我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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かげマスはパーティードレスのニューも実装されると思っていいんでしょうか。
それが気になって筆が進みません。


聖地リンドヴルム編⑦

「マルコ・グレンジャーよ、此処は我に任せてもらうとしよう」

 

 隣から聞こえてきた声が、よく知る別人に変わったことに俺は反射的に剣を向けた。

 

「シド君……? いや、お前は」

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」

 

 シド君という少年であったはずの人間が黒に覆われ別人へと変貌する。

 アウロラさんを倒して去っていった筈の男が、()()()()()()()聖域にいる。

 

「シド君になにをした!」

 

 思えば、女神の試練にシャドウが乱入してきたのはシド君に挑戦の順番が回ってきたときだった。まさか、コイツは最初からシド君に成り代わり女神の試練を受けるつもりだったのか?

 だとすれば本物のシド君はいったいどこに……。

 

「さて、今はそれどころではないと思うのだがな」

「くっ、シド君に傷ひとつでも付いていたら許さないぞ」

「ふふっ、随分とあの少年を気に入っているようだな? ただの凡夫だろうに」

「お前と違って勇気と優しさに溢れた好青年だよ」

 

 シド君は将来きっと素晴らしい騎士になるだろう。

 間違ってもこんな奴に好き勝手されていい子ではない。

 だが、この聖域から脱しないことには彼の安否を確認することもできはしない。

 業腹だが、シャドウと協力してでもオリーヴちゃんたちを倒すしかない。

 

「さっきも言ったが此処は我に任せてもらおう」

 

 魔力が練られない状況にも関わらず、シャドウは悠々とネルソンに向かって歩いていく。

 奴の強みである無比の魔力は使えないはずなのに、その自信に揺らぎはない。

 

 いや、()()

 

「バカめ。マルコ・グレンジャーがオリヴィエのコピーを一体倒せたからと言って安く見たか! その愚かさを悔やみながら死んで行け!」

 

 ネルソンの言葉と共にオリーヴちゃんが一斉にシャドウへと切り掛かっていく。

 対するシャドウは浮かべる笑みを深め、瞑っていた右目を開く。

 

 はっきりと分かった。

 シャドウの中で圧縮と爆発を繰り返す魔力。

 俺の『圧縮』よりも遥かに強固に圧し固められた魔力が、とてもではないが人の身には収まりそうもない爆発をして、また圧縮されていく。

 神域とでも言うべき魔力量。神業と称すべき制御技術。

 リンドヴルムそのものを消し飛ばせるだろう魔力は、もはや聖域の中心から発せられる魔力阻害すら干渉する余地がない。

 王都テロ事件の折に見た天を突く魔力の光。

 

 ――アイ・アム・ジ・オールレンジ・アトミック。

 

 シャドウは己の誇る最強の名を告げ、聖域に紫光が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 光に視界が覆い尽くされる中、俺は幻のようなものを見た。

 怪物の腕が絡みつく鎖を引きちぎり、シャドウへと向かっていった。

 腕はシャドウの一閃によって両断され、消滅する。

 その腕になぜかアウロラさんを幻視した。

 そして気が付くと、聖地を見下ろせる位置にある森の中に立っていた。

 

「シャドウ……いや、シド君は!?」

 

 アウロラさんもシャドウも姿が見えない。

 先に聖域から脱出している筈のアレクシア様たちのことも気になるが、シャドウが成り代わるために何らかの干渉をされたと思われるシド君のことが心配だ。彼はリンドヴルムに居るのか、それともミドガルで何かされたのか。

 

 早急に彼の安否を確認する方法はないかと焦る俺の頭上に陰が差した。

 

「シャドウッ! シド君はどこにいる!」

「シド・カゲノー。彼には深い眠りに就いてもらった」

「ふざけた物言いをするなっ!」

 

 まさか、シド君を殺して成り代わったとでも言うのか。

 謂われない罪で拷問を受けたことに文句も言わず、友人であるシェリーちゃんのために自ら危険な役割を引き受ける勇気ある少年を害したと言うのか。

 

「シャドウ、お前に救われる者がいるのだとしても、それは許さないぞ」

「口でならばなんとでも言える。意思に見合うだけと強さが貴様にあるか、疑問だな」

 

 挑発するというのなら乗ってやる。

 そう思い剣に魔力を込める俺を見て、シャドウは一頻り笑ってから背を向けた。

 

「ここで貴様と雌雄を決するつもりはない。またな、マルコ・グレンジャー」

「待て、シャドウ!」

「我を追うよりも、街に戻ってシド・カゲノーの無事を確認することを優先すべきではないか?」

 

 飛び去るシャドウは最後にそんな言葉を残していった。

 奴の言葉に従うのは癪だが殺しているのなら隠すとも思えない。

 俺は藁にも縋る思いでリンドヴルムの街へと駆けた。

 

――――――

 

 女神の試練の途中、指名手配犯であるシャドウが乱入。

 呼び出された古代の戦士が撃破されたのちに聖域への扉が出現するという異常事態。

 さらに夜明け間近に莫大な魔力が空へと昇っていく不可解な現象が起きたことで、リンドヴルムには少なからず混乱が見られた。

 

 そんな中でも事態は大きく動いている。

 世界を裏から支配する教団は最高幹部の一角がディアボロスの左腕と共に消滅。聖域もまた聖剣や様々なシステムを構築していた魔力の核と共に消し飛んだ。

 世界の真実を調べようとしていたシャドウガーデンは災厄の魔女アウロラこそが魔人ディアボロスであることを突き止め、次なる動乱へ向けて暗躍する。

 アレクシア、ローズ、ナツメの三人は聖域で見たものを、見なかったことにはできないと協力して情報を集めること決めた。

 

 そして――。

 

「シド君!」

 

 街の中を駆けていたマルコ・グレンジャーは道を歩く黒髪の少年に勢い余って抱き着いた。

 

「わわっ、どうしたんですマルコさん」

「君がシャドウに危害を加えられたんじゃないかと心配していたんだ。無事でよかった!」

 

 陽が昇った往来で二人の男性が抱き合う光景に行き交う人々の視線が集まる。

 片方は昨日、女神の試練で古代の戦士を討ち果たしたミドガルの騎士マルコ・グレンジャー。

 もう片方は平凡な顔立ちで目立った特徴のない男の子という繋がりの読めない組み合わせ。

 

「シャドウって王都で指名手配された大悪党のシャドウですか? ボクみたい影の薄い奴が狙われる訳ないですよ」

「君の勇敢さを俺は知っている。危険なことに首を突っ込んでいたとしても可笑しくはないさ」

 

 触診するかのように一通りシドの体を撫でまわしたマルコは大きな怪我や異常がないことに安堵の溜息を吐いた。

 

「リンドヴルムで見つけられて良かったよ、女神の試練を見に来ていたのかい?」

「ええ、そうなんですが旅の疲れで体調を崩してしまいまして。結局、昨日は宿でゆっくり休んでいたんですよ」

 

 そう言って笑うシドの顔には確かに疲労の色が見えた。

 もっとも、それは聖域での戦いに加えて、シャドウの姿でマルコと別れた後に急いで宿に戻ってアリバイ作りをしていたことに対するものだが。

 

「そうだったのか。体調が回復したのなら良かった」

 

 アレクシア・ミドガルの誘拐事件の折、シド・カゲノーは容疑者の一人として拘束されていた。或いは、そういった経緯があったからこそ一時的に成り代わる対象として選んだのか。そんな風にマルコ・グレンジャーは理解した。

 

「そうだマルコさん、女神の試練で古代の戦士に勝ったと聞きましたよ。おめでとうございます」

「ありがとう。騎士としては君の先輩でもある。恥ずかしくない結果を出せて良かったよ」

 

 その後、アレクシア・ミドガルとローズ・オリアナが無事に帰還していることも確認が取れ、折角会ったのだから一緒に食事をしようというマルコの誘いに乗って、二人はまぐろなるどを訪れていた。もっと豪華な飲食店でも奢るから構わないと言ったマルコだったが、シドの強い要望で二人の前には大量のバーガーが並んでいる。

 

「うん、手軽で安価なのに味はとても美味しい」

「マルコさんもまぐろバーガー好きなんですね」

「運営元であるミツゴシ商会のルーナ会長とは親交があってね。バーガーを発明したのは彼女の友人らしいんだが、大したものだよね」

 

 バーガーを頬張るマルコからまぐろなるどが販売する商品の成り立ちを聞いたシドはどこか苦々しい顔をしている。

 自分も一枚噛ませてもらっていたなら、どれだけの金が懐に入ってきていたか。その原資があれば陰の実力者プレイを際立たせるための小道具蒐集も捗ったというのに。

 かつては家族のような暮らしをしていた時期もある友人の七陰たちからハブられたと思っているシドは、話題を変えることにした。

 

「そろそろブシン祭ですよね。マルコさんも出場するんですか?」

「まだ確定ではないけれど、特別な理由がなければ出るつもりはあるよ」

 

 シドは包み紙の中のバーガーにかぶりつくフリをする。

 その口元は笑みの形に歪められている。

 

「優勝するのに一番の難敵は誰だと思っていますか? やっぱり前回負けたアイリス王女様とか」

「全員がライバルだよ。俺の知らない強者は世界に幾らだっている」

 

 女神の試練で戦った英雄オリヴィエ。

 シャドウが倒した災厄の魔女アウロラ。

 シャドウガーデンにも七陰を始めとしてアルファ以外にも多くの強者が存在している。

 

「その言い方だと、なんだか自信なさげに聞こえますね」

 

 どこか嘲るような言い方をするシドに対しても、マルコの反応は静かなものだった。

 

「絶対に勝たなきゃいけなかったとき、俺は勝てなかった。絶対に勝ちたい奴に、俺の力はまるで届いていない。自信なんてものは最初からないさ」

 

 マルコ・グレンジャーはニコレッタ・マルケスを守れなかった。

 それが彼の始まりだ。

 往く道の果ては遥か遠く険しい。

 

「なら、諦めるんですか?」

 

 マルコは問いの文脈に僅かな違和感を感じながらも、指摘はしなかった。

 問いの意図がどこにあろうと答えは決まっている。

 己が心に決めたことは――。

 

「諦めないよ。例え誰が相手でもね」

 

 シド・カゲノーから視線を逸らさず、目に強い意志を宿してマルコ・グレンジャーは宣言する。

 決戦の時はすぐそこに迫っていた。




往来で抱き合って互いのヒロインを放ってまぐろなるどデートする主人公二人。
ブシン祭編はまだ1割くらいしか書けてないので申し訳ないですがお待ちください!
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