雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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やっと今の上鳴くんって実際どんくらい強いの? っていうのに対する明確な答えを書けた気がします。


ep.15 バレてはいけない秘密

 

 

「クソチートがッ……! 回数限られた切り札じゃねぇのかよ! 脳無、そいつさっさとぶっ殺してアイツを殺れ!黒霧ィ! 逃げられたんならさっさとこっち来い! 手伝え!」

 

 

ガリガリと爪を立てて血が滲むほど首を掻きむしる死柄木が叫ぶ。

 

 

黒霧が広場に合流し、脳無が上鳴へと向かおうと足を前へと踏み出した。

 

 

「行かせると思うか?」

 

 

その瞬間、相澤が”待った”を掛ける。

 

 

相澤は抹消で脳無の個性を消した上で、逆手に構えた折りたたみ式のマチェットで脳無の脚の腱を斬り裂き、その動きを止めた。

 

自分の打撃では脳無にダメージを与えられないと早々に見切りをつけたが故の判断だった。

 

 

───今ので殆ど刃が使い物にならなくなった。とんでもない化け物だなコイツは。

 

 

相澤は刃が欠けたマチェットを放り捨て、武器をメインの捕縛布へと切り替えた。

 

 

───コイツの個性が分からない現状で、抹消の対象から外すのは下策だ。

 

 

それはつまり、まだ大量に広場に残存するチンピラ崩れの群れと、その頭目である死柄木を個性なしで相手取らなくてはならないということ。

 

 

そして、相澤の敗北はオールマイト並のパワーを持つヴィランとその他のヴィランを全て上鳴1人に押し付けることに直結する。

 

 

───そうなれば敗北は必至。それで雄英の威信が地に落ちるくらいならまだいい。平和の象徴がいて何故、なんて記事が出ても「非番でした」でゴリ押せる。だが、その状況で生徒が全員無事に生きて帰れる保証は0に等しい。少なくとも上鳴は確実に死ぬ……それは駄目だ。

 

 

相澤はヒーローであり教師だ。

生徒の身の安全を守る為に命を賭ける覚悟と義務がある。幾ら仮免を持っているとは言え、上鳴に頼り切っている現状は相澤としても不本意。だがその力が無ければ、相澤1人では太刀打ちできない。

不甲斐無さに相澤の捕縛布を握る手に力が入った。

 

 

苛立つ死柄木が唾を飛ばす勢いで言った。

 

 

「カッコいいなぁヒーローは!」

 

 

広場の均衡は相澤によって無理矢理作り出された薄氷の上に成り立っていた。

 

 

 

 

 

 

上鳴を足止めするメンバーはそれぞれが確固たる役割を持っている。

 

 

ガドル、春久が前衛。それぞれが電力への耐性を付与されており、上鳴が自由に動けないようにする為の足止め役だ。

 

 

鉄の個性は最初から電撃耐性を持っている。金属の箱に電気を流すと表面から地面に流れていくのと同じ原理だ。だが、機動力が低いため固定砲台に徹するよう火力を底上げする為の個性を付与されている。役割は遠距離からの火力支援。

 

 

宗二は電撃を自身に誘導し無力化、そしてもう1人の遠距離攻撃担当である米長が電気耐性を持たない為、その護衛を役割としていた。

 

 

唯一ソキルだけが役割らしい役割を持たない。個性的には前衛だが、電力への耐性や火力の底上げではなく機動力を強化されているため、手薄な所をカバーする調整役を担っている。

 

 

元から連携が得意な天忠會の4人に外様のガドルとソキルが最低限合わせられれば、それで良かった。上鳴が切札を使えばその後に生まれる隙を突けば良い。使わないなら人数差と力でゴリ押しすればいい。そうできるだけの戦力が揃っていた───筈だった。

 

 

次に上鳴が狙うのは邪魔な遠距離型。誘電の個性を持つ宗二から程近い場所にいた男、米長路次也。

 

 

上鳴は右手で米長を指差して宣言した。

 

 

「次はテメェだマンホール」

 

 

「路次也逃げェ!」

 

 

鉄が重たい足音を鳴らしながら、上鳴に向かって掌の水晶体から熱線を放った。

 

 

射線上のアスファルトが融解する程の高熱。当たれば死は免れない。だが、それは上鳴を狙うにはあまりにも遅過ぎた。

 

 

「公共物だろ、それ。クソ迷惑なんだよ」

 

 

上鳴は熱線が自分を捉えるよりも先に米長へ肉薄。襟首を掴んでその身体を射線上に放り投げた。

 

 

鉄は熱線の放射を中止しようとしたが、強化されていたが故に出力調整を誤った。熱線は消えず、米長の右腕は彼が悲鳴を上げる間もなく消し炭になった。

 

 

「お、おぉ……!」

 

 

鋼の身体が怒りで震え、装甲が擦り合わされ不協和音を響かせた。

 

 

「お前ェ! よくも、よくもワシに路次也を!」

 

 

「うるせぇ」

『身体許容上限』

 

 

鉄が冷静でない状態でそれに対応できたのは、これまでの戦歴によって培われた勘と反射神経故か。

 

 

鉄は個性で纏った機械の鎧が拾った合成音声を聞き、肉弾戦でのダメージを最小限にする為に反射的に身体の前で両腕を交差させ、急所を守る姿勢へと移った。

 

 

『300%』

 

 

ただ惜しむべきは、上鳴の方が上手だったということ。

 

 

オールマイト並の攻撃を想定していた鉄の肉体に叩き込まれたのは、それよりも数段劣る威力の拳。

 

 

だが、鉄の塊を歪ませるのに天候を変える力など必要ない。

 

 

重要なのは防御の位置とタイミングをズラされたこと。

 

 

───分かってはいた、つもりやった!

 

 

数発の拳打で鉄が纏う人間戦車(個性)の鎧は歪み、砕け、中身が露出。鉄は全身をくまなく駆け抜けていく衝撃に血を吐きながら叫んだ。

 

 

「上鳴電気ィ!」

 

 

「そんなデカイ声出さなくても聞こえてるよ。ジジイじゃねぇんだから」

 

 

上鳴の身体から奔る出力が落ちた稲妻が、生身の鉄を捉える。鉄の電撃耐性は個性で生み出した鎧が完全である時しか地面に電流を流せない為、今は機能していない。

 

 

黒焦げになった鉄には一瞥すらくれず、上鳴は残りの3人を見ながら手を握ったり開いたりを繰り返した。

 

 

その電気信号を認識したコガネが言う。

 

 

『マスター、このままだと死にますよ』

 

 

「またか……何度も言わせんな。命が惜しくてヒーローなんぞやってられるかよ」

 

 

死柄木は上鳴が初手で1000%を使用したことで「多少負荷がある程度の手札の一つだ」と錯覚しているが、実際は1度の戦闘で2度も使えば身体が動かなくなってもおかしくない程の負担が掛かっている代物だ。

 

 

気合いだ根性だと言って戦いはするが、肉体はこのレベルの戦闘が長時間続けば耐えられない。

 

 

オールマイトと戦えていたように見えていたのも、約3分という制限時間があったから。

 

 

それでも、上鳴の実力がずば抜けて高いことに変わりはない。オールマイトの見立ては間違いではなく、上鳴は現時点でも時代が違えば”最強”を名乗る事さえ許される程の実力者だ。

 

 

しかし───

 

 

「あぁ、なるほどな」

 

 

ずっと外側から戦闘を見てきた男、ソキルはそれに気が付いた。

 

 

「お前───長く戦えないな?」

 

 

この戦場において、最もバレてはいけない上鳴の秘密が露呈した。

 

 

そのタイミングで最悪が重なる。

 

 

「っ!?」

 

 

上鳴の視界の端から黒い人影が突っ込んで来た。それが誰であるかを瞬時に把握した上鳴は人影を受け止めた。

 

 

「相澤先生、大丈夫………じゃなさそうだな」

 

 

「上鳴すまない、しくじった」

 

 

相澤は右腕が握り潰されており、頭部からの出血も見られた。致命傷ではないが紛れもなく重症。とてもではないが戦闘が続行できる状態ではなかった。

 

 

上鳴はその場に優しく相澤を寝かせ、それから敵の戦力を確認した。

 

 

まだ仕留めきれていない3人。全員が近接に長けた発動系。

 

 

”推定オールマイト級ヴィラン”脳無。

 

 

顔や破けた服に痣などが見えるが動く分には支障が無さそうな死柄木。

 

 

一見すると無傷にも見える黒霧。

 

 

相澤が仕留め損なった30人余りのヴィランはエントランスにいた生徒たちを襲っている。しかし、そこは1番生徒が多いエリアでもある。制圧までは時間の問題だった。

 

 

エントランスの方角を見ていた上鳴に、死柄木がその心中を見透かしたように言った。

 

 

「だが、安心はできないな。ヒーロー」

 

 

「……随分とボロボロになってんじゃんか、手だらけマン。それなのに俺の心に寄り添えるなんて、お前俺よりよっぽどヒーロー向いてるよ」

 

 

「そのニヤケ面がいつまで保つか見物だなぁ。理解できてんのか? 頼りのプロは2人とも瀕死でお前自身もそう長くは戦えない。そんな中で、あそこにいる生徒に脳無や俺たちが行かないように気を付けながらこれから戦わなきゃいけないんだぜ?」

 

 

「……はぁ? お前こそ何言ってんだよ。俺が何で顔も覚えてない雑魚なんかの心配なんかしなくちゃなんねぇんだよ」

 

 

「お前嘘下手すぎだろ。ウケる。でもせっかくだ。もしかすると本当に嘘かもしれないし───脳無、見せしめに1人殺してこい」

 

 

脳無が動くのと同時、上鳴も走り出した。

 

 

許容上限80%───その膂力はオールマイト(ワンフォーオール)換算で20%前後。

 

 

脳無と生徒の間に割って入った上鳴に待っていたのは、No.1の一撃にも匹敵する強烈な右ストレートだった。

 

 

───重いっ! だが!

 

 

上鳴が腕を軋ませながらそれを受け、そこから脳無へ電流を流せば動きが止まった。そのまま出力を上げていけば、黒い肉体から肉が焼ける匂いと共に煙が昇っていく。

 

 

その隙に上鳴は体勢を立て直し、死柄木に向かって言った。

 

 

「何だ、コイツに耐性は無いのかよ!」

 

 

「必要ないんだよ。コレにはな」

 

 

電流によって焼けた脳無の肉体が凄まじい速度で再生していく。それを見て死柄木の言葉の意味を理解した瞬間、上鳴は笑った。

 

 

死柄木はくぐもった笑い声を上げ、自慢げに語り出した。

 

 

「イレイザーヘッドは本当に厄介だった。脳無の超再生を封じた状態で脚の腱切りやがるし、無個性状態のくせにクソ強いし。何回か個性切らしてんのにその度に仕留めきれなくて度々脳無の個性が消されて中々再生しねぇのなんの………まるで定期的にディスペル使ってこっちの強化引っぺがしながら自分は回避率アップ使ってくるソシャゲのクソボスみたいな……分かるかな? この感覚。わかんないか高学歴には」

 

 

それは小学生が友達に「ゲームでこんな強敵を倒した」と言うような口調だった。

 

 

「……共感が得られないって分かってることを得意げに話すんじゃねーよ。先生言ってたぜ? そういう自分語りは友達無くすってな」

 

 

「その先生は友達の作り方は教えてくれるのに、命乞いの仕方は教えてくれなかったんだな……まあ聞く気もないけど。あとついでだから教えてやるよ。脳無には”超再生”の他にもショック吸収が付いてるんだ。オールマイト用に改造された人造サンドバッグ人間───それがコイツってわけ」

 

 

「リジェネ持ってくる癖に物理半減なんて頭悪いバフ入れやがって………少しは楽しめそうだなァ!」

 

 

「しっかり分かってんじゃねぇかよクソガキ! その強がりがいつまで続くか見物だなぁ! やれ、お前ら!」

 

 

死柄木の号令を受け、新たに脳無が加わった4人が四方から上鳴へと襲いかかった。

 

 





上鳴くんは無反動で戦うと2回目のインターンを終えた緑谷と同等の身体能力で、原作上鳴以上の出力で放電したり色んな応用を使ってきます。この時点で並のプロヒーローじゃ歯が立たないくらい強いです。
そして反動を考慮しなければトップヒーローと同等。極短時間なら弱体化オールマイトにも食らいつけます。エンデヴァーも戦い続けると熱がこもって弱体化するデバフ持ちなので、現時点ではオールマイトの見立て通り総合的には「エンデヴァーと同格」となります。


次回、「分かっていたことだ」
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