我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。 作:ゆーりふり
あとアニメ一期のOPで生徒会室っぽいとこにいるガンマとニュー見てると顔似てない?
「えっ、マルコ・グレンジャーがルーナ商会の存在を怪しんでいる?」
「うん、王都を歩いてたら偶然見かけたんだけどね。まぐろなるどを調べていて次はルーナ商会に探りを入れようとしてたよ」
シャドウガーデンの幹部である七陰は世界を裏から支配するディアボロス教団に対抗するため、一般のメンバーたちと共に世界中に散らばって活動している。同時にボスであるシャドウへの定期報告のため、持ち回りで傍に付くようにもしていた。
シャドウガーデンのフロント企業としてルーナ商会を営むガンマが報告をしにくると、シャドウからマルコ・グレンジャーが嗅ぎまわっているという情報がもたらされた。
「も、申し訳ございません! シャドウガーデンと商会の繋がりについては細心の注意を払って情報を秘匿していたのですが」
「悪魔憑きの救出に来た時といい、彼はそういった大事なことに気付ける直感が優れているみたいだね。ふっ、我が機会を与えたのだから、そうではなくては困るというものだ」
日夜、ディアボロス教団との抗争を続けるシャドウガーデンだったが、組織の規模と社会への影響力という点では大きく劣っているのが現状だ。逆に戦闘力という一点についてはシャドウ一人でお釣りがくる。しかし、悪魔憑きを救い、隠された世界の真実を解き明かすというサブ目標を考えると、闇雲に暴れ回ればいいというものでもない。故にシャドウガーデンは政治や経済、芸能など多様な分野で影響力を高め、活動の基盤となる資本の獲得にも務めていた。
「アルファ様にも伝え、証拠の隠匿を再度徹底するようにいたします」
「ああ、彼も成長著しいが独力で我らと相対するにはまだ早い」
ガンマは正直にいって困っていた。
シャドウガーデンと商会の関係を怪しむ存在。最も簡単な対処方法は暗殺だ。魔剣士の一人程度、一切の証拠を残さずに殺す方法は幾らでもある。
だが、それはできない。なぜならマルコ・グレンジャーはこの世でただ一人、悪魔憑きでもないのにシャドウから力を与えられた存在だからだ。絶対の忠誠を誓うシャドウがどういった意図で彼に力を与えたのか、七陰であっても測りきれてはいない。
だが、シャドウの行動がただの思い付きや気紛れであったことなど一度たりともない。その全ては深淵とも言える深い思考を元に遥か先を見通した一手なのだ。
それはマルコ・グレンジャーには力を与えられるだけの何かと、為してもらうべき役目があるということを示している。
つまり、安易に殺すことはできないという事である。
そんな相手がルーナ商会に探りを入れようとしている。ニコレッタ・マルケス――現在はシャドウガーデンで九十三番の名で活動するメンバーの救出作戦時にガンマは顔を見られてはいない。直接会うことがあったとしても、そこからバレることはないだろう。だが、そもそも何故まぐろなるどとルーナ商会に疑いを持ったのかが分からない。
「主様、マルコ・グレンジャーは商会に探りを入れる理由をなにか話していたでしょうか?」
「うーん、街で一瞬すれ違っただけだからなあ」
シャドウ――今は世を忍ぶ仮の姿であるシド・カゲノ―は顎に手を添えて思考しているが思い当たるところはない。流石に相手が前世持ちという考えには至らなかったし、そもそも彼が余計なことを言わなければマルコ・グレンジャーの疑いが確信となることはなかったのだが。
そしてマルコ・グレンジャーを助けて力を与えたことにも、そこまで大きな意味はない。行動が主人公っぽくて興味を持ったという程度だ。
主人公にしては弱いなとも思ったが、ミドガル王国では見かけない特徴的な剣術を使っていたのがそれっぽさを増長させる。悪魔憑きという虐げられる存在を躊躇いなく救おうとする姿はまさしくヒーローだ。
「(あれは多分、ゲーム序盤の負けイベント的なやつだったんだろうな)」
マルコ・グレンジャーが負けた相手も雑魚ではあったが、サザエだかシジミだか海の食物っぽい二つ名があったみたいだし、ゲーム開始時点の低レベル主人公が力及ばず、何時か強くなって倒すことを決意するイベントみたいなものだとシドは理解していた。
「(その倒す目標がいまは陰の実力者であるボクになった訳だ)」
今後も彼が関わるイベントに介入して『あの日からどれだけ強くなったのか試してやろう』みたいな強キャラムーヴをしてトドメは刺さずに去っていく。なんて美味しいイベントなんだとシドはご満悦だった。
その目を細めて後方理解者面しているかのようにウンウンと頷く姿を見てガンマは戦慄した。
「(まさか、主様はこの苦境を私たちがどう乗り切るか試している!?)」
暴力という手段は使えず、王国の騎士というそれなりの権限を有している相手に秘密を隠しきる。それはここ最近、運営が順調に進みすぎているシャドウガーデンの気を引き締めることを目的としているのかもしれない。
「お任せください、主様」
「え?」
「必ずやマルコ・グレンジャーを意のままに動かし、我らの利としてみせましょう」
「……ほう、我が意図を読み切るとは流石だなガンマ」
自信満々といった表情でガンマは勘違いした。それ自体はいつものことであり、その場の流れでシドが適当な相槌を打つのもよくあることだ。
「(主人公をバックサポートする存在もよくある話だ。今の彼はかなり弱いし、ガンマたちが力添えするなら、うっかり死んじゃう可能性も減るか)」
こうしてニコレッタ・マルケス救出作戦以降、特段の繋がりがなかったシャドウガーデンとマルコ・グレンジャーの間に新たな接点が生まれることになった。
――――――
「ようこそ、おいでくださいました。当商会の会長を務めておりますルーナと申します」
マルコ・グレンジャーが商会に対して疑念を抱いていることをガンマが知ってから幾らかの時間が経過したある日。グレンジャー家からルーナ商会へと商談の依頼が舞い込んできた。目的は騎士団で活躍する嫡男に社交パーティーで着用する礼服を仕立ててほしいというもの。
依頼の内容としては極々有り触れたもので、商会側が疑問に思うことなどなにもない。服の仕立てに欠かせない採寸のためマルコ・グレンジャーが商会を訪れるのも当然であり、その際に商会長へ挨拶をさせてほしいという話も違和感を抱くものではない。
対するルーナ商会側もマルコ・グレンジャーからの依頼を断ることはしなかった。予定が合わないといって断ることは難しくないが、貴族から懇意にしてもらえることは商会としてプラスだし、ガンマはこの日が来ることを予測して応対の準備を進めていた。
「ご丁寧にありがとうございます。ミドガル王国騎士団所属マルコ・グレンジャーと申します。お忙しいでしょうに、時間をいただけたこと感謝します」
ガンマが最後に見た記憶では、まだ少年と呼べる年齢だった彼は立派な青年に成長していた。その佇まいもかつての未熟な騎士見習いだった頃とは比較にならない。
「(シャドウ様が興味を抱く独自の剣術。蒐集した剣術指南書にも該当するものはなかった)」
強さだけならばシャドウガーデンの脅威足り得ないが、考えなしに無視するのは危険だと思わせる特異性がマルコ・グレンジャーにはある。
「お気になさらず。マルコ様のような名声のある方に当商会の仕立てた服を着ていただければ、流行が生まれる契機に成り得ます。願ってもない商機をいただけて、こちらこそ感謝しております」
「あはは、自分はただの未熟者ですよ。仕立てていただいた服に負けてしまうことがないよう精進するつもりです」
机を挟んで紅茶を飲みながら話す両者。
マルコ・グレンジャーは頭を下げたガンマの藍色の毛髪がサラサラと流れていく様にかつての婚約者を思い出し、少しだけ目を奪われた。
「どうかなされましたか?」
「いえ、お美しい髪だなと。不躾な視線、失礼いたしました」
「あら、お上手ですね。それも貴族の嗜みでしょうか」
朗らかに談笑する二人だったが、腹の内には互いに一物抱えている。
「そう言えば、先日まぐろなるどバーガーを食べたのですが大変に美味でした」
来たか、とガンマは表情を笑みに固定したまま気を引き締めた。
「まあ、それは良かった。まぐろなるどは私が商会長となって最初に手掛けた事業なんです。貴族様にもご好評いただけていると知れて嬉しいですわ」
「マグロを揚げてパンにサンドする発想もソースの味も素晴らしかったです。あれは全てルーナさんが一人でお考えになったのですか?」
「いえ、発想の大元は私の友人が考えたものなんです」
やはり怪しまれていたのはバーガーを構成する各要素のレベルの高さか。
あれはゼータの着想とイータの発明した調理用具があって完成したものだ。七陰がシャドウから賜った陰の叡智を独自に高め称賛の言葉を受けた数少ない事項の一つであり、ガンマも少なからず関われたことに誇りを持っている。
「それは良いご友人をお持ちなのですね。ご友人の発想と言えば『まぐろなるど』の店名はどこから来たのでしょうか。軽快で口ずさみやすい素敵な名前ですよね」
まぐろなるど、それはバーガーを完成させたことをシャドウに伝えたゼータが新たに授けられた陰の叡智から取った名だ。
「(そこを攻めてくるとは。やはり彼は商会とシャドウガーデンの関与を確信している)」
何故その名に疑問を持ったのか興味はある。だが後暗い理由を抱えているのはコチラだ。まずはマルコ・グレンジャーの攻勢を凌ぐことにした。
「その名は私の尊敬する師匠のような方からいただいたのです。申し訳ありませんが私も語感の良さで採用したので、由来は特に聞き及んでいませんね」
嘘ではない。
実際、『まぐろなるど』の語源は主であるシャドウ以外だれにも分からないのだ。
「そうなのですね。先ほどのご友人もですが、一度お会いしてみたいものです」
「なにぶん忙しい方たちなもので」
どうせ物証などないのだから、のらりくらりと躱すことは容易だ。
それをマルコ・グレンジャーも理解しているのか纏う空気を別種のものへと変えた。
「……ルーナさん、少し場違いな話をしてもいいでしょうか」
「はい、なんでしょう」
「悪魔憑きをご存知ですか」
マルコ・グレンジャーの視線が一気に鋭くなり、圧が込められる。
「商会長として各地を回ることも多いですが、直接見たことはありませんね」
これも嘘ではない。
シャドウガーデンの七陰としてなら幾度も見てきたが、ルーナ商会の会長として悪魔憑きを見た事はない。無論ただの方便でしかないが。
「もしも悪魔憑きの情報を手に入れる機会があったなら教えていただくことはできますか」
「それはなぜ?」
「助けたいからです」
今度はガンマが視線に険を浮かべる。
悪魔憑きは経緯はともかく一様に処分――殺害される運命にある。
それを助けるということは悪魔に
その行動にガンマは短慮だと思いながらも、かつて悪魔憑きとなって排斥された者として感じ入るものがあった。浅はかではあるが、彼を否定することは自分たちの否定とも言える。シャドウガーデンの活動に害を及ぼさない範囲であれば支援してあげたいという想いもある。
「(弱みを握れた……ではなく、それだけの覚悟を示されたと見るべきね)」
マルコ・グレンジャーへの対応として様々なパターンを考えておいた。この展開はその中でも対処が容易であり、シャドウガーデンのガンマとしてもむしろ歓迎だ。
「詳しい事情は聞きません。私の耳に入ることがあればお報せすると約束いたしましょう」
「……ありがとうございます」
深く頭を下げてからマルコ・グレンジャーは会話を終えて部屋から出ていった。
「(彼は商会を怪しんでいるのだから、本心から協力を要請した訳ではなく虎穴に入るつもりなのでしょう。今回の話を受けて我々が軽率に動けば付け入る隙となる。ですが、それは与える情報を上手く取捨選択すればコチラで彼の行動を操れるということでもある)」
今後も商会へと探りを入れ続けるマルコ・グレンジャーと、悪魔憑きの情報という札で彼を都合良く操ろうとするガンマ。両者はナイフを突きつけながら肩を組むような協力関係となった。
この作品はどこまで続くんだって話なんだけど、たぶんアニメ一期の範疇になるんではなかろうか。