるのを感じて口元を抑えた。

 

「かつて此処では身寄りのない子供たちが集められ、教団によって行われていたある実験の被験者となっていた」

 

 聖域へと続く扉の先。

 結局はアレクシアとローズの両者も後を追ってきてしまい、アルファが許可を出したことで全員で探索を行うことになった。

 ファンタジー異世界の聖域とは思えぬ近未来的な構造の施設。そこで明かされた英雄オリヴィエがエルフの女性であるという真実。

 

 英雄オリヴィエと瓜二つの顔立ちをしたアルファが安置された石碑に手を翳すと、さらに先へと続く扉が開かれる。

 扉を抜けた先にあったのは記憶の残滓。

 人体実験というマルコにとって受け入れがたい過去が再現されていく。

 

「お前らは、人の命をなんだと思っているんだ……」

 

 聖教の司祭であると同時に教団の一員であったネルソンにマルコは震える声で問うた。

 人が同じ人の命を簡単に使い潰していく。体が醜く変貌して死に至る子供たちの屍を当然のこととして積み上げていく。

 

「教団は魔人の細胞を子供たちに移植する実験をしていたのよ」

 

 それが、悪魔憑きの起源。

 

「仕方なかったのだ! 魔人に対抗するためには力が必要だった!」

 

 その言葉にマルコは少しだけ救いを感じた。

 この命を弄ぶ光景が人類が存亡の危機に瀕したが故の行動なのなら、最早倫理に基づいた行動では全員死ぬしかない差し迫った状況に陥ったが故なのであれば、納得することはできずとも理解は及ぶから。だが、それもアルファからの追求を受け、聖域がさらに景色を変えた先で見せられたものによって打ち砕かれる。

 

「オリヴィエが切り落としたディアボロスの左腕。そこから抽出された赤く輝く力の塊はまるで血のようだったという。そして、それを飲めば強大な力と老いることのない肉体を得られる」

 

 聖域に封印されたディアボロスの左腕。

 抽出した力の塊は十二の赤い雫となり、使用者は不老不死に近づく。

 

 マルコの頭に殴られたような衝撃が走った。

 たった十二人の多少優れた力がある程度の者を生き長らえさせるためだけに、何百倍何千倍もの命が奪われ、未来が閉ざされてきたのか?

 ニコレッタやこれまでに悪魔憑きとなってしまった子供たちの人生には、目の前の我欲に塗れた男に劣る価値しかなかったとでも言うのか?

 

「黙れ、これ以上見るな! これは実験体の末裔如きが知っていいものではないっ!」

 

 真相を暴かれることを恐れ、口汚く罵りながら話を遮るネルソン。

 その、どこまでも他者を命を軽んじる蔑称にマルコは視界が一色に染まったような気がした。

 

「――お前が黙れ、ハゲ」

 

 殺意に空気が震え、空間が軋む。

 

 誰も動けなかった。

 激昂していた筈のネルソンの顔は青褪め、声にならない呼気が漏れる。

 ネルソンやマルコが何らかの抵抗をした場合に備え、即座に対応できるよう身構えていたシャドウガーデンさえ、足が地面と縫い合わされたかのように止まっている。

 

「自分が言われて嫌なことは、他人に言ってはいけない。そう習わなかったか?」

 

 粗相をした子供を叱りつけるような言葉。

 それを告げるマルコ・グレンジャーの表情は能面のように無だ。しかし、周囲には爆ぜるように殺意が立ち込め、景色は歪んでさえいるようだった。

 

「次、悪魔憑きとなった子たちを実験体と呼んだら殺す。使う言葉は、よく考えてから口に出せ」

 

 青髪と同じ色を湛えていたはずの瞳は、より色濃い蒼に染まっている。

 無作為に解き放つか、圧し固めるしかなかった魔力が一切の澱みなく全身へと漲っている。

 動けば死ぬ。

 殺意を向けられているネルソン以外もそう錯覚するほどの激情が聖域に渦巻いていた。

 

「やめなさいデルタ。マルコ・グレンジャー、あなたも殺気を抑えなさい。お姫様たちに毒よ」

 

 その状況から最も早く脱したのはアルファだった。

 次いで、マルコ・グレンジャーを興味のない雑魚でも狩りの獲物でもない敵と認識したデルタが唸り声と共に臨戦態勢をとるが、アルファに制止される。

 指摘を受けてやっとマルコの放つ殺気は鳴りを潜め、場の空気が元に戻った。

 

「……忠告、感謝する」

「気にしなくていいわ。私たちのために怒ってくれる人がいるのは嬉しいことだもの」

 

 周囲から安堵の息がこぼれる。

 マルコが理不尽な暴力や略奪に怒る姿は珍しくない。しかし、義憤を超えて感情任せに敵の殺害を実行するほどにブチギレた姿を見せることなど滅多にない。

 特に常に騎士としての振る舞いを心掛けて行動していることを知っているアレクシアは、これまで見たことのないマルコの様子に驚いていた。

 

「さて、優しい騎士様のおかげで話が途切れてしまったわね」

「気にしなくていいと言った後に刺すのは止めてくれないか?」

 

 話の腰を折ることがないよう後ろに下がったマルコを尻目に、アルファはネルソンへの追及を再開する。問う形式にこそなっているが、その口調には断定の色が宿っている。

 そうして話が核心へ迫ろうとしたとき、ネルソンは己が教団最高幹部ナイツ・オブ・ラウンズの第十一席『強欲』のネルソンであることを明かし、シャドウガーデンへの反撃を開始した。




マルコ君はキレてるときの方がテクニカルになるタイプ。
これで魔力が完全に制御できるようになった訳ではなくて、一時的にキレてスーパーサイヤ人2になったみたいなもんです。
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