雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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 お久しぶりです。呪術3期が放映されている間に更新したかったのですが、リアルが多忙すぎて気付いたら半年経ってましたね……嘘やん……
 とりあえず一ヶ月半ほどは毎週更新出来そうなので、お付き合いいただければ幸いです。
 
 


ep.101 ライジングミッション Ⅱ

 

 

 交流戦が終了して約三週間。途中から緑谷を巻き込んだ耳郎と葉隠の強化トレーニングも順調に進み──先にクラスメイトを那歩島へ送り出し、翌日。

 上鳴達もオセオンへ向かって日本を発つ日がやってきた。

 

 

「遥々来たぜ! 伊丹空港!」

 

 

「ここ、関空だけどね」

 

 

 上鳴の適当な喋りに慣れた調子で耳郎がツッコミを入れる。葉隠がそれを羨ましそうに見ている隣で、緑谷がオセオンの地図と資料を片手に念仏の如く何かを唱えた。

 

 

「調査任務ならオセオンの地形は一通り頭に入れておかないと……HNに掲載されてる過去の犯罪データと照合して潜伏に長けた場所を予め把握しておけばいざという時に動きやすいはずだ……」

 

 

 いつものやってらぁと、上鳴はスルー。手荷物の中から観光ガイドを取り出して言った。

 

 

「最初はどこにいく? あてのない旅ってのも悪くないけど、やっぱ目的地あっての旅行だからな」

 

 

「遊びじゃないんだよ上鳴くん!?」

 

 

 ガイドブックを葉隠にひったくられ、上鳴の眉が八の字を描いた。

 

 

「……ダメか。林間合宿は水差されたたからさ。ちょっと舞い上がった」

 

 

「どこ行く!?」

 

 

「こら」

 

 

 一瞬で掌を返した葉隠の脳天に、耳郎が軽く手刀を当てた。

 

 

「甘やかさない。それに、あんまり騒ぐとバレるよ」

 

 

 四人は那歩島でヒーロー活動を開始している峰田から『物間と轟が異常にチヤホヤされてて気が狂う』と連絡を受けていた。気が狂うはどうでも良かったが、チヤホヤが配信の影響であることは間違いない。

 そういう情報もあり、過度に目立つと空港に迷惑が掛かるということで──四人は変装を余儀なくされていた。

 

 

「それもそうなんだけど……ね、ねぇねぇ上鳴くん。どうかな?」

 

 

 葉隠は個性で髪を桜色に変えつつ、縁の丸い伊達メガネを掛けていた。恥じらいながら感想を求めた葉隠が上鳴の前でくるりと回る。それに合わせて紺色のロングスカートが控えめにふわりと揺れた。

 仄かに感じる甘い香り。普段とは違った装いの葉隠に、上鳴は一言。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

「えへへ」

 

 

 はにかむ葉隠の後ろで耳郎が瞼をひくつかせる。あざとい。この少女、あまりにもあざと過ぎる。目は雄弁に語っていた。

 上鳴はそれに気づかない。しかし、普通に話の流れで耳郎にも言及する。

 

 

「耳郎も似合ってんな、それ。カッケェぜ」

 

 

 耳郎はエクステでロングヘアに変えるなど、かなり気合いが入っていた。パンクファッションも合わさって随分と大人びて見える。

 

 

「……ありがと」

 

 

 耳から伸びるプラグを指で弄りながら、何とも言えない顔を浮かべていた。

 上鳴が首を傾げていると、立ち直った耳郎が言う。

 

 

「まあ、ウチらは良いんだけどさ……」

 

 

 葉隠は頷いた。

 

 

「隠れる気ないよね。一番有名人なのに」

 

 

 その一方で上鳴はサングラスのみ、緑谷はご当地オールマイトパーカーという、隠す気があるのか疑わしい格好だった。

 まだ奇跡的に誰にもバレていなかったが、誰かに見つかったら隠れようがない程度にはセンスに欠けていた。

 

 

「静かにしてればバレないもんなのかな……あっ……そう言えばさ、響香ちゃんは上鳴くんとアメリカ行ったんだよね?」

 

 

 話の途中で職業体験の事を思い出したのか、葉隠が目からハイライトを消して言う。

 耳郎は破天荒な最強女ヒーローが脳裏を過り、口元を引き攣らせた。戦闘機で日本からアメリカまで飛んだ高校生なんて上鳴と耳郎くらいだろう。

 

 

「ほぼ誘拐だったからねアレ。透が思っている様な事は……」

 

 

 その瞬間、耳郎の脳内に溢れ出した──アメリカでの楽しい日々。

 固まる耳郎の横から上鳴が言う。

 

 

「四六時中一緒に居たからなぁ……耳郎からすりゃ面倒くさかったことの方が多いんじゃね?」

 

 

「へぇ」と葉隠が平坦な声音で頷いた。

 

 

「体感二週間はスターの個性の応用でさ──」

 

 

 刹那、自分の世界に入り込んでいた緑谷が、上鳴の言葉に超反応を見せた。

 

 

「今スターアンドストライプの個性の話した!?」

 

 

「……ん? そういや機密事項ばっかだったな。スターの個性」

 

 

 緑谷の様子に首を傾げた上鳴だったが、直ぐにその理由に思い至った。

 

 

 そう、新秩序の()()()()()()()()()()

 

 

 その実態を知る人間は限られているのだ。ルールにデメリットを内包させる事で強化上限を底上げする様な“縛り”や、一度に設定できる具体的なルールの数など、公表されていない部分が多々ある。上鳴と耳郎はそれらを知る数少ない人間だった。

 

 

「特に口止めはされてないけど……聞くならオールマイトに聞いてくれ」

 

 

 どこまで話していいか分からないなら、知ってそうな人間に丸投げする。上鳴の行動は間違っていない。ただ、この場においては不適切だった。

 新たな疑問に耳郎が首を傾げながら言った。

 

 

「何でオールマイト?」

 

 

「スターはオールマイトの弟子で、緑谷にとって姉弟子みたいなもんだからな」

 

 

 上鳴の言葉は耳郎と葉隠に大きな衝撃を与えた。緑谷が平和の象徴の弟子だと言われれば、納得できる要素はあるが──まさか。

 

 

「ウワァァァァァァァア!? 上鳴くんそれはあんまり言わないで!」

 

 

「別にいいっしょ。爆豪にだって気付かれたんだから」

 

 

「どうしてそれを!?」

 

 

 新秩序と同様にワンフォーオールの秘密を知る者は限られている。

 ほんの一月ほど前まで、生徒側でそれを知るのは上鳴だけだったが、先日、緑谷とオールマイトの組み合わせに爆豪が混じった時点で上鳴は勘付いた。

 

 

 ──まあ、緑谷と爆豪は幼馴染だし……アイツ鋭いし。喧嘩してた時には気付いてたんだもんな。

 

 

「こ、この件は内密に……」

 

 

「えぇ……? じゃあ二人とも。今言った事は忘れてくれ」

 

 

「「無理がある」」

 

 

 そうして女子二人が声を揃えた所で、今回四人と同行するプロヒーローが現れた。

 緑に黄のメッシュが髪を七三分けにし、白いスーツに袖を通した長身痩躯の男。未来を見る個性を持つサーナイトアイが、画風の違うキャリーケースを引いて颯爽と歩いてくる。

 

 

 ──黄色のキャリーケースがオールマイト塗れだ!? しかもラメ入りのキラキラシール多め!!

 

 

 上鳴、耳郎、葉隠が挨拶も忘れて目を見開く中、緑谷が先陣を切る。

 

 

「サーナイトアイ! おはようございます!」

 

 

 それを見たサーナイトアイは眼鏡を上げ、重い息を吐いてこう言った。

 

 

「緑谷……人としては満点だが、ヒーローとしてはゼロ点だ」

 

 

「え、えぇ!?」

 

 

「先ずは私が小学生並みにデコったスーツケースを引いてきた事に対してツッコめ。だからお前は駄目なんだ」

 

 

 ──ツッコミ待ちしてる顔じゃなかったろ!?

 

 

 上鳴達は喉まで来た言葉を気合いで胃に送り込み、代わりに元気よく「おはようございます!」

 

 

「おはよう。君たち三人とは死穢八斎會以来だな」

 

 

 サーナイトアイは疑問符を浮かべている緑谷を眼中から外した。あまりにも緑谷が可哀想過ぎる。三人は同情を禁じ得ない。

 しかし、そのおかげで上鳴達はサーナイトアイの性格をほんのりと理解できた。

 

 

「どうする?」

 

 

「どうにも出来ないよ」

 

 

「接し辛い」

 

 

 俺たちはお笑い芸人ではない。ユーモアを求められても困る。そもそも、初対面に近いプロヒーローを相手に、どうやって笑いを取りに行けばいいというのだ。

 サーナイトアイはそんな三人の胸中を見抜き「緑谷」と地獄のパスを放り込む。

 

 

「ヒーローにはユーモアが必要だ。ただ強いだけでは象徴になり得ない。オールマイトを継ぎ、いつか彼を超えるというのなら……掴みの挨拶、一発ギャグで場を温めるくらい出来なくてはな」

 

 

 そんなことある? 上鳴は首を傾げた。

 耳郎も葉隠も同じだ。唯一、緑谷だけが素直にサーナイトアイの言葉を聞いていた。

 

 

「見せてみろ。緑谷出久──貴様渾身のギャグを」

 

 

 何だこの流れ。上鳴は初めてサーナイトアイに恐怖した。

 しかし、緑谷は慣れているのか臆する事なく宣誓する。

 

 

「細か過ぎて過ぎて伝わらないオールマイト顔真似、行きます!」

 

 

 そんな緑谷の言葉に通りすがりの男が足を止めた。

 

 

「ほう。中々チャレンジャーだな」

 

 

「誰だアンタ」と上鳴。

 

 

 男が上鳴を無視して腕組みをして言う。

 

 

「細か過ぎて伝わらない物真似の面白いポイントってのは、実際に伝わらない物真似をする所にあるんじゃない。伝わらないと言いつつ、何となくイメージ出来る所にあるんだよ」

 

 

 緑谷が凄くやり辛そうな顔をしている。

 上鳴は心底、緑谷に同情した。

 しかし、尚も男の口は止まらない。

 

 

「何の物真似をするか──これがボケになる訳だ。観客がそのチョイスに思わずツッコミを入れてしまったその瞬間、クオリティが高いのか低いのか分からない物真似が、オチとして成立する様になる……芸を見た観客の中に生まれた謎の一体感が笑いを起こすんだ」

 

 

 サーナイトアイも頷いた。

 

 

「どこのどなたが存じませんが、確かなお笑い理論をお持ちの様だ」

 

 

「あの……とりあえず見ませんか」

 

 

 耳郎の言葉が再び緑谷へ視線を集め、そして。

 

 

「ど、毒々チェーンソーと対峙した後のオールマイトの顔!」

 

 

「本当に一ミリも伝わらない物真似をする奴があるか──!!」

 

 

「ぬぱぁ!?」

 

 

 刹那、どこからともなく落ちてきた金ダライが緑谷の脳天へと直撃した。そのまま千鳥足になる姿を見て、上鳴だけが警戒心を強める。

 

 

 ──空港の天井から金ダライが降ってくる理屈が分からねぇ……危機感知を持った緑谷が回避できなかったのは何でだ? そもそも、何で緑谷の頭上でギャグ漫画よろしく星が回ってやがる!?

 

 

「全く……これだからトーシロは困る。良いか少年。今から君にこの一発ギャグを披露しよう。著作権フリーだ。何度でも擦るといい」

 

 

 男が構えを取った瞬間、上鳴に神野ぶりの緊張が走る。

 そして、男は無駄にキレのある無駄な動きでポージングを取りながら、高らかに叫んだ。

 

 

「余計なお世Wi-Fi(ワイファーーーーーイ)!!」

 

 

 空港の喧騒がピタリと止まった。

 どこから風が吹き込み、虚空から現れた西部劇でよく見る草(タンブルウィード)が転がっていく。

 上鳴は自分以外の作画が幼稚園児のお絵描き並になった事を知覚し、軽く発狂しそうになるのを気合いで堪えた。

 

 

「クソ客がぁああああ!!!」

 

 

 男が叫んだのを皮切りに世界が元に戻る。

 

 

「うわおもんな」と耳郎。

 

 

「サーナイトアイ、これはどういうギャグなんですか?」緑谷がノートを片手に尋ねる。

 

 

 サーナイトアイは「仕方ない」と溜息の後、語り出した。

 

 

「カフェや商業施設などで、携帯端末が勝手に電波の弱いWi-Fiに繋がりそうになった時に生まれたギャグなんだろうが……」

 

 

「めちゃくちゃ分かってくれてるじゃないか!!」

 

 

 男の言葉に「私には伝わるさ。プロだからな」とサーナイトアイ。

 

 

「しかし、目の前にいるお客やテレビの前の視聴者に伝わるかと言うとそうじゃない」

 

 

 ギクッ

 

 

 男の背後にそんな擬音が浮かんだのを上鳴は見逃さなかった。そして、自分の目を疑った。

 目を擦る上鳴を他所に、サーナイトアイは男を詰める。

 

 

「受け手が“どういうボケなのか”を一瞬で汲み取れず、分かっても面白くない時点で──ギャグとしては弱い。独りよがりだ」

 

 

「ボロクソだ!」と葉隠。

 

 

 サーナイトアイはあくまで理論的に「余計なお世Wi-Fi」というギャグを解体し、詳らかにしていた。それは芸人にとって耳を塞ぎたくなるような言葉の暴力に等しい。同時に、仮に今しがた男が言い放ったギャグがクソおもろい物だったとしても、上鳴達が二度と笑えなくなるレベルの蛮行であった。

 

 

「くっ、中々痛い所を……! というかリーマンの風体で変な髪色の七三ってお前、見た目でウケを狙い過ぎだろ!?」

 

 

「ユーモアがあると言っていただきたい」

 

 

 そして、メガネを押し上げたサーナイトアイが鋭い眼光で男を射抜きながら、止めの一撃を放った。

 

 

「もっとお客さんのことを考えてギャグを作ってください」

 

 

「カッハァッ!?」

 

 

「うわぁぁぁぁ!? 喀血!! 大丈夫ですか!?」

 

 

 駆け寄った緑谷には見向きもせず、男は何事も無かったように叫んだ。

 

 

「覚えてろよー!」

 

 

「足早っ!?」

 

 

 そうして捨て台詞を残して男が駆けていく。

 その背中を見送って、上鳴は。

 

 

「何だったんだアレ」

 

 

「彼の本領は漫才で発揮される──あのギャグも、貫き通せばいつかは笑いを生むだろう」

 

 

 上鳴の脳裏を「トゥース!」と叫ぶピンクセーターの男が過ったが、そのまま何処かへ行ってしまった。誰だったかな……? 

 サーナイトアイの言葉に上鳴は小さく呟いた。

 

 

「アンタはアンタで何なのさ」

 

 

「フッ……ただのお笑い好きなおじさんだよ」

 

 

 ──謎の乱入者も去った所で、一行は諸々の手続きを済ませ、飛行機の搭乗口まで移動した。

 そのまま案内に従って飛行機へと乗り込んでいく。

 

 

「普通の飛行機乗るの久しぶりだな」

 

 

 職場体験もIアイランドもファースト以上だった。上鳴は窓際、隣に緑谷、通路側にサーナイトアイ。後ろの座席に葉隠と耳郎という布陣で席に着く。

 

 

「……仕方ないよ」

 

 

「……争いは何も生まないから」

 

 

「何のことだよ」

 

 

 席のから身を乗り出して二人を覗き込むと、耳郎が言う。

 

 

「耳聡いのに人の心が分からないよね」

 

 

「んだよそれ。コッチも気ぃ使ってんだぜ?」

 

 

「嘘」

 

 

「嘘じゃねぇよ。これから八時間は飛行機ん中いるんだぜ? 道中ぜってー寝るだろ。もしも俺が隣にいたら、寝顔を異性に見られる訳だ……サーナイトアイ、これは避けた方が良いんだよな?」

 

 

「コンプライアンス的には」

 

 

「ほら! 気遣い!」

 

 

 二人は目を丸くし、口々に言った。

 

 

「ごめん、見縊った」

 

 

「成長してるね……これは認めざるを得ないよ」

 

 

 そして、どこからか『一〇点』と書かれた札を出してきた。

 上鳴が「はぁ」と気の抜けた返事をして前を向く。

 

 

「そういう訳で俺、着くまで寝る」

 

 

「えっ。意外だね」緑谷が意外そうに言う。

 

 

「公共の場で騒ぎ過ぎるのもアレだしな……ふわぁ……そもそも時差考慮して昨日は夜更かししてたから」

 

 

 抜かりはない。上鳴はオセオンを満喫する為に全力を尽くすつもりだった。

 

 

「じゃ、おやすみ〜」

 

 

 しかし、安眠はそう長く続かなかった。

 

 

「ミカヅチ!! 敵襲!!」

 

 

 緑谷の危機感知が発動した。

 雲の上、夜空の星に手が届きそうなこの場所で、一体何が襲ってくるというのか。

 

 

「マジか」

 

 

 寝ぼけ眼が窓の外で舞う翡翠の流星を捉えた。

 人間離れした上鳴の動体視力で、それが弓矢であると瞬時に見抜く。

 

 

「ごちゃごちゃ言ってる暇ねぇな!」

 

 

 窓を突き破り、上鳴は機体の外へと出た。

 そして、緑谷がその穴を瞬時に黒鞭で塞ぐのを尻目に空を駆ける矢弾を追った。

 

 

「狙いは羽か……!」

 

 

 揚力を得る為の要、それを破壊すれば飛行機を墜落させる事など容易い。

 上鳴は素手で矢弾を叩き落とし、そのまま飛行機に追従しながら飛行を妨害しない電波をレーダーとして放つ。

 

 

「敵は下!」

 

 

 そうやって敵の位置を特定し、指先に反転術式で生み出した血液を収束。流れる様に電荷を付与し、そのまま磁場内で一気に加速させて──押し出した。

 

 

「赩御雷」

 

 

 閃光が分厚い雲を突き抉る。顕になったのはティルトローター機にも似た、特殊な航空機だった。

 そのまま襲撃者を仕留めて終わりかに見えたが、上鳴の放った荷電粒子砲は不自然に角度を変え、海面に直撃。

 航空機は速力を落として雲に紛れていく。

 

 

「逸らされた……」

 

 

 殴り込みに行きたい気持ちもある。

 しかし、耳郎たちが乗った飛行機を放ってはおけなかった。これが自分の気を引く為の陽動である可能性を、上鳴は無視できない。

 

 

 ──どうすっかな。

 

 

 緑谷が居ればある程度まで対応できるだろう。だが、彼には空の上で上鳴ほど広範囲をカバーできる技量がまだ無い。一つの判断ミスが命取りになる以上、深追いは禁物だった。

 

 

「……しゃーない」

 

 

 上鳴は飛行機の上で仁王立ちしながら、オセオンまで向かう事にした。

 

 

 

 

 

 ──現実は不平等である。

 

 

 人生という長い旅路の中で現れる幾つもの選択肢は、自分で答えを選んでいるように見えて、実は選ばされている事の方が多い。

 法律、社会正義、倫理、生まれ──あらゆる要素が選択を狭め、無数に見える択を自動的に消していく。善人よりも悪人の方が手数が多いのはその為だ。

 

 

 それ故に、フレクト・ターンは自らが信じる正義と善を成すべく、巨悪となる事を決めた。

 願うは異能の消滅。在りし日の人間を取り戻し、自分を含む全ての病を地上から根絶する。その為の手段は既にあり、方舟に乗る数少ない真人(まうと)は着々と集まっていた。

 

 

 重病者(ヒーロー)に計画を嗅ぎつけられたのは誤算だったが──外部に機密を漏らした異端者の調査は粛々と執り行われており、そう遠く無い内に火炙りとなるだろう。

 全てが順調。その筈だった。

 

 

「現役最強、スターアンドストライプも認める新時代の旗頭……不愉快な記事だ」

 

 

 眼前に展開されたホログラム、そこに映るアメリカの新聞記事を見て、フレクトは吐き捨てる様にそう言った。

 新時代。そう呼ばれ始めたのは、数週間前に配信された日本の高校生の模擬戦が世界を駆け巡ってからだ。オールマイトという史上稀に見る末期患者(けつぶつ)の活動休止が、世界に影を落としていたからこその広がりだ。

 

 

「忌々しい」

 

 

 そして、その看板に偽りがないのが余計に腹立たしかった。

 フレクトはオセオンに日本のヒーローがやって来ると聞き、海上で撃ち落とす作戦に出た。話題沸騰中の日本からだ。どんな化物が来てもおかしくはない。逃げ場のない場所で奇襲、撃破が最も無難だった。

 

 

 しかし、妙な胸騒ぎを覚え、万が一に備えてフレクト自身も出向き──それが本当に功を奏してしまった。一切の躊躇なく放たれた赤い光は、自分無くして防ぐ事など出来なかっただろう。

 

 

「ミカヅチ……厄介極まる」

 

 

 奴を野放しにする事は出来ない。そうして、フレクトが歯軋りしながら対策を練っていると、信者の一人が慌てた様子で駆け込んできた。

 

 

「どうした騒々しい」

 

 

「い、異能を……! 異能を消し去る異能を持った男が! 信者になりたいと!」

 

 

 余りにも突拍子のない言葉に、フレクトは目を丸くした。それからかぶりを振って信者へ告げる。

 

 

「落ち着け。そんな異能がこの世に存在する筈が……」

 

 

「この目で確認しました! 異形の個性が消え、真人(まうと)に戻るのを!」

 

 

 信者の言葉に嘘は感じられなかった。

 フレクトは毅然と言い放つ。

 

 

「此処に連れて来るのだ。私が見る」

 

 

 それが救世主なのか、はたまた人間を誑かす魔性なのか。フレクトが知る由は無かった。

 





 
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