雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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前話から間隔が空いてしまいました……申し訳ないです。


ep.21 疾風迅雷 -壱-

 

 

体育祭1年生ステージ、観客席。

 

 

「何やっとんねんあのアホは……」

 

 

善院はいつもの白衣ではなく、書生服に似せたコスチュームを纏い最前列の席で上鳴の凶行を目の当たりにしていた。

 

 

───これ、親御さんに何て説明したらええんやろ。

 

 

気の弱い上鳴母とやや抜けている上鳴父の顔を思い出し、善院は顔を両手で覆って空を見上げた。

 

───デンキくんの言動は教育について一任されていた自分にも責任の一端はある。あるんやが、相澤くんは何をしとんのや。

 

 

神速フリック入力で相澤にメッセージを送りつつ、眼下の様子に目を向ける。丁度上鳴が爆豪から人語を奪った所だった。

 

 

「……考えたら負けやな」

 

 

社会性を身に付け始めて人として成長した上鳴を見にきたつもりだった善院は、まだまだ手の掛かる弟分の様子に肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

1年生ステージ第一競技───障害物競争。

競技は会場の周囲約4kmのコースに点在する3つの障害エリアを駆け抜け、会場に戻ってくる順位を競うというシンプルな物だ。

 

 

他生徒に対しての個性を用いた妨害は致死攻撃を除き全て許される。違反はコースから外れる事のみ。自由度は極めて高い。

 

───コース前の入り口が人数に対してかなり狭い。3つと言っちゃあいるが、実質は4つだなこれは。

 

 

上鳴は冷静に分析しつつ、自分に向けられた敵意や悪意に浸りながら開始の合図を待っていた。

 

 

上鳴が待機している場所はほぼ最後尾。最初からやる気のない経営科の前に陣取る普通科のど真ん中だ。

 

 

この場にいるのは善良なヒーロー科ではない。

普通科の生徒も皆が皆ヒーローを目指していた訳ではなく、上鳴の選手宣誓とは名ばかりの挑発行為に不快感を表す者も少なくなかった。

 

 

───だからこそだ。

 

 

上鳴はそれを受けて笑っていた。

獅子(じぶん)を蹴落とせると思っている(せいと)らの創意工夫を楽しみにしていた。

 

 

「それでは位置について、用意!」

 

 

ミッドナイトの声が響いた。

騒めきが波が引くように消える。

その場にいる全員が、競技開始のブザーが鳴る瞬間に備えて耳を澄ませた。

 

 

───人間が音を聞いて体を動かすまで最低でも0.1秒はかかる。何人ピッタリで動けっかな。

 

 

これは医学的根拠に基づいた事実であり、超常発現以前の短距離走では合図から0.1秒未満でスターティングブロックが圧力を検知した場合、合図の前からスタートしていたと見做されていた。

 

 

トップ選手の反応速度は0.140秒が良し悪しの基準とされ、0.120秒なら好スタート、0.160秒なら遅いとされていた。

 

 

これは超常発現後も殆ど変わりない。

 

 

しかし、いつの時代も異能とさえ言われる程の反応速度を持つ者達がいる。

 

 

───お、鳴った。

 

 

超常発現前であれば0.101秒。

 

 

そして今───生来の反応速度でもそれに近い反応ができる上鳴は、個性の応用による敏捷性の向上も合わさり、0.1000001秒での反応を可能としていた。

 

 

「飛ばすぜ」

 

 

身体許容上限100%───”閃電疾駆・3倍速”。

 

 

わざわざ肉体を壊すまでもない。

 

 

その出力であってもワンフォーオール換算で40%に近い身体能力を発揮できるからだ。

 

 

ヒーロー科でさえ無い者達に妨害など出来るはずもない。

 

 

上鳴はその場で飛び上がり壁を足場に三角飛びの要領で移動。青白い電光の軌跡を刻みながら、先頭付近に辿り着くのに掛かった時間は1秒に満たなかった。

 

 

その頃には轟が既にスタートを切り、氷結により後続の妨害を開始していたが───上鳴は風圧による移動を組み合わせて宙空から前へ躍り出た。

 

 

轟の眼前に軽やかに着地した上鳴は顔だけを後ろへ向け、言った。

 

 

「じゃあな」

 

 

「っ、待て!」

 

 

地面を踏み破りながら加速する上鳴に、轟の個性は届かない。

 

 

瞬く間に後続との距離を突き放した上鳴はスタートからたった3秒で最初の関門へと辿り着く。

 

 

そして目の前にある無数のロボットを見て、鼻を鳴らした。

 

 

「馬鹿の一つ覚えか?」

 

 

『おいはぇーよ!!? もう第一関門入ってんじゃねぇか実況泣かせが!』

 

 

プレゼント・マイクの悲鳴がハウリングと共に響き渡る。

 

 

第一関門は入試の時に使用された仮想敵ロボットが無数に設置された”ロボ・インフェルノ”。

 

 

上鳴にとっては鉄屑同然。

 

 

「ったく、白けるぜ。もっとマシなもん用意してくれ───って言いたいが、新技の試し斬りにはもってこいだ」

 

 

だからこそ、試しておきたい物があった。

 

 

上鳴はヴィラン襲撃の際に無手での手札の少なさを感じていた。対策されれば詰まされる程度では最強には程遠い。

 

 

そこで上鳴は元々の個性の性質と使い方に着目した。

 

 

個性”帯電”。文字通り電力を纏う関係上、上鳴の電気エネルギーへの耐性は身体の内側より外側の方が強い。身体許容上限を大幅に超過しても耐えられる。

 

 

雷に匹敵する電気エネルギーを纏うという使い方は、尋常ならざるエネルギーをその場に留めておくことができるということに他ならない。

 

 

そうして編み出されたのが───

 

 

「雷光一閃」

 

 

手刀に超高電圧のエネルギーを纏わせ、対象を溶断するという殺意に満ちた技だった。

 

 

転瞬、電光が幾つもの線を描き、エグゼキューターの一機が轟音と共に解体された。

 

 

『目にも留まらぬ超スピードォ! 俺何も見えなかったぜ! イレイザー、どうだ!?』

 

 

『身体許容範囲だからな。対応できるかはさておき、目で追えなきゃアイツの先生はやってけないよ………今のは自分の腕に纏わせた高圧電流でロボットを溶断する新技だろう。殺傷力が高過ぎて人間には向けられないが、無機物にはご覧の通りだ』

 

 

『ヒューッ!』

 

 

「うっし。試し斬り終わり。ついでにちょっと邪魔でもしとくか……スマーッシュ! なんつって」

 

 

軽い掛け声と共に放たれた蹴りの風圧で舞い上がる無数の1〜3Pの仮想敵ロボット。それらが今正に関門に到着したばかりの生徒らの頭上から降り注ぐ。

 

 

阿鼻叫喚の大多数を他所に、先頭集団を独占していたA組はそれらを鎧袖一触にした。

 

 

「フルカウル5%……!」

「邪魔だァ!」

「チッ、もうちょい歯応えありそうなヤツを用意してくれよ───アイツが見てるんだから」

「モギモギの真価を見せてやるぜっ!」

「尾空旋舞!」

 

 

最前───緑谷、爆豪、轟、峰田、尾白。

 

 

降り注ぐ鉄の塊を後方へといなしながら前へ。

それを受ける他のA組メンバーがロボットの処理へと取り掛かる。

 

 

真っ先に飛び出したのは麗日だ。麗日が許容範囲を超えないように注意を払いながらロボットに触れ、個性”無重力”で機動力を完全に奪う。

 

 

「梅雨ちゃん!」

 

 

蛙吹が麗日の意図を察し頷きながら舌を鞭のようにしならせ、一閃。

モギモギがついた無数のロボットが更に後ろに飛んでいく。

 

 

「俺も手を貸すぞ麗日!」

「テープで一塊にしたらバリケードにならねーか!?」

「採用!」

 

 

砂藤と瀬呂がそこに合流し即席の連携が実現。第一関門を前に大量の鉄屑がバリケードとなって他クラスの生徒を阻む壁となっていた。

 

 

更に芦戸が溶かす効果を弱めた粘性が強いだけの酸を地面にぶち撒けることで、足場を劣悪にし、八百万がスモークグレネードを投げ込み視界も塞いでしまう。

 

 

「翼を持つ者たちよ。どうか力を貸してください」

 

 

そして空から口田が呼び寄せた鳩が一斉に煙の中へと突っ込んでいく。

 

 

瞬く間に第一関門前は地獄絵図と化した。

 

 

『バトロワ競争でまさかの連携! どうなってんだお前のクラスは!』

 

 

『経験と闘争心。とびきり高くて分厚い壁。見てみろもう誰一人後ろを気にしちゃいない……いや、後ろを気にしないようにする為に組んだのか』

 

 

A組の視線の先、そこにいる上鳴は表情を緩めて言う。

 

 

「精々頑張れ───先に行く」

 

 

またもや挑発である。

 

 

爆豪が目尻を吊り上げ何かを叫ぶが、上鳴には笑顔で手を振る余裕さえあった。

 

 

 

 

 

雷鳴にも似た踏み込みの音と共に駆け出した上鳴は、誰にも影すら踏ませることなく第一関門と第二関門までのおよそ1000mを10秒掛からずに走破した。

 

 

『はぇー! インゲニウムばりじゃねぇか!』

 

 

プロヒーロー”最速”は誰か。

 

 

プレゼント・マイクはそんな議論が起こる度に名前が挙げられるヒーローの1人と、上鳴の速力を重ねた。

 

 

───誰?

 

 

しかし、上鳴が知っているのは最上位のヒーローのみのため全く通じない。

 

 

第2関門はザ・フォール。

谷と島を模したステージであり、島間に渡してあるロープを辿って向こう岸まで渡る。落ちたら大幅なタイムロスが発生する。

 

 

───まあ、落ちなければ単なる真っ直ぐと変わんねーよ。

 

 

上鳴は眉間に皺を寄せながらザ・フォールの端から端までを走り幅跳びで越えていく。

 

 

『どんな脚力してんだァ!』

『……帰るって言い出しかねないぞ。だから俺は変えようと言ったんだ』

『イレイザー! ンなことしたらゴールできる人間が減っちまうだろォ!?』

『俺は構わないが。合理的でいい』

『エンタメ全否定かよッ! こいつはシヴィ!』

 

 

───先ず競技がクソつまんねぇな。

 

 

上鳴は足を止めるような真似はしなかったが、それでも期待外れという感情は隠さなかった。

 

 

後続からの追撃はない。否、来るはずがない。

単純な機動力ならば上鳴を除けば1年生最速を誇るであろう飯田でさえ、現状上鳴に速力で劣っている。次点は爆豪、緑谷、轟だが、上鳴が振り返っても姿形が見える場所にはまだいなかった。

 

 

だが、誰がそれを責められようか。

 

 

入学してまだ半年も経っていない1年生の中にエンデヴァーが混じっているような物だ。

 

 

───分かってはいた。

 

 

上鳴も理解している。

このルールで自分が負ける方が難しいことを。ただ、それでも何かしてくれるんじゃないかという期待があっただけに落胆を隠せなかった。

 

 

そして第三関門の地雷原。

攻略方法はザ・フォールと同じだ。上鳴は体育祭その物への失望さえ感じ始めていた。

 

 

「よっ」

 

 

そしてチベットスナギツネのような顔のまま飛び越えた。

 

 

「流石にこれはねぇよ」とボヤきながら上鳴は会場へと続く道を駆け抜ける。

 

 

『おいおいおいおい!? デケェ口叩いた恥ずかしい奴だなんて思ってる奴はもういねぇよなぁ! そりゃあ口もデカくなるさこんだけ強けりゃYO!』

 

 

プレゼント・マイクの実況を受けても会場に歓声はない。困惑するような騒めきが広がるばかりだった。

 

 

しかし、プレゼント・マイクは一切テンションを落とす事なく───

 

 

『障害物競争1位! 他の追随を許さない圧勝! 正に”疾風迅雷”! 上鳴電気ィ!』

 

 

そう言い切った。

しかしプレゼント・マイクのテンションに対して、上鳴は既にかなり白けていた。

 

 

『さァて残りのA組面子は……ロボ・インフェルノを抜けてザ・フォールに差し掛かってる!?』

 

 

会場に設置された特大モニターに映る上位陣はA組で構成されている。

上鳴は「当たり前だ」と鼻を鳴らした。

 

 

───このままだと2位は爆豪か。緑谷と尾白は……3位と5位。いや、まだ狙えるな。意外なのは峰田か。

 

 

悪鬼羅刹も裸足で逃げ出しそうな形相で空を飛ぶ爆豪を斜め後ろからピッタリと追従する緑谷。そしてその少し後ろをつけているのは峰田だった。上鳴すら予想していなかったダークホースである。

 

 

『はーっはっはっはっはぁ! 見よオイラの機動力を!』

 

 

口の動きで峰田が何を言っているか当たりをつけながら、上鳴はその動きを注意深く見た。

 

 

───ストラックアウトとパルクールの成果もそうだが、上手く個性を活かしてる。器用な奴だ。悪くない。

 

 

足元に投げたモギモギを踏みつけ、反発力を活かして加速。着地点に予めモギモギを投げておき更に加速しながら前へ跳んでいる。

 

 

峰田は弾かれるが彼以外が踏めばその時点でゲームオーバーという悪質な妨害も兼ねた移動方法である。

 

 

A組は戦闘訓練の映像からその性質を知っているため上手く避けつつ、中団やや前方寄りの轟、八百万等が後続がモギモギの近くを通らざるを得ないように障害物を設置していた。

 

 

走りにくそうにしているのは6位の飯田だ。

直線に強い個性だがモギモギを気にして加速を躊躇っていた。

 

 

───初手で加速して前に出られなかったのが痛手だな。体力的にも走り切れるんだから逃げ切りを意識しねー方が悪い。

 

 

そして第三関門の地雷原に到達したタイミング。飯田の後方、9位にまで順位を落としていた轟による猛攻が始まった。

 

 

 





順当に走ったらこうなっちゃった……

小話
・観客プロヒーロー、鷹の雛を見に来たら怪鳥を見せられたみたいな顔
・エンデヴァー、唖然
・善院喜色満面
・オールマイト、はわわ大丈夫かな緑谷少年
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