雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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皆様、こんばんは。本日2回目の更新となります。お気をつけ下さい。


ep.16 分かっていたことだ

場所は変わり、山岳ゾーン。

八百万は個性で作り出した双眼鏡を覗き込みながら、冷や汗を流しながら言った。

 

 

「状況が最悪に近い………まずいですわ」

 

 

双眼鏡に映っていたのは、倒れた相澤に戦闘の余波がいかないように立ち回っている上鳴の姿だった。

 

 

電撃の効かない3人の合間を縫うように、八百万の目には殆ど残像にしか映らない速度で動き回るソキルが、常に上鳴の動きを阻害している。

 

 

それを嫌がった上鳴が全方位に放電しようものなら一気に距離を取り、自分を狙う稲妻を纏う拳はガドルを盾にして防いでいた。そしてガドルが有するゴムの弾性で上鳴がバランスを崩したタイミングで脳無から放たれる、オールマイト級の拳。

 

上鳴はどうにかそれを避けているが、空を切った脳無の拳がUSJの地面を叩くと水柱のようにアスファルト下の地面が立ち昇った。

 

 

当たったら致命傷なのは明白。

そして雷撃による足止めがまともに機能しない以上、今の上鳴は徒手でそれを通せる隙を生み出さなくてはならなかった。

 

 

上鳴は笑顔を浮かべてはいるが、口元には喀血の跡があった。

 

 

「上鳴さんの戦闘力はオールマイト先生とほぼ同等。彼が負けてしまえばその時点で……」

 

 

八百万が戦況の悪さに思わず身体を震わせる後ろで、耳郎は「何かこのあたりにいるな……えいっ」と地面にプラグを刺し、地面に隠れてやり過ごそうとしていたヴィランを昏倒させた。

 

 

そして耳郎はヴィランを地中から引き摺り出し、八百万製の拘束具で身動きできないようにしてから言った。

 

 

「ごめん。それ貸してくれる?」

 

 

双眼鏡を受け取った耳郎はそこに映る物を見て「……やっば」と口に手を当て、それから何か考え事をするようにその手を顎に添えた。

 

 

「耳郎さん?」

 

 

双眼鏡に映る上鳴の動きを見て、耳郎は思う。

 

 

───上鳴は強い。でも本当にオールマイトと同じくらい強いの? あの時上鳴は死に掛けたって言ってたけど、オールマイトはそうじゃなかった。本当に同格ならオールマイトだってもっと……

 

 

授業では上鳴が有利な状況から戦闘が始まった。それでも結局は五分五分の状態になり、最終的に試合としては引き分けであっても勝負としてはオールマイトが勝っている。

 

───あの時みたいに武器はないし、周りに武器になるような物もない。あの脳みそが飛び出てるキモいのはウチから見ても凄く強いのは分かる。上鳴もずっとアイツを警戒してる。だから他に手が回ってない。

 

 

”助けないと”

 

 

その時、耳郎に電流が走った。

 

 

「ちょっとお願いがあるんだけど…………とかって作れる?」

 

 

「詳しい材質が分からないので我流にはなりますが。それくらいならまだ余裕はありますわ」

 

 

「それじゃあもう一つ追加して欲しいんだけど……」

 

 

耳郎は上鳴の個性の概要を知っている。その上で今上鳴がどういう状態なのかを察し、助けになる為に頭を働かせた。

 

 

それから程なくして、個性把握テストのソフトボール投げでも使用した大砲に耳郎のアイデアを詰めた八百万が言う。

 

 

「角度良し……無風で助かりますわ。いつでも行けます」

 

 

「……よし。行こう」

 

 

耳郎は砲をそっと撫でてから砲撃音に備えて耳を手で覆った。

 

 

後に、八百万(クリエティ)の必殺技となる技の先駆けが放たれた。

 

 

 

 

 

 

八百万の砲撃より少し前。

広場の様子を別々の場所から伺う人影があった。

 

 

土砂ゾーンのある方角に轟、葉隠。

 

 

ワープ後程なくして轟の強力な範囲攻撃でヴィランを纏めて撃破。消耗を避ける為に葉隠が隠密しながら広場を目指し、今到着したばかり。

 

 

山岳ゾーンのある方角に爆豪、切島。

 

 

2人は初め倒壊ゾーンに飛ばされていた。そして機動力と制圧力に長けた爆豪の活躍により、烏合の衆は瞬く間に黒焦げとなった。

そのまま広場へ直行しようとした爆豪だったが、切島の言葉でクラスメイトの救援を優先。しかし最初に訪れた山岳ゾーンで、八百万がミニガンの掃射でヴィランを蜂の巣*1にするのを見て、「やっぱ大丈夫じゃねぇか!」とブチ切れ。切島はキレた爆豪に引き摺られる形でここまで来た。

 

 

暴風・大雨ゾーンのある方角に緑谷、常闇。

 

 

峰田と蛙吹の協力を得た緑谷は指一本を犠牲に水難ゾーンを突破し、クラスメイトの救援に向かうため隣の暴風・大雨ゾーンに突入。緑谷はそこでヴィランに背後を取られた常闇を助けるべく無我夢中で個性を使い、自身の肉体が壊れない感覚を物にした。緑谷はこのゾーンにいたヴィランとの戦いを通し急速に成長。全身に個性を行き渡らせるにまで至る。

そして協力してヴィランを撃破した5人は、広場に向かう緑谷の援護として常闇が同行。残り3人はエントランスに向かい、今に至る。

 

 

相澤が倒れ上鳴の孤軍奮闘が始まった時には広場に到着していた6人だったが、上鳴の援護に回ろうにも割り込む隙が見つからず無力さを噛み締めていた。

 

 

「爆豪、ここは上鳴に任せて出ようぜ」

 

 

「緑谷……悔しいが俺たちではまだあの領域に達していない」

 

 

「葉隠、先に戻れ。今度こそ死んじまうぞ」

 

 

それぞれの潜伏場所で相方を窘める切島、常闇、轟。しかし窘められた3人は頑として動かなかった。

 

 

「個性だって身体能力だ。あの静電気野郎がどんだけ強かったとしても、ノーリスクであんな力が出せる筈がねぇ───現に見ろ。大して攻撃が当たってないのに、身体中から血が噴き出してやがる」

 

 

「上鳴くんの個性は強い。でも、全部聞いた訳じゃないけど、少なくとも1つだけ弱点があるんだ。それは………」

 

 

「上鳴くんね、触らないと電撃の誘導ができないんだって。全方位放電は強いけど隙がおっきいから使いたくないって言ってた」

 

 

3人は分かる範囲で上鳴の個性を推測し、その窮地を理解していたからこそ留まっていた。

 

 

だが、それは相方達も同じだ。窮地を理解しているからこそ邪魔をしたくない。

 

 

「だからって俺たちじゃ割って入れねぇ事に変わりはないだろ。むしろ今見つかったらそれこそ上鳴の負担になっちまう。今の俺たちにさ───」

 

 

「上鳴に接近戦を挑んでいる以上、その弱点は考慮に値しない。アレほどの男が触れられない敵ならば、今こうして話すことすら叶わないだろう。俺たちに───」

 

 

「悪い。だけど敢えてキツイ言い方をする。それが分かっていた所で───」

 

 

 

 

 

「「「何ができる?」」」

 

 

 

 

 

───何か1つ。キッカケがあれば。

 

 

 

 

 

「「「アイツらに勝てる」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『身体損壊率19%、20%、21%………』

 

 

”死”───身体を動かすほど、個性を巡らせるほど、その足音は大きく強くなってくる。しかし、それを実感すればするほど、上鳴は何も感じない筈の身体が燃えるように熱く感じた。

 

 

「楽しくなってきたなァ!」

 

 

その形相は正しく獣。

己の生理欲求にのみ従うその姿は、人というには些か野生的過ぎた。

 

 

上鳴と対峙する脳無は何も感じない。故に怯える事はないが、それと相対する3人は違った。

 

 

死を目前に笑う怪物。

我が子を守る為に密猟者に立ち向かう親象。

組の為ならば死を恐れない鉄砲玉。

 

 

三者三様の見方だ。だが、上鳴を畏怖している点については共通してした。

 

 

「何で攻め切れない……!」

 

 

脳無はともかく、他の3人は外付けされた個性がなければ上鳴に対して成す術などない。

 

 

しかし、それを理解しようとしない死柄木は苛立ち、焦燥から首を掻きむしった。

 

 

USJから生徒(飯田)が救援を呼びに行ってそれなりの時間が経とうとしている。もういつオールマイトや他のヒーローが徒党を組んで押し寄せてきてもおかしくはない。その考えが死柄木の不快感を更に煽っていた。

 

 

故に死柄木は悩んだ。

 

 

自分もそこに加わるべきかと。

 

 

4人の戦闘速度について行けない訳ではない。だが、万が一上鳴の雷撃を受ければその時点で終わりだ。逃げ切れるかどうかの全てを黒霧(他人)任せにできるほど、死柄木は人を信用していなかった。

 

 

「まだ……まだ大丈夫だ」

 

 

生徒はチンピラで足止めしている。幾ら金の卵とは言え、流石に100人近く居たら早々倒せない。

 

 

先入観。

 

 

固定観念。

 

 

入念な準備をしたからこそ───死柄木は”生徒がチンピラを倒して乱入してくる可能性”を思考の外へと追いやっていた。

 

 

そして、上鳴が4人からの攻撃の嵐をいなし続ける最中。山岳ゾーンの方から砲撃音が木霊した。

 

 

思わずその方向を見る死柄木。

 

 

次いで視線は、上空にある巨大な袋に釘付けとなった。

 

 

そこに書かれていたのは『YAOYOROZU ITEM PACK』の文字。

 

 

袋の口を縛っていたリボンが宙空で解け、上鳴の頭上に落ちてきたのは───

 

 

「何だこれ。黒い雪?」

「アレはなんだ。杖か」

 

 

「馬鹿がっ! ボサっとするな!」

 

 

時間にして数秒。

僅かに戦闘が止まって生まれた、その間隙を縫うように。

 

 

「行くぞ葉隠」

「応よ! あ、そこお尻だからちょっと場所変えて欲しいな!」

「……悪い」

 

 

最初に動いたのは、轟と葉隠のペア。

葉隠は轟が100m走の際に自分の足元に氷を連続で生成してそれを重ねることで高速移動していたのを思い出し、その要領で「自分を宙空に押し出して欲しい」と轟に頼んでいた。

 

「本邦初公開! いくよぉ……ハイ、ピカーンッ!」

 

 

「ちっ!?」

「眩しっ」

「うぉぉぉ目がぁ」

 

 

氷によって押し出された葉隠が宙空で発光。ヴィランの隙を更に大きくした────後は雪崩れ込むだけだ。

 

 

轟が氷結により上鳴を囲んでいた脳無以外のヴィランを分断。そこに切島、緑谷、常闇が突っ込んでいく。そして轟と爆豪は脳無の背後にいた2人へと向かった。

 

 

「服着てんだからやっぱそこには実体があるよなぁ!?」

 

 

「不覚ッ……!」

 

 

爆豪の強襲を受け、黒霧は死柄木から引き離された。

 

 

「凍れ」

 

 

死柄木は轟の氷結を個性で砕くが如何せん手数が足りず、後退を余儀なくされた。

 

 

苛立ちが限界を超えたのか、首だけでなく上半身の至る所を激しく掻きむしりながら死柄木は叫んだ。

 

 

「分かってた……分かっていたことではあった……! だけどここまで弱いとはなぁ!」

 

 

それに、轟は静かに言葉を返した。

 

 

「だから有象無象って言うんだろ」

 

 

死柄木の血走った目が轟へと向けられる。

 

ヴィラン達の意識が自分から他へと逸れた中、上鳴は空から落ちてくる見覚えのある物を見て口角を上げた。

 

 

「本当にお前らって奴は………いい奴らだ」

 

 

期せずして生まれた一騎打ちの機会。

しかし、時間的な余裕はない。

クラスメイトがヴィランを足止めできる時間。

自分の身体が壊れ切るまでの時間。

 

 

そのどちらが先に尽きても、現状は決壊する。

 

 

上鳴は右手を天に掲げて戦杖を受け取った。

そして降りしきる黒い雪もまた、戦杖と同じく武器となる。

上鳴は個性の応用で生み出した磁気で黒い雪───”砂鉄”を自身を中心に掻き集めた。集まった砂鉄はのべ30kg。それを電熱で溶かしながら任意の形状に固めて戦杖に纏わせる。

そうして出来上がったのは黒い巨大な戦斧だった。

 

 

上鳴は感触を確かめるように軽くそれを振るい、その勢いで自身に肉薄していた脳無の右足を断ち切った。

 

 

「お前とちゃんと殺り合えなかったことだけは残念だ………だけどもう、終わりにしようぜ」

 

 

戦いは最終局面を迎える。

 

 

*1
比喩





次回───”更に向こうへ”
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