我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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区切りの問題で各話の文字数が均等ではないですがご容赦ください。
ブシン祭の締めがまだ書けてないけど見切り発車。
それと、これ一応最終章です。


ブシン祭編①

「おい、マルコ・グレンジャーだぜ」

「獅子髭のグレンもいるな」

「へっ、お高くとまりやがって」

 

 ブシン祭予選がもう間もなく開催されようかという日中。

 王都を巡回していると普段よりも視線を多く感じる。

 

 ブシン祭は予選を含めると非常に参加者が多い。出場しなくとも、物見遊山で戦闘を生業とする者がいつも以上にミドガルを訪れる。そういった腕っぷしを商売道具にしている連中というのは往々にして血気盛んで短気だ。本業である騎士として、祭りの気配にあてられた連中が喧嘩騒ぎを起こしたり、一般人に迷惑を掛けないか見て回っているのだが無駄に注目を集めてしまっていた。

 

「マルコ、お前はブシン祭出場者だ。通常任務から外れても誰も文句は言わんぞ」

「普段と違うことをしても調子を崩しますから」

 

 流石に大通りで目立つ真似をする輩は少ないが、裏路地や死角になっている場所で良からぬことをしようとしている奴はそこそこ見掛ける。これらを放置して自分の試合に集中しますというのは精神衛生上よろしくない。

 

「ふむ、紅の騎士団が治安維持に目を光らせていると知らせるには丁度いいか」

「騎士団に喧嘩を売ってくるような気合の入ってる奴は居ないみたいですからね」

 

 自分に名声があるという状況が未だに腑に落ちないというか自覚を持つのが難しいのだが、それが治安を向上させ、紅の騎士団の評判もよくなるというのなら使わないのも勿体ない。

 

「お前から見て、難敵となりそうな出場者はいたか?」

「油断しないという意味では全員です。アイリス様以上の強敵という意味だと、今のところ明確に認知している相手はいませんね」

 

 知っている出場者でアイリス様の次に強い相手となると、やはりアンネローゼになるだろうか。ローズ王女もかなりの実力者だが年齢による経験値の差はバカにならない。

 

「若いのだから少しは自身過剰な様子でも見せればいいものを。可愛げが足りんぞ」

 

 騎士に可愛げって必要なんだろうか。

 ……人気取りのパンダという意味では俺は紅の騎士団のマスコット役でもあるので、あった方がいいのかもしれない。

 

「修行も大詰めなのだろう?」

 

 ニヤリと口元を歪めながらグレンさんが問い掛けてきた。

 

「お前の奥の手は魔力を圧縮した剣と聞いていたが、他にも用意しようとしているとは貪欲なことだ。全く()()()相手にすることを想定しているのやら」

 

 グレンさんは呆れたように、けれど優しい眼差しで俺を見てくる。きっと、そんなにも強い力が必要になる相手と戦うことを予期している俺のことを心配してくれているのだろう。

 

「『圧縮』は防御やタフネスに優れた相手を撃破するための技です。ですが、女神の試練でそれだけでは足りないということを痛感しました」

 

 オリーヴちゃん――オリヴィエの劣化コピーこそ『圧縮』による武器破壊で勝利することができたが、シャドウのような速度や魔力に於いても圧倒的な存在やアウロラさんのような中遠距離戦闘を得手とする相手では有効打に成り得ないだろう。贔屓目に見て、不意打ちによる初見殺しならば一定の効果は見込めるかも、と言ったところか。

 

「自分よりも圧倒的に強くて巧い敵を相手にして決して負けてはならない時、どう攻略するのか。アレはそういった想定の技です」

「そこは頼れる騎士団の仲間を頼りますと言うところだろう」

 

 グレンさんから冗談交じりに言われ、背中をバンバンと叩かれた。

 勿論、頼りにしている。

 俺一人が手を伸ばしたところで助けられる数には限りがある。同じ目的と志を持った仲間が多くいることが、人々を守るために一番重要なことだ。

 だが、その中で俺が担うべき役割は敵のエース格を撃破することだ。アイリス様もポジション的には同じなのだが、あの人は第一王女。間違っても死なれてはならないし、相打ちでもされた時点でこちらの敗北確定である。後ろに引っ込んでてくださいと言うと意地になって前に出て行こうとするので、いい感じにトドメ役とかを任せる必要がある。

 話しは逸れたが、スペック負けしている状況から逆転するための切り札を用意することが最優先だと判断した訳だ。

 

「俺には素振りをしているようにしか見えなかったが、どういう技なんだ?」

「秘密です。ですが、やっているのが素振りというのは何も間違っていませんよ」

 

 用意しようとしている技で重要なのは咄嗟の機転やセンスではない。

 ひたすらに練度を上げていく。

 あとは嵌るシチュエーションを作り上げる。

 ……本当に強い連中相手だとそれが一番難しいんだけど。

 

「ブシン祭でお披露目という訳か」

「それは……相手次第でしょうか」

 

 怪物のような強さに対抗することを想定している技だ。少なくともアイリス様を相手にしたとき勝つ手段として用いることはないだろう。オリーヴちゃんが相手なら使う可能性はあるといったところか。

 

「なんにしても本選が楽しみだ。…‥よし、ここからは二手に分かれよう」

「はい、それではまた後程」

 

 大きな通りを回り終え、細かい路地の様子を確認するためグレンさんと別れる。

 そうしてしばらく路地裏を歩いていると、鈍い打撃音と囃し立てるような声が聞こえてきた。

 

――――――

 

 王都の大通りから一本外れただけの路地。

 そこで二人の男が殴り合いを演じている。

 正確には、スキンヘッドの大柄な男によって痩躯の男が一方的に殴られていた。

 

「なにをしている」

「雑魚の分際でブシン祭に出るなんて調子に乗ったバカにお灸を据えてやってんだよ」

 

 その現場を目撃したマルコ・グレンジャーが問いながらも足早に男たちへと近寄る。

 スキンヘッドの男は近付いてくるマルコに目もくれず痩躯の男への殴打を続けようとするが、腕が掴まれ阻止された。

 

「なに邪魔してくれてんだテメェ……っ!?」

「それ以上、続けるのなら俺がお前に灸を据えることになるが?」

 

 凄まじい握力によってスキンヘッドの男の腕から軋む音が鳴る。男は堪らずその場から飛び退き、そこでやっと割って入ってきた男が誰なのかに気付いた。

 

「マルコ・グレンジャーか。ブシン祭出場者が見回りとはご苦労なこって」

「お前のような羽目を外す輩がいなければ楽を出来るんだがな。……立てますか?」

 

 スキンヘッドの男から意識は外さず、マルコは殴られていた男へと手を差し伸べた。

 

「大袈裟だな。俺もそいつも同じ出場者だ。ただの前哨戦だろうが」

「強さに自信があるのなら本番で勝てばいい。それができないから場外乱闘でもしていたのか?」

「テメェ、舐めてんのかッ!」

「そこまでにしなさい」

 

 マルコの指摘に激昂した男が剣に手を掛ける。

 そこに新たに制止の声が響く。

 

「クイントン、あなたが剣を抜いてしまえば彼も言葉だけでは済ませなくなる。私も個人的にこれ以上は見過ごせない」

「誰かと思えばアンネローゼか」

 

 青い髪を揺らしながら介入したアンネローゼ・フシアナスがスキンヘッドの男――クイントンへと最後通牒をする。

 多勢に無勢な状況であると察したクイントンは舌打ちと共に去っていった。

 

「助勢感謝するよ、アンネローゼ」

「必要はないわ。あなた一人でどうにでも出来た相手だもの」

「それでも有難い。正直に言うと、俺がブシン祭の出場者を捕縛するのは外聞が良くないからな。あなたも、騎士団の詰所で手当てができますので一緒に向かいましょう」

「必要ない」

 

 クイントンに押し倒された状態で殴られていた痩躯の男はマルコの手を取らず立ち上がった。

 

「強がりはやめなさい。相当な回数、殴られていたでしょう」

「血の味は久しぶりだな」

 

 口元の血を拭った男には、それ以外に傷らしいものは見当たらなかった。

 

「あんなに殴られたのにっ、あなた怪我は?」

「わざと無抵抗に殴られていたのか。しかし、それならなぜ……」

 

 マルコ・グレンジャーの耳に届いた打撃音は相応に重たいものだったはずだが、痩躯の男はその威力をなんらかの手段で分散させたのかダメージが残っていない。

 それだけの実力がありながら無抵抗であったのは、マルコと同様にブシン祭を前に余計な騒動を起こすことを避けたかったのか。

 

「マウントを取られた状態で打撃を受け流すとは凄いな。君のような戦士が出場するとは、やはり油断は禁物だな。私はマルコ・グレンジャー、ミドガルの騎士だ。よろしければ名前を聞かせてもらえないだろうか」

 

 そう言ってマルコは握手を求めて手を差し出す。

 

「……ジミナ・セーネン」

 

 しかし、痩躯の男――ジミナ・セーネンは名乗りながらも差し出された手に応えることはしなかった。マルコへ向ける表情も交友を深めるための笑みではなく、嘲笑うように歪められている。

 

「随分と余裕があるじゃないか、マルコ・グレンジャー」

「余裕?」

 

 その言葉の意味をマルコは図りかねた。

 

「俺とお前はブシン祭で戦うかもしれないライバル同士。出場者であるならば、誰もが戦う術を持っていて当然。そんな相手にお優しく手を差し伸べる。俺もクイントンとやらに同意だ。お前、俺のことを舐めているのか?」

「ちょっとジミナ! 助けてくれた相手に失礼でしょう!」

 

 武を競う者である以上、己の実力にプライドを持つ。

 そんな相手に無条件に手を差し伸べることは騎士としては正しくとも、差し伸べられる側からすれば侮辱に値する。そう述べたジミナに対し、マルコと同様にベガルタの軍人でもあった経験を持つアンネローゼは非礼だと反論した。

 

「気分を害したというのなら申し訳ない。だが、決して舐めている訳ではないよ」

「そこの女は俺をどうみても弱いからブシン祭に出るなと言った。お前はどうだ?」

 

 ジミナ・セーネンは客観的に見て弱さの集合体のような男だった。

 満足に食事や休息を取っていないのか痩せこけた頬に目の下には濃い隈。

 力なく垂れ下がった腕に曲がった背と腰。

 重心なんて欠片も意識していないかのような体捌きと歩き方。

 手入れがされた様子のないボロい安物の剣。

 全てがジミナ・セーネンは弱いのだと主張している。

 

「……正直に言って、強いようには全く見えないな」

 

 それはマルコ・グレンジャーから見ても変わらない。

 

「ならば、お前も出るなと言うか?」

「何を目的とするかは人それぞれだ。私だって前回は本選一回戦負けで偉そうに喧伝できるような成績ではない。だから、出るなとは言わないさ」

 

 長身痩躯でありながら、極度の猫背によって身長差が逆転している両者はジミナがマルコを下から覗き込むようにして会話している。そんな互いの体勢故かジミナの声色故か、マルコはまるで心の中まで覗かれているかのような居心地の悪さを感じていた。

 

「ふふ……、くっくっく」

 

 なにがおかしいのか俯いて笑い始めたジミナの不気味さと圧力にアンネローゼが一歩後退った。

 

「ちょうどいい遊び場だと思って出場することに決めたが、玩具まで見つかるとはな」

「なにを言っている?」

 

 どこまでも自分は弱いぞと主張してくる見た目と、相反するかのように増大していく圧力。

 矛盾する二つが()い交ぜとなって同居する異質さにマルコは自然と剣の柄に手を添えた。

 

「決めた。俺の獲物はお前だ、マルコ・グレンジャー」

 

 顔を上げたジミナの両目には深い陥穽のように暗い闇が宿っている。

 

「ミドガルの民が見ている中でお前を無様に這いつくばらせてやろう。土の味を噛み締めさせて、剣もプライドも叩き折ってやろう」

 

 だらんとした両腕に覇気のない声も相まって、その様子はまるで幽鬼が闇から這い出てきたかのようだった。

 

「それになんの意味があるのか理解できないな」

「綺麗なものを見ると汚したくなる。咲き誇る花を見ると手折りたくなる。自分が正しいと思って行動している奴を見ると否定してやりたくなる。実に人間らしい欲求だろう?」

「とんでもなく捻じ曲がってはいるけれどね」

 

 マルコは剣の柄から手を離した。

 ここで戦いになることはないと理解したから。

 だが、ジミナとの間には視線が火花を散らし、互いの魔力が壁となり押し合っている。

 

「楽しめそうだ。少なくともアイリス・ミドガルなどよりは余程に」

「アイリス様は武闘派の王女だが、それ以前に一人の女性だ。虐めて悦に浸るような真似をするのなら、騎士としても一人の男としても見逃せなくなるところだったよ」

 

 挑発し合うかのように互いの口が動く。

 マルコには今さっき初めて出会ったジミナに対する思い入れなどないはずだが、なぜか胸中には因縁めいた感情が渦巻いていた。

 

「決闘だ。受けるか、マルコ・グレンジャー」

「望むところだ」

 

 ジミナ・セーネンからの宣言にマルコ・グレンジャーは一瞬の躊躇いもなく応えた。

 それを見たジミナは一層、笑みを深めてから背を向けて歩き出す。

 その背を見送るマルコの胸に、何故かは分からないがある想いが湧き上がった。

 

 この闘いは絶対に負けてはならない、と。




フシアナさん「あのぅ、私も出るんですけどぉ……」

Q:ジミナ君はどうしてキャラ変してるの?
A:最初からマルコ君狙いなので、一見雑魚な強者よりヘイトを買う不気味な正体不明キャラの方がマルコ君が本気出しやすいかなとシャドウ様が考えてこうなった。
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