───切り替えろ。
騒めく心中を鎮めるべく、上鳴はゆっくりと息を吐き出した。
それから冷静に、そして端的に自身がやりたい事を成す為に必要なプロセスを組み上げていく。
───もう考えるだけ時間の無駄だ。1秒でも速く目の前のコイツらを蹴散らして、飛ばされた奴らを助けに向かう方が余程効率がいい。さっさとデカブツに集中したい。
上鳴が最優先したい対象は今、相澤の側にいる。その隣には事件の主犯格である死柄木。彼は有象無象の対処に追われる相澤の様子を見ながら、個性と戦闘スタイルの分析に徹していた。
一方、上鳴の眼前───6人のヴィランはそれぞれの個性を解放していた。
”人体切断機”天忠會の米長。
”人間戦車”天忠會の鉄。
”緑の巨人”天忠會の春久。
”鉄槌”天忠會の宗二。
”凶刃”ソキル。
”怪人”ガドル。
6人は上鳴の様子を伺いながら、ゆっくりとその周りを取り囲み、逃げ道を潰しながら距離を詰めていた。
───俺の足止め、ないし排除を目的に配置された人員なら、当然俺の
「辛気臭い」
極上の悦楽を前にした人間に我慢を強い続けることはできない。
上鳴は落胆を隠しもせず、体内を巡る電流を強めていく。
「お前らがどんなつもりかは知らねーけど」
『身体許容上限800%』
「初手で放電を避けて、今も雷撃を警戒してるんなら───それはもう雷撃対策に自信がありませんって言ってるようなもんだろ」
瞬迅雷火、空気の絶縁耐性すら容易く破壊する圧倒的な電気エネルギーの暴力が再び上鳴の身体から放出された。
近寄っていた6人にそれから逃れる術はない。
だが。
「待ってたぜぇ! お前が油断するこの時をよぉ!」
鉄槌の宗二が喜悦する。
同時、全方位に向かって奔る稲妻が宗二に向かって収束した。
目を見開く上鳴に、相澤から視線を移していた死柄木が言った。
「個性、誘電。その名の通り電気エネルギーを引き寄せて、更にそれを自分のエネルギーに変換する。先生がそのオッサンに与えた力だ」
死柄木が嗤う。
それは勝利への確信だった。
「いてまえ春久ァ!」
「ガドルッ! テメェもだ!」
鉄とソキルに言われ、見るからに増強型個性の2人が雄叫びを上げて上鳴へと肉薄。大気を唸らせながら振り抜かれた拳が、別々の角度から上鳴を狙う。
上鳴はそれを両手で受け止め、2人の拳を強く握り込んで直接電流を流し込む。しかし───
「緑の方は個性”アース”、紫の方は個性”ゴム”だ。電撃は通じねぇよ」
死柄木はニタニタと笑いながら、2人が持つもう1つの個性について語った。
春久が有するのは両足が接地している限りどんな強さの電流も地面に流してしまう個性”アース”。それはある意味、上鳴にとって天敵とも言える物だ。
その一方で、ゴムは絶縁体ではあるが本来稲妻が有する膨大な電気エネルギーに耐えられる程の耐久性を有していない。上鳴の雷撃には無力な筈だった。
だが、超人社会においてかつての常識など塵芥に等しい。
何故なら個性とは身体能力であり、鍛えれば伸ばすことができる物だ。物体としてのゴムに限界があったとしても、個性としてのゴムに限界はない。雷に耐え得るゴムがあったとしても不思議ではないということである。
「紫ピクミンの癖に海賊王気取りか」
上鳴は舌打ちしながらガドルと春久に打撃を打ち込む。春久は苦悶の表情を浮かべるが、ガドルは身体がゴム故に高い弾性で上鳴を弾き飛ばした。
「………正直、驚いたぜ」
靴底を擦り減らしながら10m程後退し、顔を伏せてそう言った上鳴に、気分を良くした死柄木が両腕を広げて言った。
「何だ? 負けた時の言い訳かよ? ダッセェな。それでもプロ目指してるヒーロー志望か?」
死柄木から見て───上鳴の状況は最悪だ。
庇護対象であるクラスメイトが散り散りになり、どこでどのようなヴィランに襲われているのかも分からない。
頼りのプロは目の前の敵に手一杯。孤立無縁と言っていいだろう。
自分に当てがわれた敵の多くが、自分の個性に対して有利に働く力を与えられている。
───”詰み”だ。先ずはこれで1人。アマチュアヒーローとは言え子供は子供。オールマイトは殺せなくても、その矜持をへし折ることはできる。後はどれだけ子供を殺してスコアを伸ばせるか………それと6人の内、何人持って帰れるかだな。
手のオブジェの下にある死柄木の顔が愉悦で歪む。混じり気のない純粋な邪悪と呼ぶ他ないその笑みに向かって、上鳴は口を開いた。
「違ぇよバカ。この程度で俺を殺せると思ってる脳みそに驚いたって言ってんだよ」
───強がりだ。
死柄木だけでなく、上鳴を取り囲む6人はそう思った。
「先ずはテメェだ金髪土方」
死柄木達には1つ、大きな誤算があった。
まず彼らが内通者から受け取ったのは、カリキュラムと生徒を受け持つヒーローについての情報だけだ。
あくまでそれは『誰と誰がこの授業の担当で、授業の場所はどこそこですよ』という程度の物。内通者が彼らに上鳴の情報を流したのは、話さなかった事を背信行為と受け取られ、人質を危険な目に遭わされる事を恐れた為である。
内通者は上鳴について”電撃を自在に操り、瞬間的にオールマイト並みのパワーやスピードを発揮する上鳴電気という生徒がいる”と報告した。それは何も間違っていない。
『身体許容上限』
問題は───”瞬間的に”という部分。
個性に対する造詣が深い者であれば、それが生体電流の増幅などによる物だと考える。かつ、瞬間的という単語から”諸刃の剣”のような性質を持っていると当たりをつけることができる。実際、死柄木と黒霧はそう当たりをつけていたし、間違いではない。
その上で上鳴について調査を行った。
どれだけ調べても驚くほど上鳴についての情報は出てこなかったが、上鳴が”ミカヅチ”として活動していた期間とその間の戦闘情報は得ることができた。
その情報と上鳴の戦いを見た4人の証言を情報の裏付けとし、2人はオールマイト並のパワーとスピードは切札として使われる可能性が高いと結論付けた。
そして、上鳴に長期戦を想定させることで力の使い所を吟味させ、温存させることで行動を”縛る”ことができると考え、それを作戦に組み込んでしまった。
まともな精神や身体の持ち主であればその作戦は通用しただろう。
オールマイトという絶対的支柱を欠いた状態で、まだオールマイトへの対抗策として用意された戦力が控えているのが分かっている状況で───自分の継戦力を落とすような真似はできない。それはどう考えても下策だ。
そう考えるのが自然であり、当たり前。
だから誰も疑問を挟まなかった。
しかし、上鳴電気という少年は肉体の損壊など顧みず、自分が使いたければ使うというイカれた精神を持っていた。
故に、理外の一手がヴィランの作戦を根本から覆す
『1000%───
オールマイトの80%に匹敵する膂力にまで強化された上鳴は、瞬間的にではあるが拳銃から放たれたパラベラム弾の時速2200kmを上回る程の速力を得る。
「は」
その速度に僅かでも反応できたのは、増強型のガドルと春久のみ。
単なる発動系の宗二では対応できなかった。
瞬きの内に宗二の正面に立った上鳴は、そのまま拳を振り抜き、その顔面を痛烈に打ち据えた。
勢いよく飛んでいった宗二は地面を何度も跳ね、数十メートル離れた場所で止まった。それから一度大きく痙攣した後、ピクリとも動かなくなってしまう。
上鳴は冷や汗を流す残りのヴィランに冷淡な眼差しを向け、言った。
「───次」
場所は変わり───山岳ゾーン。
そこに飛ばされたのは耳郎響香と八百万百の女子2人だけ。
そんな2人が相対していたのは、広場に追加投入された戦力と大差ない数のヴィラン達だった。
ほんの数週間前まで中学生だった見目麗しい少女2人。幾ら未来の英雄の卵とはいえ、数の暴力に成す術なく蹂躙され、穢れを知らぬその純白の肌は───
「ぐぁぁぁぁ!? 耳がぁぁぁ!」
「んぐぇ!」
「くそっちょこまかと動きやがって!」
しかし、無傷であった。
「はぁ、はぁ、クソッ! 多すぎだっての!」
耳郎は数多のヴィランをパルクールにおける障害物に見立て、疾走。
ある時はヴィランの股下をスライディングで抜けながら足にプラグを刺して個性で骨を砕き、またある時は自分を殴ろうと拳を振り翳した異形の腕を足場に飛び越え、サポートアイテムで指向性を持たせた音響攻撃でヴィランを撹乱した。
スタミナが切れそうになるほど耳郎の心拍数は上がり、個性もまた破壊力を増す。
「気を付けろ! あの耳のプラグに刺されたら終わりだと思え!」
『耳郎は脚だな』
───そっか。上鳴はこうなる事が分かってたんだ。
耳郎の個性を警戒したヴィランの脛に痛烈なローキックを食らわせ、悶絶するそのヴィランの頭を支えにして飛び越える。
『常に周りをよく見て、そこにある物全てを移動の道具だと思え』
上鳴の言葉を思い出しながら耳郎はひらりとヴィランを避け、すれ違い様に個性やローキックで敵の機動力を削ぎ落とし続けた。
その結果、ヴィラン達の統率が乱れ始める。
「くそっ! 邪魔だ! 戦えないならすっこんでろ!」
「何だとテメェ!」
集められたヴィランも所詮は烏合の衆。街中で燻っていたチンピラ崩れの半グレの集まりに過ぎない。そこにチームワークも無ければ、多人数での戦闘経験もない。動けない味方が障害物となる状況で、まともに戦うのは不可能だった。
だが、耳郎もまだ発展途上。
スタミナは急速に失われ、段々とヴィランの攻撃が掠るようになっていく。
そんな状態で尚ヴィランの気を引く耳郎に、共に山岳ゾーンへと飛ばされていた八百万は深い尊敬の念を抱かざるを得なかった。
「……凄いですわ、耳郎さん。たった数日でこれ程まで」
個性把握テストの時とは別人のように動く耳郎に、何も感じる物がないほど八百万は冷たい人間ではない。
『私が頑張って時間を稼ぐから、何か凄い武器作っちゃってよ』
八百万の脳裏にここへ飛ばされた直後に耳郎が言った言葉が過ぎった。
期せずして遭遇したヴィランだ。怖くない筈がない。だがそれでも耳郎は自分を奮い立たせ、更には八百万を気遣うように敢えて軽い言葉を使った。
───彼女の期待に応えられないなら、ヒーローを目指すことなどやめてしまいなさい! 八百万百!
八百万の個性は創造。
彼女が具体的に構造を知っていて、かつイメージできる物であれば生物を除いたあらゆる物質を作り出すことができる。
無論、欠点はある。
「時間が掛かりますの、複雑な物を作るのは」
「今どっから武器出しやがったあのアマ!?」
「うわぁぁぁ死にたくなぁい!?」
耳郎が数多のヴィランの気を引いている間に、八百万が”創造”によって作り出したのは───自己流の改造を施した口径7.62mmの機関銃『M134』だ。
M134はかつて航空機関砲にも用いられた『M61バルカン』をスケールダウンさせた物であり、軍用ヘリコプターで地上目標に対する制圧射撃に用いられる機関銃である。
映画などではこれを抱え撃ちするようなシーンが度々ある。
しかし、本体重量が18kg、そこに多数の弾丸と作動に必要なバッテリーの重量、発砲時の反動まで考慮すればそのような真似は不可能である。
だが、八百万はそのデメリットを幾つかの道具で補助することでカバーしていた。
発砲時の衝撃を分散させる為のロボットアームを背中から生やし、更に腰から二脚を生やすことで反動を軽減。
弾倉部分に自分の腕を連結させ弾丸を撃った側から創造で補充。同様にM134を動作させる為のバッテリーの役割も八百万自身が担う。
ヴィラン達を待っていたのは───
「あとお願い」
「任されましたわ」
一方的な蹂躙である。
八百万は一切の躊躇なく、非殺傷弾を込めたM134による掃射を開始した。
USJ内での戦闘は激化の一途を辿った。
土砂ゾーンの轟と葉隠は轟の活躍により早々にヴィランを無力化。広場に向かって足を進めた。
倒壊ゾーンの爆豪は切島と共にヴィランを撃破。爆豪は広場へ向かおうとしたが、切島の「他の奴らがやべぇ。人数差がこんだけあったら流石に」という言葉に思い止まり、他のゾーンに向かいながら外との通信が可能かどうかを試していく。
水難ゾーンの緑谷、蛙吹、峰田は緑谷が指を犠牲にすることで突破。爆豪切島ペアとは少し異なり、広場を迂回しながら外に繋がる非常口を確認しつつ、他ゾーンの生徒との合流を図る。
山岳ゾーンでは八百万のミニガン掃射により決着が付いた。2人は広場の様子を八百万製の望遠鏡で確認しながら、遠距離から援護が可能かどうかを考えつつ退路の確保も並行して行っていく。
しかし、他のゾーンでは生徒らは依然劣勢。
特に尾白は単独で軍勢を相手にする孤軍奮闘を強いられる。
広場ではプロとセミプロを足止めするネームド級ヴィランが戦い、エントランス前では事態の趨勢にも関わる激しい攻防が行われた。
そして、拮抗していた戦況は13号と残された生徒らの奮闘により、13号が戦闘不能に陥ったものの、1-Aで上鳴を除けば最速の少年である飯田がUSJの外に出たことで雄英側に傾いた───かに見えた。
───しかし。
「今行っても……というかもう今日は殆ど活動時間を使い切ってしまったんだろう? それならいっそここで私の教師論を聞いて今後の糧としたまえよ」
「ムムムム………しかし、我が身の至らなさ故に後輩や生徒らに迷惑をかけてしまっているのも事実……先生のおっしゃる通りか」
上鳴とのデモンストレーションで活動時間を大幅に減らしていたこと。
生徒の身を危険に晒してしまうほど戦いにのめり込んでしまったことなどが重なり、オールマイトは大人しく校長の話を聞く姿勢を取った。
「分かってくれて嬉しいのさ! では先ず、ヒーローと教師という関係の脆弱性と負担について話していくのさ」
───”英雄”は来ない。
ヒーロー側:ハードモード要素
・尾白 Vs 100人
・相澤、常に脳無と死柄木を警戒しながら Vs 100人
・オールマイトが来ない
・脳無の動向を常に警戒しないと一瞬で人が死ぬ(原作準拠)
ヴィラン側:ハードモード要素
・トップヒーロー並の学生がいる
・トップヒーロー並の学生の為に用意したメタが、そいつが考えなしに使う自損無視のスーパーパワーで全部粉砕される可能性が出てきた
・相澤が邪魔(原作準拠)