キヴォトスにて『悪魔』は散る   作:あのお方

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4.奇貨置くべし

 ◆MIDORU-PHASE.5◆アリウススクワッド

 

「ぬ……頭がぐらぐらする……今一体何が……?」

 

 唐突で綺麗な脳天揺らしを食らい、気絶に至らせてしまったサオリとアツコの心配をよそに春日恭二は僅か10秒で復活した。

 流石に早すぎる復活を遂げた春日恭二の生命力にある種の気持ち悪さを感じ取りながらサオリはアツコのしたことの謝罪をするために前に出る。

 

「なんだ? そんな殊勝な目をして……私は今強烈な何かを受けた気がするのだが思い出せんのだ、何か知らんか?」

 

「…………」

 

 そして一歩引いた。

 もめ事が起きないのならその方が皆幸せだろうという俯瞰的観点から考えた幸福結論だった。

 

「やはり気のせいか……」

 

「ねぇ、サッちゃん。おじさんって……」

 

「……言うな」

 

 目の前の抜けている人物に威圧感だけで膝を折りそうになった事実を認められず頭を抱えるサオリ。

 サオリが膝を折り掛けたのは実はただの威圧感だけではない。春日恭二が力を発揮する時、意識的に発されたレネゲイドの拡散が直接サオリとアツコの体と精神を刺激していたのだ。

 

(これは良い、実に良いぞ……まさかとは思ったがワーディング(レネゲイドの拡散)に耐えた時点でこれは確定だ)

 

 それはレネゲイドウイルスに覚醒していない者が浴びれば本来即座に気を失ってしまう程の影響がある。春日恭二はこの事実に対して光輪付き(ヘイロー持ち)はオーヴァードの一種であると結論付けた。人間は理解の及ばないものに遭遇した時、理解の範疇にあるものに納めようとしてしまう。別世界である常識の差異がここで大きく関与していた。

 

 春日恭二は二重の意味を持ってサオリ達を試していた。

 キヴォトスの光輪付き(ヘイロー持ち)はレネゲイドの干渉に耐えれるのか、その上でサオリという少女はどの様な行動に移るのか。

 その結果、サオリの起こした行動は春日恭二の期待以上で、満足できるものだった。

 

「さて……おいなんだ貴様ら、何故そんな目で私を見るのだ?」

 

「気にしないでくれ、それよりも話というのは?」

 

「ぬ……?」

 

 春日恭二は目を合わそうとしないサオリとアツコに不信感を覚えながらもいい加減疲れてきたのでとりあえず話を進めることにした。

 

「では改めて……アリウススクワッドのサオリよ。改めて()()だ」

 

「取引、だと?」

 

「貴様らの目的一つを成し遂げる手伝いをする代わりに、貴様らも私の目的を一つ成し遂げるまで手伝え。等価交換という奴だ」

 

「……そう言う取引ならば私達末端にするべきでは無いだろう」

 

「いいや、アリウスというクラン(学校)ではなく貴様ら(スクワッド)というセル(チーム)になら、交渉する価値があると……私がそう判断した」

 

 春日恭二の圧が再びサオリを包み込む。それは先程サオリが飲まれ掛けた物と同等で……それでいて肉体に及ぶものではなかった。先程は直ぐに頷いてしまいそうになったが……今、僅かに時間を空けた事で余裕を確保でき思考の余地が産まれていた。

 

(目の前の男の言葉は確かに不思議な感覚にさせられる。無条件で信じてもいいかもしれない、そう思わせてくれる……だが)

 

 サオリは今までの春日恭二の情報をかき集める。

 強者の佇まいをしているかと思えば簡単に倒され、飄々としているかと思えば息の詰まるようなプレッシャーを叩き付けてくる、全てがあべこべで全く図れない、というのがサオリの評価だ。

 

「……さっきみたいに一瞬でやられるようでは頼りには出来ない」

 

「ぐっ……さっきのは油断しただけだ! それに傷のせいか、それともこの付近のレネゲイドの気配が皆無のせいか……体内のレネゲイドウイルスが八割くらい不活性なのだ」

 

「それが活性化できれば戦力になると?」

 

「少なくともあの程度の銃撃や爆撃なぞ毛程も喰らわん」

 

「……」

 

「嘘ではない、そうだな……四時間位で良い、一眠りさせろ。それくらいあれば五割は復活できる。銃弾くらいなら叩き落として見せよう」

 

 春日恭二は不服そうながらもサオリの目から一切離さずに断言した。

 サオリは春日恭二の言葉に嘘はない、と判断している。しかしそれが本当なのかは別の話だとも考えている。春日恭二がただの妄言吐きの可能性は棄てきれない。

 ぐるぐると巡る思考、サオリは苦い表情を浮かべた。そして、今まで黙っていたアツコが動いた。

 

「ねぇ、おじさん」

 

「なんだ」

 

「どうして私達なら交渉する価値があると思ったの? どうして、アリウスじゃダメだと思ったの?」

 

「あぁ、その事か……いや、アリウスという校風に貴様らの精神性から幾つかの推論を立ててな、結局は推論止まりだったのだが……そこのサオリ? が悩んだ時点で確証に変わった」

 

「……何の?」

 

 つらつらと言葉を連ねる春日恭二に質問していた側であるアツコは息を飲んだ。あの短い説明で何が分かるのか、アリウススクワッドの何を掴んだのか。

 実際のところ春日恭二という男にアツコが危惧するような洞察力は存在しない。あるのは自らがFHという非人道精神者が集まる組織で長年動いていた知識と経験に照らし合わせた推測。可能性は高く、もしそうであれば手を取りたくなると理解していた。

 

「貴様らには()()()()()()()()()()()()があるだろう?」

 

「……っ!」

 

「……!」

 

 最初に反応したのはサオリだ、何よりも早く銃を構えて引き金に手を掛け……それを予期していた春日恭二の手でロックされる。

 

(距離は確かに離れていた、いつの間に!? いやそれよりも……)

 

 迷いよりも素早くアツコへ指示を出そうと声をあげようとして、春日恭二言葉に動きを止める。

 

「図星だったようだな」

 

「……な、に?」

 

「安心しろさっきこの場所に来た私にそんな細かいことが分かるわけ無いだろう。鎌掛けという奴だ」

 

「…………そう、なのか」

 

「びっくりした……」

 

「だがこれで私の有用性の一旦は理解できたな?」

 

 春日恭二は銃から手を離す。春日恭二的には別に撃たれても構わなかったのだがこうして止めた方が話を続けやすいと考えた。その目論みは成功で、二人はもう銃を構える気力を失っていた。

 そんな二人の様子を確認しながら春日恭二は言葉を続ける。

 

「して欲しいことを言え、完璧にこなしてやる。その代わりにその後でも良い、私の手伝いをしろ。ただ帰るのも良いが……貴様らのお陰でとある構想が出来たのだ。行動に移すかどうかは情報が不足しているからな、ちっとばかしプランを練る必用があるが……どうだ、悪い話ではあるまい?」

 

「アリウスじゃない必要は?」

 

「……」

 

「それはまだ聞いてない」

 

「はぁ……簡単だ。そいつらは経験上信用できん、こちらが要望を叶えたところで用済みでさよならされるのが目に見えている。私が言うことでは無いかもしれんがな? 何か約束事をしているのなら気を付けることだ」

 

 FHで過去に存在した数々の策略、陰謀の数々を思い浮かべる春日恭二。捨て駒にされた事は数えきれないほど存在し、その全てを如何にか生き延びてきた上でそのリスクは出来るだけ避けたいと考えている。アリウスという組織は普段から兵士を消耗品扱いしている事からこのような自意識を僅かにでも持つアリウススクワッドという部隊の運用をどうしているのかが気になっていた。

 サオリとしても春日恭二の言葉に引っ掛かる所もあったが、その予想はおおむねあっていると思った。()()()()()()()()が一度そのように扱われる場面をサオリ自身が認識しているので猶更だった。

 

(……()()()()()、それが終わるまでこの男の知恵と力を借りる……いや、違う、利用する。一言マダムに伝えておく必要はあるが……それで問題はない、筈だ……)

 

 サオリの脳裏にピンクの髪をした少女の幻影がよぎる。同時に胸を締め付けられるような痛みを覚え、噛み殺しながら強くこぶしを握りこんだ。

 

「……私が独自に判断し、戦力として運用する外部協力者、という事にしマダムに報告する。だがその前に私の仲間に説明させてくれ」

 

「構わん、後でもめ事にでもなったら面倒だ」

 

「いいの? サッちゃん」

 

「……あぁ」

 

 アツコの心配事は“マダム”に関しての事だとサオリも理解している。あらゆるデメリットを考慮し、その上でこの様な誰にも予測できない存在を置いておくことがサオリたちの為になるだろうと結論付けた。

 

「私たちは仲間を呼んでくる。アツコはヒヨリを頼む、私はミサキを連れてくる」

 

「分かった」

 

「よしよし、ではここで集合で良いな? 私は少し寝る。ふぁぁ~」

 

 少女たちは春日恭二という奇貨を置くことを選択した。レネゲイドという異物を取り込んだキヴォトスにおけるこの選択は大きく未来を変えることになる。

 

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