我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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新衣装のニューが欲しくてガチャ回したのに爆死しちゃった。
石が全部溶けちゃった……。
おのれシャドウっ!


ブシン祭編②

「ふふ、マルコ君はやっぱり反応がいい。ブシン祭本選前の仕込みも上手く行ったし、後は本選でどう戦うかだなあ」

 

 強そうな青髪の女の子とマルコ君。

 ブシン祭で主役となりそうな人物たちと理想的な邂逅を遂げたボクは、まぐろバーガーを買って上機嫌で帰路に付いていた。

 

 聖域でヴァイオレットさんと戦えたのも楽しかったし、その後のマルコ君の決意表明も大変に宜しかった。 

 最初はどういったキャラクターでブシン際に臨むか少しだけ悩んでいた。以前から待ち侘びていたイベントだから設定も練ったりしていて、一見すると弱そうだけど勝利を重ねて徐々に強さが認識されていくキャラにしようかと思っていた。

 

 しかし、それでは味付けが弱くはないか。

 主人公という素材を最大限に活かして陰の実力者を際立たせるには些か陳腐ではあるまいか。

 

 そうして作り出されたのがジミナ・セーネンだ。

 前回の優勝者であるアイリス・ミドガルが居ない中、優勝に最も近いと言われる騎士。その前に現れる不気味な強さを持つ謎の男。ジミナは誰もが認めている立派な騎士に対してほの暗い願望を抱き、圧倒的な暴力で以って彼の意思を叩き折ろうと立ちはだかる。

 

「期待には応えてあげないとだよね」

 

 マルコ君は誰が相手でも諦めないと言った。

 それはきっと事実なのだろう。

 正直に言って、自分から見て弱いのは誰も彼も変わらない。

 重要なのは進歩があるかだ。

 その点、マルコ君は素晴らしい。数年前と比べると見違えるほどに強くなった。今では、ボクの知る中でヴァイオレットさんに次いで強いのは彼かもしれない。

 そして、そこに至ってなお一日たりとも止まることなく先へと進み続ける。

 

 そんな彼が目指しているは誰なのか。

 ――陰の実力者たるシャドウだ。

 

 愛する人を自らの手で守ることも救うこともできなかった彼が、もう二度と同じ事を繰り返さぬよう心に決めて、ボクを超えに来るのだ。

 

「ああ、どうしようか。本当に悩むなぁ」

 

 興奮に震える身体を抑えて思考する。

 これはまだ物語半ばだ。

 ボクと彼の決着とするには早い。

 かつてはまるで届かなかった強敵相手に、様々な経験を積み重ねた主人公が新たな自分を見せる場面だ。

 それに対して陰の実力者たるボクはどうするべきか。

 

 再び、圧倒的な実力を以て完膚なきまでに叩き潰す?

 実力伯仲した熱い戦いの末に引き分け、再戦の約束を交わす?

 ある程度の痛手を負い、撤退する形で因縁を持ち越す?

 

「うーん、力を制限した状態で負ける案は無しではないけど、まだマルコ君に追い付けたなんて思ってもらっちゃ困るからなぁ」

 

 彼の進歩はシャドウという遥か先にある強さを見たことが大きく影響しているだろう。この世界に於いて強さの天井というのは、とんでもなく高いのだと知ったからこそ躊躇いなく全力疾走をしているのだ。もう天井付近まで到達したのだと勘違いされて歩みが止まってしまうような事態は絶対に避けたい。

 

「ふふっ、随分と執着しているじゃないかボク」

 

 替えが効かない主人公なのだから当然ではある。

 けれど、陰の実力者というのは本来のストーリーにはない異物だ。そんなボクを誰よりも真剣に追い掛けて来てくれることが思っていた以上に嬉しい。

 家族と七陰の皆を除けば、恐らくは最も深い交流があるだろう相手。ボクの強さを何度その目で見て、己との間に広がる距離を知っても諦めない騎士。

 マルコ・グレンジャーという、どこまでも本気で自分と相対してくれる人が居るからこそボクは陰の実力者として世界に立脚している。

 

「あっ、そう言えばニューの処遇をどうするかって話もあるんだっけ」

 

 ガンマはマルコ君に自分たちが教団と敵対していることを告げ、暗にミツゴシ商会がシャドウガーデンのフロント企業であることを伝えた。言ってしまえば互いの利害が一致している外部協力者のような立ち位置となった訳だ。

 

 つまりは半分仲間な状態なんだけど、問題がない訳ではない。

 婚約者であるニューの所在を教えていないこと。

 シャドウガーデンが必ずしもミドガルに利する行動ばかり取る訳ではないこと。

 

 二つある問題の内、前者についてアルファから問われたとき、ボクは『ブシン祭の結果次第では教える』と答えた。マルコ君のモチベーションの大半はニューを取り戻すことにあるのだから、彼女がマルコ君の元に戻ってしまうと燃え尽き症候群のようになってしまう可能性がないでもない。

 

 だから、ボクが満足しない限りは返してあげるつもりはない。

 故にブシン祭の方針も決まったも同然だ。

 

「全力は出さない。けど、絶対に負けてはあげないよマルコ君」

 

 ――まだまだ楽しませてよ、主人公。

 

 ……と、そんな事を考えていたボクの背中が剣で小突かれた。

 接近には気付いていたのだが、殺気もなかったのでされるがままにした。

 

「油断大敵ですよ、シド君」

 

 振り返った先に居たのは豪奢な金髪縦ロールが特徴的なローズ先輩。

 

「珍しい時期に珍しい場所で珍しい恰好だね」

 

 寒い季節という訳でもないのに、上着も含めて制服を着こんでいるローズ先輩と噴水に腰掛けて話をする。

 なんだか暗い顔をした先輩は、このあと父親である国王から婚約者を紹介されるのだとか。

 

 相手の名はドエム・ケツハット。

 凄い名前だ。

 暗い顔の理由は自身が望んだ婚約ではないからだろう。

 それでもしっかり向き合おうとしているあたり、影の薄い男爵家の子息を偽の恋人役にしてポチと呼んで犬扱いした王女様に比べると随分大人な対応に思える。

 

「……シド君、なにがあっても私のことを信じてくれますか?」

 

 話しの流れは全く以って理解していないが、周囲の反対を押し切り芸術家ではなく魔剣士の道を選んだローズ先輩は今回の婚約でも自分の意思を貫くつもりらしい。四面楚歌となる中、味方となってくれる者が欲しいのだろう。ボクも誰にも理解してもらえず一人孤独に陰の実力者を目指していたから、寂しい思いは分かる。

 

「分かった。いいよ」

 

 だからまあ、信じて欲しいのなら信じてあげよう。

 そう思って買ったバーガーをひとつ投げ渡す。

 彼女の願いが叶うことを祈る味方が世界に一人くらい居たって構わないはずだ。

 

 ……そう思っていたのだが、まさかボクと別れたあとローズ先輩が件の婚約者を刺して失踪するとは。

 どこの国も王女がファンキー過ぎやしないだろうか。

 

――――――

 

「では、我々ミドガル王国はローズ王女の捜索に加わる必要はないと?」

 

 王城の一室。

 紅の騎士団用に拵えられた執務室でアイリス様から指令が下る。

 

「ラファエロ国王よりオリアナ国内の問題故、手出しは無用と言われては迂闊な事はできません。ブシン祭本戦に伴う警備の増員も不要と言われました」

「しかし、今のローズ王女はミドガル魔剣士学園の留学生。本来であればミドガルの法を適用すべきと思いますが」

 

 グレンさんも今回のオリアナ側の決定には疑問があるようだ。

 他国で王女が公爵家次男を刺すだなんて大事件はそうそうあるものではないだろうから、判断の難しいところではある。

 それにしたって捜索する人手の協力要請くらいあってもいいはずだ。

 

「オリアナには身内で片を付けたい理由がある」

 

 呟くように告げたアイリス様も疑念は持っているらしい。

 

「かと言って我々の独断で動く訳にもいきませんな」

「いや、普通に探せばいいんでは?」

 

 そこまで聞いて、アイリス様とグレンさんの会話に口を挟んだ。

 ローズ王女とは学園テロや聖地リンドヴルムで少なからず親交がある。なんの理由もなく他者を害するような人ではないと確信している。

 

「マルコ、気持ちは分かるが下手を打てば国際問題だぞ」

「グレンさん、ここはミドガル王国です。ブシン祭の熱気にあてられて羽目を外す者が多いからこそ私たちは普段にも増して巡回を入念にしています。その過程で怪しい場所を調査してローズ王女を見つけてしまったとして、誰が罪に問うでしょうか?」

 

 俺の提言にアイリス様は顎に手を添えて思考を巡らせているようだった。

 

「お前、どんどん可愛げがなくなっていくな」

「ローズ王女の助けになってあげたい気持ちはありますが、特段オリアナ王国に義理立てする理由はないので」

 

 可能ならば先にローズ王女を保護してオリアナ王国の狙いを知りたいところだが、そこまで行くと流石に国同士の関係を悪化させるだろうか。

 

「ローズ王女は王都北の地下水路に逃げ込んだという情報もあります」

「その先には遺跡がありますな。複雑に入り組んだ構造をしていますから、簡単に発見することは困難でしょう」

 

 アレクシア様が誘拐されたときと似たような状況という訳か。

 

「マルコ。紅の騎士団がオリアナの要請に従うかどうかはともかく、あなたはブシン祭に出場するのですから捜索には加わらせませんよ」

「……そう言えばそうでしたね」

 

 聖域での一件もあって、ちょっとした仲間意識を抱いていたから力になってあげたいのだが流石にブシン祭を放っていくことはできないか。

 

「本選までの期間なら止めませんよね?」

「地下は手の空いている者に担当させます。あなたはその分、手薄になる王都の巡回に注力してもらいます。勿論、ブシン祭に影響がでない範疇でですよ?」

 

 俺は決してワーカーホリックなどではない。

 だからそんなに念を押さなくてもいいのではなかろうか。

 

「マルコ。私の目を見て、はいかイエスと答えなさい」

「……はーい」

「お前、子供か」

 

 グレンさんが呆れたように嘆息する。

 だって、心配じゃないか。

 誰も味方が居らず、祖国から追われるだなんて。

 きっと寂しい思いをしているはずだ。

 それを放置することは個人的に凄く嫌だ。

 

 

 

「やっぱり、見つかる訳ないよな」

 

 前回優勝者の名代である俺はシード権を有しているため、予選への参加は必要ない。

 本選は目前に迫っているが、ローズ王女が王都の外に出ていないのなら捜索する猶予はまだある。地下の捜索は禁止されてしまったから、仕方がないので王都北側の裏路地や廃屋を見て回っているのだが、簡単に発見できるような場所には居ないようだ。

 地下の遺跡に逃げ込んだという情報が正しいということだろう。

 

「……はぁ。いっそブシン祭の方に集中すべきかな」

 

 ローズ王女の容姿は目立つ。地上に居るならば、必ず誰かの目に留まるだろうし、一度見つかってしまえば後は人海戦術で追い立てられて捕縛されるだろう。

 俺が彼女の境遇を悪魔憑きに重ねてしまって気にしていることを除けば、捜索に加わる意義は限りなく薄いのだ。

 

「雑念が残ってるのは据わりが悪い。今日一日しっかり探して見つからなければ切り替えよう」

「……エルフの匂いがする」

 

 調べていた廃屋を出て、俯いてこの後の行動を思案していると正面から声が降ってきた。

 ふと顔を上げるとフードを被った人物が立っていて、その隙間から綺麗な容姿が覗いている。

 声と体つきからして相手は女性のようだった。

 

「エルフの知り合いがいる?」

「……ええ、ひとりいますが」

 

 エルフの匂いってどんな香りなのだろうか。

 前世的には森林というか樹木的なイメージのある種族だが、そうなると樹液の匂いだろうか。

 しかし、俺の知り合いであるルーナ会長はミツゴシ製の香水を付けていることも多いので素の体臭なんて情報は持ち合わせていない。

 

「私はエルフを探している」

「人探しですか」

 

 奇遇である。

 俺も丁度人を探しているところだ。

 

「可愛い子だった。心当たりはないか? 私に良く似ているはずだ」

「えっと、お顔拝見しても構いませんか?」

 

 美人であることは分かるのだが、フードで細部が窺えない。

 そう指摘すると、女性がフードを取って全容が露になる。

 その顔はある人物によく似ていた。

 

「……オリーヴちゃん?」

 

 女神の試練で戦ったオリーヴちゃん――正確には英雄オリヴィエにその顔は酷似していた。

 

「オリーヴ?」

「ああ、すみません。私の知り合いのエルフはあなたとは似ていませんね。藍色の髪が綺麗でどちらかというと可愛いよりは大人な美人の女性です。名前はルーナさんですね」

 

 オリーヴちゃんの名前が口からぽろっと出てしまったが、英雄オリヴィエは一般的には男性であると伝わっている。その真実もディアボロス教団の手によって歪められたらしいとあっては迂闊に教えるべきではない。

 

「そうか。それでオリーヴというのは?」

 

 そう思って取り敢えず本当に知り合いであるルーナさんのことを伝えてみたのだが、微妙に誤魔化し切れなかったようだ。

 はて、どうしようか……。

 

「話す前に自己紹介を。私はミドガルで騎士をしているマルコ・グレンジャーと申します。人探しであれば写真や人相書きなどいただければ騎士団でも情報を共有しますが……」

「私はベアトリクス。写真はない。せめて私に絵心があればよかったんだが」

「絵心、ないんですね」

「ああ、ないんだ」

 

 俺も偉そうに言えるような画力の持ち合わせはない。

 それにしてもベアトリクスという名前はどこかで聞いた覚えがある。

 女神ベアートリクスと勘違いしている訳でもないはずだが、どうにも思い出せないな。

 

「それで、オリーヴという者のことを教えてもらえないだろうか」

「ええっと、実は私が聖地リンドヴルムで開催された女神の試練に挑戦したときに呼び出した古代の戦士の名前でして」

 

 結局、素直に教えることにした。

 聖域が消し飛んだ以上、女神の試練は開催されない。仮に再び実施できたとしても英雄オリヴィエを呼び出せる可能性は低いだろう。少なくともネルソンの反応を見ていた限りでは過去に一度もなかったことのようだった。

 

「女神の試練。それじゃあ……」

「はい、リンドヴルムに行ったとしても会えないというか、多分探している方とは別人ですね」

 

 本人が死なないと登録されないシステムなのかは分からないが、エルフの寿命は三百歳程度と聞いている。千年前の人物であるオリーヴちゃんはもう生きてはいない。

 

「そうか。教えてくれてありがとう」

「いえいえ、困っている方の力になるのが騎士の役目ですから。こちらこそ大してお役に立てず申し訳ありません」

 

 ベアトリクスさんが手を差し出してきたので、こちらも応じて手を握る。

 ジミナには握手を断られたからなんだか嬉しい。

 

「……君は強いな。ブシン祭には出るのか?」

「はい。微力を尽くす所存です」

「会場には色々な国から人が来るから人探しのついでに私も見に行くつもりだ。応援するよ」

「ありがとうございます。期待に応えられるよう頑張ります」

 

 声援を受け取り、ベアトリクスさんと別れる。

 去っていく背を見送ってしばらく経ってから気が付いた。

 ……オリーヴちゃんに瓜二つということはアルファに似てるってことか。

 

 そのことをベアトリクスさんに教えるべきか悩んだが、アルファはシャドウガーデンの一員だ。こっちもこっちで迂闊に人に教えてよいことではない。それに俺がアルファについて知っているのは顔と名前くらいだ。アルファとかデルタって名前から考えてもコードネーム的な偽名だろうし、どこに居るかとか全く知らないのに教えてもヤキモキさせるだけだろうと思いとどまった。

 

 次にアルファに会うことがあったらベアトリクスさんと知り合いなのか聞いてみよう。




ベアトリクス様めっちゃ可愛いですよね(浮気)
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