我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。 作:ゆーりふり
今更ながら、この作品はかげじつをなんらかの媒体で見たことがない人が読んだとして理解できるのだろうか。
「えっ、アレクシア王女が誘拐された?」
どうも、こんにちは。
ミドガル王国騎士団のマルコ・グレンジャーです。
ルーナ商会が名前を"ミツゴシ商会"へと変え、やっぱりこれ転生者が経営しているよねと思いながらも、悪事を働いているという痕跡は見つかりませんでした。
ルーナ会長とも幾度か会話する機会があったが、どうにも異世界の知識を持っているとは思えなかった。恐ろしく頭が切れるのは分かるが、俺が前世で嗜んでいたサブカルの話を振ってみても反応は薄く、転生者であると気付く様子は全くない。
さらなる黒幕がいるのか、疑心暗鬼となった俺の勘違いなのか判断に困っていたりする。
商会の調査はこんな調子であまり順調ではなかったが、そればかりにかまけている訳にもいかない。俺はミドガル王国に仕える騎士で任務が多くある。悪魔憑きとなって排斥される者たちの境遇をなんとかしたいとは思うが、力なき者にとっては悪魔憑きとなって死ぬのも盗賊に襲われて死ぬのも大差ない。国家の安寧を守る仕事だって同じくらいに重要で手を抜くことは許されない。
そんなこんなで幾らかの月日が経った頃、大事件はなんの前触れもなく発生した。
ミドガル王国の第二王女であるアレクシア様が何者かによって拐かされたのだ。しかも誘拐の現場とされているのはミドガル魔剣士学園の構内。自分が通っていた学園で王族の誘拐事件が起きたという事実に一瞬呆けてしまった。
呆けた頭が思考を取り戻した俺は、その足でアイリス王女の元へと向かった。どうやら今は誘拐事件調査のため学園内の一室で執務に当たっているらしい。アレクシア様はアイリス様の妹君であり、姉であるアイリス様が大きな愛情を注いでいたことは良く知っている。今もアレクシア様のことが心配で気が気ではないだろう。
「アイリス様、マルコです。失礼いたします」
「マルコ、来てくれたのね。すまないのだけど少し待っていてもらえるかしら」
部屋に入ると、アイリス様は先客となにやら会話をしているらしかった。その先客の後ろ姿には見覚えがある。
「では、ゼノン侯爵。学園の秩序維持については頼みましたよ」
「承知いたしました、アイリス様」
ミドガル魔剣士学園で王都ブシン流の剣術指南役を務める騎士ゼノン・グリフィ。優れた実力と精神性を兼ね備えた王国でも有数の実力を持つ騎士だ。以前の俺では勝利することが難しかったであろう人物でもある。
「お疲れ様です、ゼノン侯爵」
「ああ、マルコ君。私は学園へ戻るがアイリス様もアレクシア様が行方不明で精神的にお辛いだろう。どうか支えてあげてほしい」
「はい、微力を尽くします」
挨拶がてら言葉を交わしてからゼノン侯爵は部屋を後にする。
……あの人ほどの戦力が居ても、その場に立ち会えなければ対処のしようがないか。それにしても、あの人は確かアレクシア様と婚約することが内定していたはずだが、その相手が攫われたというのに随分と冷静だな。俺が同じ立場だったら発狂して王都中を駆け回る自信があるんだが。
「アイリス様、アレクシア様のことですが私が力になれることはあるでしょうか」
「特別ななにか、というものはありません。ですが、誘拐犯は王城を除けば最大級の戦力を保有する魔剣士学園内で誰にも気付かれることなくアレクシアを誘拐しています。相応の手練れと考えるべきでしょう。独力で対抗できる騎士は多くないかもしれない。マルコ、あなたは王都の中でも特に怪しい場所の調査を優先して頼めるかしら」
「承知いたしました」
しかし、探すといっても取っ掛かりがないな。身代金の要求といった犯人側からの接触はないと聞いている。殺害が目的なら、その場で殺せばいい。なにを目的とした犯行なのか測りかねる。
「犯人の目的が分からないのですが、なにか調査状況に進展はあったんでしょうか」
「アレクシアが誘拐される直前まで行動を共にしていた魔剣士学園の生徒が容疑者として挙がっています。尋問でなにか情報を吐けばいいのですが、それ以外はなにも」
直前まで一緒にいた生徒を尋問?
起きている事が事だけに尋問とは名ばかりの拷問だろう。だが、どうにも状況に違和感を感じる。
「そうですか。私もその生徒に話を聞いてから捜索に向かいたいと思います。生徒の名前はご存知でしょうか?」
「シド・カゲノ―。カゲノ―男爵家の長男で成績はお世辞にも優秀とは言えないと聞いているわ」
「シド・カゲノ―君ですね。ありがとうございます。では、これで失礼します」
アレクシア王女の捜索は急務だ。だが、謂われない嫌疑で学生が拷問を受けているのだとしたら放っておくわけにもいかない。
「にょわあぁぁぁーーーー!!」
騎士の詰所と犯罪者収容を兼ねた施設を訪れると、なんだか気の抜ける悲鳴が聞こえてきた。声の出処である牢屋の中を見てみると、黒髪の少年が太腿へ針を刺され泣き喚いている。
「情けない悲鳴をあげやがって、それでも魔剣士か!」
「ほらほら、さっさと王女様の居場所を吐いたらどうなんだ」
「ほ、本当になにも知らないんですうぅぅーー!!」
一瞬コントでもしているのかと錯覚する謎の空気を感じたが、実際に行われているのは騎士の所業とは思えない軽薄な態度による拷問だ。同じ騎士として、こんな恥ずべき行いを見過ごす訳にはいかない。
「おい、一容疑者の尋問にしてはやりすぎだろう」
「あぁ? 余計な口出しを……ってマルコ・グレンジャー!?」
「なんでテメェがここに」
その慌て方もなんだか三下の悪党っぽい。騎士団の全員を覚えている訳ではないが、こんな程度の低い連中も居ただなんて頭が痛い。
「アイリス様の命でアレクシア王女の捜索に加わることになった。最後にアレクシア様と一緒にいたシド君に話を聞きたくて来たんだが、なにか有益な情報はあったのか?」
「なにも吐かないから拷問してんだろうが!」
「……シド君、君はアレクシア様の誘拐に関わってはいないんだな?」
「はいぃ、寮の手前で別れてそれっきりですぅ」
この騎士たちとじゃ会話にならなそうだから直接尋ねてみることにした。
どうにもちぐはぐな印象を受ける少年だが、嘘を付いているようには思えない。
「そうか。君の釈放をアイリス様に上申しておく。すまないがもう少しだけ我慢してくれ」
「ああっ!? なに勝手なこと言ってやがる!」
「王女誘拐だなどという大それた事件。その犯人の一人が犯行直前まで王女と一緒に居るところを不特定多数に目撃されるだなんてリスクを冒す意味がない。ましてや彼は誘拐事件の翌日、普通に登校してきたそうじゃないか。私が犯人なら身を隠すことを選ぶ」
万が一、シド・カゲノ―が容疑者となることを承知の上で学園に来たのだとしたら、どちらにしても口を割ることはないだろう。仮に口を割っても捜査を攪乱するための誤情報の可能性が高い。本当に犯人と関係性があると考えるのなら、さっさと解放して犯人と接触しないか監視するに留めた方が有益だろう。
反論の余地がなかったのか口ごもる騎士から視線を外し、施設を後にする。
その後、アイリス様にシド君の扱いについて嘆願してはみたものの、他になんの手掛かりもない状況で彼を自由にすることに方々から異議の声がでた。結局、解放させられたのは彼が捕らえられて五日が経ってからだった。
「ほらっ、さっさと行け!」
遂にシド君が仮釈放されることが決まったと聞き、急いで収容所へ向かった。
すると、ちょうどシド君がパンツ一丁で放り出されたところだった。
「シド君! すまない、期待させるようなことを言っておきながら君への拷問を止めることさえできないだなんて」
「あなたは先日の騎士の方?」
「マルコ・グレンジャーだ。立てるかい? 肩を貸すから私の住んでいる宿舎で治療をしよう」
「いえ、手当ては自分でできますし、疲れているので寮に戻って休ませてください」
体中に傷を付けたシド君がこちらを見る目には恐怖と疑念が渦巻いていた。彼からしてみれば、いずれ自分もなるはずの騎士から冤罪で何日も拷問を受けたのだ。同じ騎士である俺も信用できないと思われて当然か。
「そうか……本当にすまない。送っていこうか?」
「大丈夫です。それより、アレクシア様の捜索をお願いします。彼女が見つからないと、ボクの疑いは完全には晴れませんから」
その言葉でシド君が聡い子であると分かる。彼には間違いなく監視の騎士が付く。拷問と違って痛みこそないが不自由な生活を強いられることには変わりない。
「君に掛けられた嫌疑を晴らすためにも全力を尽くすよ。それと詫びという訳でもないが、今後困ったことがあったら訪ねてきてくれ。私も若輩の身だが力になると約束しよう」
俺の言葉をどう受け取ったのか分からないが、シド君は口元に少しだけ笑みを浮かべてから会釈して歩いて行った。彼を本当の意味で自由にし、騎士がチンピラとは違うということを示すためにもアレクシア様を見つけないとな。
「だが、一体どこに居るんだ」
俺が捜索を担当しているのは王都の一区画にある空き物件や廃屋だ。誘拐したアレクシア様の監視役を含めて数人が生活できる場所を優先して見回っているが、発見どころ最近まで人が居たような痕跡さえ見つけられてはいない。そうなると怪しいのは他区画や地下水道だが、相当な人数を割いているにも関わらず目ぼしい情報はない。
「最悪のパターンは国外に逃亡されている線か」
そうなれば発見する術はない。犯人の目的は依然として不明だが、アレクシア様はお美しい方だ。どこぞの変態が美貌目当てにという可能性もゼロではない。
「弱いが故に大切なものを守れず、強さを磨いてみれば剣を振るう以前の問題に直面するとはな……」
世の中本当に上手くいかない。だが、シド君との約束もある。個人的にもうら若い少女が理不尽に命を奪われることは許しがたい。
「へこたれている場合じゃないな」
――――――
「久しぶり、アルファ」
マルコ・グレンジャーと別れたシドは寮へと戻り、久方ぶりに七陰の第一席であるアルファと再会していた。
「厄介なことになっているわね」
「そだねー。あ、でもマルコ君はやっぱり良いね。無実のボクを助けに来てモブキャラを正論で論破するなんて如何にも主人公の行動だ。今日の力になれることがあれば頼ってくれって展開も実に王道だよね。……これじゃ、まるでボクがヒロインみたいだな」
「モブ……?」
シャドウガーデンで最もシドと付き合いが長く、理解度も高いと言えるアルファだが根本的な部分を勘違いしていることは他と変わらない。モブという聞き慣れない単語も彼にしか理解できない陰の叡智の一端なのだろうと追及はしなかった。
「そっちは最近どう?」
「教団の調査を進め、ガーデンの組織力強化に努めているわ。昔よりもずっと成長しているのよ」
「へー」
自分から会話を振りはしたものの続けるつもりはなかったのか、シドは服を着替えることもせずベッドへと横になる。
「もう、服くらい着替えなさいよ」
「むーりー」
「あなたねぇ……」
呆れた声を出しながらもアルファは甲斐甲斐しく靴を脱がせネクタイを外していく。その様子は弟の世話を焼く姉のようにも、ダメ亭主に尽くす妻のようにも見える。
「騎士団は信用できないわ」
「教団が入りこんでる?」
「ええ、間違いなく」
「マルコ・グレンジャーは?」
拷問を受けているシドを訊ねてきたマルコのことはアルファも承知している。だが、シドがここまで特定の人物に執着して動向を気にすることは非常に珍しい。
「当然、彼は白よ。むしろ教団に与する可能性が皆無の実力者として警戒されているようね。今回の捜索も教団の拠点がない区画を意図的に割り当てられていたわ」
「うーん、主人公と言えど単独で権力に抗うのは難しいかー」
こういう時に細かいこと無視した大胆な行動を取るのが主人公だけど、現実でそこまでゲームっぽくはできないよねと呟いてからシドは目を瞑った。
「あなたはしばらく大人しくしていて。準備が整ったら報せを寄越すわ」
シドに伝えるべきことを伝え終えたアルファは、なぜか身に纏っていたミドガル魔剣士学園の制服をスライムボディスーツへと戻してから王都の陰へと消えていった。
現時点のマルコ君の強さ:ナンバーズと勝負が成立するくらい。
ガンマだからセーフだったけどベータにサブカルの話してたら連鎖的に転生者バレしてました。