我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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ブシン祭編⑥

 マルコ・グレンジャーが負ける。

 誰もが、そう思った。

 

「速すぎる……」

 

 裏の住人を除けばブシン祭出場者を含めても三指に入るだろう実力を持つアイリス・ミドガルをして、戦闘の推移は目で追えない速度に到達した。

 他を圧倒する魔力量を誇る己であっても出すことのできない速度。

 それはさらに上の魔力を持つか、優れた技巧を併せていることを示している。

 ジミナ・セーネンが前者であり、マルコ・グレンジャーが後者だ。

 

「マルコ、あなたは何と戦おうとしているの」

 

 マルコが己の強さに満足している姿など、一度たりとも見たことがない。彼はいつだって強さを渇望していて、未熟な己に歯噛みしていた。

 それでも人の道を踏み外すことなく、騎士の本懐を忘れないからこそ全幅の信頼を置いていた。

 だが、逆に彼から見た自分はどうなのだろうか。

 何かの役に立てるのか。敬い従うに値する何かがあるのか。

 あれほどの強さを得てもなお、突き進むことを止めない彼にとって自分とはなんなのか。

 アイリス・ミドガルは生まれて初めて置き去りにされる側の気分を味わっていた。

 

「あれだけの実力を有するマルコ・グレンジャーであっても勝負にならないのか」

「ジミナの剣技は異常。剣の道を究めた者が敢えて最弱の剣を振るったなら、あんな異質な強さになるのかもしれない」

 

 茫然として言葉を漏らすドエム・ケツハット。

 最初は楽し気に勝負を見ていたベアトリクスも自分に近い領域の剣技を振るうマルコを一蹴するジミナの姿に、憧憬の熱と異質さへの寒気を感じていた。

 騎士の誇りでもある羽織ったマントがボロボロになり壁に寄り掛かるマルコの姿にVIP席には重たい沈黙が揺蕩っている。

 

 審判が試合の決着を告げるため、手を振り上げようとする。

 しかし、その手は途中で止まり視線がマルコへと向く。

 

「笑っている」

「えっ?」

 

 様子を訝しみ、どよめきが広がるブシン祭会場。

 生じた異変にVIP席で最も早く気付いたのはベアトリクスだった。

 

 

 

「ああ、シャドウ様さすがです!」

「あれこそが至高の強者の姿っ!」

 

 マルコ・グレンジャーを圧倒して立つジミナにベータとイプシロンが興奮した様子で感嘆の声をあげる。 

 

 重たい空気が蔓延していたVIP席とは異なり、シャドウガーデンの一団が座る一画の雰囲気は比較的明るいものだった。

 マルコ・グレンジャーの強さは確かに奥の手がなくとも七陰に匹敵する。だが、シャドウに届き得るものではない。勢い余ったシャドウの手で殺されてしまうことを懸念していたニューも、重症程度で試合が終わりそうなことに安堵していた。

 

「ゼータ、あなたならマルコ・グレンジャーに勝てる?」

「勿論、簡単に勝てるよ。……暗殺、毒殺、ゲリラ戦となんでも有りならね」

 

 アルファの問いに対して、ニコレッタ・マルケスの救出作戦以降は一度もマルコの戦闘を見たことがなかったゼータだったが、改めてその戦闘能力を確かめた上で感想を述べた。

 

「真っ向勝負なら?」

「フィールド次第。こんな見晴らしの良いただっ広い空間では勘弁してほしいかな」

 

 例えば森林のように障害物が乱立し、立体機動や攪乱が容易なフィールドであったなら勝ち目は充分にある。だが『天賦』の二つ名を持ち、万能の戦闘技能を有するゼータであっても、決闘場で自身の戦闘力以外の要素が絡まないとなれば勝つのは困難。それがマルコ・グレンジャーに対する評価だった。

 

「アルファ様はどうなのさ。彼は至って正統派の魔剣士でしょ」

「私は七陰の第一席よ。どんな手段を用いても勝つに決まっているでしょう」

 

 正面衝突でも負けはしない。手段を選ばなければなお確実だというのがアルファの判断だ。

 それでも陰の叡智なしで僅か数年であそこまで強くなったという事実は驚嘆に値する。

 

「試合中にローズ・オリアナの介入がなくて良かったわ。彼女が事を起こすとすれば次の試合の間かしら」

「……いや、アルファ様。どうやらまだ終わりじゃないみたいだ」

 

 決着したかに見えた試合だったが、ジミナは剣を鞘に収めることも立ち去ることもしない。

 じっとマルコを見ながら、唇を動かしてマルコへと語り掛けている。

 読唇術でその内容を知ったゼータの言葉にアルファが反応した瞬間、蒼い魔力が迸った。

 

――――――

 

「さぁ、主人公()陰の実力者(ボク)の第二ラウンドを始めようじゃないか」

 

 発破をかけたジミナに応じるかのようにマルコ・グレンジャーの肉体から魔力が爆ぜる。

 周囲への被害を考慮して、人前では圧縮した形でしか使用してこなかった魔力の全力解放。

 破壊を撒き散らすはずの蒼い奔流が今はギリギリのところで手綱を握られている。

 

「先に謝っておく」

「手を抜いていたことか? それは我も同じだ」

 

 よろめきながら立ち上がるマルコはすでに満身創痍だ。

 対するジミナ・セーネンは無傷。

 ここから逆転などできようはずもない。

 だが、そんな声は会場からひとつたりとも上がらない。

 

「いや、お前を()()なんて舐めた気持ちで戦っていたことをだ」

 

 血と土埃で汚れた顔に浮かぶのは騎士に相応しからぬ獰猛な笑み。

 全身から溢れるのは正義の意思ではなく純然たる殺意。

 蛇に睨まれた蛙のように誰も彼もが息をすることすら忘れている。

 

「ぶっ殺してやるよシャドウ」

 

 反応できたのは、ジミナただひとりだった。

 

「ふっ、それでこそだ」

 

 二度目の居合。

 ジミナの選択は剣による防御ではなく、屈んでの回避。

 斬撃によって発生した衝撃波が王都の空へと駆け抜けていく。

 

「お返しだ」

 

 剣を振り抜いた状態のマルコの首へとジミナが剣を突く。

 

「むっ……」

 

 その剛力から繰り出された刃がマルコの片手に掴まれ、ぴくりとも動かず止まる。

 

「避けてみろ」

 

 ジミナの膂力を以てしても振りほどけない握力。

 刃を掴まれ移動を封じられたジミナへと振り下ろされた剣によって地面が抉れ飛んだ。

 

「ちっ、剣以外も使えるか」

「強者の嗜みというやつだ」

 

 マルコの一撃で粉砕されたかに見えたジミナだったが、吹き飛ばされたのはマルコの方だった。

 パワーだけで剣を奪い返すのは不可能と判断したジミナはマルコの剣が当たるよりも速く己の剣の柄を支点にしてマルコへと回し蹴りを叩き込み、剣の奪取と回避を両立させていた。

 

 並みの魔剣士であれば上半身と下半身が泣き別れするほどの威力を秘めた剛脚。しかし、ジミナの脚に伝わってきた感触は巨大なタイヤでも蹴ったかのような重たく鈍いものだ。今のマルコは膨大な魔力をジミナとの戦闘に追い付かせられるレベルで制御していた。

 

「児戯としか呼べぬ魔力の扱いが多少はマシになったではないか」

「そういうお前はいつまで魔力を抑えておくつもりだ」

「使う必要があると思わされるまで」

「負けたときの言い訳にするんじゃねえぞっ!」

 

 用いる魔力量の差によって両者の身体能力は逆転した。

 膂力と速度で勝るマルコ・グレンジャーが攻めに転じるかに思われたが、ジミナもまた技巧を解禁したことで戦局は硬直する。

 

「ハァッ!」

「温い!」

 

 炎の如く苛烈なマルコの剣をジミナは流れる水を想起させる流麗させで捌く。

 真っ向から受け太刀すれば剣が折られる。掠っただけでも甚大なダメージを負う。そんな極限の状態にあっても揺らがない精神は己の積み重ねた修練に絶対の信頼があるからこそだ。

 

 マルコは攻防の中でジミナ――シャドウの本質の一端を垣間見た気がした。

 

「ふふっ、互角だな? さて、此処から状況を打開する術があるか楽しみだ」

「合わせていただいて恐縮だよ!」

 

 シャドウが魔力量の制限を解けば勝敗の天秤は再度傾く。

 だが、シャドウは戦いの手を緩めることも、決着を急ぐこともしなかった。

 両者の間に横たわる実力差を理解して尚、マルコ・グレンジャーの目に宿る光が消えないから。

 ずっと何かを狙っていることを闘争という会話の中で読み取っていたから。

 

(けれど、その狙いは『圧縮(コンプレッション)』じゃないはずだ。あれは武器が自壊するから予備の剣を持ち込めない試合では短期決戦以外に向かない。防御が固い相手ならともかくスピードで拮抗され攻撃を受け流すタイプの相手への使用は悪手。なら、当然別の手があるんだろう?)

 

 『圧縮』を実際に目にしているシャドウはそのメリットとデメリットを把握している。

 マルコ・グレンジャーが使うとすれば、それは自身が決定的な隙を見せるか、破れかぶれになり勝負を焦ったときだ。

 試合展開を調整して前者を誘発させることは難しくないが、楽しくないので却下。

 マルコ・グレンジャーの落ち着き具合からして後者は起きない。

 

 だから、じっくりと待った。

 マルコ・グレンジャーが持つ『圧縮』とは異なる切り札が使われる瞬間(とき)を。

 

(なにが起きているのかさっぱり理解できてない観客も飽き始めている。そろそろ良い頃合いじゃないか、主人公の必殺技を見せるにはさあ!)

 

 覇気のないジミナ・セーネンの顔に嘲笑とは異なる楽し気な笑みを浮かべてシャドウはマルコと剣を交わす。

 その最中に見せる隙をほんの少しだけ広げる。

 攻めてこい、使ってこいと挑発するシャドウにマルコは顔を歪めながらも応じる。

 

(ここか! さあ何を魅せてくれるんだい!)

 

 覚悟を決めた顔付きで袈裟斬りを放つマルコ。

 内心で歓喜しながら大袈裟に後方へ下がって回避し、次の一手を見やるシャドウ。

 何が来ようと華麗に対処してみせると意気込む。

 

 そんなシャドウに対し、マルコ・グレンジャーの体は剣を振り下ろした体勢のまま微動だにせず()()()()

 

(これは……)

 

 まるでマルコ・グレンジャーの居る空間だけがスライドしたかのような移動。

 その原理を考察しているシャドウへと向けて、剣が振り上げられた。

 

「歩法か。……つまらないな」

 

 その不可思議な動きと共に繰り出された斬撃は()()()()と回避される。

 踏み込みではなく摺り足による移動。

 かつてのニコレッタ・マルケスを救出するため教団を相手にマルコ・グレンジャーが用いたものに比べて遥かに練度は向上している。一切体幹のブレがなく、最小の動作で繰り出される足運び。速度も移動距離も以前とは比較にならず、何が起きたのか理解できたのはシャドウのみだろう。

 

 ――だが、それだけ。

 

 縮地と呼ばれるような超絶技巧ほどの理不尽さはない。

 そこらの雑魚ならともかくシャドウにしてみれば手品でしかない。

 

(ちょっと……期待外れかな)

 

 剣を振り上げ、腕を伸ばしきったマルコに攻撃を防御する術はない。がら空きの胴体を横一文字に切り払うため腰を回して大剣を後ろ方向へ振りかぶる。

 

(それでも十二分に楽しめた。また、次があるさ)

 

 常人にとっては一瞬で、シャドウにとっては止まって見える攻防。

 そこに至って、気付いた。

 渾身の一撃を躱され、致命的な隙を見せてしまったマルコ・グレンジャーの目に宿る光がさらに輝きを増して蒼い魔力を灯していることに。

 足裏、膝、肩、肘といった斬撃を放つのに重要な箇所へ異常な魔力が集まっていることに。

 

「『爆発(エクスプロージョン)』」

 

 シャドウは見た。

 天に輝く星の如く明滅する蒼の光を。

 己が絶対的な力の根源である()()()()()()()()を行使したマルコ・グレンジャーを。

 

「――あっ」

 

 この日、たった一瞬だけマルコ・グレンジャーはシャドウの足元に手を届かせた。

 

――――――

 

 あの日、聖地リンドヴルムで見た魔力の光。

 シド君に化けたシャドウが右目を起点として超圧縮していた大量の魔力。

 その練度は魔力の圧縮にだけは自信があった俺よりも遥か先を行っていた。

 それだけならもっと努力しなければで話は終わっていただろう。

 

 しかし、そこで気付いた。

 圧し固められていく大量の魔力の()()

 それは奴の体内で現在進行形で生成されていた。

 圧縮された魔力が燃焼して爆発的に増大し、増大した魔力は放出されることなく再度圧縮され、爆発を繰り返してどこまでも増大していく。

 内燃機関を彷彿とさせるエネルギー発生がひたすら体内で循環していた。

 

 ――素晴らしい魔力制御技術だ。

 

 熟練の魔剣士でさえ最初の魔力膨張を制御することもできないだろう。

 神業と称すべき技巧だと本心から思った。

 俺の超えなければならない男が持つ強さの根幹は『技術』なのだと知った。

 

 ならば学ぶしかあるまい。

 どれだけ嫌いな相手だろうと、技術を考案した発想と身に着けるまでに重ねた努力は称賛されて然るべきだ。

 なぜって技術は天賦の才と違って()()できる素晴らしいものだから。

 

 間近で見られたのは幸運だった。

 聖域から帰還して以降は自身の訓練にも魔力の圧縮と爆発を繰り返す工程を組み込んだ。

 

 だが、その結果は芳しいものではなかった。

 以前から使っていた魔力を圧縮して留めることだけは問題なく実行できた。だが、その後に爆発させた魔力を体内で制御して影響なく留めることが、とんでもなく難しかった。制御に失敗すれば魔力は肉体を突き破る勢いで体外へと放出される。

 

 爆ぜた魔力で皮膚が破れ、筋繊維が断裂し、骨が砕ける。

 完璧に制御できなければ自爆してしまうだけだった。

 

 逆に言えば、()()()()()()使()()()

 

 それが『爆発(エクスプロージョン)』。

 斬撃というアクションに於ける重要な箇所で連続して魔力の収縮と爆発を一度だけ行うことで、文字通り爆発的な推進力と威力を生み出す不格好な技だ。技を繰り出した後は制御を手放した魔力によって肉体に戦闘の継続が困難なダメージを負う。

 

 だが一度なら。

 一度だけならば。

 今日に至るまで何十万回と繰り返した斬撃の型に沿ってならば。

 俺はこの超越的な魔力を技として扱える。

 

 シャドウ。

 俺は今、お前から見てどれだけ後方にいる。

 宇宙(そら)の彼方か?

 地平の彼方か?

 視界の先に微かに映る黒点か?

 それとも、背が見える程度には近づいたか?

 

 どこであったとしても、必ず追い付いてやる。

 俺の一番大切なものはお前の手の中にある。

 だから、絶対に諦めてはやらない。

 

「シャドウ……お前に勝って、俺は取り戻すぞ」

 

 かくして、今の俺が放てる最強の技をシャドウへと繰り出した。

 その結果は、甲高い金属音。

 

「これでも届かないのかっ!」

 

 例え誰が相手であろうとも、反応すらさせず断ち切る自信のあった剣速にシャドウは神速の刃を割り込ませていた。

 例え何が相手であろうとも、拮抗すらさせず断ち切る自信のあった威力はシャドウの肉体を押し返すことすらできず止められた。

 

 こんな人間が世界には存在しているのか。

 技の反動で全身から血を噴き出す俺に抗う術は残されていない。

 

「……くそっ」

「ふっ、ふふふ……」

 

 最早、適当な剣の一振りで終わるだろう試合。

 シャドウはそれを実行せず、大きく後方へと跳躍した。

 

「なんのつもりだ」

 

 シャドウからは思わずと言った様子で笑い声が漏れている。

 顔に翳した手から覗く口元が笑みに歪んでいる。

 

「見事な一撃だった」

 

 シャドウから向けられたのは称賛の言葉だった。

 そこに一切の虚飾がないことは分かる。

 それでも受け入れる訳にはいかない。

 

「嫌味か。ニコレッタを奪われた時と何も変わらない。俺の手は届かなかった」

 

 全身全霊の一撃。

 その結果は無惨にも阻まれて終わったのだ。

 

「届かなかった? いいや、届いたさ」

 

 ジミナ……いや、シャドウが剣を眼前に掲げる。

 その大剣の刀身には僅かな欠けが生じていた。

 そして――。

 

「枷を外した状態で傷を付けられるとはな」

 

 シャドウの頬から一筋の血が垂れる。

 恐らくは欠けた大剣の破片が掠めたのだろう。

 

「ラッキーパンチみたいで甚だ不本意だ。次は首を刎ね飛ばしてやるよ」

「そのボロボロの有様でか?」

 

 ニコレッタを奪われた時と彷彿とさせる絶望的な状況。

 つまり、あの時と同じく俺の心はまだ折れちゃいない。

 

「貴様との時間は心躍るな。だが、今日はここまでだ。陰の実力者というのは存外忙しくてな」

 

 陰の実力者ってなんだ。

 いやコイツという存在を端的に表現すると適切なのかもしれんが……。

 

「指名手配されてる分際で武術大会に出て来ておいて忙しい?」

 

 軽口を叩きながら、身体に喝を入れて剣を構える。

 なんのために出場してきたのかさっぱり分からないが、コイツがなにかするときは碌なことが起きない。そのまま行かせてしまっていいのか本当に判断に困る。

 

「褒美だ。受け取っておけ」

 

 その言葉と共に俺の体がシャドウの魔力に包まれ傷が癒えていく。

 同時にシャドウは俺から視線を外してVIP席の方へと歩みを進める。

 

「なにをするつもり……っ!?」

 

 釣られて視線を向けたVIP席でオリアナ国王が何者かによって胸を刺されるのが見えた。

 次いでシャドウが窓ガラスを破壊してVIP席に侵入する。

 

「待て、シャドウッ!」

 

 慌てて追い掛けようとする俺の視界の端に黒刃が煌めいた。

 

「くっ!? ……お前は確か」

 

 上体を逸らして回避した俺は体勢を立て直すため下がらざるを得ず、VIP席から引き離されてしまう。そして、俺の前に立ち塞がったのは黒衣を纏いフードから水色の髪を垂らした女。

 聖地でネルソンを拘束していたシャドウガーデンのメンバーだ。

 

「こんにちは。改めて自己紹介させていただきます。シャドウガーデン七陰が第五席"緻密"のイプシロン。騎士様、一曲踊っていただけませんか?」

 

 艶やかな仕草で死神がワルツのお誘いを掛けてきた。

 

「そこを退け。俺が用があるのはシャドウだ」

「あら、女性からの誘いを袖にするだなんてお堅い騎士様ですのね」

 

 フザけた物言いに対してイプシロンと名乗った女には一部の隙もない。

 振り切ってシャドウを追うことは困難だろう。

 

「お淑やかな女性が好みでね。強引なレディからの誘いには辟易している」

「……いや、ニューも淑やかじゃなくない?」

「にゅう?」

 

 なぜいきなり乳の話をしたんだろうか。さっきから身動(みじろ)ぎする度にやたらと胸のエアバッグが揺れるなと気にはなっていたが。

 

「こほん。シャドウ様のダンス相手はエルフの剣聖と第一王女。今から騎士様が間に割って入るのはマナー違反でしょう?」

「俺が加われば男女が二対二でバランスがいいと思わないか?」

 

 VIP席は誰の手によるものか分からないが粉砕され、観客も逃げ惑い始めている。

 各所に黒衣を纏った連中が居ると言うことは、会場内でシャドウガーデンかディアボロス教団が何らか暗躍しているのだろう。

 シャドウはアイリス様とベアトリクス様を相手に戦闘を開始したのか街の方へと飛んで行った。

 

 オリアナ国王を刺したのが誰か分からないし、シャドウガーデンがどの立場で介入しているのかも不明な状況。せめて観客を守るために動きたいが、イプシロンもまた大戦力だ。俺を相手に戦闘を仕掛けてきている以上、目を離せば被害が拡大しかねない。

 

 ……なにをするにしても、まずはコイツに勝つしかないか。

 

「はぁ……、戦う前に二つ聞いてもいいか?」

「私の目的は時間稼ぎですので、幾つでもどうぞ。答えるかは分かりませんけど」

 

 シャドウと戦っている二人のことも心配だが、奴がその気なら誰だって殺せる。遊んでいるだけで殺生するつもりはないと信じるしかない。

 

「第五席と言ったな。お前はシャドウガーデンで何番目に強い。それとアルファは何番目だ」

「……私の強さは最高でも四番目で最低でも七番目ね。アルファ様は二番目よ」

 

 アルファが二番目。つまりシャドウの次に強い訳か。アルファとイプシロンの間にいる内の一人は聖地にいたデルタとかいう黒髪の獣人か?

 

「いいだろう。お前に勝てば超えなきゃいけない壁は多くて六つ。()()()に丁度いい」

「あら、もしかして私って舐められています?」

 

 イプシロンから強烈な殺気が放たれる。

 だが、こちらも退く気はない。

 

「ニコレッタを取り戻すチャンスがお流れになって機嫌が悪いんだ。優しくはしてやらないぞ?」

「そちらこそシャドウ様とニューに免じて殺しはしないけど、死んだ方がマシなくらい痛めつけてあげましょう」

 

 なぜシャドウと乳に免じるのか意味不明だが、殺し合いは勘弁願いたいから有難い。

 さっさと倒してシャドウと第三ラウンドだ。




イプシロン「おかしい。来ている七陰全員で止めるって言ってたのに私しか降りてきてない……。え、本当に私だけでタイマンしなきゃダメなの?」

シャドウ様パワー禁断の二度打ち(+肉体改造)で再強化されたマルコ君VS緻密のイプシロン。

爆発(エクスプロージョン)
体内で魔力を圧縮→爆発させ推進力強化に全振りする技。完全に制御できれば常時超加速できると思われるがマルコ君は魔力制御が下手っぴなので型に沿った斬撃にしか使えないし、使った後は自傷ダメージが発生する。
マルコ君の技は試作品の『圧縮』を除いて全部「爆」の文字が入る。
核爆発を使うシャドウ様リスペクト。
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