雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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いつも拙作を読んでいただきありがとうございます。
今回は早めに投稿できてホッとしております。



ep.22 疾風迅雷- 弐-

───想定よりずっと速い。妨害も多い。

 

 

轟は第一関門のロボ・インフェルノを越えてから、敢えて走る速度と個性の使用頻度を抑えた。前を行く爆豪と緑谷の攻撃力に付き合えば消耗を強いられるのと、すぐ後ろにいた峰田の個性と自分を観察する尾白を警戒してだ。

 

 

───勝負はラストスパート。最終関門。

 

 

上位陣がそこに到達するのと同時、轟は個性の出力を高め、扇状に広がる巨大な氷塊を生み出した。

 

『デン、デン、デンジャラァァァァス!!?? 轟が地雷原を丸ごと氷の塊で覆っちまったァ! とんでもない範囲と速度で広がる冷気に流石の上位陣も足を止めて退避! その間に轟は氷塊の上を走り抜けて一気に2位まで返り咲いたァ!』

 

 

『コースの端ギリギリまで広がってるな。越えるには上を通るしかない』

 

 

相澤の解説の通り、緑谷や爆豪は瞬時に切り替えて動き出していたが傾斜も高さもあるその山を越えていくには少し時間がかかる。

時間にすればほんの僅かではある。だが、轟が差を広げるには十分過ぎた。

 

 

「ザケんじゃねぇ! 舐めプ野郎になんざ負けられるかァ!」

 

 

「まだ、まだ間に合う!」

 

 

「間に合わせねぇよ」

 

 

轟が追加の妨害を放とうと右半身に冷気を帯びさせたその刹那。

太陽の光を遮って、1人の少年が轟の前に降り立った。

 

 

「尾空旋舞!」

 

 

強靭な尻尾を持つ男、尾白である。

尾白は空中で体を捻転させ尻尾で氷塊を叩き割り、宙に浮かぶ破片を轟に向かって蹴りつけた。

 

 

予期せぬ妨害に怯む轟に向かって、尾白は叫んだ。

 

 

「お前の強さはよく知ってる! 後ろに下がったくらいで警戒を解くわけないだろッ!」

 

 

彼は雄英襲撃時、単独での戦闘を余儀なくされた悲しき格闘家だ。敵の数も分からないまま無我夢中で戦い続けた結果、2つの能力を飛躍的に伸ばしていた。

 

 

それは”危機感知能力”と”観察眼”。

 

 

───轟が後ろに下がった時点で裏があると思ってた! 案の定だ!

 

 

尾白は空気が冷え込み氷となるまでの僅かな時間で後方を確認。轟の周囲から熱が奪われていくのを目撃するのと同時に、コースアウトギリギリまで体を外へと出して難を逃れた。

 

 

緑谷と爆豪との違いは氷が出始めてから対処し出したのか、その前から動き始めていたかの違いでしかない。しかし、その一瞬が轟の策を根本から粉砕する。

 

 

「邪魔じゃボケェ!」

「ごめん2人とも!」

 

 

「復帰早いな……!」

 

 

尾白と轟に迫る2人。

続々と氷山を登ってくるクラスメイト。

 

 

轟は深く息を吐いてから言った。

 

 

「───なら、2発目はどうする?」

 

 

転瞬、2度目になる大氷結が放たれた。

 

 

 

 

 

轟の個性”半冷半燃”は身体を中心線で分かち、彼から見て右側で氷結を、左側で炎熱を自在に操る極めて強力な力だ。

 

 

氷結に頼れば身体は冷え込み、炎熱を使い続ければ熱を溜め込んで自由を奪われる。逆を言えば個性を同時に使えばデメリットを消すことも容易い。

 

 

だが、轟は頑なに左の力を使わない。

それはとてつもないリスクを伴う判断である。プロになれば、自分のパフォーマンス以上に重大な過失の引き金となる事もあるだろう。

 

 

映像を見ながら上鳴は溜息を吐いた。

 

 

───身体は十分に暖まっていた。2発目を撃っても支障は殆どないかもしれない。だが、支障がないだけだ。動きの精度はこれまでより格段に落ちる。左を使えば解決するのに何でか使おうとしない……本当に退屈だな、コイツは。

 

 

映像では2度目の大氷結が放たれていた。

 

 

しかし、上鳴が目をつけていた3人はそれを難なく突破。後続も八百万と耳郎が互いの個性を組み合わせることでそれを乗り越え、一気に順位を上げ始めていた。

 

 

 

 

 

『ハーレーダビッドソンだ!!!! 体育の祭りでバイク! 八百万、掟破りの大型二輪を創り出したァ! その上車体には耳郎のサポートアイテムまで組み込み、タイヤは氷の上を走る最強スタッドレス仕様! どうなってやがる!? 即席のライブにしちゃあ出来すぎだろォ!?』

 

 

『あの2人は襲撃の際もペアでヴィランを100人余りを倒してる。チーム戦も考慮して互いの情報を共有していたんだろう。連携に躊躇いがない』

 

 

───本当はやりたくなかったけどね!

 

 

耳郎は歯噛みした。

これはいざという時の為の保険に過ぎない。八百万も「それなら」と合意したのだ。

 

 

しかし、自分の力だけで勝ちたいという気持ちを何としてでも前に行きたいという気持ちが超えた。

 

 

「もっと音量上げるよヤオモモ!」

 

 

「ええ! ロックンロールですわ!」

 

 

ハーレーに組み込まれているのは耳郎のコスチュームに備わっているサポートアイテムをただデカくしただけの代物だ。

 

 

耳郎が耳のプラグを差し込むことで心音を増幅させ、そこへ更に増幅したエンジン音を重ねることで全てを破壊する音響兵器である。

 

 

「おどきあそばせ!」

「危ないからそこどいて!」

 

 

爆音で氷を粉砕しながら走る暴走車が前4人を轢き殺す勢いで前進していく。

 

 

「限度があるだろ!」と冷汗をかきながら尾白。

 

 

「加減ってもんを知らねぇのか」

ドン引きする轟。

 

 

「免許持ってんのかぁ!!?? アァ!?」

目の付け所が絶妙にみみっちい(爆豪)

 

 

「私有地だからってお構いなしか!?」と緑谷。

 

 

『無理矢理退かせる手段としては有りだが、ヒーローとしては認可できないな』

解説の相澤も眉を顰めた。

 

 

実際、近寄れば絶え間ない音撃を浴びることになり、その上で下手に妨害しようものなら交通事故になるため手が出せないというのは余りにも汚い。

 

 

───何て言われようと構わない。

 

 

しかし、それで揺らぐ程度の覚悟な筈もなく。

2人を乗せたバイクは地鳴りの様なエンジン音を響かせながら直進する。

 

 

競技者の4人は揃って苦い顔をした。

 

 

だが───

 

 

「そんな手にッ」

「こんな所でっ」

 

 

「「負けられるか!」」

 

 

それが爆豪と緑谷の闘争心を更に掻き立てた。

 

 

尾白と轟が冷静に退避したのに対し、2人が選んだのは並走。

 

 

最早、狂気という他ない。

 

 

それは全身に氷を粉砕するような衝撃を浴びながら前に進むということ。身体に響く音撃は骨を軋ませ内臓を揺らし、平衡感覚を根刮ぎ奪う。

 

 

にも拘らず2人は笑みさえ浮かべながら突き進んでいた。

 

 

耳郎は2人の姿にオールマイトや脳無と戦う上鳴を重ね、一瞬だけ個性の使用を止めて叫んだ。

 

 

「くそっ! ヤオモモごめん! 後続妨害に切り替える!」

 

 

「致し方ありませんわ! このままじゃお二人が爆散してしまいますもの!」*1

 

 

『お嬢様ァ! その発言はかなりマズイ!』

 

 

『体育の祭で殺し合うな』

 

 

後続に対して音響兵器で無理やり車間距離を取らせながら、2人は前へ進んでいく緑谷と爆豪を睨みつけた。

 

 

 

 

 

ゴールまでの最終直線300m

2人の戦いは爆豪がほんの僅かばかりリードする形で進んでいる。

 

 

このリードは謂わば”地力の差”。

個性と共に生きてきた年月の差である。

故に爆豪はこの状況その物が不服だった。

 

 

───クソッ、クソッ、クソッ! 何で俺はッ! ずっと後にいた奴と並んで走ってんだ!?

 

 

緑谷が補習を積み重ねている間、爆豪が何もしていなかった訳ではない。学校が終われば真っ直ぐ帰宅し、時間が許す限り自分を追い込んでいた。

 

 

しかし、爆豪の個性を一般家庭で伸ばす事は難しい。防音、耐衝撃性、耐熱性のある場所を用意するのは至難だ。これに関しては爆豪が個人でどうこうできる問題ではない。

 

 

その点で言えば緑谷の方が有利だった。

上鳴が彼に課したのは常時5%の力を維持しながら日常生活を送ること。そして放課後の基礎トレに組み込まれた筋力トレーニングは、全て個性の出力に合わせて再調整されていた。

 

 

結果、緑谷はヴィラン襲撃前後からそれ以前と比べて別人レベルにまで強くなった。

 

 

今の爆豪に緑谷の妨害をする余裕はない。

 

 

それが爆豪に”もしも緑谷出久が4歳の時に個性を発現させていたら”を想像させ、筆舌し難い敗北感を刻み込んでいた。

 

 

一方、爆豪を追う緑谷もまた自身と幼馴染の間にある差を噛み締めている。

 

 

───あと一歩が、遠い!

 

 

ほぼ横並びではある。

それなのに、前へ出ることはおろか完全に並ぶ事さえできない。

 

 

しかし、緑谷にはこの状況を覆す方法が1つだけある。

 

 

「身体の負担を許容しろ……壊れない範囲じゃなくて軋む範囲にまで拡張するんだ……5%だとかっちゃんの最高速度には着いていけない……8%……いや瞬間的に10%までならいけるはずだ」

 

 

それはリスクを許容し、身体の限界を超えつつも継戦を可能にする個性の臨界点まで出力を上げるということ。

一歩間違えれば足が砕ける。そうなれば順位を大きく落とすどころかゴールすら難しくなる。

 

 

───それくらいならまだ良い。足が砕けるより、期待に応えられない方が嫌だ……!

 

 

無個性として生まれ、ヒーローになりたい夢を捨てきれないまま惰性で生きていた自分に”ヒーローになれる”と言ってくれたオールマイト(憧れ)の期待に応えたい。

 

 

ただその一心で走る緑谷の心臓が、殊更に強く脈動する。

 

 

「更に、向こうへ……!」

 

 

 

 

ワンフォーオールフルカウル───12%

 

 

 

 

刹那、緑の閃光が爆豪を抜き去った。

 

 

 

 

 

ラスト100m

 

 

 

 

 

爆豪は緑谷に追いつけない。

 

 

 

 

 

『2位の座を賭けた最終直線の熾烈なデッドヒートを制し、勝利を掴んだのはこの男───ッ!』

 

 

 

 

 

勢いを殺すためにトラックを削る勢いで滑り、靴底との摩擦熱で煙を上げながら止まった緑谷に歓声が降り注ぐ。

 

 

 

 

『緑谷出久! 土壇場の加速は何なんだ!? 大番狂せに期待が掛かる!』

 

 

 

 

それからほどなくして、息を切らした爆豪が。

 

 

その後にハーレーに跨った八百万と耳郎。少し遅れて轟と尾白が立て続けに入ってくる。

 

 

もう暫くすれば青山を除いたA組の面々が雪崩れ込み、最終的に第一競技は上位19名を1つの組が独占するという極めて異例の事態で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

そして続く第二競技───騎馬戦。

 

 

制限時間は15分。

 

 

第一競技の順位に応じて各個人にポイントが振り分けられ、組んだ騎馬で合計、その分のポイントが書いてあるハチマキを奪い合い、保持ポイントを競い合う。

 

 

取ったハチマキは首から上で管理し、ハチマキを取られても、騎馬が崩れても失格にはならない。ただし、騎馬が崩れた状態でのプレーは無効となる。

 

 

悪質な騎馬崩し目的の攻撃は即時退場。この場合の細かい判定基準は審判であるミッドナイトの主観により裁定される。

 

 

そして15分に達したタイミングで上位4チームが次の競技へと進む。

 

 

チーム分けにあたり15分の交渉タイムが用意され、その間にどれだけ早くメンバーを集め行動方針を定められるかが勝敗の鍵となる。

 

 

そのルールを根幹から破壊しかねない少年、上鳴に与えられたのは1000万ポイント。

 

 

無論、雄英側にも意図はあるが、往年のクイズ番組並のヤケクソ采配なのは確かだ。

 

 

そして競技の関係上、上鳴は第一競技ほど自由に個性を使えない。無理矢理勝負が成立する土俵に引き摺り込まれたと言っても過言ではなく、そしてチーム戦であるが故に上鳴単独で勝敗を決めるのは難しい。

 

 

1000万を守り続けなくてはならないプレッシャーもあり、チームメンバーを選ぶ上で上鳴を避けるのは定石と言えば定石だろう。

 

 

故に生徒たちが向かったのは2位〜6位。

 

 

「爆豪! 組もう!」

「緑谷ぁ! 補習組のよしみでさぁ!」

「轟!」

「尾白くん組も!」

 

 

上鳴がずば抜けているだけで、上位陣は単純に強い。

 

 

このルールであれば上鳴の隙を突くことも難しくない。

 

 

だからこそ。

 

 

「おい、デク───俺の馬になれ」

 

 

「……僕からも提案しようと思ってた」

 

 

1位になる事しか頭にない上位陣もまた、互いをスカウトする。

 

 

その結果───

 

 

「足引っ張りやがったらその瞬間に俺が殺すからなテメェら! 死ぬ気で働け!!! 特にデク!!!」

 

 

「かっちゃん……」

 

 

「お前こそしっかりしてくれよ、騎手なんだから」

 

 

「うるせぇ舐めプ半分野郎! 6位の分際で生意気言ってんじゃねぇ! 黙って右側守っとけや!!!」

 

 

「ははは……何で俺頷いちゃったんだろ」

 

 

「頑張ろうね尾白くん」

 

 

「テメェもだ7位の尻尾ォ! 頷いたんだから気合い入れろ!」

 

 

「落ちついてよかっちゃん!」

 

 

「それより爆豪、さっきの理屈ならお前も緑谷に……」

 

 

「■■■■■ッ!!! ■■■■■■■■ッ! ■■■■ッ!!??」

 

 

「悪い。何て言ってるのか分からない」

 

 

騎手、3位爆豪。

前騎馬、2位緑谷。

後騎馬右、6位轟。

後騎馬左、7位尾白。

 

 

緑谷が前へ行く推進力。

轟が右サイドの守護と妨害。

尾白が接近してきた騎馬への牽制。

そして高い応用力と滞空性を有する爆豪を騎手に据えた、上鳴を倒す為だけの”最強”の騎馬が爆誕した。

 

 

*1
音で瓶を割るアレ





独自設定:補足前編

①爆豪&緑谷
爆豪、緑谷に2度目の敗北。
しかしへこたれている時間はない。最終戦で勝ってチャラにするという方向で無理矢理自分を納得させ、かつ上鳴を倒す為に必死に自分を曲げながら緑谷を誘った。
緑谷、全身痛い。上限を7%超えるだけでこれなら、上鳴はどれだけ……と想像して畏敬を抱く。
爆豪に誘われたのは嬉しい反面ちょっと嫌。でも勝ちたいから頷いた。

②八百万&耳郎 ペア
目標の為には形振り構ってられなかった。
峰田の妨害がなく、耳郎から事前相談を受けていたため八百万の順位と自己肯定感が上がる。
妨害工作は基本的に現場にある物を活かすようにしたため消耗は少なく、最後は体内でバイクを作りながら走っていた。服がかなりやばい。バイクのイメージはハーレーダビッドソンのFXDR114(赤)
耳郎は皆と八百万に少し申し訳なさを感じているが、後悔はしていない。共犯の八百万は火力が高過ぎたこと以外はあまり気にしていない。

③尾白くん
実は原作でも障害物競争11位とかなり好成績。
B組が妨害で沈んだので単純に順位を繰り上げても8位、拙作では先頭競争が原作より激化したものの持ち前の基礎能力と襲撃で高まった感覚、最強の尻尾で乗り越える。轟を壁にして走っていたため、最後に少し息を整える。

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