「あのバカ! 今度は何したんだよっ!」
耳郎は激怒した。必ずやあの考えなしを分からせると決意した。耳郎には政治が分からぬ。雄英に入学してからは、ずっと上鳴主導の鍛錬を続けてきた。感謝もしているし、時折ぶつけられる純粋な好意にドキドキしているし、何なら普通に異性としてバリバリ意識している。
罠にハメられたいるのは分かっている。
だが、問題はその報告内容である。
『心当たりないわけじゃないけど*1、言いがかりでクソうけんね。とりあえず国出るわ。じゃ』
上鳴の理不尽に人を振り回す癖に対しては、人一倍敏感であった。
「きょ、響香ちゃん落ち着いて……! ここは穏便に暴力で、だよ……!」
葉隠は激怒した。
以下耳郎と同文。
「落ち着くのは君もだ、インビジブルガール。全く──最近の若者は血の気が多いな。状況は理解できているのか? 何のために此方を志願したんだ? うん?」
潜入任務だということを忘れないで欲しいし、私にメンターとしての仕事をして欲しいならちゃんとしなさい。
そんなニュアンスを含んだサーナイトアイの嫌味ったらしい言葉に、耳郎達は我に返った。
「すみません」と声をハモらせる二人。
サーナイトアイは頷いた。
「よろしい……そもそも、ミカヅチの暴虐は今に始まった話ではないだろうし、今後も変わらんよ。形は違えど、アレはオールマイトにも通じる部分がある」
「オールマイトにも……?」
「想像できないや」
オールマイトへの熱い風評被害──という訳ではない。困っている人間を見ると助けずにはいられないあの癖は、考える前に行動を完了させてしまう力も相まって、同業他者からすれば余りにも理不尽にさえ映るだろう。
オールマイトと上鳴を隔てているのは、それを人の為に使っているのか、己が欲求の為に使っているのかの違いだ。それに天と地の差はあれど、本質は同じ。圧倒的な強者にだけ許された、人間離れした立ち振る舞いであるということには変わりない。
「君たちが選んだ道は茨のそれだ……生半可な覚悟では、ミカヅチと社会を繋ぎ止める楔など夢の夢。喉に刺さった魚の小骨で終わるぞ」
「……結構嫌っスけどね、魚の骨」
何にせよ、状況は悪い。
上鳴と緑谷の離脱。オセオンその物への疑心。それでも三人はヒーローであるが故に、困っている人がいるかもしれないという可能性を切り捨てられない。
「我々の仕事は変わらない」
眼鏡を押し上げて言うサーナイトアイに、耳郎達は頷いた。
「予定通り、エディ・ソウルとアラン・ケイの保護に向かう」
「「了解!!」」
──その先に待ち受ける闇の深さも知らずに。
額に縫い目のある袈裟を纏った女が、スクリーンに映った光景を指して言った。
「フレクト様、如何でしょう?」
それに頷き、フレクトは答えた。
「ミカヅチとデクという特記戦力を国外へと誘導。その間に不穏分子を餌に残存戦力を誘き出す……理にかなった作戦だな」
アジトの一つを慎重に進む耳郎サイドと、ロディと女研究者を伴って空路を突き進む上鳴サイド。後者の移動速度を考慮して次の一手を打つ必要はあるが、現状は悪くないとフレクトは見ていた。
「ミカヅチ達が国境を超えた辺りで全世界の同志達に連絡を入れ、戦線布告を行う」
既に先進国の主要都市を筆頭に、イデオトリガーボムの設置は完了している。後は全世界に向けてその旨を発信し、デモンストレーションとして都市を一つ滅ぼす。そうすれば国家はヒューマライズを無視できず、多くのヒーローがイデオトリガーボムの捜索に駆り出すことになる──それがフレクト達の思惑通りだと分かっていても、乗らざるを得ない。
「背教者は?」
「研究者二名は生かしておりますが……如何致しましょう」
女の言葉にフレクトは言った。
「いい。交渉材料にもなるだろう。独房にでも放り込んでおけ──セブン。此度の働き実に見事だ。
袈裟の女、セブンはフレクトの言葉に恭しい態度で言う。
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
──何を企んでいるか知らないが、利用できるだけ利用すれば良い。
個性を奪う個性がある。それくらいの情報は日本の同志達からフレクトも掴んでいる。ヴィラン連合に額に縫い目のある不気味な男女の影がある事も、変身能力を持った女がいる事もだ。
──私には触れる事さえできないのだから。
個性“反射”。あらゆる物を拒絶し、好悪に関係なく弾き返す。フレクトにとって絶望その物だったが、利用価値もあった。我を通す為の力としてはあまりにも有用だったのだ。
実際、フレクトに対して明確な脅威となるのはスターアンドストライプとイレイザーヘッドくらいだろう。新秩序で真空状態を作られたら死ぬし、視線を弾き返す事が出来ない以上、抹消の対象にもなる。
だが、セブンは新秩序も抹消も有している訳ではない。個性の発動条件を満たすことが出来ず、有効打を持たないセブンでは、どう足掻いてもフレクトの脅威足り得ない。
「欲しければ好きなだけ持っていくが良い」
それ故にフレクトは寛大だった。
否、心からヒューマライズの教義に則っているからこそ、信者達の救いを求める声に敏感だったのだ。
「……ははっ。流石は秘密結社の頂点。お見通しですか」
泳がされている事を分かっていなかったセブンではないが、まさか自由に摘んでいいと言われるとは思っても見なかっただろう。
フレクトはその態度を「白々しい」と一蹴しながらも、態度は変えない。
「私たちにとってそれは救いだ。否を言う者などいない」
個性の排斥。人間のあるべき姿を取り戻す。そう言って争いを起こした人間は過去に幾らでもいる。超常黎明期には世界を二分した勢力の一つでもあった。
しかし、それは必ずしも力への羨望が理由になっていた訳ではない。望まない力を持ってしまったが故に、迫害を受けた人々も多い。異形型個性などその最たる例だろう。
「本当は君の力が欲しかったんだけどね」
セブンはそう言って嗤った。
「抜かせ。病巣がヒーローだけだと思うなよ。次は貴様らだ」
「おぉ、怖い怖い……それではフレクト様。私はヒーローの駆除に行って参りますので」
その場から音もなく消えるセブンを見て、フレクトは鼻で笑った。
「精々頑張るのだな」
ヒューマライズのアジトは多い。宗教法人として登録されている施設はハリボテに過ぎず、その本拠地は巧妙に隠されている。
各国に散らばった支部についても同じだ。表向きの集会所には見られても不都合のない物しか置かれていない。
しかし、エディ・ソウルらによって供された情報にあった場所は違う。ヒューマライズが隠し続けてきた非合法な実験施設の数々、兵士の養成や兵器の開発など多岐にわたる。
その一つ、イデオトリガーボムの開発が行われた山中の研究所に耳郎達は潜入した。
山肌を掘り進めて地下へと伸ばした様な構造と、自然を使って巧妙に隠された入り口は、知っていなければ到底見つけられない様な物だった。
しかし、その分だけ内部構造は単純に作られていた。主な階層は三つ。地下深くの実験場。そこには兵器を外へ運び出したり、資材を搬入する為の経路とゲートもある。その上層に研究者の居住区があり、そこと出入り口となる場所を区切る様に、戦闘員の詰所が設置されている。
耳郎達が潜入するのは資材の搬入ゲート。
既に潜入中のクレア・ボヤンスのサイドキックと連携し、ナイトアイと耳郎が新たに配属された戦闘員として侵入。それと同時に葉隠が入り込み、別ルートからエディ・ソウル達の下へ先行する手筈になっている。
「特訓の成果を見せちゃうぞ〜!」
「飛ばし過ぎたらダウンするんだから……気を付けなよ」
「大丈夫大丈夫!」
交流戦が終わってからの三週間、葉隠と耳郎は上鳴の指導の下、呪具の呪力を流用する為の訓練を行っていた。
交流戦で既に兆しを見せていた葉隠は耳郎よりも早くにそれを習得。既に応用にまで踏み込み始めている。
「じゃ、ちょっと行ってくるね〜!」
戦杖から引き出した呪力で葉隠が身体能力を強化する。当然、その強化の範疇には個性も含まれている。強化された因子は一時的な深化状態へと移行し、本来ならば自身の肉体にしか及ばない効果を、触れている物にまで適応させる。
結果、葉隠は戦杖と共に姿を消した。
「……上手すぎでしょ」
スキップで搬入ゲートを通過する葉隠を見た耳郎の中に、嫉妬や羨望はない。
耳郎は葉隠が戦杖を肌身離さず持ち歩いていた事を知っている。それこそ、寝食はおろか風呂場にすら持ち込み、制御を誤った時には蛙吹が感電し、泡を吹いて倒れた事もあった。それでも葉隠は頑なに手放そうとしなかった。
「ジャック、考え事は後にしたまえ」
「はいっ」
ライバルの成長は自分の飛躍に繋がる──身近な所に、緑谷と爆豪という例がある。
「負けてらんないな」
だからこそ耳郎は自らを鼓舞する様にそう呟き、サーナイトアイの背中を追った。
そうして搬入ゲートを通過して実験施設の中に入ると、澱んだ目をした白衣の人々が行き交う光景が飛び込んできた。
「……っ」
無理矢理働かされているのは明白だった。
エディ・ソウルやアラン・ケイ以外にも、助けを求める人々がこんなにも多くいる。
「全員は助けられない」
サーナイトアイの言葉は無情だったが、本当に何も思っていないなら口にもしなかっただろう。事実を確認する様にそれを告げる事に、どれだけの葛藤と苦悩があるのか。それでも言ったのは自分に言い聞かせる為でもある。
「今は、まだ……ですよね?」
だから、耳郎は笑った。
無茶と無謀は若者とロックの特権。
諦めるのは性に合わない。
ナイトアイも口角を僅かに上げて言う。
「その通り。私たちは遍く全てを救えるスーパーヒーローではない。一つずつ、確実に、勝利と救済に必要な物を積み上げよう」
実験場を抜ける。
そして、耳郎とナイトアイは兵士の詰所に辿り着いた。
「新人だな?」とマスクを付けた男の戦闘員に声を掛けられる。
耳郎が応える前にナイトアイが敬礼して言った。
「本日付で配属されました、ナイトハルトです。こっちの小さいのはジャック。私の生徒でした」
「よろしくお願いします!」と耳郎も慌てて敬礼する。
戦闘員の男は満足気に頷いた。
「いい返事だな。ナイトハルトは五年目か。いいね、即戦力だ。前までは……アメリカの支部で兵士の教導か」
ボヤンス事務所のサイドキックが手配した設定と経歴は全て頭に入っている──耳郎はジャック、ナイトアイはナイトハルトと、ヒーロー名を捩った偽名で潜入する手筈になっていた。
「さて、早速だが……二人には独房の方へ行ってもらう」
「……と、言いますと?」ナイトアイが尋ねる。
「裏切り者が出たのさ」
男は端的にそう言って、片手を上げた。
その刹那、耳郎は自らの直感に従ってナイトアイを引っ掴んでその場から飛び退いた。
それ次いで、けたたましい銃声が詰所内で響き、先程まで耳郎達が立っていた場所に鉛玉の雨が降り注いだ。
「ナイトアイ、バレてますけど」
「予想は出来ていたがね」
「総員、戦闘準備──ッ!! 敵襲だァッ!!」
慌ただしくなる詰所。
ナイトアイが「はぁ」と溜息を吐きながら、潜入の為に纏っていた教団の制服を脱ぎ捨てる。耳郎もそれに倣い、コスチューム姿を晒した。いつもの装備にギターケースを背負った新たな装いに、サーナイトも瞠目する。
「お手並み拝見、といった所だな」
ナイトアイの横を通り抜けて──耳郎は敵陣に飛び込んだ。
懐かしさすら覚える多対一の場面。USJ襲撃事件での大立ち回りを思い出す。
「ウチはさ……脚が良いんだって」
プラグをチラつかせながら視線を誘導し、戦闘員の急所を蹴り抜く。くず折れる戦闘員を障害物に見立て、パルクールの様な動きでその他を翻弄。縦横無尽に戦場を駆ける。息は全く乱れない。
そして、耳郎は腕のサポートアイテムにプラグを差し込み、打撃に音波を乗せた。
「
触れただけでコンクリートを粉微塵に変える必殺技も、出力を落とせば対象を失神させる技に変わる。耳郎が顎を一撫ですれば、それだけで戦闘員達は寝かしつけられた様に床へ倒れ込んでいく。
「ナイトアイッ! どうします!?」
次々に現れる戦闘員達を一撃でノックアウトしながら、耳郎は叫んだ。
「私たちの動きが筒抜けだった以上、長居も潜入も不要──強行突破だ」
鈍い風切り音を拾って、耳郎は身を屈めた。
頭上を通り抜けた何かが増援としてやってきた戦闘員に命中し、その身体を壁に叩き付ける。
「緑谷が言ってた超質量印……あの、ウチのこと見えてます……?」
「君なら問題なく躱せるだろう」
「それは、確かにそうですけどっ」
耳郎はナイトアイを見ず、印鑑が風を切る音だけを頼りにして攻撃を躱していく。
二人の攻勢は止まらない。そして、退却を叫ぶ敵に容赦などする必要もなく、わらわらと集まってきた数十人の戦闘員を鎧袖一触して、この場を後にした。
その頃の葉隠はと言うと。
「うーん」
液晶に亀裂が走った端末をスワイプしていた。その足元ではヴィランが一人、痛みに震えている。
「ぐっ……! 何故、気づかない……この世界の過ちにっ」
質問には答えず、葉隠は身を屈めて足元に転がるヴィランの顔を覗き込んだ。
「どうして裏切ったの?」
葉隠の足下で呻いていたのはクレア・ボヤンスのサイドキックの男だった。
裏切り者であると分かったのは単純な話で、保護対象がいると聞いていたポイントで奇襲を受けたからだ。
「異端者に語る言葉などッ……ない!」
葉隠はサイドキックの血走った目を見て、言葉の無力さを改めて感じた。
「──そっか」
思想に基づいた凶行に走る者を説き伏せるのは容易ではない。時に、人間は理解ではなく納得で、合理ではなく感情によって行動するからだ。思想を芯に据えた合理は、極めて強固で感情的な物。何処の誰とも知らぬ、仮免でしかないヒーローの雛の声では揺らがない。
「じゃあ、質問を変えるね」
男の腕に足の裏を乗せ、戦杖の重さと共にゆっくりと体重を掛けていく。上鳴から教わった自白を促す構えだ。
足裏で肉が撓み、骨が軋む。男が苦悶の声を上げた。嫌な仕事だ。不快感を面に出さない様にしながら、葉隠は淡々と尋ねた。
「保護対象……彼らをどこへやったの?」
その問いに、男は答えた。
「さあな」
刹那、葉隠はぐしゃりと腕を踏み砕いた。絶叫する男の口に戦杖の石突きを噛ませ、再び問い掛ける。
「次は内側から感電してもらおっか」
「んぐぁあああああッ!?」
しかし、それでも男は口を割らなかった。喉が潰れるほど叫んでも決して情報を吐かず、ただ時間だけが無為に過ぎていく。
どうしたものかと葉隠が頭を悩ませていると、規則正しく揃った靴音が二つ、部屋に近づいて来た。耳郎とサーナイトアイではない。
「はぁ……はぁ……くくくっ……来たぞ……」
靴音の主達を知っている男が、口角を上げてそう言った刹那、部屋の出入り口が弾け飛んだ。
細切れになった瓦礫の断面を見れば、何らかの刃物で切り刻まれたのだと直ぐに分かる。
「サーペンターズ様ァ!! コイツが例のっ!?」
そして、サーペンターズと呼ばれた双子の戦闘員から伸びた蛇腹剣が、男の口を貫き、そのまま反対側の壁へ縫い止めた。
「ザァ、ゔぇ……?」
一瞬の出来事だった。今しがた尋問していた対象が呆気なく殺された。
葉隠は目を細め、戦杖を握る力を強めた。
「仲間なんじゃないの?」
「「敗者に価値などない」」
鞭のようにしなる刃が再び振り抜かれた。最小限のスウェーでそれを掻い潜りながら、葉隠は個性で姿を眩ませる。
双子は僅かに目を開き、次の瞬間。
「「ヒャァァァァァァアッハァ!!」」
葉隠目掛けて刃をしならせた。
「見えてんのかよ……! マジで蛇じゃん!」
蛇は熱を感知して獲物を狩る。蛇を含む複合異形個性なら、葉隠を知覚する事は難しくないだろう。
「真っ向勝負だねっ!」
呪力を流用して肉体を強化──跳ね上がった身体能力と上鳴仕込みの杖裁きで、的確に刃を打ち落とす。
それに合わせて、サーペンターズが喜悦を滲ませながら二手に別れて動き出した。
「ヒィイイイ!!」
「ハァアアア!!」
葉隠をその場に留める為に遠距離から攻撃を仕掛けるAと、その間隙を縫ってBが肉薄してくる。葉隠はステップを踏みながら、激しい打ち合いにも対応していく。
「どっちがお兄ちゃん!?」
「ヒャァッ!」
「とりあえず君ね!」
サーペンターズBを仮に兄として、葉隠は対処を開始した。
先ず弟の作り出す刃の殺戮圏に兄を巻き込み、行動を抑制する。
「ざんねぇん!!」
しかし、目論見は外れた。弟が兄ごと葉隠を切り刻まんと刃を振り抜いていた。
「仲間どころか家族にまで情がないのかよっ……ドン引きだぜ!」
当たらなきゃ死なねぇよ。そう言わんばかりの戦闘スタイル。中近距離から繰り出される息つく間もない斬撃の雨。
三週間前の自分なら既に死んでいた。
だからこそ、葉隠は自身の成長を実感する。そして、飢えた獣が極上の獲物を前にしたかの如く笑った。
「更に……!」
因子を躍動させる。透明化の解釈を拡張する。
「向こうへ!」
──葉隠透の個性の変遷は極めてシンプルだ。
一段階目、肉体の屈折率の変化。
二段階目、肉体の屈折率の操作。
三段階目、触れた物の屈折率を自分の個性の初期状態に合わせる。
そして、四段階目。
三週間の特訓では成功させられなかった、触れた対象という概念の拡張。
──イメージしろ。大丈夫。絶対にできる。
「BANG!!」
指で空気を弾いて兄の額を打つ。殺傷力は低い。だが、異形型の個性の持ち主であっても、タタラを踏ませる程度の威力はある。それで十分。必要だったのは空気を弾く感覚。つまり、空気を掴むという感触だ。
「集光屈折……!」
呪具の呪力を流用する。
纏わせる性質を帯びた呪力と個性を、“空気に触れる”という強い意識で結ぶ。
それが成った時、葉隠の透明化は──“屈折率を任意に変える”という個性は、大気にまで影響を及ぼす様になる。
「
刹那、呪力と個性によって葉隠の形を取った大気が動き出した。
「「ギィッ!?」」
透明な葉隠を捉える為に熱源感知を行っていたサーペンターズの目に映ったのは、全く同じ熱量を持った二人分の人影。
葉隠が作り出したのは大気のレンズと、そこに映し出された虚像。本来ならば子供騙しにもならない幻に過ぎなかったそれは、呪力を帯びた事で、葉隠の意思さえも写し取って動き出す式神
「「やあっ!」」
葉隠が弟を無視し、二人がかりで兄に殴り掛かる。戦杖による打突と徒手空拳のリーチの差異を生かし、敵の動きを制限しながら一気に畳み掛ける。兄は葉隠の攻勢から抜け出せない。
「ィイイイイ!!」
弟が割り込んで来るが──想定内。
否、好都合だった。
「充電完了……!」
呪具に触れ続けることで葉隠自身にも呪力が溜まる。
葉隠の分身は呪力その物であり、戦杖で出来る事は分身でも可能である。
「ギィッ!?」
分身が弟に組み付く。
同時に葉隠は戦杖を投擲し、兄の背後の壁に突き立てた。
「ビリビリ……!」
葉隠、分身、戦杖。電荷は十二分に溜まった。
位置の調整も完璧。後はただ──放つだけ。
「ドカン!!」
分岐放電+帰還雷撃
上鳴の十八番、必殺の一撃が炸裂した。
サーペンターズが雷鳴に沈む。
「で……どこだよ。ソウルさん達は」
葉隠は戦杖でサーペンターズを突き回した。
耳郎達が合流するまで尋問は続いたが、何の成果も得られなかった。