キヴォトスにて『悪魔』は散る   作:あのお方

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5.アリウスの少女たち

 ◆MIDORU-PHASE.6◆アリウスという場所の少女

 

 サオリ達が仲間を呼んでくるまでの間眠りについた春日恭二は流石に直ぐ起きる事はなかった。

 その間にサオリとアツコはこれから起きる事、取引相手となった春日恭二の取り扱いを考えて残りのメンバーを呼んで来ていた。

 

 日が段々と落ち始め、薄暗さが増した部屋の中でサオリと、虚ろな目をし、手首や首に包帯を巻いた黒髪の少女、ミサキと話し合っていた。

 

「……リーダー大事な話って? そろそろ教えてくれてもいいんじゃない」

 

「あ、あぁ……もう少し待ってくれ、アツコがヒヨリを連れて来てから話す」

 

「なに? まさかと思うけど……」

 

「安心しろ、計画に不備はない」

 

「……まぁ何でもいいよ、どうせ全部無意味なんだから」

 

 サオリはミサキに対して最低限の説明と、大事な話があるとだけ話してこの場所に連れてこられたが、任務ではない、としか聞かされていない。不満げなのは当然だとサオリも理解している。それでも仕方なしについて来てくれ、話を聞いてくれる姿勢を見せるミサキに感謝しながら一度外を見る。サオリの目に見えるギリギリ範囲に青い髪がひょこひょことはねているのが見えた。サオリの仲間であり、アツコが呼んでくる筈の仲間だ。

 

「アツコとヒヨリが来たようだが……ヒヨリがぐずっているな。すまない迎えに行ってくるから、少し待っていてくれ。その間……」

 

「分かってる。おとなしく待ってるから」

 

「直ぐに戻る」

 

 サオリが小走りで部屋を出て行ったあと、ミサキは疲労の籠ったため息を吐きだし、ゆっくりと目を閉じる。ミサキの耳に静かな風の流れる音だけが入り込んでくる。

 

(もうすぐ()()が始まる。()()()からの定期連絡は途絶えていない。順調の筈、サオリ姉さんもそう言ってた……だから大丈夫……だと思うんだけど、他で何かあったってこと? 考えられるのは……何? 今の音)

 

 いくらかの思考の後、ミサキは風の音の中に規則性のあるノイズが混じった事に気が付いた。

 

(……多分足音、でも一人分。サオリ姉さんが戻ってきた?)

 

 ミサキは閉じていた目を開き、確かめるべく扉の元へ近づく。足音はどんどん近くなり、それに伴い違和感がどんどんと大きくなる。

 

(違う、これはサオリ姉さんじゃない。アツコでもヒヨリでもない。他のアリウス生徒でもない!)

 

 ミサキは足音の鳴る間隔と響く音の鈍さから、その人物は自分達アリウス生徒ではないと確信した。あり得ないことだが侵入だと断定し、奇襲を仕掛けるべく息を殺し、虚ろな瞳でホルスターに収めた回転式拳銃を強く握り込んだ。

 

(扉の前まで来たら勢いよく開けて銃撃する。狙いは付けなくて良い。私は声を出すのが苦手だから銃声を声代わりにする。たとえ相手の方が強くても音を聞き付けて三人が直ぐに来る筈)

 

 緊急事態にも関わらず僅か数秒で手順を整えるミサキ。ゆっくりとホルスターから回転式拳銃を抜き出し、懐に構えてその時を待つ。

 足音はどんどん大きくなり、やがて扉の前にまでやってくる。奇襲を仕掛けるため音が通りすぎるのを待とうとするミサキだったが予想外が起きた。

 

(……進まない!?)

 

 足音がミサキの待ち構える扉の前でパタリと止まった。予想外の事態に思考が止まったミサキを他所に、今度は目の前の扉のドアノブがひとりでに動き、開いていく。

 

「なっ……!?」

 

「むっ、貴様は……」

 

 部屋の中に入って来たのは春日恭二だ。睡眠を取り、体力を回復し終わった春日恭二は合流場所であるこの部屋に一足先に待機しておこうと足を伸ばしていた。

 ここで不幸が二つあった。

 一つは春日恭二の見た目が完全に悪人で取り繕い様の無いこと。

 二つ目が春日恭二は普段眼鏡を掛けているのだがこの世界に転移する際に爆発で眼鏡が吹き飛び喪失している事。つまり集中しないとあまりよく見えない。

 

 大体春日恭二が原因だった。

 

 結果出来上がった硬直するミサキと目の前に居るのが誰だか分からず目を細める春日恭二という光景。

 そんな膠着状態は長く続かず、確認をしようと春日恭二が一歩前に出た。

 

「っ!」

 

「おい貴様は……うぉ!?」

 

 ぞわりと寒気を感じたミサキが構えていた銃を春日恭二に向けて発砲した。

 乾いた音が廃墟としか思えない静かな街中に響き渡り、弾丸は正確に春日恭二の心臓付近に突き進み……その寸前で左手に掴まれてその動きを止められた。

 

「嘘でしょ……!?」

 

「せ、成功した……ではない! 何をする危ないではないか!」

 

 春日恭二は先程は失敗したガード(『イージスの盾』)に成功した自分自身に驚きながらも弾丸を投げ捨て、即座にミサキへの距離を詰める。再び銃を構えたミサキの右手を左手で叩き落とし、右手でその首を掴んで地面へ組伏せた。

 

「ぐっ、ぅっ……」

 

「あの二人ではない? 仲間か」

 

「っ!!」

 

 あらぬ方向に向いた銃口から何度も破裂音が鳴り響く。だがやがて弾切れとなり、虚しくシリンダーの回転する音が響いた。

 その後も何度か蹴りや拳を春日恭二の体に叩き込むミサキだったが対して堪える様子はなく、やがて諦めて力を抜いていった。

 

「おい暴れるんじゃない! ……ん? ようやく落ち着いたか……」

 

「……好きにしなよ」

 

「……は?」

 

「こうなったらどうしようもない。殴るにしろ殺すにしろ()()()()使()()()()()抵抗もしない」

 

「お前は何を……」

 

 春日恭二が困惑し力を緩めてもミサキは全身をだらりと脱力させたまま抵抗しない。僅かとはいえレネゲイドを活性化させた春日恭二の視力が強化され、首や手首に巻かれた包帯、その隙間から見えた“それ”に目を細める。

 春日恭二はミサキを押さえつけていた手を離し、身体を退かした。そして虚ろな目をしたままのミサキの襟首を掴んで持ち上げる。

 

「立て」

 

「……はぁ?」

 

「気に入らん。弾を込めろ、銃を構えろ、そうでもなければ拳を握れ」

 

「なに、こいつ……」

 

 春日恭二が手を離すと同時にミサキが地面へと降り立つ、ふらりふらりと足をもつれさせるがこれまで受けた訓練の影響から無意識に体勢を立て直す。

 

「私に勝てない? 当然だ、私は『悪魔(ディアボロス)』! かつては世界の頂まで手を掛けた男! しかぁぁし!」

 

 春日恭二が天を仰ぐ。自らの存在を証明する様に、自らの誇りを掲げる様に。

 

「戦うのなら最後まで抗え、途中で諦めるなどという詰まらん行為は戦いは私の誇りを汚す事に成る」

 

 それは徹頭徹尾自分勝手で傲慢で無茶苦茶な要求。春日恭二という存在を示す欲望(デザイア)の一端。

 

「全ては虚しく、全ては意味の無い事。この生に意味は無い、全ては無駄なこと……こんなことに何の意味が?」

 

「……違うな、薄々感じていたがウチ(FH)のガキども(チルドレン)とは似ているようで全く違う。欲望(デザイア)が無い。あの二人を見た時は似ていると思ったものだが……基本はこんな感じか? ……いや」

 

 困惑したミサキが銃を装填し終えるのを見届けた春日恭二は拳を軽く握る。ミサキもそれに反応し、渋々と言った体で銃を構えた。その動きからは銃が効かない相手に銃を構える不毛さへの不満が滲み出ていた。

 その動作を観察していた春日恭二は幾分か考え込み、口を開いた瞬間、爆発が起きてその声は掻き消される。

 

 同時に部屋に飛び込む三つの黒い影。

 それは臨戦態勢に入ったサオリとアツコ、そして青い髪色の少女ヒヨリだった。

 

「春日恭二、これは何の真似だ」

 

 サオリの鋭い瞳が春日恭二を射貫く、が春日恭二はそれをものともせずに声を上げる。

 

「ッチ、邪魔が入ったか……サオリ! 予め最低限の情報は渡しておけ、部屋に入った瞬間そいつに撃たれたぞ私は! だから応戦しただけだ!」

 

「……こちらから呼びに行くつもりだった」

 

「しらん」

 

 無慈悲で大人気ない春日恭二の一言で黙らされるサオリ。これ以上は有益な事が聞けそうにないと判断し、仲間であるミサキの心配を優先することにした。

 

「…………ミサキ、なにもされなかったな?」

 

「……」

 

「春日恭二?」

 

「おい黙るな小娘!! なにもしとらんだろうが!!!」

 

「なにもされてない、変な話を聞かされただけ」

 

「……そうか、なら良い」

 

 本当になにもされていない事を黙視で確認するサオリ。衣服が砂っぽくなっているが派手な損傷はなく、いつも巻いている包帯が少し緩んでいる位だと判断し、二人の言葉を信じることにした。そしてここからどう言葉を返すか思案しているその背中をミサキが叩いく。

 

「……リーダー、話ってまさかこの大人関連?」

 

「そうだ」

 

「えぇ! どう見ても悪人面ですよ!? いかにも神経質そうで……」

 

「喧嘩売ってるのか青色娘!」

 

「ヒィィ!!」

 

 青色娘ことヒヨリが春日恭二に恫喝され後方へ引っ込んでしまう。

 怯えるヒヨリ、剣呑な雰囲気なミサキにサオリは頭を抱えながらそれぞれにまずは説明をするところから始めるのだった。

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