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今回はUSJ事後処理の話になります。
襲撃後───保健室。
「たはーっ! 悪いな先生ッ! 全部治してもらっちゃって!」
「もうあたしゃ何も言わないよ………死ななきゃどうにかなりそうだよアンタに関しちゃ……」
USJでの激闘の後、上鳴はリカバリーガールの治癒を受けて全快していた。唯一傷跡として残ったのは、脳無戦で稲妻模様に罅割れた目尻の傷くらいだった。
上鳴が単なる体力馬鹿である可能性を否定できないリカバリーガールであったが、1つだけ気になる点があった。
「アンタ、個性の再検査を受ける気はあるかい?」
「ん? 何でです?」
「アンタ自身の再生力が上がっているとしか思えないからさ。個性で電気信号はある程度弄れるんだってね?」
「どうなんだろう…… そうとしか思えないからそう言ってるだけで、実際の所はあんまり分かってない」
上鳴は両腕を組み、眉間に皺を寄せながら唸った。
「なら尚更だね。もしかするとアンタの脳が、というより個性がアンタを死なせないように治癒を促進させてる可能性もあるさね。それが人より少ない体力で私の治癒が効く理由なら、まあ納得できなくはないって所さ」
言外にそれ以外の理由では困るというリカバリーガールに、上鳴は何も考えずに答えた。
「ふーん。まあ受けろって言うなら受けてくるよ。ついでに鍛え直して貰おっかな」
リカバリーガールの言葉には然程興味を示さず、上鳴はベッドの上で軽く伸びをして降りた。
そして自分の隣のベッドで横になっていたクラスメイトの少年、尾白に手を挙げて挨拶をしながら言った。
「じゃあな! 早く元気になれよ!」
「ああ。体育祭もあるし、絶対に治して見せるさ」
「たいいくさい………? まぁ、何でもいいか。それより治ったら組手やろうぜ」
「ははは、お手柔らかにな」
上鳴はそう言って尾白に手を振り、その日は学校が用意したタクシーに乗って帰宅した。
襲撃の翌日は臨時休校となっていた。
しかし、上鳴は雄英から送迎付きで校内にある会議室まで足を運んでいた。呼び出された理由はヴィランの詳細について聞きたいといった物だった。
具体的にどんな話をするのかを上鳴は聞いていなかったが、聞かれた事だけ喋ればいいだろうと思いながら会議室のドアを叩いた。
上鳴が扉を開けると、会議室には雄英のプロヒーロー資格を持った教師陣の他、見慣れないスーツ姿の男と猫の個性を持った制服姿の警察官が1人いた。
「俺が最後っすか?」
何気なく上鳴が尋ねると根津が答えた。
「いや、皆今しがた集まった所だよ。そして上鳴くん、疲れている所本当に申し訳ないのさ。また後日お家の方に正式に謝罪でお伺いさせていただきたいのだけど、一先ずこの場で謝らせて欲しいのさ」
根津がそう言うと教師陣も席から立ち上がり、腰を90度に折り曲げて謝罪を示した。
上鳴は「気にしてないんでいいっすよ。モーマンタイっス」と頭を上げるように促すが、ただ1人頭を上げない者がいた。
「上鳴少年、本当にすまない………っ!」
オールマイトである。
然もありなん、彼が無茶な人助けをしていなければ上鳴が無用な怪我を負うことは無かっただろう。実際、上鳴は自分の対策として用意された6人への対処方法をちゃんと用意してはいた。ただ、生徒の状況把握や脳無の乱入などアクシデントが重なり、それを実践する余裕が無くなっただけだ。
もし仮にオールマイトがいたなら相澤の手が空き、そうなったら相澤は先ず上鳴を狙う6人の個性を消すことになるので、上鳴が有象無象ごと秒殺しただろう。
しかし、ヴィランがオールマイトを狙って襲撃を仕掛けてきたという事を忘れてはいけない。今回の襲撃では見せていない手札があったとしても何ら不思議な事はなく、ワープゲートという特殊かつ凶悪な個性があらゆる仮説に実現性を与えてしまう。
───つまり、考えるだけ無駄。
上鳴はその辺り、善院の影響か
そもそもオールマイトの人助けにしても、オールマイトでなければ救えなかった命があったかもしれない。決して彼の行動は間違いではないのだ。
「私の教師としての自覚が足りないばかりに、君にはいくつもの迷惑を………」
それ故に、上鳴はオールマイトが教師として謝っている事くらいは理解していた。
ただ、上鳴はNo.1ヒーローのオールマイトにしか興味がない。なので教師オールマイトには最初から思う所など何一つとして無い。
「だから、別に気にしてないからいいって」
「いやしかし……」
───このオッサンちょっと面倒くさいな。
それを度外視して謝り倒してくるオールマイトを、上鳴は少し鬱陶しく思った。
ここで謝罪を受け取って話を進められるコミュニケーション能力が上鳴に備わっていれば良かったのだが、「要らないものは要らない」とコミュ拒否レベルで突っぱねてしまう上鳴にそれを期待するのは不可能。むしろまともなコミュ歴が幼稚園中退の上鳴にそこまでの気遣いを要求する方が酷という物だ。
このままではヒョロガリ金髪骸骨おじさんが口から血を垂らしながら永遠に謝り続ける最悪のループが完成しかねなかった。
雄英教師陣が「そろそろええやないですか」とオールマイトの肩を叩こうか考え始めたタイミングで、スーツ姿の男が感情のまるで読めない真っ黒な瞳を上鳴へと向け、口を開いた。
「話の腰を折ってすまないが、一つ確認したいことがある」
「何だ? ……というかどなた?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。私は塚内。オールマイトと旧知の刑事だよ。君に尋ねたいのは脳無と呼ばれたヴィランについてだ」
「ああ………俺が殺した奴、殺したって言うより壊した奴か」
まるで”皿を一つ割ってしまった”とでも言うような気軽さで上鳴が口にした言葉に、雄英教師陣の背筋に冷たい物が走った。
「すまない。言葉の意味を丁寧に教えてもらえると助かるかな」
そう言う塚内の顔は表情こそ柔らかいが、視線は鋭さを帯び、言葉の節々に棘のような物が含まれていた。
上鳴はそれを気にする様子もなく答えた。
「そのままだな。アレは動く死体だった。行動は全部パターン化されてたし、格闘技は色々と混ざり過ぎてよく分からんかったが、自分と同じくらいの体格の人間を相手にする事を想定していたように思う。パターンにハメて斧で解体してた時に、何回か想定よりちょっと上の位置に打撃が飛んできたから間違いない。何より複数の個性持った脳みそ剥き出しの人間を普通の生き物だとは思いたくねーよ。実際、あの手だらけマン、なんて名前だっけ」
「死柄木弔」
「そうそれ。そいつが言ってたんだ。こいつはオールマイト専用の人造サンドバッグ人間だ、ってな」
上鳴は部屋から感じる視線を受け、どう言葉を繋ぐか暫し考えた。
───何か、凄い疑われてる。死体を残さなかったのはやっぱダメだったか。でも超再生の程度が分からなかったし、再生に何かしらのエネルギーは使ってたからある程度削ってから再生し切れない一撃で殺しきらねーと……死人が出てもおかしくなかった。流石に知ってる顔が俺のミスで死んだら寝覚めが悪い。
「何? 疑ってんの? 」
そして開き直った。
嘘だと思われようが上鳴からするとどうでも良かった。上鳴は自分がやった事に対して、少なくともこの場の人間から非難される謂れはないと思っていたからだ。
何より、上鳴は己がやった事を後悔するような性質ではない。
上鳴に対し、塚内が何か言おうとしたタイミングで相澤がそれを遮るように言った。
「上鳴の言ってる事に間違いはないです。俺も複数個性については確認しているし、何よりアレが人の腹から出てきた物とは思いたくない。それだけ異質だった」
相澤の言葉にミッドナイトが眉間を揉みながら言った。
「相澤くん、流石にそれは差別発言よ……」
「実物を見ていない人間は何とでも言えますよ。素の力でオールマイト以上の膂力があって、その上でショック吸収、超再生の個性持ちだ。馬鹿げてるにも程がある。プロでアレに真正面から勝てる可能性があるのはそれこそエンデヴァーくらいでしょう。そして、エンデヴァーは……最悪を阻止する為なら躊躇なくヴィランを焼き殺す。生け取りなんて
「イレイザーヘッド、気分を悪くしたならすまない。私は何も彼を責めたてたい訳ではなく……」
「仕事については理解しています。そしてそれを承知で言いますが、コイツは数時間前まで死に掛けてた病み上がりだ。日を改めても良かったでしょう」
そう言う相澤も腕を布で吊っており、額には包帯を巻いていた。体の見える部分には何かしらの治療の痕跡がある。相澤も重傷者である事には変わりない。彼がこの場に現れたのはそれが担任としての責務だと考えていたからだ。
上鳴は相澤の言葉に感嘆したように言った。
「アンタが言うと説得力が違うぜ相澤先生………怪我は大丈夫な感じ?」
「軽い骨折と何針か縫っただけの軽傷だよ。明日か明後日にはリカバリーガールの治療で元に戻る。その程度の怪我を理由に、お前が会議に出るのに俺が出ない訳にはいかないだろう」
「良い先生過ぎるな……クラスの皆に自慢しよ」
「やめろ」
話が明後日の方向に逸れそうになった所で、根津が咳払いをしてから話を始めた。
「仲がよろしくて大変結構! 塚内くんの懸念も分からなくはないが、オールマイトが授業に出られそうもないというのが事前に分かっていたのと彼が仮免を持っていたおかげで、臨時的にプロヒーローと同等の権限を付与できていた。現行法的にも彼に罪は無いのさ!」
何より、と前置きをしてから根津は話を続けた。
「今回の襲撃で上鳴くんの個性がバレていた事に関して、非常に残念な話だが我々は内通者の存在を疑わなくてはならない。そして襲撃の後、ヴィラン側が早くも主犯格の奪還に動いた事についても話をしたいところだね。明らかにこの行動速度は彼らが捕らわれる事を見越して用意していたからだろう」
「───ええ、校長のおっしゃる通りです。内通者の件もそうですが、雄英から最寄りの勾留所に送られるまでの僅かな時間と距離での犯行でしたから。相当なキレ者が背後にいるのは間違いないかと」
会議室に重苦しい空気が満ちる。
またこのレベルの襲撃があるかも知れない。雄英と警察はそう考えて動くことを強いられていた。
「そして、今回の護送車襲撃から生き残った警察官の証言から推測される個性持ちを警視庁のデータベースと照合した結果……1件だけヒットしました」
塚内が側にいた警官に資料を配るように合図をする。その資料に目を落とした上鳴が目を見開く。
「───ハッ」
それから獲物を見つけた獣の様に口角を吊り上げた。
塚内は一瞬だけ上鳴へと視線を向けて、それから言葉を続けた。
「護送車襲撃の犯人は現在指名手配中の凶悪ネームドヴィラン、”血狂い”マスキュラー。2年前に上鳴くんと交戦歴があるヴィランです」
ヴィジランテでヴィランを火災旋風で焼き払おうとしたり、脳無を消し炭にするまで焼いたヒーロー”エンデヴァー”
ヒーローを目指した理由的にもコイツなら殺るという確信があります。