雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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高評価と感想をいつもありがとうございます。大変励みになります。感想の返信につきましては随時行ってまいります。

どうにか絞り出した騎馬戦ですお納めください。


ep.24 一騎当千 -弐-

ヒーローにとって最も重要な物は何か。

 

 

その問いに多くのプロヒーローが話をこう結ぶ。ヒーローにとって最も重要な物は”個性”である、と。

 

 

他者のために自らを犠牲にする精神も、結局はそこに力が伴わなければ無駄に死人を増やすだけだ。

 

 

そして力とは───個性である。

 

 

万人に与えられた超常の力。

これを深く知り、極限まで研ぎ澄ませた者こそが真の強者。トップヒーローと呼ばれる者達は確かにその領域にある。

 

 

───その考えの浅さを、この短い間に何度も突きつけられてきました。

 

 

八百万は考え方を変え、否、それまでの思考を捨てて今この場に立っていた。

 

 

「あの日、上鳴さんとオールマイト先生のデモンストレーションを見てからずっと考えていましたの。私に足りない物、フィジカルをどの様にして埋めるのかを」

 

 

即ち、真の強者、真のヒーローに必要な物。それは圧倒的なフィジカルであると。

 

 

そして八百万は一つの結論へと辿り着いた。

 

 

八百万の肉体から生まれ、全身を覆っていく黒々とした肉の塊。それは常闇と耳郎も飲み込み一つの形を成していく。

 

 

その異様な光景に物間達は息を呑み、上鳴は笑った。

 

 

「私の個性ならば、物体を構成する要素を分子レベルで理解できれば何だって生み出すことができます。最初は当家がお世話になっている民間警備会社のパワードスーツでも参考にしようかと思ったのですが、それを駆動させる為の電力の確保が私単体では難しいので断念致しました」

 

 

エネルギー効率は八百万がこれからヒーローとして活動する上で付き纏う課題である。

創造は破格の能力を持つものの、体内の脂質を原料にしている。正攻法でフィジカルを上げられないのは、基礎身体能力を上げ続ければ体脂肪率が下がり個性の運用に支障をきたす為だ。

 

 

「そこで着目したのが昆虫です。小さな身体で自身の何倍も重量のある物を持ち上げられるそのエネルギー効率こそ、私の創造が目指す極致だと考えました。尤も、ただ人間サイズにするだけでは意味がありません。それでは自重で潰れてしまいますし、何より構築が難しい。ですので私はそれを自身の細胞をベースに原子配列を───っと、話し出すと止まりませんわね」

 

 

不気味に蠢く黒い肉塊が象ったのは───全長3m半はあろうかという人型。部位によって更に変色し、手足には鋭利な棘と金属光沢にも似た輝きを纏っている。頭から生える2本の触角と顔面に備わった赤い複眼も相まって、見る者に昆虫を想い起こさせる造形をしていた。

 

 

怪人と化した八百万に、物間が叫ぶ。

 

 

「何だいそれは!?」

 

 

会場も含め事情を知らない人間の心を代弁していた。

 

 

物間の問いに八百万は淡々と答えた。

 

 

「何種類もの昆虫の生体機能を流用、特化させて生み出した肉の筋電位義体───”万理(バーサタイル)”ですわ。構築した肉の鎧は私の細胞をベースにしておりますので、創造も使いやすくなる優れ物です」

 

 

物間は唇が乾いていくのを感じながら、何とか言葉を返した。

 

 

「……その見た目で元の声だと違和感が凄いね」

 

 

「ふふ、強そうに仕上がっているようで何よりですわ───行きますわよ皆さん」

 

 

「いつでもいいぜ」

「行こうヤオモモ」

「ああ」

 

 

「では」と八百万が踏み込んだ瞬間、突風が物間達を叩いた。

 

 

「な、んっ!?」

 

 

思わず目を閉じかける物間の眼前に虫の巨人が立っていた。

 

 

突風の正体は騎馬間隔にあった凡そ15mを、瞬き程のスピードで移動した際に発生した風圧。

 

 

───なるほど、僕はまだA組を甘く見ていたみたいだッ!

 

 

物間が歯噛みする前で上鳴は呑気に八百万に話しかける。

 

 

「おお、良いぞ八百万。オールマイト換算で20〜30%ってとこか。並の増強系じゃ歯が立たないくらい強いぞこれ」

 

 

「想定より良すぎるくらいですわね」

 

 

「基準値がぶっ飛んでんなァ!」

 

 

感触を確かめ合う上鳴と八百万に突っ込みに行くのはB組一硬い男、鉄哲。

 

 

鋼の塊と鋼の肉体がぶつかり合い、水の詰まったタンクを激しく叩いたかのような音が響く。

 

 

「それは”禁忌”でしょう」

 

 

そして批難の声と共に荊が伸びる。

後騎馬を担う塩崎だ。彼女の個性は毛髪として生える蔓。強度も力もそれなりにあるそれが、ぶつかり合う騎馬と騎馬を縫い止めるように絡み付く。

 

 

「捕まえた!」

 

 

更に、もう1人の後騎馬である拳藤が片手をフリーにしてそれを巨大化。万理(バーサタイル)を鷲掴みに。

その上から更に蔓が這う。

 

 

『すげぇ絵面!』

『完全に上鳴チームを拘束したな。そしてこの状態なら上鳴は無闇に放電できない。悪質な騎馬崩しと見做される可能性が高いからな』

 

 

ギチギチに絡まり合った二騎は身動きを許さないほどに固く結ばれている。

 

 

───そうだろう、そうだろう! こうでもしなくちゃ上鳴1人に力尽くで捩じ切られるだけだ! 八百万のパワーもしゃれにならないけど、拳藤の大拳だってゴリラ並! 塩崎の蔓もあれば時間稼ぎくらいにはなる!

 

 

物間はニヤリと笑い上鳴に手を向ける。

 

 

「気張れよ大将ォ!」

 

 

動けるのは騎手である物間と上鳴のみ。

 

 

鉄哲の声に応えるように物間が個性を行使する。

 

 

選んだのは轟の個性、半冷半燃。その右側の冷却だ。体温を奪い機動力を落とそうという判断だった。

 

 

しかし、伸ばした手が冷気を発し始めた次の瞬間。予想は簡単に裏切られ、稲光が全てを吹き飛ばした。

 

 

「……足からアースを伸ばしておけば感電のリスクは減らせますが、電熱に関してはまだまだ改善の余地ありですわね」

 

 

肉体が煙を上げてはいるものの、八百万を始めとした鎧の内側にいる耳郎と常闇に怪我はない。

 

 

だが───

 

 

「拳藤!」

 

 

「………っ、平気。気にすんな」

 

 

塩崎が咄嗟に蔓を地中に潜らせアースとしたことで電撃は凌いだ。しかし、八百万と同じく熱までは防げなかった。

特に酷いのは拳藤だ。

騎馬を掴んでいた掌は焼け爛れ、酷い火傷を負っていた。

 

 

しかし、拳藤は悲鳴一つ上げずに物間に問い掛けた。

 

 

「それより物間、首尾は?」

 

 

「上々。気合いでどうにかしたよ」

 

 

物間の右手は指先から肘の半ばまで焼けていたが、それだけだ。

 

 

上鳴は物間が轟の個性で自分と拳藤の火傷を冷却する応急処置が終わるのを待ちながら、何気なく言う。

 

 

「俺の個性をコピーしたのか」

 

 

その言葉を受け、耳郎達3人の間に緊張が走る。

しかし、当の本人はどこ吹く風。楽しそうに笑みを深めるだけだ。

 

 

上鳴は声を張り上げた。

 

 

「さあ勝負だ! 八百万、前へ! それから耳郎用のサポートアイテムの用意! 常闇はダークシャドウで上空、耳郎は足音で索敵! いつ爆豪達が来てもいいように見張っとけ!」

 

 

「「「了解!!!」」」

 

 

前に出る八百万に合わせて、物間達も動き出す。

 

 

「もう次の事を考えてるのかい! 舐められてるな!」

 

 

物間はそう言って自身の腕を切り離した。

取蔭切奈の個性である。全身を切り分け、切り分けた部位を自由自在に動かせる。その上、切り分けられた部位には飛翔能力が備わる。

そこから導き出される技と言えば───

 

 

「ロケットパンチか!」

 

 

「それだけな訳ないだろう!」

 

 

上鳴の眼前で物間の腕が四散し、細かいパーツが次々とハチマキ目掛けて殺到する。

纏めて薙ぎ払う事は容易い。しかし、そうすると物間に後遺症を与えかねないため上鳴は嫌がった。

 

 

───コイツはまだ伸びる。もっと楽しめる。

 

 

迫る肉の弾丸に舌なめずりしながら、上鳴はそれらを平手で的確に叩き落としていく。

 

 

「耳郎さん!」

 

 

八百万が肩にアンプを作り出し、鎧の中からひょっこり顔を出した耳郎がすかさずそこにイヤホンジャックを突き刺した。

 

 

上鳴が耳郎に叫ぶ。

 

 

「音量上げろ!! 生前葬だ!!」

 

 

「ハートビートサラウンド!」

 

 

前方に放たれた音撃は地面に亀裂を走らせながら拡散し、物間達の全身に絶え間ない激痛を与える。

その音撃の中、鉄哲が全身を固めながら前へ出た。

 

 

「まだ、まだァ!」

 

 

「いい熱量だ! だけど終わりにしようぜ! 何てったって時間は限られてるからな!」

 

 

『残り10分!』

 

 

「それを死ぬ気で耐えて勝機を手繰り寄せるんだよ! 物間ァ!」

 

 

「分かってる……!」

 

 

物間が氷の壁を作り出して盾にするが───瞬く間に爆音によって打ち砕かれた。

 

 

「強度足らねーぞ!」

 

 

「本命はコッチだ! 融けるなよ鉄哲!」

 

 

物間の左腕から炎が噴き出る。

 

───細かい制御を試す時間はない! 火力を上げる事にだけ集中!

 

 

物間の個性は鍛えた出力さえ写しとる。しかし、その扱い方まではコピーできない。それは個性ではなく技術だからだ。

 

 

上鳴が自身の細胞を働かせて電力の漏出を防ぎ味方を感電させないようにしているのも技術であるため、物間には真似できない。

 

 

轟の個性をコピーしたのは雑に使っても強く、比較的使い方をイメージし易かったから。そして鉄哲は金属の肉体を持つため、常人とは比較にならない熱耐性を持つ。前騎馬を彼にしておけば躊躇は不要。

 

 

「熱を完全に防げないのはさっきのやり取りで分かってる! ホラホラ避けた方がいいんじゃ───」

 

 

物間が言い切る前に真下から掬い上げるような風が吹いた。

 

 

「え」

 

 

拳圧である。

 

 

拳を天に突き上げる形で残心する上鳴に、物間は唖然とした。

 

 

───大概にしろよ何なんだコイツは!? 1年生で括っていい奴じゃないだろうが!

 

 

「シャンとしろ物間! 来るぞ!」

 

 

「まだ負けてないでしょう!」

 

 

「クソッ!」

 

 

次弾はない。

物間のコピーには5分という制限があり、轟の個性と取蔭の個性は使い切った。残るのは上鳴の個性のみ。

 

 

瞬時に物間は拳藤の肩に触れ、”大拳”をコピーした。

 

 

同時───八百万が暴風を伴って物間達に肉薄。距離が縮まったことで音撃の圧が強まり、真正面から受けていた鉄哲の意識が一瞬だけ飛ぶ。

 

 

「近寄るな!」

 

 

「つれないことをおっしゃらないで」

 

 

巨大化させた拳を躊躇なく振り翳す物間だったが、八百万がそれを難なく受け止め、抱え込む。

 

 

個性を解除して拘束を抜け出した物間の視界に───指を弾く構えをして笑う獣が1匹。

 

 

「……君、本当にヒーロー志望?」

 

 

「よく言われる」

 

 

弾かれた指から鋭い風圧が飛び、物間の顔面に突き刺さる。

 

 

鼻血を出しながら後ろに倒れ込む物間を塩崎が蔓で受け止めるが───上鳴がその致命的な隙を見逃す筈もなく。

 

 

「じゃあな策士。俺が居なけりゃ上手くいったかもな」

 

 

上鳴は物間からハチマキを毟り取った。

 

 

『残り5分! ここで物間チームハチマキを奪われた!』

『あの騎馬を相手に10分弱、よく粘った方だろう。俺たち教師が同じルールで組んでも勝てるかは怪しい───上鳴次第だがな』

『八百万もそうだが耳郎も良いビートだったなァ!』

『地面を割って身動きを封じるほどの音圧だ。アンプの性能もあるだろうが、よく鍛えている証拠だ。入試の時よりずっと成長している』

 

 

「爆豪んとこ行こうぜ。ついつい楽しんじまった」

 

 

上鳴の言葉に八百万が踵を返そうとした時だった。

 

 

「───どこに行こうって?」

 

 

上空。

太陽を背に一組の騎馬が降ってくる。

 

 

「待ちくたびれて来ちまったわ!」

 

 

ハチマキの数を増やした爆豪達が着地した。

 

 

 

 

 

───いいかテメェら、よく聞け。

 

 

───かっちゃん?

 

 

───この騎馬には”明確な強み”がねぇ。クソデクのフィジカルが多少強かろうが、尻尾が後ろから近接仕掛けられても対応できようが、クソ舐めプ半分野郎が右側から攻めて来た奴を封殺しようが、結局全部防御方面でしかねぇ。

 

 

───言われてみれば。

 

 

───だから一個だけこれだって言う連携を考える。デク、テメェはコレしか能がねぇ。案出せ。俺らで調整する。

 

 

───ぼ、僕か………正直言って僕と尾白くんの個性は応用らしい応用がないから、かっちゃんと轟君の個性をどう組み合わせるかって話になるんだけどそうだねかっちゃんの個性はご両親のグリセリンと酸化汗の個性の複合型でニトロみたいな汗を生むことで爆破を可能としている訳だけどその誘爆のタイミングによっては

 

 

───何で俺のお袋と親父の個性をテメーが知ってんだ!?*1

 

 

───爆豪、もしかしてお前も………

 

 

───テメェは何だァ!?

 

 

 

 

「改めて見ると顔付きが体育祭前とえらい違いだな、爆豪」

 

 

「あぁ!? 俺は俺だろうが! 何にも変わっちゃいねぇよ!」

 

 

爆豪勝己は本来、冷静かつ慎重な男である。

石橋を叩いて渡るかのような根っこの気質は恐らく彼の父の遺伝だろう。

 

 

───雄英入ってから、何も上手くいかねぇ。

 

 

だが、負けず嫌いでプライドが高く傲慢とも言える言動をする爆豪も決して偽りではない。それらは矛盾することなく彼の中にある。

 

 

───コイツを頼るなんて考えもしなかった。昔なら絶対にあり得なかった。今でも虫唾が走りやがる。それでも……負けるよりマシだ。

 

 

貪欲に勝利を求めてその道を探す。

それこそが爆豪の芯。どうあっても曲がらない、原点に近しい物だ。

 

 

「残り時間5分、早食いは行儀がなっちゃいないらしいけど良いよなァ! 食い散らかしてもさ!」

 

 

八百万が上鳴を投げ、そして自分達は爆豪らの背後へ回り込むために動き出す。普通の騎馬戦ではあり得ない、単騎での挟撃。空中で移動できる者を騎手に添えているからこその芸当。

 

 

騎馬を注視するか、それとも上鳴に意識を向けるのかで対応は二分される。

 

 

しかし───

 

 

「行けや!」

 

 

彼らが選ぶのは真っ向勝負。

爆豪が上鳴を、3人は八百万達を迎撃する。

 

 

「尾白くん、轟くん行くよ! 」

 

 

「ああ!」

「おう」

 

 

轟が氷を重ねて押し出す用意に入り、緑谷の踏み込みに合わせて尾白が尻尾をバネのようにして勢いをつける。

弾かれたように飛び出た緑谷の構えは───”蹴り”である。

 

 

「フルカウル8%! セントルイス、スマッシュ!」

 

 

それはプロレスで言うところのシャイニングウィザード。八百万の頭部目掛けて鋭い蹴りが放たれる。

 

 

「甘いですわ!」

 

 

緑谷がこれまで見せなかった、否、本人さえ無意識の内に使ってこなかった蹴り技に意表を突かれた八百万ではあるが、それを冷静に腕で防ぎ、お返しと言わんばかりに貫手を放つ。

 

 

「尾白くん!」

 

 

緑谷の声に合わせてソフトボールほどの氷の球が弧を描いて八百万の眼前に落ちてくる。

追撃の手を止めてそれを咄嗟に弾き飛ばした八百万だったが────悪手となった。

 

 

轟音。

 

 

爆発。

 

 

衝撃。

 

 

足裏を削りながら10m後退させられた八百万から苦悶の声が上がる。

 

 

「今のは……!」と常闇。

すかさず耳郎も八百万に「大丈夫!?」と尋ねた。

 

 

八百万は「ええ、問題ありませんわ」と返してから更に言葉を続けた。

 

 

「轟さんの氷で爆豪さんの個性を包んだのでしょうか……かなりの威力ですわ。そう何度も受けられませんわね」

 

 

魔法瓶の構造をご存知だろうか───あれは内瓶と外瓶の間を二重構造にすることで空間に真空を生み出し、伝導と対流による熱の伝わりを防ぐことで注がれた液体の温度を保っている。

 

 

「ミルフィーユ状に重ね合わせた氷の膜でかっちゃんの汗を覆ったんだ。汗は水が混ざると爆発するまでにタイムラグが生じるけど、外殻の氷が割れるほどの強い衝撃を受ければ話は別。尾白くんの尻尾なら割れないギリギリの力で撃ち出せるし、最悪地面に落とすだけでもいい」

 

 

緑谷が考えた即興の手榴弾は想定より上手くいっていた。

 

 

───あとはこれを上鳴くんがどう捉えるか。

 

 

視線は向けていないが、緑谷の意識は上鳴に向いていた。

 

 

騎馬戦はあくまでもチーム戦。1人だけが飛び抜けて強くても意味がない。上鳴に味方を守らせることで騎馬に縛り付けることができれば、機動力で勝る爆豪達が有利になる。

 

 

「八百万さんの秘密兵器には驚かされたけど、僕らなら真正面から戦える」

 

 

緑谷は確信をもってそう言った。

だが、それに異を唱えるのが2人。

 

 

「舐められたものだ」

 

 

「ほんとそう。ウチらのこと舐めすぎでしょ」

 

 

常闇と耳郎である。

 

 

常闇が言う。

 

 

「八百万、お前の万理(バーサタイル)は非常に参考になった。足りない膂力を外骨格を纏うことで補う───なるほど。取り入れさせて貰おう」

 

 

八百万の肉の鎧がダークシャドウによって覆われる。

 

 

その光景に息を呑む緑谷達に耳郎が言う。

 

 

「それ、衝撃受けたら爆発するんだっけ」

 

 

ニヤリと笑う耳郎に合わせて力強い鼓動がアンプから響く。

 

 

単純な攻撃速度を比較した際、雷速の攻撃手段を持つ上鳴が不動の1位なのは間違いない。それに次ぐ速さで攻撃できるのが耳郎である。

 

 

「ふぅ」

 

 

息を吐き出し切った耳郎の肺から酸素が消える。無酸素状態になった身体は心拍数を跳ね上げ、それにより耳郎の個性が強度を増す。

 

 

そして───ノーモーションで放たれる音撃が秒速340mで大気を突き進み、緑谷達を打ち据える。

 

 

爆発はない。

 

 

「やっぱり一発芸じゃんか! やっちゃえヤオモモ!」

 

 

 

場所は変わり───会場上空。

 

 

 

「向こうも派手にやってんな」

 

 

「こっち見ろや!」

 

 

騎馬戦開始直後の焼き回しとはならない。

爆豪の立ち回りはその時と比較にならないキレを見せていた。

 

 

「スロースターター、しかも前回の反省点を修正してる。いいんじゃない? しかも───新技か」

 

 

爆豪は大気を蹴り進む上鳴に追従しながら、手で水鉄砲をする時のような構えをとり、そこから爆破の汗を飛ばした。

 

 

「APショット!」

 

 

貫通力を高めた爆破の一撃。

1発の規模は最大出力には遠く及ばない。その強みは単純な殺傷力では引けを取らない貫通力と連射性にある。

 

 

『いよいよ戦闘機みたいになってきたな爆豪!』

『この短い時間で自分の新たな可能性を開いたか。アイツのセンスの高さに脱帽するよ』

 

 

「チッ! これでも駄目か!」

 

 

「悪くないぜ、マジで。後はこれを移動にも応用できれば完璧だな」

 

 

「一々アドバイスすんじゃねぇ! わかってんだよそんなこたぁ!」

 

 

くわっと目を見開く爆豪に、上鳴は腹を抱えて笑った。

 

 

───もっと強くなれ。

 

 

ひとしきり笑った上鳴の雰囲気が変わる。

 

 

「さっきからずっと人をおちょくるみたいに他人の技ばっか使いやがって! 漸くマジになって自分で戦う気になったかァ!?」

 

 

「手本を見せるのはこの辺でいいだろうと思ってな」

 

 

眼下で繰り広げられる騎馬の戦いを一瞥し、上鳴は爆豪へと視線を戻した。

 

 

『ラスト3分!』

 

 

直後、電光が奔る。

 

 

「おぇっ!?」

 

 

爆豪の腹部に上鳴の膝が突き刺さったのは、常人の目から見ればほぼ同時。凄まじい速度で物間が作り出した氷壁目掛けて落ちていく爆豪に対し、上鳴が選んだのは並走だった。

 

 

大気を蹴り上げ爆豪に並び、追い越し、自身の片足を爆豪の下腹に当て───宙返り。

 

 

肉体に掛かる重力で爆豪のみならず上鳴の身体もミシミシと嫌な音を立てるが、動きを止めようという躊躇はない。

 

 

そして上鳴は捻った身体を騎馬に向け、勢いをつけて爆豪を投げ飛ばした。

 

 

『空中で巴投げしたぞアイツ!』

 

 

「かっちゃん!?」

 

 

「楽しみはとっておかねぇとな!」

 

 

緑谷達が爆豪を受け止めている間に上鳴も八百万達の頭上に戻る。

 

 

「どんな感じ?」

 

 

「ダークシャドウさんの補助があるので保ちますが、鎧は駆動限界間近と言った所ですわね」

 

 

「弱点を突かれない限りは俺たちも問題ない」

 

 

「ウチは皆のおかげで余裕ある」

 

 

「よっしゃ。なら耳郎の音撃中心で詰めてくぞ。纏めて奪ってゲームセットだ」

 

 

上鳴はそう言ってから気付いた。

 

 

───あれ、コイツらのハチマキ全部取ったら後の楽しみ半減なんじゃ……

 

 

爆豪チームは上鳴の注目選手を3人も抱えたドリームチームである。その敗北は即ち、これに続く第三競技の楽しみがほぼ潰えるに等しい。

 

 

ピシリと固まった上鳴に何となく察した耳郎が言う。

 

 

「アンタ、ハチマキ取らないとか言い出さないよね」

 

 

「ソ、ソンナコトナイヨ」

 

 

図星じゃん……と耳郎は眉尻を下げた。

八百万と常闇も呆れて溜息を吐くレベルである。

 

 

「私達だけでは不服ですか?」

 

 

「いやぁ……不服って言うかさぁ……」

 

 

「不服か……」

 

 

言葉のキレが悪い上鳴に常闇が苦虫を噛み潰したような顔を見せる。

 

 

「悪いけど、現時点ではあの3人の方が期待値高いよ。そりゃ」

 

 

入試2位、先の競技では3位。騎馬戦で更に躍進した爆豪。

入学当初の個性把握テストで落第寸前の成績を収めるも、破竹の勢いで成長する次代の平和の象徴である緑谷。

そしてヴィラン100人を単独で制圧する格闘技術の持ち主である尾白。

 

 

実績を伴うが故に反論の余地はない。

しかし、ここで中途半端に終わらせるのも気色が悪いという気持ちは上鳴にもある。

 

 

「爆豪が復帰したら殺るか」

 

 

上鳴が騎馬の上で沈黙する爆豪を指差し、3人はそれを妥協点とした。意識を失った騎手からポイントを奪うのも憚られた為だ。

 

 

ミッドナイトがその様子を見て何か言いかけるが、手に持った鞭を振り上げることなく静観の構えを取る。

 

 

暫しの沈黙の後、咳き込みながら爆豪が意識を取り戻した。

 

 

「かっちゃん!」

「大丈夫か爆豪!」

「無理すんな」

 

 

「黙ってろ」

 

 

力強い言葉で3人の言葉を封殺した爆豪の眼光が上鳴へと向く。

 

 

「お前なら起きてくれるって信じてたぜ、爆豪」

 

 

「うるせぇ……勝負はまだこっからだ」

 

 

爆豪の口から溢れる物を見た実況席から、悲鳴にも似た絶叫が上がった。

 

 

『口から血が! 爆豪の口から血が滝のように!? エンタメで赤は御法度だぜ!』

 

 

「爆豪くん、やれるの?」

 

 

「ったりめぇだァ! ………です!」

 

 

「取って付けてんじゃん」

 

 

「うるせぇぞ耳ィ!」

 

 

ミッドナイトの問いでも爆豪節は崩れない。

上鳴は殊更に口角を吊り上げ、右手に稲妻を纏わせる───

 

 

『でもここでタイムアーップ! 第二競技騎馬戦終了でーす! そこでバチバチしてるチームはクールダウン! オーケー!?』

 

 

「えぇ……マジかよ。これはこれで複雑だな」

 

 

第二競技騎馬戦は何とも言えない不完全燃焼感を両チームに残し、決着となった。

 

 

 

 

 

 

轟と轟の個性をコピーした物間の手によりフィールドを分断していた氷壁が片付けられた後、結果発表が行われた。

 

 

1位 10,000,555→10,001,580P(○葉隠 ○物間)

上鳴

八百万

耳郎

常闇

 

2位 770P→1260P(○回原 ○小大)

爆豪

緑谷

尾白

 

3位455P→1050P(○小森 ○峰田&蛙吹)

瀬呂

切島

芦戸

口田

 

4位 135P→415(○取蔭)

心操

発目

庄田

青山

 

5位 440P→0(●瀬呂)

峰田

蛙吹

障子

 

5位 600P→0P(●上鳴)

麗日

飯田

葉隠

砂藤

 

5位 425P→0P(●上鳴)

物間

鉄哲

拳藤

塩崎

 

5位 235P→0P(●爆豪)

小大唯(騎手)

凡戸(前騎馬)

吹出(後騎馬)

柳(後騎馬)

 

5位 255P→0P(●爆豪)

回原

泡瀬

鎌切尖

角取ポニー

 

5位 280→0P(●心操)

取蔭

骨抜

黒色

円場

 

7位 155→0P(●瀬呂)

小森

宍田

 

 

『そして上位4チームが第三競技───”ガチバトルトーナメント”に駒を進めるぜ! 組み合わせはルール説明と合わせて発表! 暫し待て!』

 

 

そして雄英体育祭は最終競技へと移る。

 

 

*1
ゾワムカッ





騎馬戦はモチベと相談して切り上げました。あんまり書きすぎると次書くこと無くなっちゃうので……次回は少し閑話を挟みつつトーナメントに入っていきたい所存です。




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