我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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進捗報告を兼ねて投稿。ブシン祭いま七割くらい書けたので来週中くらいには……。
あと、よく考えると聖域から帰還したシャドウ様がリンドヴルムに居るとゼータとイータがニーズヘッグに殺される事になるんだよね。本作では二人が研究所に突撃したのは別タイミングということで何卒。


ブシン祭編幕間

 聖地リンドヴルムで開催された"女神の試練"にまつわる事件から早幾日。

 俺はミドガルへと戻り、色々な予定を消化して回っていた。

 

 最も大きな事柄はブシン祭への出場が確定したことだろうか。

 ……何故かアイリス様の名代としてだが。

 アイリス様と俺の二人が揃って参加することに問題がある訳ではない。アイリス様にはブシン祭二連覇という偉業の達成ができるか否かも懸かっているのだから、出場する意義自体は十二分にあった。

 

 しかし、二連覇に個人的な栄誉以上の意味があるかと問われれば、あったとしても薄い。アイリス様自身の名声は既に充分なほどに高い。ここ最近、様々な事件が頻発しているミドガル周辺地域に安寧をもたらすという視点でも武力に秀でた王族というのは有難い存在だ。

 アイリス様の設立した紅の騎士団が功績を挙げていることもあり、個としての実力証明を二度も行う必要があるという状況でもなく、騎士団長と第一王女としての二足の草鞋を履いていることもあって単純に忙しい。どちらかと言えば、いま求められているものもディアボロス教団やシャドウガーデンといった暗躍する者たちに対抗していくための組織力の強化だ。

 

 その目標を達成するために必要なもの――それは予算。

 つまり金が要る。

 人手を増やし、装備を整え、拠点を整備する。

 必要なのは金、金、金である。

 国庫も無限ではないのだから、当然予算の割り振りは重要度が高いところか益の大きいところが優先される。

 

 ここで予算が勝ち取れない場合、俺たちのお給金はアイリス様の懐から出ることになる。ちゃんと仕事はしているのでヒモという訳ではないが、同年代の女性の貯蓄を取り崩してもらっているというのは、あんまり気分が良いものでもない。

 学園テロ事件の解決や俺が女神の試練で勝利した事情などもあって、現時点でも確保できた予算がゼロという訳ではない。しかし、一部の重鎮には俺たちの飛躍を面白くないと考えている者も居て、順風満帆とはいかない。国家運営の方針としてバランスを重視する国王陛下も、ひとつの勢力だけが力を増していくのは好ましくないようで協力的かというと首を横に振ることになる。

 

 俺とアレクシア様が聖域で見た光景については、アイリス様には全て話した。シャドウガーデンの目的のひとつは悪魔憑きの真実を歪め、犠牲者を増やすディアボロス教団の殲滅であると判明した以上、俺個人としては敵対する意思はない。

 アイリス様にもそのように説得をして、理解は示してくれた。

 それも、あくまでシャドウガーデンがミドガル王国に対して被害や不利益を出さない場合に限ると釘は刺されたが、王女であるアイリス様の立場からすれば当然のことなので仕方ない。

 アルファたちはともかく、シャドウの正体や行動には不可解な部分が多すぎて悪魔憑きの救出と教団の殲滅以外に邪な目的が絶対にないとまでは言い切れないのも事実だ。

 

 ……といった様々な理由を重ねた結果、俺がブシン祭に出場して優勝しろという話になった。

 

 まあ簡単に言うと人気取りのパンダだ。

 マルコ・グレンジャーという騎士は実は結構人気が高い。最初は社交界特有の社交辞令で鵜呑みにすると恥を掻くんだろうなと気にしないことにしていたのだが、何時からか人気に見合うように身嗜みにも気を遣えといったアドバイスを貰うことが増え、街を歩けば応援と感謝の言葉を受けることも多くなった。

 自分のことなので、いまいち納得感が湧いてこないのだが俺が実績を出して今後の方針を訴えるというのは政治的アプローチとして有用らしいのだ。

 

「これで優勝できなかったらボロックソに言われるんだろうか……」

 

 なんだかお腹が痛くなってきた。

 いやいや、シド君にだって啖呵を切ったんだ。情けない姿を晒す訳にはいかない。シャドウに勝つという目標を果たすのなら、言い方は悪いがブシン祭程度で躓いている場合じゃない。さらなる強さに至るための道筋だって見えたのだから、後はやるだけだ。

 

「マルコ様、お体の調子が優れないのですか?」

「いえ、ご心配をお掛けしてすみませんルーナさん。ブシン祭のことを考えると少し憂鬱で」

 

 そんな俺は今、ある目的を果たすためミツゴシ商会へ来ていた。 

 

「まあ、それはそれは。確かに王都はブシン祭の話題で持ち切りですものね。ですが、優勝候補筆頭のマルコ様でも緊張なされるのですね」

 

 前回優勝者のアイリス様が出ないんだから勝ったも同然だろ、とか言われてるのが辛いんです。

 ……それと、このあと話題に出す内容が切り出し辛いというのもある。

 

「それでしたら、コーヒーよりもリラックス効果のあるハーブティーの方がよろしいでしょうか。ご用意してさしあげて」

 

 ルーナさんが傍に控えていた店員さんに指示を出すと、テキパキと片付けをして部屋から出て行った。意図した訳ではないのだろうが、偶発的にルーナさんと二人きりの時間ができた。

 

 話すなら今だろうか。

 

「最近ですと、男性向けにこちらの商品がおすすめでして……」

「ルーナさん、ひとつよろしいでしょうか?」

「……はい、なんでしょう?」

 

 カタログを見せながら新商品の説明をしてくれるルーナさんの言葉を遮る。

 俺の声に込められているのが、ミツゴシ商会のお得意様ではなく裏事情を探ろうとしている騎士のものに変わったことを察してくれたのだろう。ルーナさんの笑顔が消え、目に真剣な光が灯っている。

 

「私は貴族らしい感性に富んではいないので、色々と手助けしてくれているルーナさんには本当に感謝しています」

「こちらこそ、マルコ様が当商会の製品を身に着けてくれることで多大な宣伝効果を得られて感謝してもしきれません」

 

 ああ、やっぱり俺を歩く看板として活用していたのか。こっちの世界にスポンサー契約だの宣伝アンバサダーなんて文化はないから別に文句を言うつもりもないが。 

 

「以前、悪魔憑きについて話したことを覚えていますか?」

「ええ、もちろん。まだ商会名がルーナ商会だった頃でしたね」

「私はあなた方が悪魔憑きとなった者たちの処遇に関わっているのではないかと疑っていました」

「……疑っています、ではなく過去形なのですね」

 

 正直に言って、疑いが完全に晴れたという訳ではない。

 だが、ミツゴシ商会がディアボロス教団の傘下でありフロント企業としての役割を持っているのなら、見逃すことはできない。これまで散々世話になった身ではあるが、聖域で見たあの光景をなかったことにはできない。

 このままルーナさんと上っ面だけの関係を続けるのが苦しくなったというのもある。

 

「私には証拠を見つけることができませんでしたから。かと言って、国に掛け合って強制的に調査するにはミツゴシ商会は大きくなりすぎた。勘違いで信頼関係を損なう訳にはいかないほどに」

 

 もし仮にルーナさんからの信頼を失ってミツゴシ商会がミドガルでは一切商売しませんとなった場合、その影響はとてつもなく大きい。大商会連合や地元に根差した個人経営の店舗は大喜びするだろうが、国の発展という観点では大きな遅れとなるだろう。

 俺が独力でこれ以上の調査をしても確証を得ることは困難だが、国家権力を用いるのはあまりにも大事になりすぎる。

 

「ルーナさん、あなたとミツゴシ商会はディアボロス教団と何らかの関係がありますか?」

 

 だから、俺にできるのは単刀直入に聞く事だけだ。

 

「…………ふぅ」

 

 長い沈黙があった。

 ルーナさんの表情は真剣なものから呆れたようなジト目に変わり、しょうがないなとでも言いたげな溜息が出る。

 

「答える前に忠告です。マルコ様は確かにお強い。けれど、対処する術が全くないほどに無法ではない。意地を張って馬鹿正直な生き方ばかりしていると、いずれ死にますよ」

「それは、この部屋の周囲に待機している者たちを使って俺を殺すという意味でしょうか」

 

 お茶を淹れにいった店員が部屋を出て数分。一向に戻ってくる様子はなく、俺がここに来たときから部屋を取り囲むように待機していた者たちが放つ気配は徐々に剣呑さが増していっている。

 

「いずれ、と言いました。私共にあなたを害する意思はありません」

「それはつまり?」

「我々ミツゴシ商会は教団と敵対しています。関連企業から下請け業者に至るまで教団と関わりのない者たちで構成することを徹底しています」

 

 その言葉に安堵の息が漏れた。

 

「……よかったぁ」

 

 もしもルーナさんが敵だったら。

 あの鬼畜の如き所業に関与することを良しとしていたなら。

 そんな重たいつっかえが取れた気がした。

 

「そこであっさりと信じて気を抜くのも良くありませんよ。油断させて背後からズバッとやるのは悪の組織の常套手段です」

「それくらい、ルーナさんのことを信じたいと思っていますので……」

 

 俺が紅の騎士団に行き先を告げて来ていることは承知しているだろう。そんな状況で安易に殺害を実行して立場を危ぶめるような浅慮なことはしないだろうという推測もあった。

 

「では、あなた方はシャドウガーデンなのですか?」

「その質問に答えるつもりはありません」

 

 一転してピシャリと俺の質問をシャットアウトするルーナさん。

 もっとも、それは半ば答えているようなものだと思うが……指摘はしない。

 

 シャドウガーデンは悪魔憑きとなった者たちを助けている。

 だが、悪魔憑きには基本的に帰るべき場所がない。症状を治療して命を助けたとしても、その後の生活基盤が消失してしまっていては遠からず死ぬか、碌でもない人生を送ることになる。ミツゴシ商会はそんな人たちが生きていくための糧を得る役割を持っているのかもしれない。

 

「分かりました。もう聞きません」

「あら、潔く諦めてくれるのですか。話すまで帰らないと言われるかと思っていました」

「話してほしいという気持ちはあります。ですが、俺に話すことのデメリットも重々承知しているつもりです」

 

 アイリス様とアレクシア様、グレンさんは信用できる。だが、それ以外はと聞かれると絶対的な自信を持ってこの人は大丈夫と言える相手がいない。悪魔憑きは忌避する存在であるというこびり付いた常識と、それを悪用するディアボロス教団。どこから連中に漏れるか分からない以上、俺が余計なことを知るべきではないだろう。この先、正式にグレンジャー家の当主となれば自領を元悪魔憑きの受け入れ先として提供したり協力ができるかもしれないが、今はまだリスクでしかない。

 

「正直に言って、教団と敵対関係にあることもはぐらかされると思っていました。私に教えることに特にメリットがあるとも思えません。何故教えてくれたのかは聞いてもいいですか?」

 

 別に答えてくれなくてもいい。そのつもりで聞いてみたのだが、ルーナさんは開いた扇子で口元を隠し、視線を斜め上にやってなにやら思案しているようだった。

 

「許可が得られたから、というのが最大の理由です。今後に向けた足掛かりも欲しかったですし、勘違いで敵対されるリスクも無視ができないレベルになりつつあった。……あとはまあ、そろそろ信じてみても良いのではないかと思ったので」

 

 前半が組織としての判断。後半が個人としての判断ということでいいのだろうか。

 

「ルーナさんに信頼していただけているのなら嬉しい限りです」

「……なんだかんだと深い付き合いですからね」

 

 確かに、買い物をするとなったらまずはミツゴシ商会に相談するし、定期的にルーナさんとも会ってお茶をしているんだよな。

 

「お得意さま兼お友達になれたと思っていいんでしょうか」

「マルコ様が我々の利になる限りは、という注釈付きですが」

 

 それでも有難い。

 そう思って、ひとつ大事なことを聞いてみた。

 

「ところで、ニコレッタどこにいます?」

「さあ、存じ上げない名前ですね」

 

 ルーナさんが難攻不落を思わせる鉄壁の笑みを浮かべた。

 その後、閉店時間まで粘ってみたのだが結局教えてもらうことはできなかった。

 

――――――

 

「お疲れさまでした、ガンマ様」

 

 陽が沈んだ王都。

 ミツゴシ商会の商談室でガンマは疲れからぐったりしてソファに横になっていた。

 そこにやってきたニューが労いの言葉を掛ける。

 

「……まさか本題の後の質問責めが何時間も続くとは考えていなかったわ」

「私がミツゴシ商会に居ることを教えるかはブシン祭の結果次第。シャドウ様には一体どのようなお考えがあるのでしょう」

 

 シャドウガーデンはマルコ・グレンジャーに対してある程度は胸襟を開くことを決めた。

 それは、ディアボロス教団を殲滅した後のための布石だ。

 悪魔憑きは不治の病ではない。しっかりとした治療法が存在していて忌避すべきではないのだと世間に示す。その役割はエルフならば表の顔を持つベータやガンマ、イプシロンが。人間ならばニューが担当する予定になっているものである。

 しかし、彼女たちは元悪魔憑きだ。罹患者からの証言だけでは信憑性に疑問を持つ者や悪意から邪魔立てしてくる者が必ず出てくる。

 力尽くならシャドウガーデンが負けることはないが、平和な世界で理解を得ていく方法としては適さない。外部の者で信用が置ける味方を作っておくことはこの先、重要な意味を持つ。そうした人材として最初に選ばれたのがマルコ・グレンジャーだった。

 

「主様のお考えを理解することを諦めていては傍にお仕えする価値はない。けれど、簡単に並び立てるものであるはずもない」

「なにがあったとしても対応できる準備をしておくということですね」

「ええ、万事抜かりないようにね」

 

 正体を隠してブシン祭に出場したい。

 シャドウがそう言ってミツゴシ商会を訪れたのはつい先日のことだ。

 なにを目的としているのか尋ねたガンマに対し、シャドウは『決戦の舞台とするのに丁度いい』と言った。女神の試練をシャドウと共に観戦していたアルファとニューからの情報によって、彼のお目当てがマルコ・グレンジャーであることをシャドウガーデンは承知している。

 

「マルコはシャドウ様が直接戦うに値する強さを持っているということなのでしょうか」

「七陰であっても勝敗定からぬ。けれど、その程度ではシャドウ様に及ぶべくもない」

 

 七陰全員どころか、シャドウガーデンの全戦力を同時に相手取ったとしてもなんら問題なく勝利するのがシャドウだ。マルコ・グレンジャーが強いといっても、勝てる可能性はゼロだろう。

 

「勝敗そのものが目的ではない?」

「オリアナ王国宰相のドエム・ケツハットが国王と共に来賓としてミドガルに来ることは確定している。マルコ・グレンジャーとの戦いがオリアナの事変に関係があるとは思えないから、別の理由があるのでしょうね」

「では、予定通りアレキサンドリアから増員を?」

 

 マルコ・グレンジャーと悪魔憑きの対応に関して協調路線は取っていく。しかし、暗躍するディアボロス教団との戦いの中でミドガル王国に不利益を被らせることがないとは言えない。関係性の維持は難しい舵取りが必要になる。

 特に今回のブシン祭は多少なりとも目立つ形で介入することになる可能性が高い。

 マルコ・グレンジャーを含むミドガルの騎士団とオリアナの騎士。そしてディアボロス教団の一員でもあるドエム・ケツハットに付き従っているだろう教団員。これらを相手にシャドウの邪魔をさせないための三正面作成を実行するのなら、通常配備している人員では不足する可能性があり、戦力をミドガルに集めておくべきと七陰は判断した。

 

「ええ、ラムダに連絡をお願い。増援部隊の指揮はそのまま彼女に任せるわ」

「承知いたしました。ところでガンマ様……」

「な、なにかしら?」

 

 ニューの淹れたハーブティーを飲んでリラックスしていたガンマを悪寒が襲った。

 ふと視線をニューに向けると、その目にはハーブティーの温かさを忘れさせるほど冷たい色が宿っている。

 

「マルコとの距離、なんか近くありません?」

「いや、ただ一番表の顔で付き合いが深い私が懐柔するのが適任というだけで他意は……」

「でも、()()()に信じてみてもいいと思ってるんですよね?」

 

 ニューは過敏になっていた。

 マルコはいい男だ。

 それこそ上回れるのがシャドウ様くらいしかいない程度には、と本気で思っている。

 女神の試練で揶揄い半分にベータがハニトラを仕掛けたこともあって、自分よりも上で逆らうことが難しい七陰に対して疑心暗鬼になってもいる。

 無論、ガンマはシャドウ一筋であってマルコに異性として思うところはない。

 

「あ、あくまで人柄や誠実さの話であって男性としてどうこうという訳では……」

「ガンマ様、好みのタイプは人柄や誠実さ以外の要素に重きを置いているんですか?」

 

 なぜ私が詰問されているのだろうかとガンマは疑問に思った。

 ぶっちゃけガンマはシャドウ相手ならなんでもいいと考えている。だが、シャドウは人柄と誠実さに於いても常人では届き得ない領域にあると言えるだろう。数多の悪魔憑きを救い、生きる術を与え、進むべき道を示したのだから。

 

「わ、私が男性として愛しているのはシャドウ様だけよ!」

「そうですか。ガンマ様がベータ様のような尻軽でなくて安心しました」

 

 自分と同じ七陰のはずのベータが凄まじい蔑称で呼ばれていることに戦慄するガンマだったが、散々過去の恋バナを搾り取って悪戯でマルコ・グレンジャーに色目を使ったのだから当然かと思い直した。

 

「七陰の席を奪うなら戦闘力で『最弱』に挑むのが最善だったのですが、やはり『堅実』を超えるしかないようですね」

「ニュー、あなたベータへの叛意が露骨になってきたわね……」

 

 ベータの自業自得ではあるのだが、これでシャドウガーデンは大丈夫なのだろうかと一抹の不安を抱えるガンマだった。




聖域での一件のあと、シャドウに聞いたらマルコ君に教団と敵対してることは教えてもええやろと許可して貰えたので聞かれたら教えることになっていた。
勿論シャドウ様はなにも考えず適当に答えている。
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