雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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いつも拙作を読んでいただいている皆様、ありがとうございます。更新遅れて申し訳ないです。


ep.23 一騎当千 -壱-

 

爆豪率いる上位陣の騎馬が出来上がる少し前。

 

 

上鳴はアホ面を晒してトラックに座り込んでいた。

 

 

───このルールで俺と組みたい奴いる? いねぇよな。

 

 

上鳴の個性”帯電”は彼の血を吐く努力と戦歴によって磨き上げられた結果、幾つもの応用を可能としている。その応用1つ1つが個性として成立するレベルにある。

 

 

しかし、元は電気エネルギーを纏うという個性。原則上鳴は個性の使用中帯電している。騎馬を組む以上、身体の接触は避けられず電気が流れれば感電するのは必然だった。

 

 

上鳴は蓄電細胞を働かせることで触れた相手に電流を流さないように調整できるが、それは要するに電気エネルギーを内側に留め続けるということ。その間は電力を外に放出できないため、殆どの応用技を封じられてしまう。

 

 

上鳴が知る由もないことではあるが、本来の歴史では1位の人間に近付く者がいた。サポート科1年の発目明という少女である。サポートアイテムの性能を披露し、目立たせる為に1位を広告塔にしようと画策していた。

 

 

しかし、上鳴が強力な電気系個性の持ち主だったのが運の尽き。個性を使われたらアイテム類が機能不全を起こすのは目に見えていたし、それを使わせる為に上鳴の個性を制限するのは発目のプライドが許さなかった。

 

 

結果───上鳴は1人ぼっちになっていた。

 

 

『イレイザー、大丈夫かあれ?』

 

 

『これを機に社会性を身につけてくれるとこちらとしても助かるよ。本当に』

 

 

やけに疲れた声音の相澤に会場から笑い声が出る程だ。

 

 

しかし、当の本人は笑えない。

 

 

かと言って開会式で大口を叩いたせいで他生徒に話しかけるのも憚られた。

 

 

───もしかして……詰んだ?

 

 

そんな折、上鳴が座り込む場所に3つの人影が近寄ってきた。

 

 

「全く………どんだけ人望ないんだよ」

「強者故の孤独」

「これを機に発言には気を付けることをオススメしますわ」

 

 

「耳郎、常闇、八百万………何だ笑いに来たのか?」

 

 

「んな訳ないでしょ。ほら、相手いないんでしょ? 組むよ」

 

 

手を差し伸べてくる耳郎に、上鳴は目を点にした。

 

 

「言っておくが……手加減すると俺の応用技はほぼ全部封印だぞ」

 

 

「上鳴は素の身体能力からして規格外。多少やれる事が減った所で問題はない。何より、その光は俺たちには眩しすぎる」

 

 

『ピカピカマブシイ。オレニガテ』

 

 

「そういうことです。問題ありませんわ。それに、私たちは上鳴さんを酷使するつもりで来ましたから」

 

 

上鳴は八百万を見て眉尻を下げたり眉間に皺を寄せたりを繰り返す。

 

 

「……複雑そうだね」と耳郎。

 

 

「だってお前らとも戦いたかったし」

 

 

───流石にあの3人ほどじゃないけど、とは流石に言わない方がいいよな。うん。

 

 

上鳴の内心など知る由もない3人は目を点にし、

それから口元を緩めて言った。

 

 

「なら、最終戦までお預けだね」

 

 

「こんな所で失格負けなど許されない」

 

 

「そうですわ。そもそも誰と戦うかは時の運次第ですから、とりあえず勝ってから考えればいいのです」

 

 

「そうだな───じゃあ、よろしく頼むわ」

 

 

 

 

 

ヒーロー科B組、物間寧人は第一競技での自身の失策を恥じていた。

 

 

「完全に僕のミスだ」

 

 

体育祭は学年問わず例年幾つかの競技を行い、生徒を篩にかけてから本戦へと移る。

 

 

競技によって定員は様々であるが初戦はざっくり50人ほど残すだろうというのは分かっていた。

 

 

故に最初は様子見に徹し、A組の出方と個性を見定める。そして続く第二競技にて有利なマッチアップを繰り返し───狩る。

 

 

A組にヴィラン襲撃の事を聞きに行った鉄哲徹鐵からその人となりを聞いていた為、その作戦は概ね上手くいくだろうと考えていた。開会式の選手宣誓を見て確信さえしていた。

 

しかし、結果は散々な物だった。

 

 

「仕方ないよ、切り替えな」

 

 

オレンジ色の髪をサイドテールにした女子、拳藤一佳が物間の背を叩く。

それから腰に手を当てて言った。

 

 

「で、お得意の作戦はどうすんの?」

 

 

「……上鳴は次元が違う。アレに構うのは論外、時間の無駄だ───でも、A組はそうは考えていない」

 

 

A組の方へと視線を向け、物間は顎に手を当てて考える。

 

 

「拳藤、僕に力を貸してくれるかい?」

 

 

「……何、どういうつもり?」

 

 

拳藤は物間の策に難色を示した1人だ。

その手の盤外戦術はあまり好きではなかった。物間も当然、それは知っている。

 

 

「彼らは頂上を目指して足元が疎かになっている。付け入るとしたらそこだ。僕の個性は知ってるだろ? ──────するんだよ」

 

 

「なる程ね……それに、もうウダウダ言ってられんか。乗るよ、アンタの策に」

 

 

物間はまだチームを組んでいないB組メンバーを集め、作戦を語った───

 

 

 

 

 

八百万百。

 

 

使い手によっては社会を壊しかねない力を持つ”創造”という個性が彼女の手にあるのは、善良なる者達にとって幸福と言っても過言ではない。

 

 

その気になれば秘密裏に核兵器を作れるだけでなく、あらゆる希少金属の価値を崩落させることだって造作もない。そうして生み出した莫大な富で人を支配し、魔王を気取ることだってできる。

 

 

それをしないのは単に彼女が気高い精神を持つだけではなく、恵まれた家庭に生まれたことも一因だろう。

 

 

しかし、上鳴はそういった八百万の人間性を好ましく思いつつも、彼女を興味の対象には入れていなかった。

 

 

八百万の創造は体の体積を超える物ほど生み出すのに時間を要する明確な欠点がある。フィジカルも人間の域を出ない以上、上鳴が望む闘争を演じることは難しい。

 

 

───その筈だったんだが。

 

 

上鳴は八百万から聞いた策を思い出しながら、馬の上で笑みを深める。

その空気を感じ取った耳郎が少しムスっとした様子で言う。

 

 

「楽しそうだね、上鳴」

 

 

「そうか? そうだなぁ……そうかもな」

 

 

期待値は間違いなく上がっていた。

この競技の経過によっては、体育祭前の評価を一変させる程に。

 

 

 

 

 

程なくしてプレゼント・マイクの声が響き渡る。

 

 

 

 

 

『用意はいいか1年生! 泣いても仲間のせいにするんじゃねぇぜ!!?』

 

 

 

 

 

「すぅ………ふぅ。よし、片っ端から殺していくぞ」

 

 

「発言が物騒過ぎるよかっちゃん」

「ヒーローらしくないよな」

「何だっていい……勝てるならな」

 

 

「ったりめぇだ───勝たなきゃ死ぬと思え。俺も、テメェらもだ」

 

 

 

 

 

「八百万、あれ、あれ見ろよ。最高に楽しめそうな組み合わせだぞ。狙い目だ。行こう」

 

 

「上鳴さん、あまり気安く婦女子の頭をぽんぽんしてはいけませんわ……それと狙われるのがこちらである事をお忘れなく」

「なんだろ、こう………」

「気を引き締めろ」

 

 

「いいじゃねぇか。楽しもうぜ」

 

 

 

 

 

「しっかり頼むぜ物間ァ! 目にもの見せてやろうぜッ!」

「徒に人を謀るばかりではないという所を示しましょう」

「上手く使いなよ。ここで勝てなきゃいいとこなしなんだから」

 

 

「ああ───勝つさ」

 

 

 

 

 

『それじゃあ第二競技、騎馬戦! スタートだぁ!』

 

 

 

「デクッ!」

「うん!」

 

 

先陣を切ったのは爆豪チーム。

仲は悪くても何故か呼吸は完璧な2人だ。緑谷のフルカウル5%を推進力に、彼らのチームが猛然と目指す先にいるのは───1000万ポイントを有する上鳴チーム。

 

 

上鳴は真っ直ぐ飛んでくる爆豪を見て声を張って言った。

 

 

「早速来たなメインディッシュ! 八百万、仕込みは!?」

 

 

「あと2分ですわ!」

 

 

「ならしばらくは自由行動だな!」

 

 

やり取りの後、上鳴は騎馬から離れ宙空へ。

そこで個性の出力を100%に引き上げ───足で空気を押し出して跳んだ。

 

 

「よォ3位! 少しだけ遊ぼうぜ!」

 

 

「あぁ!? 望むところじゃボケカスがぁ!」

 

 

『爆豪と上鳴が熾烈なドッグファイトを開始! これルール的には………OKだそうだぜッ!』

 

 

両掌の爆破で上手くバランスをとりながら加速する爆豪に対し、上鳴は蹴りの風圧でそれ以上の速力を見せる。

 

 

会場上空───解説実況席のある高さに近い所まで上昇した2人は、航空戦のセオリー通りに互いの背後を取るために行動を開始した。

 

 

単純な速力に関しては上鳴が優っているが、機動力はスピードだけで決まる訳ではない。上鳴は進行方向を変えるためには蹴りや腕で空気を押し出す必要性があるのに対し、爆豪は爆破の威力を調節するだけで良いのが分かれ目となった。

 

 

爆豪は宙空で直線的になりがちな上鳴の動きを予測しつつ、細かい爆破を重ねて変則的な動きを見せる。

そして上鳴が距離を詰めてくるタイミングを予測し、自身が上鳴の間合いに入るのと同時にひらりと旋回。

 

 

上鳴の背面を取り、そこに掌を向け───

 

 

「死ねェ!」

 

 

特大の爆破を見舞った。

限界を超えた出力に腕全体に激しい痛みが走るが、爆豪は手を緩めない。今度は逆の手で2度目の爆破。会場の空を黒煙が埋め、客席からは歓声が上がった。

 

 

だが。

 

 

「元気有り余ってんなァ!」

 

 

腕の一振りで上鳴が煙を吹き飛ばして姿を見せる。身に纏っていた上半身の体操服は破けていたが、その下にある肉体に爆破による傷は一つも無い。

 

 

爆豪は口角を上げて上鳴に向かって飛翔する。

 

 

「テメェがくたばるまで何度だって撃ち込んでやらァ!」

 

 

爆豪の善戦に上鳴もまた笑みを浮かべる。

 

 

「悪くない」

 

 

その一言と共に上鳴は宙空に蹴りを放つ。

大気が唸り、押し出された空気の塊が不可視の壁となって爆豪を強かに打ち据える。

 

 

「がっ!?」

 

 

上鳴は人差し指を立て、それを左右に振りながら言った。

 

 

「良くもない」

 

 

全身に走る痛みに悶絶しながら爆豪は上鳴を睨んだ。

 

 

───たった1発受けるだけで、これかよ……!

 

 

力の差などと言う生優しい言葉では言い表せない”格”の違い。

 

 

それを噛み締めながら個性による制御を手放して落ちていく。落下地点には騎馬が既に待機していた。

 

 

「かっちゃん大丈夫!?」

 

 

「俺がこの程度でくたばるかァッ!」

 

 

爆豪は騎馬に受け止められた後、一切戦意を損ねる事なく視線を空へと向けた。

 

 

上鳴も宙空に留まるのを止めて地上に背を向け大の字で自由落下していた。

 

 

すかさずダークシャドウが足場となり、上鳴はその頭上に立った。

 

 

そしてダークシャドウの上から会場を見下ろして言った。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

「オリテ……」

 

 

「おお、わりぃな! すぐ戻るよ」

 

 

派手な前哨戦に会場は大きく沸いた。

このまま二騎の勝負を見たいとその場の多くの人間は思っていた───しかし。

 

 

上鳴達が有するポイントを狙う他のチームも動き出していた。

 

 

「行くぞ麗日くん、砂藤くん! 葉隠くんも振り落とされるなよ!」

「ゴー!ゴー!」

「オッケー!」

「ぶちかまそうぜ!」

 

 

その中で最初に飛び出したのは騎手に葉隠を据えた、飯田、麗日、砂藤のチーム。

 

 

後騎馬の麗日が飯田以外を軽くした後、同じく後騎馬の砂藤が地面を蹴り飛ばす。その勢いを殺さず、生かす形で飯田が走り出すことで騎馬は驚異的なスピードを得ていた。

 

 

単純なスピードで言えば現状の騎馬で”最速”と言っていいだろう。

 

 

「へっへーん! 私がどこにいるか見えるまい!」

 

 

そこに乗っているのは葉隠透───全裸ハチマキという、透明人間にしか許されない出立ちの少女である。

 

 

ハチマキがある位置が首か頭かは判然としない。それ以上に問題なのが透明であるが故に距離感が掴みにくく、間合いが読みにくいことだ。通常、相対する騎手は常に死角にまで気を配らなければならない。

 

 

だが───ここに例外が存在する。

 

 

上鳴が至って真面目な顔で言う。

 

 

「前から言おうと思ってたんだが……俺、電磁波で物体の位置をざっくり認識できるからさ。色々と丸見えだぞ」

 

 

「───えへぁ!?」

 

 

葉隠は咄嗟にデリケートな場所を手で隠した。*1

 

 

騒めきは真剣勝負の真っ最中である競技場内のみならず、そこでのやり取りを拾っている実況席にまで及んだ。

 

 

『上鳴衝撃発言ッ! 今、彼の目には全裸ハチマキの少女が映っているそうです!』

『改めて言うな』

『今のはオフレコで頼むぜ!』

『全国放送だよ。お前も大概デリカシーないな。PTAに火炙りにされても助けないからな』

 

 

「じゃあな」

 

 

「もうお嫁に行けないよ〜!」

 

 

上鳴はガチ泣きし始めた葉隠のハチマキを容赦なく取り上げた。

 

 

『透明少女を瞬・殺! 最低だな上鳴!』

『電磁波で捉えているのは裸というより姿形の話だろう。喋り方で動揺を誘っただけだ。気にするな』

 

 

「うぅ……ごめんね」

 

 

泣きながら謝る葉隠に「いやもう仕方ねぇよアレは」と砂藤。

 

 

「流石に掛ける言葉がない」と飯田は沈痛な面持ちで語る。

 

 

そして麗日が「人の心とかないんか?」と上鳴を非難した。

 

 

「言い方にデリカシーの欠片もありませんわね」

「擁護しないからね、流石に」

「悪魔の所業」

 

 

味方からも散々な評価を受けた上鳴が鼻を鳴らして言う。

 

 

「裸でいるほうが悪いだろ。風邪ひくぞ」

 

 

それはぐうの音も出ない正論だった。

 

 

1mmたりとも性欲を感じさせない平坦な声音で放たれた言葉に、葉隠のみならずその場の全員が沈黙した。

 

 

 

 

 

「……随分と余裕だね。流石、1位様が率いるチームは違うなぁ」

 

 

物間は皮肉たっぷりにそう言って戦況を俯瞰する。

 

 

───上鳴チームに向かっているのは予想通りA組で構成された”爆豪チーム”、”葉隠チーム”の2組。”峰田チーム”、”瀬呂チーム”はまだ様子見しながら上鳴の隙を窺ってる形か。

 

 

「うん。いいね───こちらを気にしてるのは瀬呂チームだけだ。抜け目ないね、彼」

 

 

「でも一組だけか」

 

 

「ああ。舐められたもんだなッ」

 

 

「いいんだよ、それで。油断させよう。足元が疎かになるタイミングは………彼らが見てくれてる」

 

 

物間の視線の先にいるのはB組に所属する推薦入試合格者の2人だ。

 

 

「瀬呂が食いついたら好機だね」身体のパーツを切り分けて動かせる個性を持つ少女取蔭。

 

 

「オッケー。手堅くいこう」対象の硬度を柔化させる個性を持つ少年骨抜。

 

 

2人はA組の騎馬の動向を見ながらB組の位置を調整する役割を担う。

 

 

そして───

 

 

「さあ、仕掛け時だ」

 

 

上鳴チームに群がるチームが増えた所で、物間達もまた動き出した。

 

 

 

 

 

「上鳴さん、用意が整いましたわ」

 

 

「出来栄えは?」

 

 

「パーフェクトですわ」

 

 

上鳴と八百万がそんなやり取りをしている中、障子が単独で騎馬を務める峰田チーム、汎用性の高い個性と口田率いる野鳥の群れが特徴的な瀬呂チーム、一息入れた爆豪チームが怒涛の勢いで上鳴達と距離を詰める。

 

 

3組が上鳴の前方から責める中、ポイント奪還を誓う葉隠チームは後方からにじり寄る。

 

 

常闇が上鳴に言う。

 

 

「四面楚歌───選択しろ、上鳴」

 

 

”選択”

 

 

八百万と耳郎が心中で常闇の言葉を反芻する。

上鳴は「そうだなぁ」と考える素振りを見せてから答えた。

 

 

「迷わず迎撃、と言いたい所だが……何か面白そうなこと企んでる奴がいるな?」

 

 

上鳴の視線の先にいるのは物間チーム。

 

 

彼らが狙うのは爆豪チーム───正確にはその騎馬を担う1人。

後方から迫る物間達に気付いていない。上鳴はニヤリと笑って言った。

 

 

「最後に目の前に残った奴らから平らげようぜ」

 

 

そして突如、爆豪らの足元が柔くなり騎馬の足が地面に沈み込んでいく。

 

 

「これは誰の……!」と緑谷が辺りを見回して言う。

 

 

骨抜の個性である。

 

 

上鳴を狙う3組の足場を崩すようにして使われたそれは、地に足をつけて移動する騎馬戦において無類の強さを発揮していた。その気になれば完全に地中へ埋めてしまうこともできるだろう。

しかし、やり過ぎればルールに抵触してしまう。そこで骨抜は個性を浅く広く使うことで足場が悪くする程度に抑えていた。

 

 

”このままではハチマキを取られる"

 

 

足を取られたチームがそう考えるのは必然で、体勢を立て直すべく後方へ引くのは妥当な判断だ。

 

 

故に、そこが狙い目となる。

 

 

「物間!」

 

 

空中から状況を伺っていた取蔭の合図を受けた物間が、沼から下がった爆豪チームへと肉薄。

 

 

「悪いねA組。彼への挑戦は後にしてくれ」

 

 

物間の右手が轟の肩に触れる。

 

 

「貰うよ、君の個性(ちから)

 

 

それから物間は轟に触れた手を個性”スチール"で全身を鉄で覆った鉄哲の肩に置いた。

 

 

刹那───物間の右半身を中心に周囲から熱が奪われていき、鉄哲の身体を伝って冷気がフィールドへと広がっていく。

 

 

「へぇ」

 

 

上鳴が感心した次の瞬間、物間の騎馬を中心に枝分かれするように広がっていた冷気が氷壁へと姿を転じた。

 

 

圧巻の光景に実況席の声のボリュームが上がる。

 

 

『デン、デン、デンジャラァァァァァス!!? B組物間、轟と同じ個性でフィールドを完全に分断したァ!』

 

 

『個性”コピー”、触れた対象の個性を一時的に得る。使い方次第で何にでもなれる非常に強力な個性だ。轟の個性をコピーしたのは英断だな。単純な個性出力で見るなら、アレは雄英全体でも五指に入るだろう』

 

 

物間達は自分達と上鳴達と一騎打ちの状況を作り出すのと同時に、競技の範囲を縮小。相澤は物間の作戦に『良い策だ』と感嘆の声を漏らした。

 

 

『氷壁は壊すには分厚く、迂回すれば徒に時間を消費する大きさだ。同時に視線を切る効果があり、情報を取る手段を狭めている。ポイントの散り方を把握できない以上、目の前にあるポイントを総取りできなければ勝つのは難しい。これはB組だけでなくA組にも当てはまる。第一競技のポイント差なんて最早無いに等しい』

 

 

混戦を避け、漁夫の利を取りにくくする策。

その分断をB組の人間が主導したという事はつまり、別れた戦場でのマッチアップはB組がある程度有利になるように仕組まれているということを意味する。

 

 

戦いを邪魔されたことで頭に血が上り過ぎている爆豪が目を吊り上げながら言った。

 

 

「ざけんなや、20位未満のモブどもが……!」

 

 

「かっちゃん流石にそれは……」苦笑いの緑谷。

 

 

「発言がドブカス過ぎる」ドン引きの尾白。

 

 

「爆豪、もうちょっと言葉選んだ方がいいんじゃないか」心配そうにする轟。

 

 

彼らの前にいるのはB組メンバーで構成された2チームだ。

 

 

全体的に初期点数が低いB組が勝つには、最低でも一騎はA組の騎馬を打倒する必要がある。その中でも爆豪チームの初期ポイントは大きな足掛かりとなる。

 

 

「小大、どっちが取っても恨みっこなしだ」

「ん」

 

 

個性”回転”の回原と個性”サイズ”の小大がそれぞれ騎手を務める二騎が、爆豪チームを挟むように動き出す。

 

 

「何を勝つ前提で話進めとるんだ……!」

 

 

「そりゃあ負けるつもりで戦う奴はいないでしょうよ!」

「ね!」

 

 

 

 

 

そして───

 

 

 

 

 

「君達の相手は僕達だ」

 

 

 

 

物間達は単騎で上鳴に勝負を挑んでいた。

観客は思った───それは無謀でしかないと。上鳴の強さは騎馬戦でも健在。先の爆豪とのやり取りで証明されている。多少の不利など物ともしない。

 

 

その上、万全のサポートがついている。

宙空でも自由に動ける常闇の”ダークシャドウ”を筆頭に、”創造”で状況に合わせて便利アイテムを作り出せる八百万、”イヤホンジャック”で聞き取った足音で自分達に近づいてくる騎馬を正確に把握し、死角からハチマキを狙いにいくこともできる耳郎。

 

 

爆豪達が最強の騎馬ならば、上鳴達は無敵の騎馬と言っても過言ではない。

 

 

だが、相対する物間達の顔に諦観の2文字はなかった。

 

 

───勝算があると考えているのは騎手の個性故か………”コピー”数に上限はあるのか、それともないのか。複数の個性を同時に組み合わせる事はできるのかどうか。現段階だと分からない。つまり。

 

 

「……どちらもあり得る、そんだけか」

 

 

「上鳴、どうする?」

 

 

「やる事は何も変わんないさ───なあ、八百万」

 

 

「はい。それではお披露目といきましょうか」

 

 

次の瞬間、八百万の肉体から出てきた物に物間チームが目を見開いた。

 

*1
透明なので99.9%の人間には見えない





───あの日、上鳴さんとオールマイト先生のデモンストレーションを見てからずっと考えていましたの。私に足りない物……フィジカルの弱さをどの様にしてカバーするのかを。

次回、一騎当千 -弐-
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