雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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大変ありがたいことにお気に入りの数が伸びております。
拙作を楽しんでいただけている皆様に更なる面白さを届けられるよう、頑張りたいと思います。

今回はどうしても入れておきたかった補習の風景とUSJ編の触りになります。


ep.12 個性の核心───そして

───委員長が決まった日の放課後。

 

 

補習組、緑谷は上鳴と共に個性制御の為の訓練を行っていた。

 

 

「んぎぎぎぎぎぎぎっ!!!」

 

 

「どうしたァ! お前の力はそれっぽっちか緑谷ァ!」

 

 

トレーニングルームν にて上鳴は緑谷を組み敷き、ギチギチと身体を締め上げる。この拘束は緑谷が全身に個性を行き渡らせることさえ出来れば簡単に解ける程度の力でしかない。

 

 

「何びびってんだ! 俺ならオールマイトの100%を真正面から受けても死なないんだから、遠慮なんて捨てろ!」

 

 

こんな方法が取れるのは上鳴を除けばそれこそ緑谷に個性を渡した存在、No.1ヒーローオールマイトのみだろう。

 

 

上鳴の言葉を受けて、緑谷は徐々に個性を身体に流し始めた。だが、やはり人に向けて使うことに躊躇いがあるのか、個性発動の兆候は直ぐに霧散してしまう。

 

 

「はぁ、はぁ、ごめん上鳴くん」

 

 

「謝んなくていいよ。俺も早く100%を引き出せるようになったお前と戦いたいしな」

 

 

顔を引き攣らせる緑谷の肩を叩いた上鳴は、一旦緑谷を基礎トレに戻らせた。無理にやっても効果は薄いという判断だ。

 

 

「緑谷ーそれ終わったらミット打ちなー」

 

 

「はいっ!」

 

 

全身への強化はともかく、パンチング練習などで個性を限定的に使うことは何度か成功し始めている。

 

 

───後はキッカケ1つありゃあ緑谷は次のステージに上がれるな。

 

 

未来の強者との戦いに思いを馳せつつ上鳴は耳郎、葉隠、峰田の3人へと視線を向けた。

 

 

3人はトレーニングルームν に設置された無数のアスレチックを駆け抜けていた。

 

 

「悪くない」

 

 

上鳴が3人にやらせているのはパルクールだ。その発祥は20世紀前半のフランスまで遡ると言われている。

考案者とされているのは元フランス海軍将校。軍隊トレーニングにおける基礎、『走る』『歩く』『跳ぶ』『這う』『登る』『バランスを取る』『投げる』『持ち上げる』『自衛する』『泳ぐ』といった10種類の運動から成り立っており、そのメソッドをベースに生まれた障害物コース形式の軍事訓練『parcours du combattant』が起源とされる。

 

 

「が………良くもない」

 

 

3人の運動能力はヒーロー科にしてはお世辞でも高いとは言えない。上鳴が最初に実演して見せた動きを参考に懸命に身体を動かしているという点だけが、プラスの要素だった。

上鳴がフィードバックの内容を考えている内に、3人はコースの終点へと辿り着いた。

 

 

ゴールするや否や床に転がった峰田が言った。

 

 

「………オイラ、こんだけ走ったの生まれて初めてな気がする。おえっ」

 

 

えずく峰田からさりげなく距離をとった女子2人は、峰田のように床に転がることはなかったが、膝に手を置いて呼吸を荒らげていた。

 

 

「うー! 何回か躓いたぁ!」と葉隠は悔しさを滲ませる。

 

 

「はぁ……はぁ……ウチは叫ぶ元気もないよ」

 

 

耳郎は元を辿れば文化部系の人間である。

瞬発力や短時間での身体機能の差を比べるような内容ならともかく、複合的な能力と純然たる体力を問われる今回のようなトレーニングは消耗を強いられていた。

 

 

逆に峰田は男子である分だけ基礎体力はそこそこ。葉隠は自分の個性柄、中学時代から身体能力を上げる基礎トレは少なからずしてきたのもあってマシといった所である。

 

 

上鳴はスポーツドリンクが入ったボトルを3人に軽く投げて渡した。

 

 

「お疲れ。ちょっとだけ進歩したな」

 

 

「上鳴にとっては小さな一歩でも……オイラにとっては偉大な一歩」

 

 

「偉大は言い過ぎだろ」

 

 

そこは大きな一歩であれよと上鳴は言葉を続けながら、コースを走り出した緑谷にも視線を向けた。

 

 

───お、今個性を少し使ったな。よしよし。飲み込みが早いなアイツは。先生式がハマったか。

 

 

緑谷はゴリゴリの理論派である。

先に動き方を理解し、そこにイメージや感覚を継ぎ足していくことで理解度を高めるのに長けていた。

逆に言えば動き方を理解できなければイメージや感覚が着いてこないような欠点もあったのだが、緑谷と同じ理論派の善院から指導を受けていた上鳴は、そこを師の教え方を参考にした指導で上手くカバーしていた。

 

 

その成果が出ているのか、補習が始まってまだ数日ではあるが、緑谷の伸び方は3人と比較して頭二つは飛び抜けていた。

 

 

そんな後方腕組み師匠面する上鳴に、同じく緑谷の様子を見ていた耳郎が問いかける。

 

 

「ねえ上鳴、アンタ初日に見本見せてくれた時は個性使ってなかったけどさ。マジでやったらどんくらいでゴールできんの?」

 

 

「地面に足つけて走ったら1秒掛かるくらいじゃねぇかな」

 

 

因みにコースは大小様々な障害物が設置された100m程の直線である。

 

 

「……遠いなぁ」と耳郎は苦笑した。

 

 

耳郎の言葉に笑みを返しながら、上鳴が言った。

 

 

「そりゃ4歳からずっと鍛えてきたからな。そんな2、3日で追いつかれたら堪んねぇよ」

 

 

入学前は自分と同じくらい強い奴もいるだろうと思っていたが、入試でその考えは完全に打ち砕かれていた。

 

 

だがそれは当たり前である。

4人が、否、雄英に在籍する人間の多くが友人と遊んだり、悪戯をして親に怒られたり、学校で授業を受けて行事に参加したりしている間も、上鳴は鍛え続けていたのだ。勿論、そうしなければ明日死ぬかもしれないという危機感もあっただろうが。

 

 

「まあ、その内追いつけるかもな」と上鳴がニヒルな笑みを浮かべると、耳郎は少し頬を膨らませて言った。

 

 

「絶対追いつくから」

 

 

「そりゃいい。退屈しなくて済みそうだ───お、言ってる間に緑谷がゴールしたな」

 

 

「アイツ、隠れ才能マンだろ……どうなってんだよ……」

 

 

峰田のボヤキに全員が頷く。緑谷はスタートが遅れただけで、能力値の最大値が低い訳ではないのだ。

 

 

「何の話……?」

 

 

「俺の個性とお前の才能の話だ」

 

 

「ぼ、僕っ!? ………いや、待って、え? 上鳴くんの個性の方は凄く気になるんだけどっ!? 何であんなに応用の範囲が広いのとか出力の高さとかあとあとあと」

 

 

普段はオロオロしている事の方が多い緑谷だが、いざ個性の話になると途端に早口になる悪癖があった。

 

 

そして”オタクは早口”というチクチク言葉を口に出さないだけの優しさが3人には備わっていた*1

 

 

緑谷の問いに上鳴は「そうだな」と前置きをし、3人の様子を見た。3人も緑谷程ではないにしろ気にはなっているようで、上鳴の次の言葉を待っていた。

 

 

「これはちょっと言語化しにくいんだが………自分の個性の核心に触れることかな」

 

 

「個性の核心?」

 

 

「そ。何が出来て、何が出来ないかとかそういう尺度じゃなくて………何て言えばいいんだ? こう、魂の形みたいなもんかな?」

 

 

「常闇しか食い付かねーよそれじゃあ」

 

 

「分かんねーんだから仕方ねぇだろ。分かった奴にしか伝わんねぇよこれに関しちゃ」

 

 

「じゃあじゃあ質問! どうやったらそれが分かったんですか!」

 

 

「ああ。それは簡単だな────死に掛けることだ。2年くらい前かな? 結構強いヴィランとばったり会っちまってさ。危うく殺されかけた事があんだよ」

 

 

上鳴の言葉に3人は口を開けて呆けた。

 

 

オールマイトと互角の戦いを演じた上鳴が死に掛けるという姿がイメージ出来なかったからだ。

 

 

「そん時だな。身体の感覚ってのを初めて感じて、全身の細胞という細胞にまで意識が伸びるようになったのは。その分岐点前と後じゃ全然違う。この前オールマイトとやった後からも何か調子いいし、やっぱ死に掛けるってのは大事だな」

 

 

「アンタ死に掛けた後に戦闘訓練に戻ってきたの!?」

 

 

「1分対応が遅れたら死んでたって」

 

 

上鳴は「参っちまうな!」と言って笑った。

 

 

4人は笑えなかった。

 

 

命あっての物種という言葉があるように、まだ学生の彼らにとって”死”とは遠くにある概念であり、畏怖すべき物でしかなかった。

 

 

だが、直ぐに思い知ることになる───時に人は命を賭してでも、何かを成し遂げたいと思う時があることを。

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りはあったものの、4人と上鳴の関係は変わらず先生と生徒のような物。

 

 

月曜から土曜日までの6日間、みっちりと補習を行った翌週。

 

 

相澤から「明日は人命救助訓練がある。万が一疲れが残って事故しましたじゃ話にならないから、軽めにしておけ」と言い渡された上鳴はメニューをいつもの5分の1程にまで削減。

 

 

泣いて喜ぶ峰田に「やっぱ増やそうかな」と誘惑に駆られることはあったものの、つつがなくその日の補習を終えた。

 

 

そして───

 

 

雄英高校1年A組一同はヒーローの本分である命を救う仕事について学ぶ為、『ウソの災害や事故のルーム』、通称USJへと足を運んでいた。

 

 

───オールマイト、やっぱ先生向いてないな。

 

 

本来ならば居るはずだったもう1人の教員、オールマイトは本日欠席。そうというのも先日のデモンストレーションを経て、ただでさえ短くなっていた活動可能時間が更に短くなっていたためだ。その上、助けを求める声に応えずにはいられないその性格が悪さをし、授業前に今日の活動可能時間の殆どを使い切ってしまっていた。

 

 

ただ、バスに乗る前にその事を知れたのは上鳴にとって僥倖だった。仮免を持つ上鳴はその立場上、1年生の生徒と一括りにする事が難しい。

今回は見本係になりそうだと思っていた矢先にオールマイトの失態が発覚。プロヒーロー仮免許はあくまで緊急時のみヒーローと同等の権限を得る物であるため、相澤が機転を効かせて予め校長から許可を取る事で、今回の演習に限り上鳴はプロヒーローと同等の権限を付与された。

 

 

バスを降りてエントランスホールに入ると、1人のヒーローが1-Aを迎えた。

 

 

「13号だ!」

 

 

宇宙服を模したコスチュームを着たヒーロー”13号”を見て声のトーンが少し上がったのは、同じくSFチックな要素のあるコスチュームを着た麗日だった。

生粋のヒーローオタクである緑谷もまた声のトーンを一つ上げて、13号の個性や活動方針についての解説を矢継ぎ早に並べていく。

 

 

「スペースヒーロー13号! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

 

「わー! 私好きなの13号! あとでサインとかもらえへんかな!」

 

 

自己紹介要らずとなってしまった13号だったがそういったパターンも織り込み済みなのか、その流れのまま澱みなく話し出した。

 

 

「えー、授業を始める前にお小言を幾つか………先の戦闘訓練で君たちは個性を思うがままに振るうとどうなるのかを非常に極端な例ではありますが見たかと思います。ご存知の方も多いでしょうが、僕の個性は”ブラックホール”。破壊の規模で言えば簡単に同程度のことを引き起こせます」

 

 

1年A組一同は*2上鳴が13号から視線を逸らすのを尻目に、相槌を打った。

 

 

「超人社会は一見すると平和に見えますが、その実態は非常に脆い。僕たちが持つ簡単に人を殺せる個性が辺りを見渡せばそこら中にあって、それら全てが個人のモラルに委ねられている。人は状況が変われば、魔が差せば、簡単に罪を犯してしまうのにです」

 

 

上鳴は13号の言葉に目を細めた。

 

 

「相澤さんの体力テストで、オールマイト………いや相澤さんの対人戦闘で、あなた達の中にある力を他人に向けることの危うさを体感したかと思います」

 

 

そして13号は話をこう結ぶ。

 

 

「ですので! 今日はその力を人命の為にどう活用するかを学んでもらいます! 覚えて貰うことは一つだけ。君たちの力は他者を傷つける為でなく、助ける為にあるのだと───そう心得て帰ってくださいな」

 

 

生徒から拍手喝采を浴びる13号が丁寧にお辞儀をし、挨拶は終わった。

 

 

そして、相澤がエントランスの柵に背中を預けながら上鳴を手招きした。

 

 

「今回の振り分けだが、お前個人でいつもの補習組の面倒を見てやってくれ。先輩からコガネを介してやり取りできるデバイスを3つ預かってるから、俺たち教師陣がそれを使って適宜大まかな指示を出す。分からないこと、現場判断が難しいことがあったら直ぐ報告しろ」

 

 

「了解です、イレイザーヘッド」

 

 

「悪いなミカヅチ。だがこれも受難だと思って景気良く乗り越えてくれることを期待してるよ」

 

 

「ウッス」

 

 

そんな折だった───上鳴の常人離れした聴覚が、ドーム天井付近から発された異音を聞き取った。

 

 

瞬時にその場所を見上げた上鳴はスイッチを切り替えた。

 

 

「イレイザーヘッド、13号」

 

 

頭に2つの団子を作り、白い中華風のコスチュームに身を包んだヒーロー”ミカヅチ”が教師2人をヒーロー名で呼ぶ。それだけで2人は上鳴の意図を察した。

 

 

「───来るぞ」

 

 

刹那、ドームの天井付近に黒い靄が生じ、そこから100人以上の武装した人間が投下された。

 

 

武装にバラつきがある者が大半の中、上鳴の視界に毛色の違うヴィランが9人映る。

 

 

身体の至る所に手のオブジェをつけた男。

 

 

黒い靄に包まれた実体があるか怪しい風体の者。

 

 

脳味噌が剥き出しになった半裸の男。

 

 

軍隊のような防弾ジャケットを着た赤髪の男。

 

 

赤髪と同じ出立ちをした刈込みのある坊主の太った男。

 

 

サングラスをかけたパンチパーマの男。

 

 

左目の上から耳にかけて長い裂傷が顔に入った、白いスーツの上からファー付きのコートを肩に掛けている男。

 

 

左肩に雷の文字の刺青を入れた工事現場の作業員めいた風体の男。

 

 

傷だらけの上半身を晒し、髪をオールバックにした眼鏡の男。

 

 

「おい、黒霧。オールマイトがいないじゃないか。せっかくこんな大衆引き連れてきたのにさ………子供を殺せば来るのかな?」

 

 

途方もない悪意の前に生徒達が身を僅かに強張らせる中───

 

 

「クハッ」

 

 

上鳴は楽しげに口角を上げた。

 

 

*1
上鳴は気にしていないので除く

*2
相澤も含む




小話
今回の6人のヴィラン(死柄木黒霧脳無を除いた人)は皆外伝とか劇場版から引っ張ってきた人達に強化を施したような感じになっております。後々本文と後書きなどで紹介……できたらいいなぁ………


次回 ep.13 呪いの如く
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